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第2章.『vice versa』アウロニア帝国編
15 バアルとの面会 ①
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「いや…恋人を連れて来たわけでは…」
「マヤ王女だろう?…あんなにお互い毛嫌いしていたのに一体どういう訳なんだ」
(――確かに)す
ニキアスは思い返していた。
以前のレダの神殿で彼女の輝きと愛らしさに心惹かれる事があったとはいえ
(ここ数年は全くその感情も消え去っていたというのに)
「…確かに不思議ではありますね」
「成る程、その左目の痣彼女が癒してくれたものなのだな」
「...そこまでお見通しですか」
「レダ神の気配がそこからするからな。レダの巫女はお前の周りには彼女しかいないではないか。
しかし神の治療力まで使えるのは、彼女は普通の預言者ではあるまい」
「いえ、彼女自身はただの預言者だと...」
「お前の眼はそう言ってないぞ。崇拝者のそれだ」
ニキアスが黙ってしまったのを見て、バアルは穏やかに微笑んだ。
「...まあしかし、恋愛とは往々にしてそういうものだろう。理屈で説明出来ない頭の働きが作用する」
「恋愛感情とは『心で感じるもの』ではないのですか?」
「感情も全て脳の動きだ。身体の筋肉を動かす全ての指令と同様に。芸術のルチアダ神辺りは『愛は心で感じるもの』と言いそうだが」
とバアルは話題を変えた。
「ところで何か…不穏な内容の預言をお前は知っているか?」
「いえ。…預言内容は全て預言者が管理して陛下に伝えるものですから」
「ふむ…まあそうだろうが。...しかし今回は非常に稀な内容だ。少しは宮殿内で噂になっているかと思ったが…」
バアルはそのまま考え込んでいた。
*****
そう言えばと、ニキアスは前置きして
「後程マヤがバアル様との面会のお約束がしたいと言っておりました」
「私とか?何故だ?」
バアルは、基本皇宮内の預言者と関り合いに成りたがらない。
預言者としての資質が高くとも富や名声に目が眩み、過去に不要にバアルを貶めようとする輩が何人もいたからである。
「帝国の領土をまわっている方の話がきいてみたい、との事でした」
「そうか...。今回の旅で荒れている彼の国ゼピウスを私は訪れていないが...色々な話を聞きたいのかもしれぬな。了解した。彼女から申し出があれば、その様に取り図っておこう」
「ありがとうございます、バアル様」
ニキアスが部屋を退出する際、扉の前でバアルはニキアスをぐっと抱きしめた。
「ニキアス…私欲私怨に惑わされることなく、自分に必要だと思った道を真っ直ぐ進みなさい。次回いつ会えるか分からないが、いつでもお前にドゥーガ神の加護がある事を祈っている」
「俺もです…バアル。貴方にいつもドゥーガ神の加護があらん事を」
******
廊下を時折振り向きながら歩くニキアスと少年ユリウスを見送りつつバアルはその場で考えていた。
(とりあえずニキアスに異変は無い様だ)
それは安心材料の一つにはなったが、ドゥーガの預言では今後急速に『帝国内での内乱が乱発する』とあった。
その神託内容に各ドゥーガの神殿の話題は持ち切りだった。
『ドゥーガ神』は闘いの神の為、その争いの有無や時期、場所などは大まかに教えてはくれるが、その原因までははっきりとは言及しない。
ましてや
(帝国全土に広がる戦いとなれば、帝国内が荒れるのは避けられない現実となるだろう)
闘いのドゥーガ神の預言者でありながら、この様な賢者紛いの事をしているのは、どの様に戦いが起こるのか、また無用な闘いであればどの様に避けられるのかを常に考えているからである。
(前回の隣国ゼピウスが滅びた時の様に、今回のドゥーガの神託で戦いが止められないという事があってはならぬ)
多くの人民が自分に関係の無い戦いに巻き込まれ、命を落とす事はあってはならないのだ。
そう考えるとバアルはため息を付いて、自室へと踵を返したのだった。
********
「早速ご面会のお約束が取れましたわ」
「…まあ本当?お忙しい方だからもうしばらく後だと思っていたわ」
「さすが…ニキアス様のお口添えもあって、優先的に先に変えて頂けたそうです」
「…そうなの?ありがたいわね」
わたしは見ていた帝国の地図から顔を上げて、リラに返事を返した。
(帝国内を放浪をする預言者…彼ならわたしの問いに答えてくれるかもしれない)
皆既日食はともかくも、わたしは蝗害の情報が欲しかった。
テヌべ川のどこの辺りで起こるものなのか――バアル様の話をきいて、出来れば特定しておきたかったのだ。
「マヤ王女だろう?…あんなにお互い毛嫌いしていたのに一体どういう訳なんだ」
(――確かに)す
ニキアスは思い返していた。
以前のレダの神殿で彼女の輝きと愛らしさに心惹かれる事があったとはいえ
(ここ数年は全くその感情も消え去っていたというのに)
「…確かに不思議ではありますね」
「成る程、その左目の痣彼女が癒してくれたものなのだな」
「...そこまでお見通しですか」
「レダ神の気配がそこからするからな。レダの巫女はお前の周りには彼女しかいないではないか。
しかし神の治療力まで使えるのは、彼女は普通の預言者ではあるまい」
「いえ、彼女自身はただの預言者だと...」
「お前の眼はそう言ってないぞ。崇拝者のそれだ」
ニキアスが黙ってしまったのを見て、バアルは穏やかに微笑んだ。
「...まあしかし、恋愛とは往々にしてそういうものだろう。理屈で説明出来ない頭の働きが作用する」
「恋愛感情とは『心で感じるもの』ではないのですか?」
「感情も全て脳の動きだ。身体の筋肉を動かす全ての指令と同様に。芸術のルチアダ神辺りは『愛は心で感じるもの』と言いそうだが」
とバアルは話題を変えた。
「ところで何か…不穏な内容の預言をお前は知っているか?」
「いえ。…預言内容は全て預言者が管理して陛下に伝えるものですから」
「ふむ…まあそうだろうが。...しかし今回は非常に稀な内容だ。少しは宮殿内で噂になっているかと思ったが…」
バアルはそのまま考え込んでいた。
*****
そう言えばと、ニキアスは前置きして
「後程マヤがバアル様との面会のお約束がしたいと言っておりました」
「私とか?何故だ?」
バアルは、基本皇宮内の預言者と関り合いに成りたがらない。
預言者としての資質が高くとも富や名声に目が眩み、過去に不要にバアルを貶めようとする輩が何人もいたからである。
「帝国の領土をまわっている方の話がきいてみたい、との事でした」
「そうか...。今回の旅で荒れている彼の国ゼピウスを私は訪れていないが...色々な話を聞きたいのかもしれぬな。了解した。彼女から申し出があれば、その様に取り図っておこう」
「ありがとうございます、バアル様」
ニキアスが部屋を退出する際、扉の前でバアルはニキアスをぐっと抱きしめた。
「ニキアス…私欲私怨に惑わされることなく、自分に必要だと思った道を真っ直ぐ進みなさい。次回いつ会えるか分からないが、いつでもお前にドゥーガ神の加護がある事を祈っている」
「俺もです…バアル。貴方にいつもドゥーガ神の加護があらん事を」
******
廊下を時折振り向きながら歩くニキアスと少年ユリウスを見送りつつバアルはその場で考えていた。
(とりあえずニキアスに異変は無い様だ)
それは安心材料の一つにはなったが、ドゥーガの預言では今後急速に『帝国内での内乱が乱発する』とあった。
その神託内容に各ドゥーガの神殿の話題は持ち切りだった。
『ドゥーガ神』は闘いの神の為、その争いの有無や時期、場所などは大まかに教えてはくれるが、その原因までははっきりとは言及しない。
ましてや
(帝国全土に広がる戦いとなれば、帝国内が荒れるのは避けられない現実となるだろう)
闘いのドゥーガ神の預言者でありながら、この様な賢者紛いの事をしているのは、どの様に戦いが起こるのか、また無用な闘いであればどの様に避けられるのかを常に考えているからである。
(前回の隣国ゼピウスが滅びた時の様に、今回のドゥーガの神託で戦いが止められないという事があってはならぬ)
多くの人民が自分に関係の無い戦いに巻き込まれ、命を落とす事はあってはならないのだ。
そう考えるとバアルはため息を付いて、自室へと踵を返したのだった。
********
「早速ご面会のお約束が取れましたわ」
「…まあ本当?お忙しい方だからもうしばらく後だと思っていたわ」
「さすが…ニキアス様のお口添えもあって、優先的に先に変えて頂けたそうです」
「…そうなの?ありがたいわね」
わたしは見ていた帝国の地図から顔を上げて、リラに返事を返した。
(帝国内を放浪をする預言者…彼ならわたしの問いに答えてくれるかもしれない)
皆既日食はともかくも、わたしは蝗害の情報が欲しかった。
テヌべ川のどこの辺りで起こるものなのか――バアル様の話をきいて、出来れば特定しておきたかったのだ。
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