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第1章.嘘つき預言者の目覚め
80 王女の誘惑 ②
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「無理に抱かれる...ってどういう意味...?」
(今わたしがニキアスに『お願い、抱いて』って言っているのに?)
一体わたしの目の前で――何が起こっているのだろうか。
わたしを気遣う様に切なそうに微笑むニキアスは、見とれる程美しい。
けれどヴェガ神の庭を抜けて交わした誓いや抱擁が、目の前で違ったものにすり替わっていく様を目の当りにして、わたしは愕然とした。
現実的には何も大きな事は起こっていないのに、わたしの全身に鳥肌が立つのを感じた。
それはあのメサダ神を目の前に得体の知れない大きな力を目の当たりにした時と同じ気分だ。
(…やっているのはメサダ神だわ)
何てことだろう…嗤える程の喜劇仕立てだ。
今この瞬間にも二人の愛や絆を、あの少年神はこうも簡単に安っぽい同情心や親愛の情に書き換えようとしている。
そして何よりも恐ろしいのは、この流れに抵抗せずに乗ってしまったら、わたしも『それで仕方が無い事なのだわ』と納得してしまいそうになる事だ。
(…これ以上行動を待つのは危険だわ)
最早一刻の猶予もならない。
もう肚を括らなきゃ駄目なんだわ――×××。
わたしはもう忘れてしまいそうな前世での自分の名を呼んだ。
******
メサダ神のえげつない計画に、思わず吐き気がしそうになる。
わたしはニキアスの手を取って自分の裸の胸に抱いた。
「ニキアス…貴方は抱いてと言ったわたくしの決意を拒むの...?」
「......」
手は預けたままニキアスは、わたしをじっと見つめた。
「...ニキアスを愛しているから今抱いてほしいの」
するとわたしの言葉に、ニキアスはとても驚いた顔をしている。
「…愛してる?お前が?」
(...あら?わたしニキアスに愛してるって言ってなかったかしら?)
「...そうよ、愛してるの。だからお願い、何も言わないで。ニキアス、わたしの処女をあげる。今すぐ貴方が欲しいの…挿れて」
「…いれ…...マヤ?…」
ニキアスの口が驚きのあまり半開きになってしまっている。
(ああ…とうとうニキアスが呆然としてしまったわ)
まさか王女がそんな言葉を使って『行為』の性急を求めるとは思っていなかったに違いない。
焦り過ぎた余り『さっさと挿入しろ』的ド直球な言い方になってしまった事をわたしは後悔した。
(プライドが高く純粋なマヤ王女は、死んでもこんな破廉恥な言い方をしないだろうし…)
わたしも生前であればこんなムードの無い台詞は絶対に吐かなかったのに。
でも今は――緊急事態だった。
おまけに時間も無くわたしは焦りまくってもいた。
何故ならこのニキアスの数秒の沈黙の間にも、メサダ神がこれからの展開の書き換えをしようとしている筈だからである。
「ニキアス…さあ、脱ぎましょう。手伝うわ」
わたしの顔を見たまま呆然と返事をしないニキアスの服を勝手に脱がせるべく、わたしは彼の上衣に手をかけた。
******
「ま…待て、マヤ…ちょっと...」
「さあ早く、下穿きも脱いで」
「マヤ、分かったから、ちょっと落ち着け」
「ニキアス…早く」
ニキアスはひらすらわたしを落ち着かせようと宥めている。
燭台の蝋燭の明かりの中、二人とも寝台に座っているというのに、一方のわたしだけ全裸と言う状況下――。
甘い言葉が交わされる事は無く、服を脱げ、いや待てのすったもんだの攻防戦が繰り広げられていて、これから盛り上がってセックスをしましょうというムードもへったくれも無い。
こんなグダグダな状況の中、わたしが本当に彼をその気にさせる事が出来るのか…と絶望しかけた時、ニキアスがいきなり声を上げて笑い出した。
「はっ…はははっ…マ、マヤの顔が…」
ニキアスは下を向き、自分の裸の膝を叩きながら笑っていた。
「…ふふふふはっ…はぁ…昔の様だ。…覚えているか?」
わたしが首を傾げると、ニキアスは目に浮かんでいた涙を手の平で拭った。
「そうか…ふふ...覚えていないか?...花を摘み、お前の部屋に届けた八歳の誕生日の事だ」
『花を受け取った後余りに泥だらけの俺を見て、お前は汚いからと俺の服をいきなり脱がせ始めたな』
とニキアスは話し始めた。
「俺は嫌がったのに、命令されて仕方なく脱いだら…お前は俺の脚の間にあるモノを見て…」
ニキアスはまたくっくっくっと、思い出して笑いが止まらない様だった。
「『怪我したの?大変ニキアス、腫れてるわ!』って大声で叫んだのを、俺は必死で口を押えて静かにしてもらった覚えがある…」
それから、わたしを見つめて濃いグレーの瞳を甘く煌かせた。
「ああ…愛している、マヤ…」
「わたくしも。ニキアス愛してる…本当に。無理になんて言わないで。本当にわたくしが望んでいるの...」
「お前からの『愛している』の言葉は今日が初めてだ…俺は嬉しい」
そう言って瞳を煌かせて微笑んだニキアスはとても魅惑的で美しかった。
(今わたしがニキアスに『お願い、抱いて』って言っているのに?)
