『不幸体質』の子豚令嬢ですが怪物少年侯爵に美味しくいただかれるのは遠慮させていただきます

花月

文字の大きさ
19 / 30

19 ダニエル様の吸血化 ②

しおりを挟む
「待って…!待って下さい、ミハエル様…!」
わたしは思わず魔方陣から飛び出していた。

(だめ!…待って!このままじゃ、ダニエル様が殺されてしまう…!)

『今…お前を殺した方がいいかもな』
そんなこと、黙って見ていられるはずがない。

『…確実に街の人間の二百人やそこらは殺して生気を吸う…』
だめだ、そんな…そんなこと。
そんな化物にダニエル様をこのままさせる訳にはいかない。

「待って!…あげますから!…」
わたしはダニエル様の側に駆け寄った。
思わず――黒いマントを纏っている様なダニエル様とミハエル様の剣の間に入る。

そして剣を構えたままのミハエル様の顔を仰ぎ見た。
「わ、わたし…!わたし、あげます!せ、生気を…!お願いです…ダニエル様を助けて!」

「…だ…駄目だ…キャロル…は…離れて、くれ…」
わたしの身体の下で、苦し気なダニエル様の声が…絞り出す様に、切れ切れに聞こえた。
「僕が、この衝動を何処まで…我慢できるのか、コントロールできるか分からない…」

ミハエル神父はその青い瞳を冴え冴えと光らせたまま、わたしへと云った。

「…退け、お嬢ちゃん。このまま吸血鬼を野放しには出来ん」
「――ま、待って下さい!お願い!ダニエル様を殺さないで!」

そのままダニエル様を庇う様に――わたしはダニエル様の身体の上にがばっと覆い被さった。

するとミハエル神父は持っていた剣の先をすいと少し上に持ち上げた。
「そうか。退かないと言うなら、仕方がない。俺の邪魔をするならアンタごと切るだけだ」

何の感情も読み取れない平板な声で言うと、今度はミハエル様はわたしにもその刃を向けた。

 +++++

ダニエル様は銀髪を揺らして少し身じろぎし、半身を起してミハエル神父の方を向いた。
「…うぅっ…あっ…や、止めてくれ…ミハエル。キャロルを巻き込むな、頼む…」

「…『我慢できるか、コントロールできるか分からない』だと?」
ミハエル神父はそう言うと、馬鹿にした様にフンと鼻を鳴らした。

「腰抜けだな…ダニエル。お前…戦場で『怪物侯爵』の異名を取ったんじゃないのか?
『巻き込むな』?…いいか、俺の仕事はお前の監視と暴走時のストッパー及び封じ込めだ。『怪物化』を止められんお前が甘えた事を抜かすな」

余りにも容赦のないミハエル神父の台詞に、わたしの中で激しい怒りが込み上げた。
知らず知らずのうちに、わたしはミハエル神父へと言い返していた。

「ダニエル様は…腰抜けなんかじゃありません!取り消してください!」

そしてそのままくるりとダニエル様の方へ向くと、わたしはダニエル様の青白い肌に爪が長く伸びた手をギュッと握って言った。

「ダニエル様、お願いです!わたしの生気で良ければ吸って下さい。このまま吸血化しては大変な事になってしまいます…!」
「…キャロル…」

その時俯いていたダニエル様が、真っ直ぐわたしの事を見上げた。

(――何てこと…!)
わたしは悲鳴を上げそうになるのを必死で堪えた。

揺れる銀髪は今や長く伸びて、顔色はもっと青白く、瞳は白目がすでに黒く変わり、黒目部分は鮮やかな赤色に変化している。

猫の様に縦長に伸びた瞳孔と虹彩は、ドクドクと脈を打つ様に不思議に変化していた。

わたしが怯える様子を悲し気な表情でダニエル様は見つめながら、切れ切れに言った。唇の隙間
から覗く犬歯が鋭い牙のごとく伸びているのが見える。

「キャロル…今、僕の生気は枯渇し過ぎてて、もうどれだけ、吸えばいいのかが分からない。君を傷つけ…その生気を…吸いつくしてしまうかもしれない。それが…怖いんだ…」

ダニエル様の言葉を聞いて、思わず切なくて泣きそうになってしまった。
(こんな時でも、ダニエル様はわたしの身体を心配してくれているんだわ…)

「――ダ、ダニエル様、大丈夫です!」
わたしは自分で胸を力強くドンと叩いた。
そして――ダニエル様が少しでも安心できるように、元気良く言った。

「ほら…見て下さい、わたしの身体を。ちょっとやそっと生気を吸われたからと言ってへたるようなヤワな身体じゃありません。ミハエル神父もわたしを『貯蔵庫タンク』って言っていたじゃありませんか」

わたしはダニエル様の首に自分の両腕を回した。
そのままぎゅっと力を入れて抱きしめる。

「…わたし、ダニエル様の事、少しでも…お助けしたいんです。どうか…どうかお願いします」
「…キャロル……」

ダニエル様もわたしの身体に手を伸ばして、しがみ付く様にだけれど抱きしめてくれた。
暫くして小さく呟くダニエル様の声が聞こえた。

「――分かった…ありがとう、キャロル…」

次の瞬間、わたしは自分の首に冷たく鋭い物が当てられた感覚と共に、チクリとした痛みを感じた。

そして――渦巻く大海に浮かぶ小舟の中に、いきなり放り出されたかのような激しい眩暈にわたしは襲われたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

トリップした私対腹黒王子

蝋梅
恋愛
ある日、異世界に喚ばれた上野春子は、混乱のなか少しずつ落ち着きを取り戻した。だが、当初から耳にしていた王子に婚約宣言をされた。この王子はなんなんだ? いい根性してんじゃないの。彼女は気性が荒かった。 *別のお話で感想を頂いた際に腹黒王子のリクエストをもらったのでトライです。 …腹黒は難しかった。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

処理中です...