嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される

花月

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第1章.嘘つき預言者の目覚め

58 奪取 ②

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ニキアスはドゥーガの加護を唱えた。
テントの外の森へと自分の五感の知覚を広げて探ってみたが、なんの気配も音も確認出来ない。

(…おかしい)
気配も音も無さすぎる。

通常であれば暗闇でも分かる生き物の気配が、僅かでも感じられ無いのは。
(不自然すぎる)

ニキアスがふと白い親犬の方を見ると、立ち上がって森を見つめる犬は同じ一点方向を見つめている。
そして、何か確認したかのようにわずかだが唸り始めた。

「...お前も違和感を感じるか?」
というよりは、
(…なにかを警戒しているようだ)

親犬のただならぬ気配に子犬も目が醒めて親犬の周りをウロウロと歩き出した。

ニキアスは片手で子犬を持ち上げると、テントの中へ連れて行った。

すでに着替えを終えていたマヤへとニキアスは持ち上げた子犬をひょいと渡した。

マヤは心配そうに言った。
「ニキアス…何だか変です。空気が…」
「…ああ、そうだな。探知できないから、多分俺よりも強い神の加護を持つ者が何処かに潜んでいる様だな」

言葉は緊張している様には思えないが、ただならぬ事が起こっている雰囲気をマヤは彼から感じた。

「……そんなニキアスよりも…?」
ニキアスの言葉を聞いてマヤは愕然とした。

『亡国の皇子』の中でニキアスは、『ドゥーガ』神の加護を纏っている限り最強といってもいい程の戦士だ。

『ドゥーガ』を退けるクラスの神と言ったら、兄姉神の『メサダ神』『レダ神』のどれかしかない。
若しくは考えたくない恐ろしい事だが、全く異なる力を持つ末神『ヴェガ』か。

いずれにしろ警戒すべき相手であるのに違いは無かった。

 ******

「――ボレアスは気づいたな。はっ…つくづく敏い奴」

白い仮面のアナラビは狼犬の視線を感じて言った。
「あいつの視線を感じるぜ。こっちを真っ直ぐ見てやがる…面白くなってきた」

アナラビは挑戦的に指をポキポキと鳴らした。

「さーてと…じゃあ目的を確認するぞ。まず国爾だろ、それからゼピウス国のお宝、そしてレダの預言者の女…ついでにボレアスの子供だ――優先順位については…」

後ろに控えるタウロスの顔を見てニッと笑った

「まあ、できれば全部だな」
「アナラビ…」

「分かってるって。オレたちは飽くまで義賊だ――『余計な殺生はするな』。
目的以外の殺しや盗みは禁止。あと盗み中に女を理由なく犯した奴もタマを切り取るって言ってんだろ?」

タウロスは頷いた。

アナラビはまたポキっと指を鳴らしながら不敵に笑った。
「…ふ、二キアスは手強いぞ。オレはまだ一人じゃムリだからなぁ…タウロスお前も気張れよ?」

アナラビは籠手を付けながら音も立てずに樹々の間を歩いて行った。

その時、静寂を破るようにボアレスが遠吠えを数回した。
「――チッ、ミリス犬兵を呼び戻しやがった。急げ、奴らが集まる前に作戦遂行だ」

メサダ神に因る加護でアナラビの常人の数倍ある聴覚は、森の中を草を掻き分け軍隊の方向へ走って戻る犬の足音がを聞き取った。

 ******

ウォ―ン、ウオォ―ン…。

狼犬の遠吠えが始まるとニキアスのテントの近くにいた兵らも一斉に起きて天幕から顔を出した。

「な、なんだ…なんだ?」
「犬の声?何だ一体、獣…?敵か…?」
「どうした…?」

ドゥーガの加護を纏うニキアスの耳にも、やっと襲ってくる敵の足音が聞こえてきた。

ニキアスは天幕をばさっと開けると籠手と剣帯だけ付け、剣を腰に素早く差した。

簡易的な皮の鎧だけ身に着けながら、子犬を抱きしめ心配そうに立ち尽くすマヤへ伝えた。

「マヤ、すぐ動けるようにはしておけ。ユリウスが来るから、このまま潜んでおけよ」

そのままニキアスは天幕の外に立てかけてある大槍を持った。

ちょうどその時、同じ様に簡易的な鎧を身につけたユリウスがこっちへ向かって走ってくるのが見えた。

「――ニキアス様、敵襲ですか!?」

「相手の姿が見えないが多分そうだ。しかも…上級の加護持ちだ…厄介だぞ」

ユリウスは目を見開いて
「え…!?まさか、こんな所に加護持ちが…?」
と驚いていたが、直ぐに踵を返し
「僕、警戒する様に各部隊へと伝えてきます」
と部隊のテントのある方へと走って行った。
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