嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される

花月

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第2章.『vice versa』アウロニア帝国編

44 元老院会議 ②

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そう簡単にはテンポ良く元老院の会議は進まなかった。

ニキアスは、椅子から立ち上がって各々討論に沸き立つ議員等を冷静な面持ちで見つめていた。

(…まあ、それはそうなるだろうな)

実際にメサダ神信者の議員も少なくない中、レダ神の預言者マヤ王女の提案した内容がスムーズに通る筈も無い。

信者でなくとも、メサダ神の怒りを恐れて、『ガウディ皇帝が暗闇から太陽を再び出現させた』などの案を安易に採用する事を躊躇う議員は多数いた。

しかしそんな白熱した議論の中で、ニキアス=レオス将軍は終始『皆既日食を如何に皆に冷静に説明し、民が恐れない様に対応すべきか』の立場スタンスで意見を提案し続けた。

つまり普通に『皆既日食を現象』として対応しようという事なのであるが、意外にこちらは
(最初にマヤ王女が提案した策が突飛過ぎたせいか)
他の議員に割りとすんなり受け入れられそうだった。

そして、今までに無くアウロニア帝国の政治に関わろうとするニキアス将軍の姿勢を見た議員の多くは、驚いていた。

弁が立ち、堂々と自身の意見を述べる姿は『流石ガウディ陛下の弟君か』と一部の議員から囁く声が聞こえた程である。

その姿を見たドロレス執政官は面白く思う筈も無く、裏では何度も舌打ちをする姿があったのだった。


 *********


ニキアスは『皆既日食』を『直ぐに終わる天体のショー』として皆に受け入れてもらう案を意見として出して進めて行った。

それが一番簡潔だったからである。

分かりやすい方が民衆に受け入れやすいのが世の常である。

「確かに…天文学的に計算のできるものならば、国民の皆に納得をしてもらうのは可能かもしれん」

一人の元老院議員がそう言い出すと、皆既日食が『凶兆の印』だと認めたくない者達の多くが、こぞってニキアスの支持をし始めた。

神々の名を大ぴらに出し、人間であるガウディ皇帝が、直接それに関わるのは無理があるし憚られるという意見が大多数だ。

しかし、ただの『空で起こる説明のできる見世物』として受け入れてもらうのは実際ずっと平和的でもあった。

(マヤが最初に難しい内容を提案してくれたお陰で助かった…)

会議の冒頭で、最初にレダ神の預言者の意見としてマヤの言っていた内容の提案はしてみたものの反応は微妙であった。

(ニキアスは大人しく聞いていたが)
マヤの話を聞いていた時点で、正直ガウディが太陽を引っ張りだす云々の件になると、元老院の議会で通すのは難しいと解っていた。

マヤ自身が発する意見が革新的過ぎて、頭の固い元老院の議員の多くが受け入れられ無いだろうと予測できてもいた。

ニキアスにも不思議なのだが、何故か余りにもマヤ自身の『神への敬い』が、一般の人々――自分も含めて、違い過ぎていると感じる。

彼女自身がレダ神の預言者であり、誰より神の存在に近い人間である筈なのに。

ニキアスが思い出す小さな頃の彼女は、レダの神殿で常に膝まずいては、レダ神へと祈っていた。

(彼女が幼かった頃には神を崇める姿を多く目撃したものだが…)

いつからこんな風に――神々に対する恐れや敬う気持ちが見られなくなってしまったのだろうか。

確かゼピウス国の落城の時に『以前の記憶が無くなった』とは言っていたものの、自らの信仰心すら吹っ飛んでしまうものなのか。

(人間は常に神に寄り添って生きるべきだ)

実際ニキアスは出奔してからそうやって生きてきた。
そのお陰で、闘神ドゥーガの加護を纏えるようになったのだから。

(マヤを愛しく思う気持ちとは、別問題として考えなければならない)

それとこれとは――別物だと解っている。

しかし、喉の奥に引っかかって取れなくなってしまった小骨の様に、何故かそれだけニキアスは気になって仕方がなかった。

 *******


それから数日後の事だった。

起床したわたしの身支度をリラが手伝ってくれている時に、小声で耳打ちをしたのだった。

「元老院会議がやっと終わったそうですわ」

リラの父親が『昨日会議が終わった』とリラにこっそりと教えてくれたそうだ。

「そうなの?」
(随分長くかかったのね…)

わたしはリラに尋ねた。
「…結局会議の結果はどうなったのかしら?」

「そこまでは父は流石に教えてくれませんでした」
リラはわたしへ申し訳なさそうに答えたが、

「今日の午後に会議の結果を受けて、アポロニウス様と今回の件で意見を聞きたいと云う元老院議員の方がいらっしゃいますので、そのお方にお訊ききになってみてはいかがですか?」

(この間全て伝えたつもりだったのだけれど…)
「意見を…? 一体なにかしら」

「それはわたしには分りかねますが、この件の責任者の方が直々にお話を伺いたいと申しておりました」
「そう…分かったわ」

わたしは頷いたが、
「お昼は早めに頂いてお客様が来る準備をしましょうね」
何故だかリラはウキウキした様子で言っていた。
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