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第二章
選ばれた者(エリナ視点)
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王太子妃教育の1週間を終えたその夜。
私は屋敷に戻るなり、母様に抱きついて報告した。
「母様、わたくし、思っていたよりずっと上手にできましたわ!」
侍女たちが控えるなか、母様はすぐに私をソファに座らせ、温かな微笑みを浮かべた。
胸を張る私の言葉を疑う素振りなど一切なく、むしろ心から喜んでくださっているようだった。
「まあ……さすが私の娘ね。やっぱり、あなたは“選ばれた”人なのよ。リシェルに代わって王太子妃となるのは、エリナ、あなたしかいないの」
母様の言葉に胸が弾む。
そう、私は選ばれたのだ。リシェルがどれほど婚約者として過ごしていようと、最終的に選ばれたのは私。だからこそ、王太子妃教育だってきっとすぐに身につけられるに決まっている。
「ふふっ、今日習った作法も思ったより簡単でしたもの。初日が間違いだったのです。二度三度やれば、もう完璧ですわ!」
私がそう胸を張って言うと、母様はさらに目を細めて頷いた。
「その意気よ。大丈夫、誰だって最初はぎこちないもの。でもあなたは頭が良いし、何よりも可愛らしい。きっとすぐに皆が認めてくれるわ」
母様の甘やかな声に、心が安らいでいく。
ふと窓の外を見ると、夜空には細い月が浮かんでいた。――あれは、私を祝福している証のようにも見えた。
けれどその空気を切り裂くように、父様の低い声が響いた。
「……浮かれるのはまだ早いぞ、エリナ」
振り返ると、執務を終えたばかりの父様が、冷ややかな表情でこちらを見ていた。
父様の瞳はいつも冷静で、母様のような優しさは滅多に見せない。私は思わず背筋を伸ばした。
「父様……でも、わたくし、今日の授業で――」
「聞いている。講師からも報告があった。始めたばかりであることを差し引いても、まだ到底“王家に差し出せる水準”ではないとな。程度を下げたと言っておった。」
ぐっと息を呑む。
でも、まだ1週間なのだ。そんなふうに言わなくても……と胸の奥で不満が渦巻いた。
「し、しかし父様、母様もおっしゃっていました!わたくしには才能がありますし、何より王太子殿下に選ばれたのですから――」
すると父様は一歩近づき、私の瞳を真っ直ぐに見据えて言った。
「勘違いをするな。お前は“選ばれた”のではない。リシェルを手放した結果、代わりに据えられただけだ。お前の立場は、奪ったものだ」
――胸の奥が、きゅうっと痛む。
代わり?奪った?そんな言い方、あんまりだ。私は唇をかみ、視線を逸らした。
母様がすぐに庇ってくださる。
「まあ、旦那様ったら!そんな言い方をしなくてもよろしいでしょう。エリナはエリナ、立派にやってくれるに決まっているわ」
「甘やかすな。王家が求めているのは“努力の跡”ではなく“結果”だ」
父様の声は冷徹だった。
その厳しさは、家の威信を守ろうとする責任感の表れなのだと頭ではわかっている。けれど心は追いつかず、悔しさでいっぱいになる。
「……わたくし、できますわ。きっと王太子妃として、誰よりも相応しくなってみせます」
強がるように宣言すると、父様は無言で視線を逸らし、書斎へと去っていった。
重苦しい沈黙が残る。
母様はそんな空気を打ち消すように、私の肩を抱いて微笑んだ。
「大丈夫よ。あの人はいつだって厳しいの。リシェルさんの時もそうだったでしょう?エリナを信じていないわけじゃないのよ。ただ、失敗して公爵家に影響があることを恐れているだけ。あなたが気に病むことはないわ」
「……本当に?」
「ええ。だってエリナは特別なんですもの。王太子殿下に選ばれた、それだけで誰よりも価値があるのよ」
その言葉に、また胸が温かくなる。
そうだ、私は選ばれたのだ。たとえ“代わり”だとしても、今は確かに王太子殿下の婚約者。ならば自信を持っていいはず。
