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4 まさかがっつく訳が無い
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わたしは驚いて思わず質問してしまった。
「え…?わたし個人のお部屋をいただけるのですか?まさかこのまま休ませて頂けるのですか?」
「当然です。まさか流石に今夜僕がいきなりがっついて、花嫁の寝所に行く訳がないでしょう」
さも心外と言った顔をした侯爵閣下はにっこりと笑った。
「それに…まさか僕のこの風体で、本当に君の夫の義務が果たせるとは思っていませんよね?」
「えっ…ええと、それは…」
『ノーコメントでお願いします』とわたしは曖昧に返答した。
(『夫の義務』って…何なの?)
まさに生気を吸う事ではないのか。
「僕のこの姿ですが、成人の姿は生気の枯渇化が更に進むので、今は消費が少なくて済む姿になっているだけですから。生気を吸えれば、きちんとした姿に戻ります」
「はあ…」
(それって省エネって事かしら)
食べられないなら、むしろ一生その姿でいていただきたいのだけれど。
侯爵閣下はまたもにっこりと笑ってわたしへと言った。
「なので――早く健康体になって僕に協力して頂けると確かります。キャロライン=イーデン伯爵令嬢」
+++++
「すごい…さすが侯爵家…。わあ、可愛い」
案内して頂いた部屋は、女性らしい内装の広い部屋だった。
わたしが今まで宛がって貰った部屋とは段違いだ。
やはり侯爵家というか、置いてある調度品もとても高級感ある作りで品が良く、おまけにベッドはふかふかの高級品だった。
ガウンやナイトドレス完備の心配りも嬉しい。
(一応『餌』ではなくて『奥様』として迎えられたと思っていいのかな?)
と一瞬勘違いしてしまいそうな待遇ではある。
ここ数年レティシアのお世話関係(ほとんど侍女だ)と、古びたベッドのマットレスのおかげで熟睡出来なかったわたしは、喜んで用意して頂いたナイトドレスに着替えた。
愛読中のショタの小説もぬかりなく枕元に置いておく。
早速素晴らしい手触りのシーツの間に身体を横たえたのはいいが、さっきの侯爵閣下の話しを思い出すと、なかなかわたしに眠りは訪れなかった。
仕方なく小説の大好きな場面――小悪魔系少年ラインハルトが、美少女ヒロインにツンデレで愛を伝える場面を『ぐふふ』と読んでリラックスする事にした。
「ああ、やっぱショタは健康に良いわ」
読み終えて、そう呟いたわたしは、ベッドに横になったままため息をついた。
そのまままんじりともせず上を向いて考える。
(やっぱり、ただ…このまま食べられるを待つのは、嫌だな)
自分が不幸体質だと知られたら、あの侯爵閣下はどう思うだろう。
そのまま実家に戻される可能性もある。
そしたら、レティシアにまた散々なじられる未来は見えている。
あの家にまた戻らなくてはいけないのかと思うと、『本当にこのまま逃げちゃおうかな』と不埒な考えが頭をよぎる。
(別にもうレティシアやお父様やお義母様に義理だてしなくていい気がするしなぁ。隙を見て…うん、それも有りだな)
そう考えると、大分気持ちが楽になったわたしは小説を胸に抱いたまま秒で眠りに落ちて。
そしてそのまま朝まですっかり爆睡してしまった。
+++++
鳥の声が聞こえる清々しい朝、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「ふぁーい…」
わたしが返事をしながらのそのそと寝返りをうっていると、ガチャリとドアが開く音がした。
「――失礼します、キャロライン様」
メイドが二人同時に入ってきたので、わたしは驚いて起き上がった。
金色の瞳で、黒い髪をハーフアップにした双子の様に丸っきりそっくりな侍女服姿の女の子が、びっくりして固まったままのわたしの前に、並んで立っていた。
「あ、あの?…何ですか?」
「おはようございます、キャロライン様。わたくし今日から部屋付きの侍女となります、メルと申します」
「わたくしも同じくキャロライン様の部屋付きとなるメロと申します」
普通の女の子…と思いきや、良く見ると彼女達の眼が…普通じゃなかった。
瞳の虹彩部分が猫の様に縦に入っているのだ。
「――気が付かれましたか?」
メルとメロは、口をぴったりと揃えてわたしへと言った。
「そうです…わたし達、昔の魔物の血が入っているんです」
+++++
身支度を整えながら、メルとメロの話を聞くと、この城では魔獣の血を引く者を積極的に採用しているらしい。
「そうなの?…珍しいね」
わたしの言葉に双子は同時に頷いた。
そう言えば執事の人なんかは、オスティリア国では見たことがない程珍しい――闇に溶け込むくらい全身真っ黒な肌をしていた気がする。
「そうですね。ダニエル様は積極的にわたし達の様な半妖を雇って下さる寛大なお方なのです」
「わたし達みたいな半端者は世間では嫌がられますから」
今も人間と魔物・魔獣との混合による祖先からの血を受け継ぐのは、貴族だけでは無く、もちろんオスティリア国内の至るところにいる一般市民もそうだったのだ。
ただ彼らは国から守られておらず、近年は犯罪や厄介事を引き起こす為に、やや疎まれる存在になっている場合が多い。
「わたし達、キャロライン様は魔女の血の入っている家系だとお聞きしました」
「…あ、まあ…遥か昔はそうだったみたいね。わたしのお母様の家系がそうだったときいているわ」
双子に問われてわたしは渋々と答えた。
いままであまりこの話をして、いい顔はされてこなかった。
『実の母親が魔女の家系だ』(おまけに『不幸体質』)という事に。
「それに…わたし自身に全く力は無いの。ごめんなさいね」
「あ――そうなんですか?」
双子は少しがっがりした様に、同時に顔を見合わせた。
もしかしたらわたしに魔女の血が入っているという事で、親近感を持っていてくれたのかもしれない。
ちょっと申し訳ない気持ちになったわたしは慌てて
「で、でもこれからよろしくお願いね、メル…メロ」
と云うと、双子は何故か同時に「にゃあ」と鳴いて
「よろしくお願いいたします。奥様」
と優雅にお辞儀をして見せた。
「え…?わたし個人のお部屋をいただけるのですか?まさかこのまま休ませて頂けるのですか?」
「当然です。まさか流石に今夜僕がいきなりがっついて、花嫁の寝所に行く訳がないでしょう」
さも心外と言った顔をした侯爵閣下はにっこりと笑った。
「それに…まさか僕のこの風体で、本当に君の夫の義務が果たせるとは思っていませんよね?」
「えっ…ええと、それは…」
『ノーコメントでお願いします』とわたしは曖昧に返答した。
(『夫の義務』って…何なの?)
まさに生気を吸う事ではないのか。
「僕のこの姿ですが、成人の姿は生気の枯渇化が更に進むので、今は消費が少なくて済む姿になっているだけですから。生気を吸えれば、きちんとした姿に戻ります」
「はあ…」
(それって省エネって事かしら)
食べられないなら、むしろ一生その姿でいていただきたいのだけれど。
侯爵閣下はまたもにっこりと笑ってわたしへと言った。
「なので――早く健康体になって僕に協力して頂けると確かります。キャロライン=イーデン伯爵令嬢」
+++++
「すごい…さすが侯爵家…。わあ、可愛い」
案内して頂いた部屋は、女性らしい内装の広い部屋だった。
わたしが今まで宛がって貰った部屋とは段違いだ。
やはり侯爵家というか、置いてある調度品もとても高級感ある作りで品が良く、おまけにベッドはふかふかの高級品だった。
ガウンやナイトドレス完備の心配りも嬉しい。
(一応『餌』ではなくて『奥様』として迎えられたと思っていいのかな?)
と一瞬勘違いしてしまいそうな待遇ではある。
ここ数年レティシアのお世話関係(ほとんど侍女だ)と、古びたベッドのマットレスのおかげで熟睡出来なかったわたしは、喜んで用意して頂いたナイトドレスに着替えた。
愛読中のショタの小説もぬかりなく枕元に置いておく。
早速素晴らしい手触りのシーツの間に身体を横たえたのはいいが、さっきの侯爵閣下の話しを思い出すと、なかなかわたしに眠りは訪れなかった。
仕方なく小説の大好きな場面――小悪魔系少年ラインハルトが、美少女ヒロインにツンデレで愛を伝える場面を『ぐふふ』と読んでリラックスする事にした。
「ああ、やっぱショタは健康に良いわ」
読み終えて、そう呟いたわたしは、ベッドに横になったままため息をついた。
そのまままんじりともせず上を向いて考える。
(やっぱり、ただ…このまま食べられるを待つのは、嫌だな)
自分が不幸体質だと知られたら、あの侯爵閣下はどう思うだろう。
そのまま実家に戻される可能性もある。
そしたら、レティシアにまた散々なじられる未来は見えている。
あの家にまた戻らなくてはいけないのかと思うと、『本当にこのまま逃げちゃおうかな』と不埒な考えが頭をよぎる。
(別にもうレティシアやお父様やお義母様に義理だてしなくていい気がするしなぁ。隙を見て…うん、それも有りだな)
そう考えると、大分気持ちが楽になったわたしは小説を胸に抱いたまま秒で眠りに落ちて。
そしてそのまま朝まですっかり爆睡してしまった。
+++++
鳥の声が聞こえる清々しい朝、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「ふぁーい…」
わたしが返事をしながらのそのそと寝返りをうっていると、ガチャリとドアが開く音がした。
「――失礼します、キャロライン様」
メイドが二人同時に入ってきたので、わたしは驚いて起き上がった。
金色の瞳で、黒い髪をハーフアップにした双子の様に丸っきりそっくりな侍女服姿の女の子が、びっくりして固まったままのわたしの前に、並んで立っていた。
「あ、あの?…何ですか?」
「おはようございます、キャロライン様。わたくし今日から部屋付きの侍女となります、メルと申します」
「わたくしも同じくキャロライン様の部屋付きとなるメロと申します」
普通の女の子…と思いきや、良く見ると彼女達の眼が…普通じゃなかった。
瞳の虹彩部分が猫の様に縦に入っているのだ。
「――気が付かれましたか?」
メルとメロは、口をぴったりと揃えてわたしへと言った。
「そうです…わたし達、昔の魔物の血が入っているんです」
+++++
身支度を整えながら、メルとメロの話を聞くと、この城では魔獣の血を引く者を積極的に採用しているらしい。
「そうなの?…珍しいね」
わたしの言葉に双子は同時に頷いた。
そう言えば執事の人なんかは、オスティリア国では見たことがない程珍しい――闇に溶け込むくらい全身真っ黒な肌をしていた気がする。
「そうですね。ダニエル様は積極的にわたし達の様な半妖を雇って下さる寛大なお方なのです」
「わたし達みたいな半端者は世間では嫌がられますから」
今も人間と魔物・魔獣との混合による祖先からの血を受け継ぐのは、貴族だけでは無く、もちろんオスティリア国内の至るところにいる一般市民もそうだったのだ。
ただ彼らは国から守られておらず、近年は犯罪や厄介事を引き起こす為に、やや疎まれる存在になっている場合が多い。
「わたし達、キャロライン様は魔女の血の入っている家系だとお聞きしました」
「…あ、まあ…遥か昔はそうだったみたいね。わたしのお母様の家系がそうだったときいているわ」
双子に問われてわたしは渋々と答えた。
いままであまりこの話をして、いい顔はされてこなかった。
『実の母親が魔女の家系だ』(おまけに『不幸体質』)という事に。
「それに…わたし自身に全く力は無いの。ごめんなさいね」
「あ――そうなんですか?」
双子は少しがっがりした様に、同時に顔を見合わせた。
もしかしたらわたしに魔女の血が入っているという事で、親近感を持っていてくれたのかもしれない。
ちょっと申し訳ない気持ちになったわたしは慌てて
「で、でもこれからよろしくお願いね、メル…メロ」
と云うと、双子は何故か同時に「にゃあ」と鳴いて
「よろしくお願いいたします。奥様」
と優雅にお辞儀をして見せた。
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