嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される

花月

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第1章.嘘つき預言者の目覚め

67 筋書き ④

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目の前の男性は、髪の毛や肌と同じ真っ白な神官風トーガの衣服を身につけている。

「はえぇ...」
王女にあるまじき反応だったと思うが、わたしの傍に立つボレアスの身体を思わず手でペタっと触ってしまった。
(あんなにあった白銀の毛は一体、どこにいってしまったのかしら…)

「マヤ姫…」
人型を取ったボレアスが、わたしの行動に戸惑って眉を寄せて困った様な顔をしている。

「あ…ごめんなさい。色々と不思議で…」
「そうか…獣人族を見るのは初めてか?」

ボレアスはわたしに尋ねた。
わたしは頷きながらボレアスに訊いた。

「はい、初めてです。凄いわ…。皆…こんな風に変化出来るの…ですか?」
「いいや」

ボレアスは返答して、簡単に説明してくれた。
完全な人間の身体に見えているのは、一部幻影イリュージョンも入っているらしい。

「私が完全にヒトの身体に見えているとしたら、それだけヴェガ神様の加護が強いという事だ」

それはどうやら『加護が弱い者だと化けきれない』という事らしい。
見た目にも身体の一部(耳や爪、毛皮や尻尾など)が残ってしまうそうだ。

ボレアスはわたしの方を向いて
「ニキアスもギデオンもお互い同士敵に回すと色々と厄介だからな。マヤ王女、私の子をよろしく頼む」

甘えて足元にじゃれる子犬の頭を手でわしゃわしゃとすると
『必ずアナラビを連れ帰る』
と言って、あっという間に森の奥へ姿を消してしまった。


******************


一方――ギデオンは明らかにニキアスに力負けしていた。
 
流石と言うべきかアウロニア皇軍の将軍を名乗るだけの力がある。

(くそ、戦いの神ドゥーガの加護を受けるだけはあるぜ)
剣技もそれを振るう筋力も、明らかにニキアスの方が現時点では上だと思い知らされる。

ギデオンはチッと舌打ちをした。
 (…多少はメサダに助けてもらえると思ったのが甘かったな)

しかもニキアスが馬に乗っているのも、ギデオンにとっては不利な条件であった。
 
ニキアスが馬上から思い切り振り下ろす剣と交える度、ぎりぎりと足元へ力押しされてしまうのだ。

(やりたくはねぇがそんな余裕はない。可哀想だが――まず馬を狙うか)

ニキアスの乗っている馬をまずる。
もしくはその脚の腱を切る。

馬が居ない状態なら、身軽なギデオンにも勝機はあると考えた。

ギデオンは馬を標的に変える為に剣を持ち替えた。

次の瞬間――狙いを馬に変えたのを察した様にニキアスは無表情のまま剣をギデオンに振り下ろした。

 *******

ギデオンはニキアスの剣を受けた――そのまま受け流そうとしたが、
いつもならタウロスの剣でも流せるのに、できなかった。

異様な力で押されて滑らない。

ギデオンが強引に剣を滑らせようと身体を反転させようとした瞬間、いきなり力を抜いて剣を引いたニキアスの脚で背中を思い切り蹴られた。

「ぐっ!」

その反動で自分の剣を落してしまった。
はっと拾おうとした次の瞬間、ギデオンの喉元に剣先が当てられる。

「――終わりだな。死ね」
まるで作業が終わったと言っているかのような淡々とした口調だ。

ギデオンも人を殺すのは、状況によっては致し方無い場合はある。
盗賊稼業を手伝っていれば、自身の命が危険に晒される事がある為どうしようも無い時は殺られる前に殺る。

(こいつは違う)

ギデオンはニキアスの眼を見て感じた。
情けも恐れも使命感も無くに殺しをやれる。

(…やっぱあの皇帝の弟だぜ。良くこれで将軍職なんてやってんな)
『暗殺者でもやってた方が向いてんじゃねえか?』と思った瞬間、ニキアスの剣が上から振り下ろされるのが見えた。

(まずい――本当に殺られる!)

次の瞬間、風切り音がしてニキアスが振り下ろした剣の軌道がいきなり変わった
と思うと――ギデオンの足元に短剣が落ちてきた。

「アナラビ!戻れ」

ニキアスが切られた頬を押さえながら短剣の投げられた方向を見ると、そこには白い神官服のトーガを纏う白い長髪の男が立っていた。

ギデオンは短剣を拾うと、男の方へ向かって猛ダッシュした。
「サンキューな!」

そのまま走って白い神官服の男の横を通り過ぎる。

神官服の男が何か唱えているのを確認したニキアスは、アナラビと呼ばれた男を追いかけようと馬首を巡らせたが、次の瞬間森の中でブーンという不思議な周波数の音を聞いた。

その音は森のあちらこちらで聞こえてくる。
すると真っ黒い影のようなものが木々の間から現れて、ニキアスの方へ向かってくるのが見えた。

らは羽音を立て空気を震わせて黒い塊となったまま一斉にニキアスを狙ったのだった。

アブの集団である。

(――蟲使いか?)
みるみるうちにニキアスは、黒い塊の中に飲み込まれてしまれてしまった。
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