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第2章.『vice versa』アウロニア帝国編
5 皇帝のお渡り ①
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その日の夜は何だかおかしな感じだった。
夕食を食べて直ぐに、あんなにくだけた様子のリラがとても緊張した様子で、沢山の籠や箱を持つ奴隷を引き連れて、慌ただしく部屋に入って来たからである。
わたしは直ぐに花の香りのする湯で念入りに湯あみをさせられてから、絹の生地を美しいピンク色で染めた足首まである長いチュニックを着させられた。
肩が出るスタイルで肩から腕にかけて紐で結ぶようになっている。
それは、胸の真下と腰の所を絹のリボンでしばると、美しいドレープがでるようなデザインになっていた。
チュニックの両脇には、太股が見えるくらい際どいスリットが入っている。
わたしの蜂蜜色の髪は緩く優雅に編み上げられ白い花が次々に差し込まれていく。
リラはわたしの髪に香りと艶のでるオイルを付けながら
『髪飾りなどは危険物になるので着けてはいけないのです』
と言ってさらに生花を細かく編み込んでいった。
瞼に光る粉(アイシャドー)とアイラインを引かれて、大き目だがシンプルなデザインの耳飾りとネックレスを着ける。
わたしの姿をまじまじと見てリラは
「急ごしらえですが…お美しいです。マヤ様」
と満足そうに言って褒めてくれた。
この支度にはいくら事情に疎いわたしでも『これから何かがある』と感じれられる念の入れようだ。
案の定予感は当たった。
しかもかなり悪い方で、ある。
奴隷達が部屋を下がると、リラはわたしにスッと近づいて囁き声で言った。
「陛下がお渡りになられます。
マヤ様…くれぐれも変に抵抗等なさらぬよう…逆らっては駄目です」
「いままで逆らった女人は弄ばれて殺させるか、二度と陽の下で歩けない様な目に遭っています」
と、とても緊張した顔で、わたしにぼそぼそと告げたのだった。
流石に、客間の様なこの部屋では皇帝陛下のお渡りに相応しくないのと、警備にも支障が出らしく、わたしは違う部屋に連れて行かれる事になった。
兵らが通路を先導し、わたしはリラと共にその後に続いた。
皇宮の中をぐるぐると歩かされながら、リラはわたしの横で歩きながら色々な説明をしてくれた。
ぐるぐると皇宮内を歩かされるのは、部屋や道を覚えさせない為らしい。
愛人や側妃として立場が決まっていない女人達(つまり一夜だけの)専用の部屋はいくつかあるらしいが、どこを使うかは直前まで皆には知らされない。
それは暗殺対策の為だという。
「着きました。ここです」
誘導した兵らが白い大きな扉の前で止まってから言った。
扉を控えめにノックすると中からまた兵が顔を覗かせた。
その兵がわたしの身体を不自然な程触るので、思わず眉根を寄せると、リラから注意されてしまった。
「マヤ様、我慢なさってください」
「――いいだろう。王女だけ中に入れ」
「マヤ様。くれぐれも先ほどのわたしの注意を思い出してくださいね」
わたしはリラに向かって頷いた。
心配そうな顔のリラを後にして、扉の中に入った。
すると、湯あみしたばかりなのか水滴を滴らせたガウディ陛下が居た。
長い手足をもて余すように机の前で屈んでいる。
黒髪に顎下の整えられた髭と少し爬虫類を思わせる顔は昼間と同じだ。
だが今は緩い紺色の膝丈のチュニックを着ていてかなりラフな感じだった。
目の前の精巧なミニチュアのアウロニア帝国の領土の模型をじっと睨みながら、
「随分と遅かったな」
と言ってから手で払う仕草で、兵らを扉の向こうに下がらせた。
「…申し訳ありません」
わたしは一礼して謝罪をしたが、ガウディ陛下はこちらの様子を見る事は無かった。
そして模型を見たまま長い指で後ろに設置された大きな寝台を指差して、一言だけ言った。
「横になって足を開け」
********
「――…」
思わず返事もできずに、わたしは固まった。
リラの言葉が頭の中で何度も繰り返される。
『…決して逆らってはいけません』
けれど、言葉が勝手に口から出てしまった。
「わたしは…ニキアスの恋人です」
するとガウディ陛下は
「それが何だ?」
そう言ってから初めて、わたしの方を向いた。
「…あぁ、そうだったか」
少し顎髭を撫でながら首を傾けたかと思うと、何も聞かなかったかの様に
「わかった。そっちで横たわっておけ」
ともう一度単調に繰り返した。
「わたしは――」
次のセリフを言い終える前に、陛下は近くに立て掛けてある剣をスラリと抜いた。
「余は同じ事をいうのが嫌いだ」
そしてその切っ先をわたしの喉元近くにピタリと近づけると、氷の様に冷たく感情の無い声音で言った。
「脱げ。そして股を開け」
*******
わたしは震える手で着せてもらったチュニックを脱ごうとしたが、どうやって脱いだらいいか分からない。
(…どうやって着ていたっけ?)
手間どっている姿を見たガウディ陛下は、無言で剣先を動かした。
(――き、斬られる…!)
そう思った次の瞬間、ガウディ陛下は肩から腕にかけて結んであるリボンを次々に切っ先で引っ掛けた。
ハラッと絹の生地が垂れ下がる。
同じ様に胸の下とウエストに巻いたリボンも剣で切られると、足元にするするとチュニックの生地が落ちて行き溜まった。
胸は露わになり、下を隠す下着一枚になったわたしを、欲望も何も感じていない。
ただ物を見る様に、上から下までガウディ陛下は視線を動かした。
そして首を傾けて無表情のまま言った。
「幼女の様かと思ったら以外に着やせするようだ。ニキアスに可愛がってもらったか?」
夕食を食べて直ぐに、あんなにくだけた様子のリラがとても緊張した様子で、沢山の籠や箱を持つ奴隷を引き連れて、慌ただしく部屋に入って来たからである。
わたしは直ぐに花の香りのする湯で念入りに湯あみをさせられてから、絹の生地を美しいピンク色で染めた足首まである長いチュニックを着させられた。
肩が出るスタイルで肩から腕にかけて紐で結ぶようになっている。
それは、胸の真下と腰の所を絹のリボンでしばると、美しいドレープがでるようなデザインになっていた。
チュニックの両脇には、太股が見えるくらい際どいスリットが入っている。
わたしの蜂蜜色の髪は緩く優雅に編み上げられ白い花が次々に差し込まれていく。
リラはわたしの髪に香りと艶のでるオイルを付けながら
『髪飾りなどは危険物になるので着けてはいけないのです』
と言ってさらに生花を細かく編み込んでいった。
瞼に光る粉(アイシャドー)とアイラインを引かれて、大き目だがシンプルなデザインの耳飾りとネックレスを着ける。
わたしの姿をまじまじと見てリラは
「急ごしらえですが…お美しいです。マヤ様」
と満足そうに言って褒めてくれた。
この支度にはいくら事情に疎いわたしでも『これから何かがある』と感じれられる念の入れようだ。
案の定予感は当たった。
しかもかなり悪い方で、ある。
奴隷達が部屋を下がると、リラはわたしにスッと近づいて囁き声で言った。
「陛下がお渡りになられます。
マヤ様…くれぐれも変に抵抗等なさらぬよう…逆らっては駄目です」
「いままで逆らった女人は弄ばれて殺させるか、二度と陽の下で歩けない様な目に遭っています」
と、とても緊張した顔で、わたしにぼそぼそと告げたのだった。
流石に、客間の様なこの部屋では皇帝陛下のお渡りに相応しくないのと、警備にも支障が出らしく、わたしは違う部屋に連れて行かれる事になった。
兵らが通路を先導し、わたしはリラと共にその後に続いた。
皇宮の中をぐるぐると歩かされながら、リラはわたしの横で歩きながら色々な説明をしてくれた。
ぐるぐると皇宮内を歩かされるのは、部屋や道を覚えさせない為らしい。
愛人や側妃として立場が決まっていない女人達(つまり一夜だけの)専用の部屋はいくつかあるらしいが、どこを使うかは直前まで皆には知らされない。
それは暗殺対策の為だという。
「着きました。ここです」
誘導した兵らが白い大きな扉の前で止まってから言った。
扉を控えめにノックすると中からまた兵が顔を覗かせた。
その兵がわたしの身体を不自然な程触るので、思わず眉根を寄せると、リラから注意されてしまった。
「マヤ様、我慢なさってください」
「――いいだろう。王女だけ中に入れ」
「マヤ様。くれぐれも先ほどのわたしの注意を思い出してくださいね」
わたしはリラに向かって頷いた。
心配そうな顔のリラを後にして、扉の中に入った。
すると、湯あみしたばかりなのか水滴を滴らせたガウディ陛下が居た。
長い手足をもて余すように机の前で屈んでいる。
黒髪に顎下の整えられた髭と少し爬虫類を思わせる顔は昼間と同じだ。
だが今は緩い紺色の膝丈のチュニックを着ていてかなりラフな感じだった。
目の前の精巧なミニチュアのアウロニア帝国の領土の模型をじっと睨みながら、
「随分と遅かったな」
と言ってから手で払う仕草で、兵らを扉の向こうに下がらせた。
「…申し訳ありません」
わたしは一礼して謝罪をしたが、ガウディ陛下はこちらの様子を見る事は無かった。
そして模型を見たまま長い指で後ろに設置された大きな寝台を指差して、一言だけ言った。
「横になって足を開け」
********
「――…」
思わず返事もできずに、わたしは固まった。
リラの言葉が頭の中で何度も繰り返される。
『…決して逆らってはいけません』
けれど、言葉が勝手に口から出てしまった。
「わたしは…ニキアスの恋人です」
するとガウディ陛下は
「それが何だ?」
そう言ってから初めて、わたしの方を向いた。
「…あぁ、そうだったか」
少し顎髭を撫でながら首を傾けたかと思うと、何も聞かなかったかの様に
「わかった。そっちで横たわっておけ」
ともう一度単調に繰り返した。
「わたしは――」
次のセリフを言い終える前に、陛下は近くに立て掛けてある剣をスラリと抜いた。
「余は同じ事をいうのが嫌いだ」
そしてその切っ先をわたしの喉元近くにピタリと近づけると、氷の様に冷たく感情の無い声音で言った。
「脱げ。そして股を開け」
*******
わたしは震える手で着せてもらったチュニックを脱ごうとしたが、どうやって脱いだらいいか分からない。
(…どうやって着ていたっけ?)
手間どっている姿を見たガウディ陛下は、無言で剣先を動かした。
(――き、斬られる…!)
そう思った次の瞬間、ガウディ陛下は肩から腕にかけて結んであるリボンを次々に切っ先で引っ掛けた。
ハラッと絹の生地が垂れ下がる。
同じ様に胸の下とウエストに巻いたリボンも剣で切られると、足元にするするとチュニックの生地が落ちて行き溜まった。
胸は露わになり、下を隠す下着一枚になったわたしを、欲望も何も感じていない。
ただ物を見る様に、上から下までガウディ陛下は視線を動かした。
そして首を傾けて無表情のまま言った。
「幼女の様かと思ったら以外に着やせするようだ。ニキアスに可愛がってもらったか?」
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