7 / 138
第1章.嘘つき預言者の目覚め
6 この戦争捕虜は俺のもの ②
しおりを挟む「は?何だ?マヤ王女…何を言っている?離れない方が良い...だと?」
「はい。わたしはニキアス様から離れないで一緒にいた方がいいんですよね?ニキアス様の褒章になる前にわたしに何か問題が起こるとトラブルになりますから」
「な…それは…」
眉をひそめたニキアスの表情と声にほんの少し焦りが混じっているように見える。
ニキアスはわたしの顔を見下ろしながら首を横に振って、先程までとは違った冷ややかな声で続けた。
「――いや、全てを額面通りに受け取ってもらっては困る。
俺がああ言ったのは、あくまでアウロニアに戻るまでの間貴女の身と軍の秩序を守る為に過ぎない。
貴女には悪いが、実際に皇帝陛下に貴女を褒賞としてもらうつもりなど俺には毛頭無いぞ」
ニキアスの立場としては、自分の管理する軍内規律が崩れるとガウディ皇帝に口をはさむ隙を与えてしまう。
だから最低限の規律を守らせる為に言ったつもりだった。
たとえ、ほんの少し王女への同情を含んでいたとしても。
しかも倒した国の王女をただ貰い受けたいなどと言った途端、敵国への肩入れかと疑う可能性のある皇帝だ。
そして義兄であるガウディの皇位を脅かした者で、生き残っているのはほんのわずかだった。
(そんな危ない橋を、何故かつて拒まれた相手の為に渡らねばならぬのだ)
この件に関してこれ以上何かする気は無い。
(冗談ではない。リスクも大きすぎる、ごめんだ)
それがニキアスの正直な心の内だったのだ。
***************
(うん…それはそうでしょうね)
わたしは心の中でため息をついた。
原作の中でもお互い最終的に憎み合い(特にマヤ王女は)呪いの言葉を吐くまでの相手に対し、ニキアスがマヤへの対応を兵に命令してくれたのは破格と言っても良い態度だったと思っている。
かと言ってマヤ王女として返せるものが何も無いのであれば、これ以上の待遇を望むのは戦争捕虜として捕まった身では難しいだろうなとも思う。
でも、待って。
(一つ…あったかも)
『この事を上手く使えばもう少しニキアスの好感度を上げられるかも』とわたしは考えた。
(万に一つの可能性でも、もしかしたら…)
ニキアスのわたしへの更なる待遇アップを求めて試してみよう。
「あの…ニキアス様」
わたしは小説の前についていたザリア大陸の地図を思い出しながら彼に確かめる事にした。
「アウロニア帝国まではずっと歩きの行軍ですよね」
それを聞くとニキアスは顔をしかめて言った。
「王女だから歩けないとでもいうつもりなら…」
「いいえ、違います。そういう意味ではありません。陸路で馬車や馬を使って帰国するのですよね」
ニキアスの言葉に被せてしまったが彼は何も言わずわたしを見つめた。
それは肯定のしるしだ。
(アウロニア帝国軍はゼピウス国の北側に船を付け、首都に近い所から南下しながら一気に攻略を始めた筈だ)
ゼピウス国に軍を準備させる暇を与えない為である。
アウロニア帝国軍が、北上しつつ行軍しようとすると、ゼピウス国全体が食料難に陥っているため立ち寄った農村などでかえって軍の食料が狙われる危険性がある。
アウロニア帝国への帰路は歩ける奴隷と動ける負傷者を連れつつ帰るだけなので、戦いながら移動した行きよりずっと早く軍を動かす事ができると考えている違いない。
その為荷馬車や馬を使い、徒歩でアウロニア帝国へ帰還する…ここまでは確かめられた。
(あとはルートなんだけど…どっちを通るつもりかしら)
「えーと…帰路はルー湿原を通る予定ですか?」
ルー湿原とハルケ山の間には街道が通っているが、今は大変荒れて山賊や野盗・有名な強盗団が多数出現すると言われていた場所だ。
(アウロニア軍は厄介なそれを避けるために真っ直ぐ街道を通っては帰らなかった筈だ)
小説の内容を思い出すのに必死で、わたしは自分の様子をニキアスが注意深く観察しているのに気が付かないでいた。
「何故そんなにその情報を聞きたがるのだ?」
さっきよりも冷ややかなニキアスの声に、わたしははっと我に返った。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる