嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される

花月

文字の大きさ
6 / 138
第1章.嘘つき預言者の目覚め

5 この戦争捕虜は俺のもの ①

しおりを挟む
ニキアス将軍が率いてきたアウロニア皇軍『ティグリス』は塔の周辺を囲むように集結している。

グイグイとマヤ王女の手を引きながら歩いたニキアス=レオス将軍は、軍の先頭に立つと背を向けさせた状態でマヤ王女を自分の眼の前に立たせた。

アウロニア帝国の兵士らは、ニキアス将軍が連れたマヤ王女を好奇の眼差しで見るか、下卑た嗤いを浴びせるかのどちらかだ。

いつもの高慢なマヤであれば、即座に態度の無礼な連中に挑戦的な目線で見返すか大声で怒りをぶつけるところだが、記憶喪失だか何だかの彼女はその視線に晒されると耐えられなさそうに下を向き静かにしていた。

(…いいだろう。この彼女であれば何とかなるかもしれん)

思わぬ大軍の中に連れて行かれマヤは身体を緊張で硬くしていたが、ニキアスはマヤの両肩に手を置いた。

両肩に置かれたニキアスの手に、マヤはほんの少しだが安心した様にニキアスを見上げた。

(...何だ?そんな目で俺を見るな)
ニキアスは忌々しい気持ちになるのを抑えられなかった。

本当の末端の兵はここには居ない。
全てニキアスの直属の部下では無いが国に帰るまではニキアスを最高指揮者と仰ぐ部隊長達だ。

ニキアス将軍は口を開いた。
仮面越しのくぐもった声が響く。

「ここにいる…第二王女マヤ=ゼピウスを無事捕らえられた。諸君らの働きまことにご苦労だった。
それぞれへの褒賞を愉しみに、略奪はそこそこにして帰路に就いてもらいたい」

ニキアスは言葉を切りマヤの小さい肩に置いた手に力を少しだけ入れた。

「ひとつ言っておく。この女…マヤ王女も褒賞となるが、将軍である俺が皇帝にこの褒賞マヤ王女を戴くつもりだ。賢い諸君らは分かっているだろうが、俺の褒美に傷をつけたり無体を働いてその価値を下げたりしたものは俺が許さない」

その途端兵等からおお!っという驚きと納得の声が上がる。

ニキアス=レオス将軍は兵らを見渡した。
「もしもそんな事があれば…どちらかの息の根が止まるまで俺と一騎打ちの試合でもしてもらうか。勝者が彼女を貰う」

スキあらばマヤ王女を暴行しようと考えていた者は、冷や汗をかいてニキアスの脅しを聞く事になった。

「いずれ俺の物に手を出せばどうなるか。それはその時に教えてやる。理解できるまで徹底的にな。慈悲として死を与えてやってもいいぞ」
冗談めかして言うニキアスの声音からは、決してが遊びではないという圧が感じられた。

そしてマヤ王女への揶揄うような声はピタリと止まった。

 ********

わたしはニキアスの後について将軍用のテントに入るよう言われた。

天幕用の布がふんだんに使われたやや広めのテントだが、皇帝の義弟で将軍という肩書の者が使うにしては随分簡素だった。

「あの…」
テントに入るなり、着けていた鎧を下働きの奴隷に外させ始めたニキアスにわたしは恐る恐る声を掛けた。

「あの…ありがとうございました、ニキアス様。とても助かりました」
わたしはニキアスの方を見て言った。

ちょうど鎧を脱いでいるところだった為、ニキアスは背をむけたままこちらを振り向かなかった。

テントの奴隷達がすっかりニキアスの鎧を外すと艶やかな美しい黒髪が現れた。
たくましく美しい筋肉のついた上半身を奴隷たちが香油の入った湯で丁寧に拭っていく。

けれど黒い仮面は付けたままで、相変わらず表情は分からない。

「礼には及ばない。俺が傍にいる間は安全というだけで貴女が危険な状況は変わってない」

わたしの言葉にまた数秒程止まっていたニキアスはゆっくりと言葉は返した。

「俺の目の届かない所で貴女に何かあっても犯人が分からなければ泣き寝入りになるから気をつけてもらいたい。『ティグリス』はもともと俺の軍ではないしずっと目を光らせるのに流石に限界がある」

わたしはニキアスへとペコリとお辞儀をした。
「そうですよね。はい、分かりました。大丈夫です」
「大丈夫、分かりましたか…王女にはこの状況を分かってないだろう?」
すかさずニキアスに突っ込みを入れられた。

「…ええと危険だから、ニキアス様から離れないで一緒にいた方がいいんですよね。そうしたら誰も襲ってくる事も無いわけで…そうでしょう?」
お荷物の上バカな虜囚では本当に放り込出されてしまうとわたしは焦った。

その言葉にニキアスはこちらに振り向いた。
「失礼…今、何て言った?」

ニキアスが凄い勢いでこちらを見たのに驚いたが、わたしがもっと驚いたのは黒仮面を外したニキアスの素顔だった。

「――え?」
(何!?...この凄い美形…)

左半分の顔には黒い布を眼帯の様に大きな三角形の布で覆われていたが、右半分は見える。

綺麗な額から続く高い鼻梁、かたちの綺麗な唇は下唇はほんの少し厚めで色気が凄い。
切れ長の瞳は、長いバサバサの睫毛に瞳が大きく濃いグレーの色をしていた。

(嘘…どうしてこんなにムダに顔がいいの!?)

おかしいわ。
こんなに顔が良いなんて、小説には一行も記載が無かったというのに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...