【完結】王城文官は恋に疎い

ふじの

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番外編

王子妃は愛に疎い④

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 その夜。
 茶会の余韻を残したまま、二人はようやく自室へ戻っていた。
 月明かりが窓から差し込み、淡い光が部屋を包む。

 セリーヌは慣れた手つきで紅茶を用意し、そっとカインの前に差し出した。
 しかし、その手は微かに震えており、彼女の真剣な顔を余計に引き立てている。

「カイン様……」

 控えめな声。セリーヌは視線を落としたまま、小さく呟いた。

「……先ほどは、ありがとうございました」

「え?」

 カインは紅茶を受け取り、目を瞬かせる。
 セリーヌはしばらく沈黙した後、意を決したように言った。

「……私も、カイン様のお言葉をいただいて……胸が温かくなりました。……これも、愛、なのでしょうか」

 カインは驚きつつ、優しく笑みをこぼす。
 その手を伸ばしたくなる衝動を抑えきれない。


「……それなら、私も……カイン様に、お返しを」

「お返し?」

 きょとんとしたカインの頬に、ゆっくりと近づいてきたセリーヌがそっと唇を触れさせた。

「っ……!」

 カインの頭が真っ白になる。
 あまりに不意打ちで、あまりに可愛らしい「お返し」に、思考が完全に止まった。

「わ、私なりの……感謝と……その、愛の……表現です」

 耳まで真っ赤になりながら俯くセリーヌ。

 その姿に、カインの胸が大きく鳴った。
 思わず体に腕を回し、唇を貪るように重ね返した。
 セリーヌの手を取り、ぎゅっと引き寄せ、二人の距離は一気に縮まる。

「……っ、カイン様……」

 息をつきながらも、セリーヌの頬は紅潮している。
 カインは柔らかく笑い、耳元で囁いた。

「……もう我慢できなかった。君が俺のものだって、実感したくて……」

 セリーヌは少し驚きつつも、目を閉じて頷く。
 三度目のキスは、互いの気持ちを確かめ合うように、長く、甘く続いた。

 離れた後、二人は肩を寄せ合い、互いの鼓動を感じる。
 ぎこちないけれど、確実に歩み寄った瞬間だった。

「愛してる、セリーヌ。ずっと傍にいてくれるか。」

「……はい。私は、いつでもカイン様のお傍に」

「君がそばにいてくれるなら、何も怖くない」

 月明かりに照らされた静かな部屋で、二人は小さな幸せをかみしめていた。




 ――その部屋の扉の隙間。いくつもの目が所狭しと並んでいる。

「……あ、あれは……!?」
「こ、これは……歴史的瞬間では……!」

「うまくいったわね…!」
「やるな、カイン」

 心の中では叫びまくりだが、興奮のあまりざわめきが大きくなり、扉が微かに揺れる。
 カインはそれに気づき、あわてて扉を引く。すると、覗いていた人々は雪崩のように押し寄せ、廊下に崩れ落ちる音が響いた。

「おい……ちょっとなんなんだ……!」

 カインは呆れ気味に声をかける。
 しかし、隣で笑うセリーヌの顔を見た瞬間、全てどうでもよくなった。
 二人は思わず目を合わせ、くすりと笑い合った。

「……あはは、見られちゃいましたね」
「……うん、でも……なんだか、嬉しいな」

 自然とつながり合う手のひら。照れくさそうに手を握り返す。ぎこちなくも温かい手のひらの感触に、二人の頬はまた赤く染まった。
 その姿に、隠れていた王家や同盟軍も思わず肩の力が抜け、互いに目を合わせて小さく笑った。

 静かな部屋には、ほんのり甘い空気が満ちていた。
 不器用で、でも確かな愛を交わした二人の時間――その瞬間は、誰も邪魔できなかった。

 ――王子妃は愛に疎い。
 だが、その不器用さこそが、二人の愛らしさを増幅させていた。
 そして、見守る人々もまた、その甘い時間の一部となったのだった。


【王子妃は愛に疎い】






 今日見てみたら、HOTに入っていたので嬉しくて番外編。
 婚約、結婚式を飛び越えて王子妃。
 おめでとう、カイン!
 みなさまに感謝申し上げます。
 ありがとうございました。
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