59 / 138
第1章.嘘つき預言者の目覚め
58 奪取 ②
しおりを挟む
ニキアスはドゥーガの加護を唱えた。
テントの外の森へと自分の五感の知覚を広げて探ってみたが、なんの気配も音も確認出来ない。
(…おかしい)
気配も音も無さすぎる。
通常であれば暗闇でも分かる生き物の気配が、僅かでも感じられ無いのは。
(不自然すぎる)
ニキアスがふと白い親犬の方を見ると、立ち上がって森を見つめる犬は同じ一点方向を見つめている。
そして、何か確認したかのようにわずかだが唸り始めた。
「...お前も違和感を感じるか?」
というよりは、
(…なにかを警戒しているようだ)
親犬のただならぬ気配に子犬も目が醒めて親犬の周りをウロウロと歩き出した。
ニキアスは片手で子犬を持ち上げると、テントの中へ連れて行った。
すでに着替えを終えていたマヤへとニキアスは持ち上げた子犬をひょいと渡した。
マヤは心配そうに言った。
「ニキアス…何だか変です。空気が…」
「…ああ、そうだな。探知できないから、多分俺よりも強い神の加護を持つ者が何処かに潜んでいる様だな」
言葉は緊張している様には思えないが、ただならぬ事が起こっている雰囲気をマヤは彼から感じた。
「……そんなニキアスよりも…?」
ニキアスの言葉を聞いてマヤは愕然とした。
『亡国の皇子』の中でニキアスは、『ドゥーガ』神の加護を纏っている限り最強といってもいい程の戦士だ。
『ドゥーガ』を退けるクラスの神と言ったら、兄姉神の『メサダ神』『レダ神』のどれかしかない。
若しくは考えたくない恐ろしい事だが、全く異なる力を持つ末神『ヴェガ』か。
いずれにしろ警戒すべき相手であるのに違いは無かった。
******
「――ボレアスは気づいたな。はっ…つくづく敏い奴」
白い仮面のアナラビは狼犬の視線を感じて言った。
「あいつの視線を感じるぜ。こっちを真っ直ぐ見てやがる…面白くなってきた」
アナラビは挑戦的に指をポキポキと鳴らした。
「さーてと…じゃあ目的を確認するぞ。まず国爾だろ、それからゼピウス国のお宝、そしてレダの預言者の女…ついでにボレアスの子供だ――優先順位については…」
後ろに控えるタウロスの顔を見てニッと笑った
「まあ、できれば全部だな」
「アナラビ…」
「分かってるって。オレたちは飽くまで義賊だ――『余計な殺生はするな』。
目的以外の殺しや盗みは禁止。あと盗み中に女を理由なく犯した奴もタマを切り取るって言ってんだろ?」
タウロスは頷いた。
アナラビはまたポキっと指を鳴らしながら不敵に笑った。
「…ふ、二キアスは手強いぞ。オレはまだ一人じゃムリだからなぁ…タウロスお前も気張れよ?」
アナラビは籠手を付けながら音も立てずに樹々の間を歩いて行った。
その時、静寂を破るようにボアレスが遠吠えを数回した。
「――チッ、ミリスを呼び戻しやがった。急げ、奴らが集まる前に作戦遂行だ」
メサダ神に因る加護でアナラビの常人の数倍ある聴覚は、森の中を草を掻き分け軍隊の方向へ走って戻る犬の足音がを聞き取った。
******
ウォ―ン、ウオォ―ン…。
狼犬の遠吠えが始まるとニキアスのテントの近くにいた兵らも一斉に起きて天幕から顔を出した。
「な、なんだ…なんだ?」
「犬の声?何だ一体、獣…?敵か…?」
「どうした…?」
ドゥーガの加護を纏うニキアスの耳にも、やっと襲ってくる敵の足音が聞こえてきた。
ニキアスは天幕をばさっと開けると籠手と剣帯だけ付け、剣を腰に素早く差した。
簡易的な皮の鎧だけ身に着けながら、子犬を抱きしめ心配そうに立ち尽くすマヤへ伝えた。
「マヤ、すぐ動けるようにはしておけ。ユリウスが来るから、このまま潜んでおけよ」
そのままニキアスは天幕の外に立てかけてある大槍を持った。
ちょうどその時、同じ様に簡易的な鎧を身につけたユリウスがこっちへ向かって走ってくるのが見えた。
「――ニキアス様、敵襲ですか!?」
「相手の姿が見えないが多分そうだ。しかも…上級の加護持ちだ…厄介だぞ」
ユリウスは目を見開いて
「え…!?まさか、こんな所に加護持ちが…?」
と驚いていたが、直ぐに踵を返し
「僕、警戒する様に各部隊へと伝えてきます」
と部隊のテントのある方へと走って行った。
