60 / 138
第1章.嘘つき預言者の目覚め
59 奪取 ③
しおりを挟む
明け方になり、周りの景色には少し霧が出てきた様だった。
「お前の父はどうした?」
ニキアスがユリウスへ問うと、
「宿場町に使いは直ぐに連絡を送りました。あとはあの人も軍人なのでご自分で何とかしていただかなければ…」
周りの兵の様子を伺いながらニキアスは頷いた。
「ならばマヤを頼む」
「そんな!僕も戦います!」
「今は駄目だ」
ニキアスは一言でユリウスの願いを突っ撥ねた。
「お前は成人していない。戦闘に参加するのを許すわけにはいかない。
それにお前の父親が居ない所で、お前を死なせるわけにもいかん」
「ニキアス…わたし、どうしたら…」
子犬を抱きしめて立ち尽くすマヤを、ニキアスは軽く抱きしめて安心させるように背中を撫でた。
「大丈夫だ。心配ない。ユリウスがお前を危険が及ばない場所に連れて行ってくれる筈だ」
「マヤ様、行きましょう。こちらです」
ユリウスに手を引かれ、わたしは子犬を抱えたままニキアスのテントから離れるようにして歩いた。
こちらを見送るニキアスの姿は、続々とテントから起きて動きだす兵の姿と、濃くなっていく霧に紛れて、見えなくなってしまった。
******
ニキウスがマヤを見送った直後だった。
ドンッと爆発音がして、ニキアスのテントの近くの地面から火が上がっている。
土が黒く燃えてはっきりと油の匂いがするのが分かる。
爆弾の一種に違いなかった。
(爆弾が作れるのか?)
これはただの粗野な盗賊では無い。
油の精製も火薬の製造も錬金術が必要になる代物なのだ。
『大盗賊団』
ニキアスの頭にその言葉がすぐに浮かんだ。
「火を消せ!」
ニキアスは近くの兵に命令した。
ドゥーガ神の加護を纏ったニキアスは、どこから大砲が撃たれているか眼を凝らして確認した。
(...雑木林の数か所に手筒式の大砲を持っている者が複数いるな)
まだ昏い空なのと徐々に濃くなる霧で、アウロニア軍の兵らには目視での確認ができないようだった。
バタバタと消火する兵を避けながら、ニキアスは一番近い大砲を持つ者の場所へと素早く移動した。
「――ワン!」
何時の間に共に来たのか、白い犬が吠えた。
次の瞬間、岩と言うのが相応しい――巨体の男がニキアスの目の前に飛び出してきた。
おかしなこと事になぜか色こそ異なっているが、自分と同じ様な仮面を付けている。
その岩男は見た目より少し高い声で言った。
「お初にお目にかかる、ニキアス将軍どの。ひと時手合わせをお願いするぞ」
正確な手捌きで、ニキアスがもつより太さのある大槍をぐるりと回して構えたのだった。
*******
わたしはユリウスに手を引かれながらナラのいるテントまで走った。
足元にはいつもはじゃれつく子犬も非常事態と分かっているのだろう、しっかりとわたしの前や後ろについて走っている。
「ナラのいるテントへついたら、彼女と一緒にいてください。この第三部隊でテント自体を警護させます。僕はニキアス様の処へ戻らなきゃ…」
息を切らしながら、ユリウスが言った。
爆発物がいくつか連続に投下されて、事態が把握できずに騒然となる兵達の間をくぐり抜け、見知った兵とテントのいる場所へ戻ってくるとナラがテントの外に出てきた。
「あ、マヤ様...!良かったです。お迎えにいこうと思っていました」
「ナラに会えてほっとしたわ」
「ご無事で良かったですぅ…」
涙声のナラとお互いに手を取り喜んでいると、ユリウスの指示でテントの中へ入るように促された。
「テントから勝手に出ちゃダメですよ」
ユリウスは部隊長と兵らにテントの警護を依頼したらしい。
「じゃあ、僕戻りますね…!」
また走って戻ろうとする彼に、わたしは手を振った。
「ありがとう、ユリウス。どうか気を付けて」
彼は天使のような顔で微笑みながら手を振って、先頭部隊の方向へ走っていったのだった。
時折ドーン、ドーンと言う音が聞こえる他はテントの周りは静かだった。
雨が降っていた為雲が厚い。
焚火は消されてしまったか最小限にされている為とにかく視界が悪い。
更に悪条件が重なり、霧が濃くなってきたようだった。
(まだ夜明けまでほんの少し時間があるわ…)
暫くするとテント周りが騒がしくなった。
時折叫び声が聞こえるが直ぐにくぐもった声になり、物が倒れる音もする。
それがしばらく続くと、いきなりシン…と静かになってしまった。
「マヤ様…わたしちょっと覗いてきます」
ナラは気になってじっとしていられないのか、そう言って天幕をすこし開けてそっと外を覗こうと身を乗り出した。
「あ、待って、ナラ…勝手に…」
(外に出ない方がいいわ)
と言いかけた瞬間、わたしの横にいた子犬がぎゃんぎゃん吠え始めた。
ドサっという音と共に、今度は天幕が外側から開いた。
「...ナラ?」
「残念だが...はずれだ」
誰かがテントの外から中に入って来た。
けたたましく吠える子犬とわたしの方へ、白い仮面を付けた鳶色の髪の男がゆっくりと歩きながら近づいた。
「ははっ、やっと見つけたぜ。鬼ごっこ終了だ、マヤ姫」
「お前の父はどうした?」
ニキアスがユリウスへ問うと、
「宿場町に使いは直ぐに連絡を送りました。あとはあの人も軍人なのでご自分で何とかしていただかなければ…」
周りの兵の様子を伺いながらニキアスは頷いた。
「ならばマヤを頼む」
「そんな!僕も戦います!」
「今は駄目だ」
ニキアスは一言でユリウスの願いを突っ撥ねた。
「お前は成人していない。戦闘に参加するのを許すわけにはいかない。
それにお前の父親が居ない所で、お前を死なせるわけにもいかん」
「ニキアス…わたし、どうしたら…」
子犬を抱きしめて立ち尽くすマヤを、ニキアスは軽く抱きしめて安心させるように背中を撫でた。
「大丈夫だ。心配ない。ユリウスがお前を危険が及ばない場所に連れて行ってくれる筈だ」
「マヤ様、行きましょう。こちらです」
ユリウスに手を引かれ、わたしは子犬を抱えたままニキアスのテントから離れるようにして歩いた。
こちらを見送るニキアスの姿は、続々とテントから起きて動きだす兵の姿と、濃くなっていく霧に紛れて、見えなくなってしまった。
******
ニキウスがマヤを見送った直後だった。
ドンッと爆発音がして、ニキアスのテントの近くの地面から火が上がっている。
土が黒く燃えてはっきりと油の匂いがするのが分かる。
爆弾の一種に違いなかった。
(爆弾が作れるのか?)
