130 / 138
第2章.『vice versa』アウロニア帝国編
43 元老院会議 ①
しおりを挟む
「ふん…提案と言ってもな」
相変わらずドロレス執政官は
(女狐のいう事は信用ならない)
と言いたげな渋い表情をしている。
ドロレスがこの話題に上手く興味を持ってくれたらいいんだけれど。
(何か無いかしら…)
懸命に考えるとふと思い付いたことが一つあった。
若干? …いや、かなり陳腐かつ無理矢理的な内容だったけれど。
それは
(昔の日本の神話になぞらえたのはどうかしら)
というものだ。
この小説の世界の中では、まだ自然現象が『神々の仕業』と考えている人がたくさんいるのは事実だ。
それを利用してみるのはどうだろうか…。
わたしが以前いた世界には何と云っても、有名な――あの天の岩戸に神様が隠れてしまったという神話があるではないか。
(――確か『天の岩戸伝説』よね)
世を照らすアマテラスの神は、弟スサノヲの神の乱暴に怒ってとうとう天岩戸に引き籠ってしまった。
その為世界は暗闇に包まれて災いが起きた。
それを何とかする為神々が集まって、岩戸のまわりでどんちゃん騒ぎをし、それが新しい神が来たお祝いだと伝えられたアマテラス神が気になって覗いたところを引っ張って、外へと連れ出した。
するとやっと世界に光が戻った――という伝説である。
陛下にアマテラスを岩戸から引っ張り出す役――天手力雄神をやってもらうのだ。
「…いっその事『ガウディ陛下のお力で隠れた太陽を暗闇から引っ張り出す』というストーリを付けても良いかもしれません」
とわたしは言った。
「はあ? 何なのだ。そのバカバカしい設定は…」
流石にドロレス執政官は半ば呆れた様に言い返した。
しかしそれを聞いたアポロニウスは
「いや、でも…それを完全に見世物として見せるなら、面白い志向だと思いますけれどね」
とわたしの言葉に小さく呟いた。
「確かに陛下の御威光が高くなりそうではある。しかしメサダ神の怒りは買わないだろうか…」
何故かクイントス=ドルシラもわたしの意見に反対しなかったが、理論派で現実的な彼でも『神』に対して畏怖の念は強いらしい。
(それだけこの世界での神様の存在が大きいのだわ)
という事はわたしにも理解は出来た。
わたしはその様子を横目で見ながら
「お願いします。これが上手くいけば単なる『皆既日食』の予告だけでなく、『太陽すら動かせるアウロニア皇帝』として今まで以上に陛下の御高名を帝国全土に知らしめる事が出来るかもしれません。そうすれば自然にドロレス様のお力もより強くなのでは?」
『~ドロレス様のお力もより強くなる』の件で、ドロレスの眉が意外に大きくピクリと動いたのを、わたしは見逃さなかった。
「アウロニア帝国の更なる安定を目指す…とドロレス様がお考えになるなら、せめて一度元老院会議にかけてみていただけませんか?
どうぞご検討をお願いいたします」
ここぞとばかりわたしはドロレスへ畳み掛けてお願いをした。
わたしの言葉を聞いてドロレスは、渋い顔のまま棒立ちで考えていた。
*****
どれくらい時間が経ったのだろうか。
暫くしてからドロレスは口を開いた。
「…まあ会議に掛ける程度ならよかろう。結果は分からぬがな」
「本当ですか!?」
「ただ会議中は、第三評議会員はともかくレダ神の預言者殿には部屋の外に出て頂く」
ドロレスもこれは譲れないといった口調だ。
「え…」
(立ち合っては駄目なの…?)
思わず後ろに立つニキアスを見上げた。
わたしを見下ろすニキアスは、無言のままで表情は変わらなかったが、わたしの肩に置いた手に力が入ったのが分かった。
「……分かりました。宜しくお願いします」
前を向いたわたしは、ドロレスへと頷いた。
*******
会議の行方が気になり、議会堂の扉の側で立っていたわたしの耳には参加する議員等の話し声や時折怒鳴り声――そして木槌を激しく叩く乾いた音が聞こえてきた。
一時間程リラとその場に留まって終わるのを待っていたけれど、思っていたよりも大分白熱したものになっているらしく全く終わる様子が見えない。
会議の行方が気になるのはもちろんの事だけど
(このまま、またニキアスと会えなくなってしまう…)
わたしはウロウロと歩き回っていた。
するとその様子を見ていた衛兵が苦笑しながらわたしへと言った。
「会議が終わる迄あと数時間、いや半日程かかる可能性もあります。
そうなれば、会議自体がまた後日に持ち越されるかもしれませんから、どうぞお部屋にお戻りください」
「え…半日もかかるのですか!?」
そう云われてしまうと、半日ここでずっと粘るわけにもいかない。
(それに…ここで待っているのをドロレス執政官に見つかるのは、大分心証が悪いかもしれないわ)
それに付け加えてリラが
「父も議会に参加している筈ですから、それとなく聞き出して見ますわ」
と気遣ってくれて
(せっかくニキアスに会えたのに…)
せめてもう少しゆっくり話をしたかったのだけれど…と思いつつも。
結局わたしはスゴスゴとその場を退散せざるを得なくなってしまった。