テントの外の森へと自分の五感の知覚を広げて探ってみたが、なんの気配も音も確認出来ない。
(…おかしい)
気配も音も無さすぎる。
通常であれば暗闇でも分かる生き物の気配が、僅かでも感じられ無いのは。
(不自然すぎる)
ニキアスがふと白い親犬の方を見ると、立ち上がって森を見つめる犬は同じ一点方向を見つめている。
そして、何か確認したかのようにわずかだが唸り始めた。
「...お前も違和感を感じるか?」
というよりは、
(…なにかを警戒しているようだ)
親犬のただならぬ気配に子犬も目が醒めて親犬の周りをウロウロと歩き出した。
ニキアスは片手で子犬を持ち上げると、テントの中へ連れて行った。
すでに着替えを終えていたマヤへとニキアスは持ち上げた子犬をひょいと渡した。
マヤは心配そうに言った。
「ニキアス…何だか変です。空気が…」
「…ああ、そうだな。探知できないから、多分俺よりも強い神の加護を持つ者が何処かに潜んでいる様だな」
言葉は緊張している様には思えないが、ただならぬ事が起こっている雰囲気をマヤは彼から感じた。
「……そんなニキアスよりも…?」
ニキアスの言葉を聞いてマヤは愕然とした。
『亡国の皇子』の中でニキアスは、『ドゥーガ』神の加護を纏っている限り最強といってもいい程の戦士だ。
『ドゥーガ』を退けるクラスの神と言ったら、兄姉神の『メサダ神』『レダ神』のどれかしかない。
若しくは考えたくない恐ろしい事だが、全く異なる力を持つ末神『ヴェガ』か。
いずれにしろ警戒すべき相手であるのに違いは無かった。
******
「――ボレアスは気づいたな。はっ…つくづく敏い奴」
白い仮面のアナラビは狼犬の視線を感じて言った。
「あいつの視線を感じるぜ。こっちを真っ直ぐ見てやがる…面白くなってきた」
アナラビは挑戦的に指をポキポキと鳴らした。
「さーてと…じゃあ目的を確認するぞ。まず国爾だろ、それからゼピウス国のお宝、そしてレダの預言者の女…ついでにボレアスの子供だ――優先順位については…」
後ろに控えるタウロスの顔を見てニッと笑った
「まあ、できれば全部だな」
「アナラビ…」
「分かってるって。オレたちは飽くまで義賊だ――『余計な殺生はするな』。
目的以外の殺しや盗みは禁止。あと盗み中に女を理由なく犯した奴もタマを切り取るって言ってんだろ?」
タウロスは頷いた。
アナラビはまたポキっと指を鳴らしながら不敵に笑った。
「…ふ、二キアスは手強いぞ。オレはまだ一人じゃムリだからなぁ…タウロスお前も気張れよ?」
アナラビは籠手を付けながら音も立てずに樹々の間を歩いて行った。
その時、静寂を破るようにボアレスが遠吠えを数回した。
「――チッ、ミリスを呼び戻しやがった。急げ、奴らが集まる前に作戦遂行だ」
メサダ神に因る加護でアナラビの常人の数倍ある聴覚は、森の中を草を掻き分け軍隊の方向へ走って戻る犬の足音がを聞き取った。
******
ウォ―ン、ウオォ―ン…。
狼犬の遠吠えが始まるとニキアスのテントの近くにいた兵らも一斉に起きて天幕から顔を出した。
「な、なんだ…なんだ?」
「犬の声?何だ一体、獣…?敵か…?」
「どうした…?」
ドゥーガの加護を纏うニキアスの耳にも、やっと襲ってくる敵の足音が聞こえてきた。
ニキアスは天幕をばさっと開けると籠手と剣帯だけ付け、剣を腰に素早く差した。
簡易的な皮の鎧だけ身に着けながら、子犬を抱きしめ心配そうに立ち尽くすマヤへ伝えた。
「マヤ、すぐ動けるようにはしておけ。ユリウスが来るから、このまま潜んでおけよ」
そのままニキアスは天幕の外に立てかけてある大槍を持った。
ちょうどその時、同じ様に簡易的な鎧を身につけたユリウスがこっちへ向かって走ってくるのが見えた。
「――ニキアス様、敵襲ですか!?」
「相手の姿が見えないが多分そうだ。しかも…上級の加護持ちだ…厄介だぞ」
ユリウスは目を見開いて
「え…!?まさか、こんな所に加護持ちが…?」
と驚いていたが、直ぐに踵を返し
「僕、警戒する様に各部隊へと伝えてきます」
と部隊のテントのある方へと走って行った。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる