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3 吸血少年侯爵ダニエル=モルゴール
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「着きました。奥様…モルゴール侯爵邸です」
「…あ、ありがとう…」
御者に手を取られて、痛む腰と重い身体を揺らしてタラップを降りれば、丸い月に照らされた大きく立派な城がそびえ立っている。
(ああ…良かった)
なんとなく吸血侯爵の住むお城と言われていたからか、もっとおどろおどろしい雰囲気のあるものだと勝手に勘違いをしていたのだ。
篝火も明々と炊かれ、『吸血侯爵の棺桶』と異名を取る城と聞いていた割には、月が照らすシルエットは、ごく普通な城と同じだ。
+++++
「ああ、良かった(噂で聞いていたガーゴイルも竜も飛んで無いし)…ああ良かった」
「…何が良かったんだい?」
声のする斜め下を見ると10歳位のすらりとした少年が立っている。
その少年の髪の毛は黒と銀髪にぱっきり分かれ、瞳は真っ赤だった。
顔の造作は驚く程整っていて、もうすでに 『将来はツンな美青年です』の太鼓判を押されている感じだ。
(わあ…!可愛い男の子…)
「ええと…??」
多分わたしはきょどりながらも、大きな『?』を付けて少年の顔を見ていたに違いない。
「こ、こんにちは…貴方…?」
どうしてこんなところに男の子がいるんだろう。
侯爵閣下の弟君、とかかしら...?
でも見た目はすっごく好みではある。
わたしの愛読する、おねショタ小説に出てくる小悪魔系男子――『ラインハルト』に雰囲気がばっちりと似ているのだ。
少年は優雅に膝を折り曲げ一礼してから、少年特有の可愛らしい声で、わたしへ言った。
「初めまして。僕はダニエル=モルゴール侯爵です。以後、君の夫になるのでどうぞお見知りおきを」
「ふぁ!?」
その時わたしは多分『ひえ』とか『ふあ』みたいなおかしな声を上げていたと思う。
(……嘘でしょう!?)
どう見ても…少年の姿ではないの。
これはちょっと、モンダイになるのではないこと?
嫁ぎ遅れの22歳のわたしには『夫』と言うのに流石に年齢的にえぐいんですけれど。
夫が約半分のお年になってしまうではないか。
(『おねショタ』小説はね、別に良いのよ。小説だから。ヒロインは16歳の女の子だし)
それに、一応戦場にも出た筈の侯爵閣下なのよね?
この姿で戦場で戦って、敵を殲滅して回ったって事?
それもかなりエグイわ。
とまで呆然と考えていたら『ラインハルト』は可愛らしく小首を傾げて
「…大丈夫ですか?」
とわたしを見上げて尋ねた。
+++++
「あ、は、初めまして…あの、キャロライン=イーデンですわ。宜しくお願いいたします」
慌ててカーテシ―をして、わたしはチラリと自分の目線の下にいる少年を見た。
「まあ…そういう反応になるのは分かってました」
少年――ダニエル=モルゴール侯爵閣下はにっこりと笑った。
侯爵閣下は、そのまま絶句して言葉も出ないわたしを、上から下まで目で確認する様にわたしを見つめた。
「ふむふむ…ほう、ほう…?」
値踏みをする様なその視線に
(もしや…『餌適正』をご確認されているのかしら?)
とわたしはすぐに疑った。
「ハティ、彼女の荷物を運びこんでくれ」
するとモルゴール侯爵閣下は、そこにいたのかと思う位闇に溶け込んでいた真っ黒い肌の執事に、わたしの少ない荷物を運ばせる様に伝えた。
「…驚くのも当然ですよね。この姿については、後ほど説明します」
モルゴール侯爵閣下はスマートに『こちらへどうぞ』とわたしを城の入口へと誘導すると、そのまま城の中を直々に案内をしてくれた。
外壁は火を焚いて明るかったのに、反対に城の中は薄暗かった。
西洋甲冑の並ぶ姿に影が濃く落ちて、今にも動き出しそうだ。
そして城の中はやけに天井が高い造りだった。
白い漆喰塗りのドーム状の天井に梁と蝋燭の光が怪しく揺れながら影を刻んでる。
お陰で何か黒いモノがスッと通り過ぎる度に『羽のついた怪物が飛んでいるんじゃないか』とびくびくしてしまう。
怯えるわたしの様子を見たモルゴール侯爵閣下は、ときどきクスっと可笑しそうに笑っている。
「実は今すぐにでも健康な生気を分けて頂きたいのですが…」
モルゴール侯爵…少年閣下は、またチェックする様にわたしの頭から足元まで見ると
「…どうやら貴女は今とても…ええと、不健康のかたまりの様です」
(んん?…子豚だから、という事?)
「あの…『不健康』だと何か問題でも…」
恐る恐るわたしが尋ねると少年は美しい顔に妖しい笑みを浮かべた。
「問題…ありますね。そんな生気では、僕の吸血鬼化が進んでしまいますから」
そこでモルゴール侯爵閣下は髪の毛をさらりと降って、わたしにその髪の分け目を見せてくれた。
「見て下さい。僕の髪は元々全て黒髪なのです。
先の国境での戦闘で、僕はかなり自分の身体に負担をかけて戦いました。
そのため、現地で十分な生気を吸う事が出来ず、自分の中の生気の枯渇化が進み…これ、このように銀髪になるという不名誉な吸血鬼化が進んでしまったのです」
たしかに見れば侯爵閣下の髪の毛は黒髪と銀髪のぱっくりとツートーンに分かれている。
「そしてこれは吸血鬼の性ですが、僕の吸血鬼化が進んだ状態で、吸血し続けると、相手が望んだ状態でなくとも…僕に『従属させる』様な心の作用が発生してしまう。
それを不特定多数の女性の方にするのは、非常によろしくない事になりますので…」
モルゴール侯爵閣下は口元にちらりと伸びた牙の様な歯を見せてわたしを見上げてにっこりとした。
「それならいっそ…妻に成る方にお願いしようと思っておりました」
「妻?…」
わたしは自分の頭の中で侯爵閣下の話を整理して考えた。
(『妻』と云うか、もうそれは『食事』になるのよね)
まあ、それでも確かに…妻なら従属って形になっても問題ないのか?
妙に納得しそうになってが慌てて考え直した。
(いや――そもそも『従属』ってのが、よろしくないんじゃないの?)
+++++
(…って、待って、待って?)
それ、わたしの事になるのではないの?
じゃあわたしはやっぱり侯爵閣下に生気をちゅーちゅーと吸われるって事?に成るのだろうか。
わたしはなんとなく蚊の様に、自分に小さなストローを指して生気を吸う少年の侯爵閣下を想像してしまった。
いくら『ラインハルト』そのままのわたし好みの少年でも、ただ『餌』として食べられるって…。
わたしの人生って...一体何だったんだろう。
(不幸体質にも程があるわ…)
実のお母様には捨てられ、レティシアに日々こき使われ、実の父には『餌』代わりに少年侯爵に嫁がされる顛末――。
(人生ってほんと何なのかしらね…)
としみじみ思いつつ、先をとことこと歩く侯爵閣下の背中の後を付いて行く。
そのまま少年侯爵閣下は、城の造りや部屋も丁寧に説明して案内してくれた。
そして可愛らしい装飾がしてある真っ白い扉の前でぴたりと止まった。
「とりあえず、君の部屋はここです。今夜はここで良く休んでください。君の荷物も追って運ばせます」
「…あ、ありがとう…」
御者に手を取られて、痛む腰と重い身体を揺らしてタラップを降りれば、丸い月に照らされた大きく立派な城がそびえ立っている。
(ああ…良かった)
なんとなく吸血侯爵の住むお城と言われていたからか、もっとおどろおどろしい雰囲気のあるものだと勝手に勘違いをしていたのだ。
篝火も明々と炊かれ、『吸血侯爵の棺桶』と異名を取る城と聞いていた割には、月が照らすシルエットは、ごく普通な城と同じだ。
+++++
「ああ、良かった(噂で聞いていたガーゴイルも竜も飛んで無いし)…ああ良かった」
「…何が良かったんだい?」
声のする斜め下を見ると10歳位のすらりとした少年が立っている。
その少年の髪の毛は黒と銀髪にぱっきり分かれ、瞳は真っ赤だった。
顔の造作は驚く程整っていて、もうすでに 『将来はツンな美青年です』の太鼓判を押されている感じだ。
(わあ…!可愛い男の子…)
「ええと…??」
多分わたしはきょどりながらも、大きな『?』を付けて少年の顔を見ていたに違いない。
「こ、こんにちは…貴方…?」
どうしてこんなところに男の子がいるんだろう。
侯爵閣下の弟君、とかかしら...?
でも見た目はすっごく好みではある。
わたしの愛読する、おねショタ小説に出てくる小悪魔系男子――『ラインハルト』に雰囲気がばっちりと似ているのだ。
少年は優雅に膝を折り曲げ一礼してから、少年特有の可愛らしい声で、わたしへ言った。
「初めまして。僕はダニエル=モルゴール侯爵です。以後、君の夫になるのでどうぞお見知りおきを」
「ふぁ!?」
その時わたしは多分『ひえ』とか『ふあ』みたいなおかしな声を上げていたと思う。
(……嘘でしょう!?)
どう見ても…少年の姿ではないの。
これはちょっと、モンダイになるのではないこと?
嫁ぎ遅れの22歳のわたしには『夫』と言うのに流石に年齢的にえぐいんですけれど。
夫が約半分のお年になってしまうではないか。
(『おねショタ』小説はね、別に良いのよ。小説だから。ヒロインは16歳の女の子だし)
それに、一応戦場にも出た筈の侯爵閣下なのよね?
この姿で戦場で戦って、敵を殲滅して回ったって事?
それもかなりエグイわ。
とまで呆然と考えていたら『ラインハルト』は可愛らしく小首を傾げて
「…大丈夫ですか?」
とわたしを見上げて尋ねた。
+++++
「あ、は、初めまして…あの、キャロライン=イーデンですわ。宜しくお願いいたします」
慌ててカーテシ―をして、わたしはチラリと自分の目線の下にいる少年を見た。
「まあ…そういう反応になるのは分かってました」
少年――ダニエル=モルゴール侯爵閣下はにっこりと笑った。
侯爵閣下は、そのまま絶句して言葉も出ないわたしを、上から下まで目で確認する様にわたしを見つめた。
「ふむふむ…ほう、ほう…?」
値踏みをする様なその視線に
(もしや…『餌適正』をご確認されているのかしら?)
とわたしはすぐに疑った。
「ハティ、彼女の荷物を運びこんでくれ」
するとモルゴール侯爵閣下は、そこにいたのかと思う位闇に溶け込んでいた真っ黒い肌の執事に、わたしの少ない荷物を運ばせる様に伝えた。
「…驚くのも当然ですよね。この姿については、後ほど説明します」
モルゴール侯爵閣下はスマートに『こちらへどうぞ』とわたしを城の入口へと誘導すると、そのまま城の中を直々に案内をしてくれた。
外壁は火を焚いて明るかったのに、反対に城の中は薄暗かった。
西洋甲冑の並ぶ姿に影が濃く落ちて、今にも動き出しそうだ。
そして城の中はやけに天井が高い造りだった。
白い漆喰塗りのドーム状の天井に梁と蝋燭の光が怪しく揺れながら影を刻んでる。
お陰で何か黒いモノがスッと通り過ぎる度に『羽のついた怪物が飛んでいるんじゃないか』とびくびくしてしまう。
怯えるわたしの様子を見たモルゴール侯爵閣下は、ときどきクスっと可笑しそうに笑っている。
「実は今すぐにでも健康な生気を分けて頂きたいのですが…」
モルゴール侯爵…少年閣下は、またチェックする様にわたしの頭から足元まで見ると
「…どうやら貴女は今とても…ええと、不健康のかたまりの様です」
(んん?…子豚だから、という事?)
「あの…『不健康』だと何か問題でも…」
恐る恐るわたしが尋ねると少年は美しい顔に妖しい笑みを浮かべた。
「問題…ありますね。そんな生気では、僕の吸血鬼化が進んでしまいますから」
そこでモルゴール侯爵閣下は髪の毛をさらりと降って、わたしにその髪の分け目を見せてくれた。
「見て下さい。僕の髪は元々全て黒髪なのです。
先の国境での戦闘で、僕はかなり自分の身体に負担をかけて戦いました。
そのため、現地で十分な生気を吸う事が出来ず、自分の中の生気の枯渇化が進み…これ、このように銀髪になるという不名誉な吸血鬼化が進んでしまったのです」
たしかに見れば侯爵閣下の髪の毛は黒髪と銀髪のぱっくりとツートーンに分かれている。
「そしてこれは吸血鬼の性ですが、僕の吸血鬼化が進んだ状態で、吸血し続けると、相手が望んだ状態でなくとも…僕に『従属させる』様な心の作用が発生してしまう。
それを不特定多数の女性の方にするのは、非常によろしくない事になりますので…」
モルゴール侯爵閣下は口元にちらりと伸びた牙の様な歯を見せてわたしを見上げてにっこりとした。
「それならいっそ…妻に成る方にお願いしようと思っておりました」
「妻?…」
わたしは自分の頭の中で侯爵閣下の話を整理して考えた。
(『妻』と云うか、もうそれは『食事』になるのよね)
まあ、それでも確かに…妻なら従属って形になっても問題ないのか?
妙に納得しそうになってが慌てて考え直した。
(いや――そもそも『従属』ってのが、よろしくないんじゃないの?)
+++++
(…って、待って、待って?)
それ、わたしの事になるのではないの?
じゃあわたしはやっぱり侯爵閣下に生気をちゅーちゅーと吸われるって事?に成るのだろうか。
わたしはなんとなく蚊の様に、自分に小さなストローを指して生気を吸う少年の侯爵閣下を想像してしまった。
いくら『ラインハルト』そのままのわたし好みの少年でも、ただ『餌』として食べられるって…。
わたしの人生って...一体何だったんだろう。
(不幸体質にも程があるわ…)
実のお母様には捨てられ、レティシアに日々こき使われ、実の父には『餌』代わりに少年侯爵に嫁がされる顛末――。
(人生ってほんと何なのかしらね…)
としみじみ思いつつ、先をとことこと歩く侯爵閣下の背中の後を付いて行く。
そのまま少年侯爵閣下は、城の造りや部屋も丁寧に説明して案内してくれた。
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