一体わたしの目の前で――何が起こっているのだろうか。
わたしを気遣う様に切なそうに微笑むニキアスは、見とれる程美しい。
けれどヴェガ神の庭を抜けて交わした誓いや抱擁が、目の前で違ったものにすり替わっていく様を目の当りにして、わたしは愕然とした。
現実的には何も大きな事は起こっていないのに、わたしの全身に鳥肌が立つのを感じた。
それはあのメサダ神を目の前に得体の知れない大きな力を目の当たりにした時と同じ気分だ。
(…やっているのはメサダ神だわ)
何てことだろう…嗤える程の喜劇仕立てだ。
今この瞬間にも二人の愛や絆を、あの少年神はこうも簡単に安っぽい同情心や親愛の情に書き換えようとしている。
そして何よりも恐ろしいのは、この流れに抵抗せずに乗ってしまったら、わたしも『それで仕方が無い事なのだわ』と納得してしまいそうになる事だ。
(…これ以上行動を待つのは危険だわ)
最早一刻の猶予もならない。
もう肚を括らなきゃ駄目なんだわ――×××。
わたしはもう忘れてしまいそうな前世での自分の名を呼んだ。
******
メサダ神のえげつない計画に、思わず吐き気がしそうになる。
わたしはニキアスの手を取って自分の裸の胸に抱いた。
「ニキアス…貴方は抱いてと言ったわたくしの決意を拒むの...?」
「......」
手は預けたままニキアスは、わたしをじっと見つめた。
「...ニキアスを愛しているから今抱いてほしいの」
するとわたしの言葉に、ニキアスはとても驚いた顔をしている。
「…愛してる?お前が?」
(...あら?わたしニキアスに愛してるって言ってなかったかしら?)
「...そうよ、愛してるの。だからお願い、何も言わないで。ニキアス、わたしの処女をあげる。今すぐ貴方が欲しいの…挿れて」
「…いれ…...マヤ?…」
ニキアスの口が驚きのあまり半開きになってしまっている。
(ああ…とうとうニキアスが呆然としてしまったわ)
まさか王女がそんな言葉を使って『行為』の性急を求めるとは思っていなかったに違いない。
焦り過ぎた余り『さっさと挿入しろ』的ド直球な言い方になってしまった事をわたしは後悔した。
(プライドが高く純粋なマヤ王女は、死んでもこんな破廉恥な言い方をしないだろうし…)
わたしも生前であればこんなムードの無い台詞は絶対に吐かなかったのに。
でも今は――緊急事態だった。
おまけに時間も無くわたしは焦りまくってもいた。
何故ならこのニキアスの数秒の沈黙の間にも、メサダ神がこれからの展開の書き換えをしようとしている筈だからである。
「ニキアス…さあ、脱ぎましょう。手伝うわ」
わたしの顔を見たまま呆然と返事をしないニキアスの服を勝手に脱がせるべく、わたしは彼の上衣に手をかけた。
******
「ま…待て、マヤ…ちょっと...」
「さあ早く、下穿きも脱いで」
「マヤ、分かったから、ちょっと落ち着け」
「ニキアス…早く」
ニキアスはひらすらわたしを落ち着かせようと宥めている。
燭台の蝋燭の明かりの中、二人とも寝台に座っているというのに、一方のわたしだけ全裸と言う状況下――。
甘い言葉が交わされる事は無く、服を脱げ、いや待てのすったもんだの攻防戦が繰り広げられていて、これから盛り上がってセックスをしましょうというムードもへったくれも無い。
こんなグダグダな状況の中、わたしが本当に彼をその気にさせる事が出来るのか…と絶望しかけた時、ニキアスがいきなり声を上げて笑い出した。
「はっ…はははっ…マ、マヤの顔が…」
ニキアスは下を向き、自分の裸の膝を叩きながら笑っていた。
「…ふふふふはっ…はぁ…昔の様だ。…覚えているか?」
わたしが首を傾げると、ニキアスは目に浮かんでいた涙を手の平で拭った。
「そうか…ふふ...覚えていないか?...花を摘み、お前の部屋に届けた八歳の誕生日の事だ」
『花を受け取った後余りに泥だらけの俺を見て、お前は汚いからと俺の服をいきなり脱がせ始めたな』
とニキアスは話し始めた。
「俺は嫌がったのに、命令されて仕方なく脱いだら…お前は俺の脚の間にあるモノを見て…」
ニキアスはまたくっくっくっと、思い出して笑いが止まらない様だった。
「『怪我したの?大変ニキアス、腫れてるわ!』って大声で叫んだのを、俺は必死で口を押えて静かにしてもらった覚えがある…」
それから、わたしを見つめて濃いグレーの瞳を甘く煌かせた。
「ああ…愛している、マヤ…」
「わたくしも。ニキアス愛してる…本当に。無理になんて言わないで。本当にわたくしが望んでいるの...」
「お前からの『愛している』の言葉は今日が初めてだ…俺は嬉しい」
そう言って瞳を煌かせて微笑んだニキアスはとても魅惑的で美しかった。
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