【完結】王城文官は恋に疎い

ふじの

文字の大きさ
9 / 24

9王城は大忙し(仕込み編)

しおりを挟む
 秋晴れの昼下がり。王城奥の小広間では、恒例となった「王家ラブラブ作戦会議」の後、次回作戦の準備が着々と進められていた。

 アレクシス王太子は羊皮紙と羽根ペンを手に、机の上に広げた図面や作戦書を眺める。次回のターゲットは、もちろんセリーヌ・アシュレイ――王城の文官であり、第三王子カインが密かに(?)心を寄せる人物だ。だが、今日は二人とも城にいない。王家メンバーだけで、次回の「偶然感演出」と「心理的距離縮小」の舞台を整える。

「では、まず城内書庫の調整から始めるわよ!」 

 王妃は目を輝かせ、指示を飛ばす。

「魔導書の配置、通路の角度、軽い魔法トラブルの仕込み――すべて計画通りに!」
「……母上、あまり過激にやりすぎるとセリーヌ嬢が驚きすぎますよ」

 冷静にレオルドは補足する。

「心理的距離縮小が逆効果にならないように、安全管理を徹底しましょう」
「そこは任せなさい!」

 王妃は両手を広げて笑う。

「小さなトラブルはドラマを生むの。計画通りにいかなくても、結果オーライよ!」

 ユリウスは肘をつき、冷ややかに呟いた。

「……また兄上の恋路のために城中がてんやわんやか。どんどん厄介なことになっていくな」

 アレクシスは計画書にメモを加えながら頷く。

「書庫だけでなく、庭園、廊下、調理場も利用する。偶然の遭遇演出を各所で仕込むのだ」

 側付きや衛士は指示書を受け取り、城内各所に散らばって準備を始めた。廊下では衛士が角度を調整し、通りかかる二人を「偶然」出会わせる練習をする。書庫では若手魔導師が小規模魔法トラブルを仕込み、落下する紙片や軽い魔法光で二人が近づくチャンスを演出する。

 清掃係や侍女たちは、小道具や資料を絶妙に配置して通路や書架周りの偶然を演出。調理室では、お茶やお菓子をそっと運び、偶然セリーヌが手に取りやすい位置に置く。庭師は花壇の水やりや葉の配置で、自然に二人が接近するルートを作る。

「……この計画、本当にうまくいくんだろうか」

 ユリウスは机に突っ伏し、溜息をつく。

「本人たちは何も知らずに、城中の人間全員が一枚岩で仕掛けてるわけだが……」
「そうよ、ユリウス!」

 王妃はニコニコと笑いながら資料をめくる。

「偶然感が大事なの。セリーヌは任務に忠実だから、自然に距離が縮まるのよ」
「それにしても、兄上ために城全体がここまで……」

 レオルドは少し呆れた声を出す。

「確かに戦略的ではあるが、かなり派手だな」

 準備は順調に進み、王家メンバーの心は次第に高揚する。廊下を掃除する侍女が、小さく口元で「次こそ抱き寄せシーンが見られるかも……」とつぶやき、側付きや若手魔導師も肩をひそめて同意する。

 王妃はアレクシスの横で身を乗り出す。

「書庫の小規模トラブル、庭園での偶然の遭遇、調理場でのお茶タイミング……完璧に仕込みましたわ!次回は必ず距離が縮まるはずよ」

 ユリウスは冷ややかに腕を組みつつも、内心で微笑んでいた。

「……兄上の恋路、城全体で応援されてるのか。これはこれで面白い」

 その時、奥の執務室から国王陛下の声が聞こえてきた。
「…… 舞踏会でもないのに城中が妙に慌ただしいな……」
 執務室の書類に目を落としながら、陛下は無邪気に頭をかき、全ての準備作戦が自分の知らぬうちに進んでいることに気づかない。

「…… 国王陛下は別室で書類の山に埋もれていますから、気づきません。みんなで二人の恋路を支えるのです!」
 王妃が小声で告げ、側付きや衛士たちはくすくすと笑う。城中がてんやわんやでも、陛下だけは平穏無事。誰もがそのギャップに内心でニヤリとした。

 やがて準備は完了した。書庫、庭園、廊下、調理場――あらゆる場所が、二人の偶然の遭遇を演出する舞台として整えられた。王家メンバーは互いに顔を見合わせ、次回の作戦でどんな展開が待っているか、期待に胸を膨らませる。

「これで、次は距離を縮めるチャンスが増えるはずですわ!」
 王妃は満足そうに笑った。

 アレクシスは羊皮紙を押さえ、「第六回ラブラブ大作戦、準備完了」と宣言する。レオルドも頷き、ユリウスは冷ややかに眉を上げつつも、少しだけ心を躍らせていた。

 そして、国王陛下だけは、城中の大騒ぎも作戦の存在も知らぬまま、静かに執務に没頭しているのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸
恋愛
 レーナは、婚約者であるアーベルと妹のマイリスから書類にサインを求められていた。  その書類は見る限り婚約解消と罪の自白が目的に見える。  ただの婚約解消ならばまだしも、後者は意味がわからない。覚えもないし、やってもいない。  しかし彼らは「名前すら書けないわけじゃないだろう?」とおちょくってくる。  それを今までは当然のこととして受け入れていたが、レーナはこうして歳を重ねて変わった。  彼らに馬鹿にされていることもちゃんとわかる。しかし、変わったということを示す方法がわからないので、一般貴族に解放されている図書館に向かうことにしたのだった。

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

【完結】冷徹公爵、婚約者の思い描く未来に自分がいないことに気づく

22時完結
恋愛
冷徹な公爵アルトゥールは、婚約者セシリアを深く愛していた。しかし、ある日、セシリアが描く未来に自分がいないことに気づき、彼女の心が別の人物に向かっていることを知る。動揺したアルトゥールは、彼女の愛を取り戻すために全力を尽くす決意を固める。

『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』

ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、 偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢 シャウ・エッセン。 「君はもう必要ない」 そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。 ――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。 王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。 だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。 奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、 一人に負担を押し付けない仕組みへ―― それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。 元婚約者はようやく理解し、 偽ヒロインは役割を降り、 世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。 復讐も断罪もない。 あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。 これは、 選ばれなかった令嬢が、 誰の期待にも縛られず、 名もなき日々を生きることを選ぶ物語。

裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます

みゅー
恋愛
ジェイドは幼いころ会った王太子殿下であるカーレルのことを忘れたことはなかった。だが魔法学校で再会したカーレルはジェイドのことを覚えていなかった。 それでもジェイドはカーレルを想っていた。 学校の卒業式の日、貴族令嬢と親しくしているカーレルを見て元々身分差もあり儚い恋だと潔く身を引いたジェイド。 赴任先でモンスターの襲撃に会い、療養で故郷にもどった先で驚きの事実を知る。自分はこの宇宙を作るための機械『ジェイド』のシステムの一つだった。 それからは『ジェイド』に従い動くことになるが、それは国を裏切ることにもなりジェイドは最終的に殺されてしまう。 ところがその後ジェイドの記憶を持ったまま翡翠として他の世界に転生し元の世界に召喚され…… ジェイドは王太子殿下のカーレルを愛していた。 だが、自分が裏切り者と思われてもやらなければならないことができ、それを果たした。 そして、死んで翡翠として他の世界で生まれ変わったが、ものと世界に呼び戻される。 そして、戻った世界ではカーレルは聖女と呼ばれる令嬢と恋人になっていた。 だが、裏切り者のジェイドの生まれ変わりと知っていて、恋人がいるはずのカーレルはなぜか翡翠に優しくしてきて……

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。

待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。 もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。

処理中です...