相変わらずドロレス執政官は
(女狐のいう事は信用ならない)
と言いたげな渋い表情をしている。
ドロレスがこの話題に上手く興味を持ってくれたらいいんだけれど。
(何か無いかしら…)
懸命に考えるとふと思い付いたことが一つあった。
若干? …いや、かなり陳腐かつ無理矢理的な内容だったけれど。
それは
(昔の日本の神話になぞらえたのはどうかしら)
というものだ。
この小説の世界の中では、まだ自然現象が『神々の仕業』と考えている人がたくさんいるのは事実だ。
それを利用してみるのはどうだろうか…。
わたしが以前いた世界には何と云っても、有名な――あの天の岩戸に神様が隠れてしまったという神話があるではないか。
(――確か『天の岩戸伝説』よね)
世を照らすアマテラスの神は、弟スサノヲの神の乱暴に怒ってとうとう天岩戸に引き籠ってしまった。
その為世界は暗闇に包まれて災いが起きた。
それを何とかする為神々が集まって、岩戸のまわりでどんちゃん騒ぎをし、それが新しい神が来たお祝いだと伝えられたアマテラス神が気になって覗いたところを引っ張って、外へと連れ出した。
するとやっと世界に光が戻った――という伝説である。
陛下にアマテラスを岩戸から引っ張り出す役――天手力雄神をやってもらうのだ。
「…いっその事『ガウディ陛下のお力で隠れた太陽を暗闇から引っ張り出す』というストーリを付けても良いかもしれません」
とわたしは言った。
「はあ? 何なのだ。そのバカバカしい設定は…」
流石にドロレス執政官は半ば呆れた様に言い返した。
しかしそれを聞いたアポロニウスは
「いや、でも…それを完全に見世物として見せるなら、面白い志向だと思いますけれどね」
とわたしの言葉に小さく呟いた。
「確かに陛下の御威光が高くなりそうではある。しかしメサダ神の怒りは買わないだろうか…」
何故かクイントス=ドルシラもわたしの意見に反対しなかったが、理論派で現実的な彼でも『神』に対して畏怖の念は強いらしい。
(それだけこの世界での神様の存在が大きいのだわ)
という事はわたしにも理解は出来た。
わたしはその様子を横目で見ながら
「お願いします。これが上手くいけば単なる『皆既日食』の予告だけでなく、『太陽すら動かせるアウロニア皇帝』として今まで以上に陛下の御高名を帝国全土に知らしめる事が出来るかもしれません。そうすれば自然にドロレス様のお力もより強くなのでは?」
『~ドロレス様のお力もより強くなる』の件で、ドロレスの眉が意外に大きくピクリと動いたのを、わたしは見逃さなかった。
「アウロニア帝国の更なる安定を目指す…とドロレス様がお考えになるなら、せめて一度元老院会議にかけてみていただけませんか?
どうぞご検討をお願いいたします」
ここぞとばかりわたしはドロレスへ畳み掛けてお願いをした。
わたしの言葉を聞いてドロレスは、渋い顔のまま棒立ちで考えていた。
*****
どれくらい時間が経ったのだろうか。
暫くしてからドロレスは口を開いた。
「…まあ会議に掛ける程度ならよかろう。結果は分からぬがな」
「本当ですか!?」
「ただ会議中は、第三評議会員はともかくレダ神の預言者殿には部屋の外に出て頂く」
ドロレスもこれは譲れないといった口調だ。
「え…」
(立ち合っては駄目なの…?)
思わず後ろに立つニキアスを見上げた。
わたしを見下ろすニキアスは、無言のままで表情は変わらなかったが、わたしの肩に置いた手に力が入ったのが分かった。
「……分かりました。宜しくお願いします」
前を向いたわたしは、ドロレスへと頷いた。
*******
会議の行方が気になり、議会堂の扉の側で立っていたわたしの耳には参加する議員等の話し声や時折怒鳴り声――そして木槌を激しく叩く乾いた音が聞こえてきた。
一時間程リラとその場に留まって終わるのを待っていたけれど、思っていたよりも大分白熱したものになっているらしく全く終わる様子が見えない。
会議の行方が気になるのはもちろんの事だけど
(このまま、またニキアスと会えなくなってしまう…)
わたしはウロウロと歩き回っていた。
するとその様子を見ていた衛兵が苦笑しながらわたしへと言った。
「会議が終わる迄あと数時間、いや半日程かかる可能性もあります。
そうなれば、会議自体がまた後日に持ち越されるかもしれませんから、どうぞお部屋にお戻りください」
「え…半日もかかるのですか!?」
そう云われてしまうと、半日ここでずっと粘るわけにもいかない。
(それに…ここで待っているのをドロレス執政官に見つかるのは、大分心証が悪いかもしれないわ)
それに付け加えてリラが
「父も議会に参加している筈ですから、それとなく聞き出して見ますわ」
と気遣ってくれて
(せっかくニキアスに会えたのに…)
せめてもう少しゆっくり話をしたかったのだけれど…と思いつつも。
結局わたしはスゴスゴとその場を退散せざるを得なくなってしまった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる