【完結】王城文官は恋に疎い

ふじの

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番外編

王子妃は愛に疎い③

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 そんな二人を見守る面々がいる。
 王妃を筆頭に、アレクシス、レオルド、ユリウス。そして王城の応援団

「……進展がない」

「むしろ後退しているような……」

「殿下の花束が外交アイテムにされたときは、さすがに泣きそうになった」

 同盟軍は会議室で頭を抱えていた。
 彼らの目的はただひとつ――この不器用夫婦をどうにか「普通の新婚」に近づけること。

「やはり、父上の力を借りるしか……」

「国王陛下ですか。確かに、あのお方の演出力は桁外れです」

 密談は即座に国王に伝わり、国王は豪快に笑った。

「ほう!面白い。ならばわしが仕掛けようぞ!」

 ――国王、暗躍開始。



 翌日、王宮庭園での茶会。
 咲き誇る花々の香りに包まれた一角に、白いテントが張られ、そこに王妃、王子兄弟、文官たち、そして王城に勤める重役たちの貴族が招かれていた。

 王子妃セリーヌは緊張しながらも、背筋を伸ばして席に着いていた。
 王子妃として正式に人前に立つのは、まだ慣れない。だが彼女の辞書に「失態」の二文字はない。必死に務めを果たそうと、真剣そのものの表情をしていた。

 紅茶が注がれ、軽やかな音楽が流れる。
 和やかな雰囲気の中、ふいに椅子をがたりと鳴らして立ち上がった人物がいた。

「さて、皆の者!」

 国王である。
 威厳ある声音に会場が静まる。王はにやりと笑い、両手を広げて高らかに告げた。

「この場で改めて紹介しよう。我が息子カインの妃、セリーヌである!」

 盛大な拍手が巻き起こる。
 セリーヌは席を立ち、深々と礼をした。緊張で少し手が震えていたが、その所作は実に丁寧で美しい。

 そこまでは予定調和――のはずだった。

「して、カインよ」

 国王の視線が鋭く光る。

「皆の前で、妻に誓いの言葉を贈るがよい。式のように形式ばったものではなく、本心からのな。」

「なっ……父上!?」

 突然の矢に、カインは言葉を失った。
 セリーヌは真顔で首を傾げる。

「……カイン様、何か宣誓を?」

「ち、ちがっ……!」

 会場にざわめきが広がった。
 王妃は扇子で顔を隠し、「まあ!」と嬉しそうに微笑んでいる。
 アレクシスは肘で弟を突き、「今だ、言え!」と小声で囁き、レオルドは真剣な顔で「がんばれ」と拳を握る。
 末弟ユリウスは笑いながら「兄上の赤面、珍しいな」と茶を啜っている。

 同盟軍の者々は机の下で両手を合わせ、必死に祈っていた。

(殿下!今こそ「愛してる」を!!)

 国王は楽しげに笑い、「余は聞きたいぞ!」と声を張る。


 カインは深く息を吸った。
 腹を決め、皆の前で妻を見つめる。

「セリーヌ」

 名を呼ばれ、彼女は背筋を伸ばす。
 青空の下、真剣な眼差しが彼女を射抜いた。

「君は……俺の大切な人だ」

「……!」

 ざわめく会場。
 セリーヌの頬がかすかに赤く染まる。だが彼女は真面目に答える。

「ありがとうございます。カイン様にそのように仰っていただけるとは……。私はカイン様の務めを支えることが、私の王子妃としての喜びにございます!」

「…………」

 会場全員の心の声が重なった。

(ちがーーう!!)

 しかし、カインはふっと笑った。
 今の答えは、彼女らしい。彼女の「愛の形」なのだ。

「……それでもいい」

 静かに、優しく告げる。

「君が俺の傍にいてくれるなら、それでいい」

 その一言に、セリーヌは目を見開いた。
 そして――ほんのりと微笑む。

「……はい。私は、いつでもカイン様のお傍に」

 その笑顔は柔らかく、ほんの少し照れていて、今までに見せたことのない表情だった。

 観客から小さなため息がもれ、次いで温かな拍手が湧き上がる。
 兄弟たちは「よくやった!」と心の中で拳を突き上げ、影の同盟軍は感涙にむせんでいた。

 不器用ながらも確かに、二人の距離は縮まっていた。
 国王は満足げにひげを撫で、王妃は「まあまあ……」と目を細めた。

 こうして、庭園の茶会は愛の嵐に包まれて幕を閉じたのである。
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