嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される

花月

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第1章.嘘つき預言者の目覚め

59 奪取 ③

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明け方になり、周りの景色には少し霧が出てきた様だった。

「お前の父はどうした?」

ニキアスがユリウスへ問うと、
「宿場町に使いは直ぐに連絡を送りました。あとはあの人も軍人なのでご自分で何とかしていただかなければ…」

周りの兵の様子を伺いながらニキアスは頷いた。

「ならばマヤを頼む」
「そんな!僕も戦います!」
「今は駄目だ」

ニキアスは一言でユリウスの願いを突っ撥ねた。
「お前は成人していない。戦闘に参加するのを許すわけにはいかない。
それにお前の父親が居ない所で、お前を死なせるわけにもいかん」

「ニキアス…わたし、どうしたら…」
子犬を抱きしめて立ち尽くすマヤを、ニキアスは軽く抱きしめて安心させるように背中を撫でた。

「大丈夫だ。心配ない。ユリウスがお前を危険が及ばない場所に連れて行ってくれる筈だ」
「マヤ様、行きましょう。こちらです」

ユリウスに手を引かれ、わたしは子犬を抱えたままニキアスのテントから離れるようにして歩いた。

こちらを見送るニキアスの姿は、続々とテントから起きて動きだす兵の姿と、濃くなっていく霧に紛れて、見えなくなってしまった。


 ******


ニキウスがマヤを見送った直後だった。
 
ドンッと爆発音がして、ニキアスのテントの近くの地面から火が上がっている。

土が黒く燃えてはっきりと油の匂いがするのが分かる。
爆弾の一種に違いなかった。

(爆弾が作れるのか?)
これはただの粗野な盗賊では無い。
油の精製も火薬の製造も錬金術が必要になる代物なのだ。

『大盗賊団』
ニキアスの頭にその言葉がすぐに浮かんだ。

「火を消せ!」
ニキアスは近くの兵に命令した。

ドゥーガ神の加護を纏ったニキアスは、どこから大砲が撃たれているか眼を凝らして確認した。

(...雑木林の数か所に手筒式の大砲を持っている者が複数いるな)

まだ昏い空なのと徐々に濃くなる霧で、アウロニア軍の兵らには目視での確認ができないようだった。

バタバタと消火する兵を避けながら、ニキアスは一番近い大砲を持つ者の場所へと素早く移動した。

「――ワン!」

何時の間に共に来たのか、白い犬が吠えた。

次の瞬間、岩と言うのが相応しい――巨体の男がニキアスの目の前に飛び出してきた。

おかしなこと事になぜか色こそ異なっているが、自分と同じ様な仮面を付けている。

その岩男は見た目より少し高い声で言った。

「お初にお目にかかる、ニキアス将軍どの。ひと時手合わせをお願いするぞ」

正確な手捌きで、ニキアスがもつより太さのある大槍をぐるりと回して構えたのだった。

 *******

わたしはユリウスに手を引かれながらナラのいるテントまで走った。

足元にはいつもはじゃれつく子犬も非常事態と分かっているのだろう、しっかりとわたしの前や後ろについて走っている。

「ナラのいるテントへついたら、彼女と一緒にいてください。この第三部隊でテント自体を警護させます。僕はニキアス様の処へ戻らなきゃ…」

息を切らしながら、ユリウスが言った。

爆発物がいくつか連続に投下されて、事態が把握できずに騒然となる兵達の間をくぐり抜け、見知った兵とテントのいる場所へ戻ってくるとナラがテントの外に出てきた。

「あ、マヤ様...!良かったです。お迎えにいこうと思っていました」
「ナラに会えてほっとしたわ」
「ご無事で良かったですぅ…」

涙声のナラとお互いに手を取り喜んでいると、ユリウスの指示でテントの中へ入るように促された。
「テントから勝手に出ちゃダメですよ」

ユリウスは部隊長と兵らにテントの警護を依頼したらしい。

「じゃあ、僕戻りますね…!」
また走って戻ろうとする彼に、わたしは手を振った。

「ありがとう、ユリウス。どうか気を付けて」
彼は天使のような顔で微笑みながら手を振って、先頭部隊の方向へ走っていったのだった。

時折ドーン、ドーンと言う音が聞こえる他はテントの周りは静かだった。

雨が降っていた為雲が厚い。
焚火は消されてしまったか最小限にされている為とにかく視界が悪い。
更に悪条件が重なり、霧が濃くなってきたようだった。

(まだ夜明けまでほんの少し時間があるわ…)

暫くするとテント周りが騒がしくなった。

時折叫び声が聞こえるが直ぐにくぐもった声になり、物が倒れる音もする。
それがしばらく続くと、いきなりシン…と静かになってしまった。


「マヤ様…わたしちょっと覗いてきます」
ナラは気になってじっとしていられないのか、そう言って天幕をすこし開けてそっと外を覗こうと身を乗り出した。

「あ、待って、ナラ…勝手に…」

(外に出ない方がいいわ)
と言いかけた瞬間、わたしの横にいた子犬がぎゃんぎゃん吠え始めた。

ドサっという音と共に、今度は天幕が外側から開いた。

「...ナラ?」
「残念だが...はずれだ」



けたたましく吠える子犬とわたしの方へ、白い仮面を付けた鳶色の髪の男がゆっくりと歩きながら近づいた。
「ははっ、やっと見つけたぜ。鬼ごっこ終了だ、マヤ姫」
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