きっと父様だって、すぐに私を認める日が来る。
そう自分に言い聞かせ、母様の腕の中でそっと目を閉じた。
私は屋敷に戻るなり、母様に抱きついて報告した。
「母様、わたくし、思っていたよりずっと上手にできましたわ!」
侍女たちが控えるなか、母様はすぐに私をソファに座らせ、温かな微笑みを浮かべた。
胸を張る私の言葉を疑う素振りなど一切なく、むしろ心から喜んでくださっているようだった。
「まあ……さすが私の娘ね。やっぱり、あなたは“選ばれた”人なのよ。リシェルに代わって王太子妃となるのは、エリナ、あなたしかいないの」
母様の言葉に胸が弾む。
そう、私は選ばれたのだ。リシェルがどれほど婚約者として過ごしていようと、最終的に選ばれたのは私。だからこそ、王太子妃教育だってきっとすぐに身につけられるに決まっている。
「ふふっ、今日習った作法も思ったより簡単でしたもの。初日が間違いだったのです。二度三度やれば、もう完璧ですわ!」
私がそう胸を張って言うと、母様はさらに目を細めて頷いた。
「その意気よ。大丈夫、誰だって最初はぎこちないもの。でもあなたは頭が良いし、何よりも可愛らしい。きっとすぐに皆が認めてくれるわ」
母様の甘やかな声に、心が安らいでいく。
ふと窓の外を見ると、夜空には細い月が浮かんでいた。――あれは、私を祝福している証のようにも見えた。
けれどその空気を切り裂くように、父様の低い声が響いた。
「……浮かれるのはまだ早いぞ、エリナ」
振り返ると、執務を終えたばかりの父様が、冷ややかな表情でこちらを見ていた。
父様の瞳はいつも冷静で、母様のような優しさは滅多に見せない。私は思わず背筋を伸ばした。
「父様……でも、わたくし、今日の授業で――」
「聞いている。講師からも報告があった。始めたばかりであることを差し引いても、まだ到底“王家に差し出せる水準”ではないとな。程度を下げたと言っておった。」
ぐっと息を呑む。
でも、まだ1週間なのだ。そんなふうに言わなくても……と胸の奥で不満が渦巻いた。
「し、しかし父様、母様もおっしゃっていました!わたくしには才能がありますし、何より王太子殿下に選ばれたのですから――」
すると父様は一歩近づき、私の瞳を真っ直ぐに見据えて言った。
「勘違いをするな。お前は“選ばれた”のではない。リシェルを手放した結果、代わりに据えられただけだ。お前の立場は、奪ったものだ」
――胸の奥が、きゅうっと痛む。
代わり?奪った?そんな言い方、あんまりだ。私は唇をかみ、視線を逸らした。
母様がすぐに庇ってくださる。
「まあ、旦那様ったら!そんな言い方をしなくてもよろしいでしょう。エリナはエリナ、立派にやってくれるに決まっているわ」
「甘やかすな。王家が求めているのは“努力の跡”ではなく“結果”だ」
父様の声は冷徹だった。
その厳しさは、家の威信を守ろうとする責任感の表れなのだと頭ではわかっている。けれど心は追いつかず、悔しさでいっぱいになる。
「……わたくし、できますわ。きっと王太子妃として、誰よりも相応しくなってみせます」
強がるように宣言すると、父様は無言で視線を逸らし、書斎へと去っていった。
重苦しい沈黙が残る。
母様はそんな空気を打ち消すように、私の肩を抱いて微笑んだ。
「大丈夫よ。あの人はいつだって厳しいの。リシェルさんの時もそうだったでしょう?エリナを信じていないわけじゃないのよ。ただ、失敗して公爵家に影響があることを恐れているだけ。あなたが気に病むことはないわ」
「……本当に?」
「ええ。だってエリナは特別なんですもの。王太子殿下に選ばれた、それだけで誰よりも価値があるのよ」
その言葉に、また胸が温かくなる。
そうだ、私は選ばれたのだ。たとえ“代わり”だとしても、今は確かに王太子殿下の婚約者。ならば自信を持っていいはず。
きっと父様だって、すぐに私を認める日が来る。
そう自分に言い聞かせ、母様の腕の中でそっと目を閉じた。
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