これはただの粗野な盗賊では無い。
油の精製も火薬の製造も錬金術が必要になる代物なのだ。
『大盗賊団』
ニキアスの頭にその言葉がすぐに浮かんだ。
「火を消せ!」
ニキアスは近くの兵に命令した。
ドゥーガ神の加護を纏ったニキアスは、どこから大砲が撃たれているか眼を凝らして確認した。
(...雑木林の数か所に手筒式の大砲を持っている者が複数いるな)
まだ昏い空なのと徐々に濃くなる霧で、アウロニア軍の兵らには目視での確認ができないようだった。
バタバタと消火する兵を避けながら、ニキアスは一番近い大砲を持つ者の場所へと素早く移動した。
「――ワン!」
何時の間に共に来たのか、白い犬が吠えた。
次の瞬間、岩と言うのが相応しい――巨体の男がニキアスの目の前に飛び出してきた。
おかしなこと事になぜか色こそ異なっているが、自分と同じ様な仮面を付けている。
その岩男は見た目より少し高い声で言った。
「お初にお目にかかる、ニキアス将軍どの。ひと時手合わせをお願いするぞ」
正確な手捌きで、ニキアスがもつより太さのある大槍をぐるりと回して構えたのだった。
*******
わたしはユリウスに手を引かれながらナラのいるテントまで走った。
足元にはいつもはじゃれつく子犬も非常事態と分かっているのだろう、しっかりとわたしの前や後ろについて走っている。
「ナラのいるテントへついたら、彼女と一緒にいてください。この第三部隊でテント自体を警護させます。僕はニキアス様の処へ戻らなきゃ…」
息を切らしながら、ユリウスが言った。
爆発物がいくつか連続に投下されて、事態が把握できずに騒然となる兵達の間をくぐり抜け、見知った兵とテントのいる場所へ戻ってくるとナラがテントの外に出てきた。
「あ、マヤ様...!良かったです。お迎えにいこうと思っていました」
「ナラに会えてほっとしたわ」
「ご無事で良かったですぅ…」
涙声のナラとお互いに手を取り喜んでいると、ユリウスの指示でテントの中へ入るように促された。
「テントから勝手に出ちゃダメですよ」
ユリウスは部隊長と兵らにテントの警護を依頼したらしい。
「じゃあ、僕戻りますね…!」
また走って戻ろうとする彼に、わたしは手を振った。
「ありがとう、ユリウス。どうか気を付けて」
彼は天使のような顔で微笑みながら手を振って、先頭部隊の方向へ走っていったのだった。
時折ドーン、ドーンと言う音が聞こえる他はテントの周りは静かだった。
雨が降っていた為雲が厚い。
焚火は消されてしまったか最小限にされている為とにかく視界が悪い。
更に悪条件が重なり、霧が濃くなってきたようだった。
(まだ夜明けまでほんの少し時間があるわ…)
暫くするとテント周りが騒がしくなった。
時折叫び声が聞こえるが直ぐにくぐもった声になり、物が倒れる音もする。
それがしばらく続くと、いきなりシン…と静かになってしまった。
「マヤ様…わたしちょっと覗いてきます」
ナラは気になってじっとしていられないのか、そう言って天幕をすこし開けてそっと外を覗こうと身を乗り出した。
「あ、待って、ナラ…勝手に…」
(外に出ない方がいいわ)
と言いかけた瞬間、わたしの横にいた子犬がぎゃんぎゃん吠え始めた。
ドサっという音と共に、今度は天幕が外側から開いた。
「...ナラ?」
「残念だが...はずれだ」
誰かがテントの外から中に入って来た。
けたたましく吠える子犬とわたしの方へ、白い仮面を付けた鳶色の髪の男がゆっくりと歩きながら近づいた。
「ははっ、やっと見つけたぜ。鬼ごっこ終了だ、マヤ姫」
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる