ちいさな恋のうた。お伽噺編

春瀬さくら

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新作短編

ビター・スイート・デスマーチ☆

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「ようこそ、四大聖神さま方。


お待ちしておりました。

さぁ、陛下がお待ちですわ。
こちらへお願い致します」


女王の直属の侍女に出迎えられ、アリル達は城内を歩く。


(ー…?)



城内を歩きながら、何気無く辺りを見回すも何か様子がおかしい。


兵の数が少ないのだ。



「今日は妙に兵の数が少ないですね」


アリルの問いかけに侍女はビクリと肩を震わせた。
しかし「きっと気のせいですわ」と笑顔ではぐらかされ、それ以上は追及しなかった。




**


「こんにちは。
四大聖神の皆様。

お忙しい中、貴重なお時間を賜りありがとうございます」


「いえいえ。
陛下のお誘いとあれば、いつ如何なる時でも参上致します」


セリアとジャミルが挨拶している間に、侍女とティニアでお茶の用意をしている。

リオンもお茶のセッティングの手伝いをしている。


そんな中、アリルはボンヤリとセリアの部屋の中を見渡していた。
昼間、こんな風に彼女の私室に来るとは思わなかった。
夜、密会する際にコソコソ訪れる事が細やかな楽しみだったので妙な気分だ。


(昼と夜だと雰囲気が違うなぁ…)



夜は静かで、何だか寂しそうな雰囲気があるが、昼間は賑やかで穏やかだ。
まるで、この部屋の主を現しているかの様だった。



「皆様!お待たせ致しましたー!」


紅茶が用意されたテーブルに案内され、それぞれが席につく。
先ずは四大聖神が各々持参したチョコレートをセリアに手渡す。



リオンは可愛く、ティニアはフェミニンに。
ジャミルは少しだけ雑だけど男性らしくシンプルに。
そしてアリルは派手さは無いが、豪華でシックな感じに。
思い思いのラッピングをしてある。
中もきっと、ラッピングのイメージ通りだろう。


「うふふ、セリアさま!
皆、手作りですのよ!」


「まぁ、スゴい!」


「お口に合えば良いのですが…」


「私のは妻と作りましたので、半分は私ので、もう半分は妻の手作りです」


「まぁラケディアさまの?!」


「日頃、お世話にいる感謝の念を込めて作りました」



「…お前、重いな」


「何だよ。

ジャミルなんて半分はラケに手伝って貰っているじゃ無いか!」



「別に手伝って貰っている訳じゃ無いぞ」



「ま、まあまあ2人とも!落ち着いて!」


「そうですよ!陛下の御前で見苦しいですわよ!」 


セリアの御前と言うのも忘れて、素で言い合いする2人に、慌ててセリアとティニアが宥めに入った。


2人共苦々しそうに舌打ちして、席に戻る。




「で、でも気持ちはとても嬉しいわ!
皆、ありがとう!



あ、私もね、ちゃーんと用意してあるのよ?」



意気揚々と、侍女にチョコレートを
用意する様に伝える。


程無くして、セリアのチョコレートが運ばれてくる。




***



「こ、これは…!」



運ばれてくるチョコレートを見て、一堂言葉を失った。


真っ黒でカチカチ。
更には不可解な臭いも醸し出している。


何よりチョコレートにあるまじき、負のオーラが出ている。




『絶 対 に 口 に し て は い け な い … !』



全員の脳裏に刻まれていた。
しかし、他でもない女王が作ったチョコレートだ。
食べない訳にはいかない。


これはもうチキンレースでは無い。
デスレースだ。


「何とか頑張って作ったんだけどね?」


照れ臭そうに話し出すセリア。


「普通のチョコだと申し訳無いし、皆疲れてるだろうから滋養に良い薬草を練り込んでるの!」



(いや、普通ので良かったです!へーか!!)



言葉にならないツッコミを即座にしていた。 



「でもね、兵の皆に差し入れしたら何故か倒れちゃって…」




(それでかー!!!)




なるほど、と嫌な合点をした。



すると、スッと席を立ち侍女に頼み事をするアリル。


「どうしたの?」と問われ「チョコレートが少し固すぎるので、温めた牛乳に溶かして頂こうかと」と答える。


(なるほど、牛乳に溶かせば多少はパンチを和らげられる…!)


ナイス!とジャミルが隠れてガッツポーズを作る。


女王も気にした様子も無く、「好きに召し上がって頂戴」と言う。




が。





温めた牛乳に溶かしてみたら、薬草の臭いが前面に出てきた。


「おまっ…!」


「あれ、おかしいな…」


「ちょっと、にいさま…」


「アリルさま、これはちょっと、」



デスレースの筆頭に出たのは、どうやらアリルらしい。



どうした物かと、考えを巡らせていたが。


ふとテーブルに紅茶用のハチミツに目が行った。


それを少しだけ牛乳に入れる。



「ー…」


顔は平静を装いながら、内心は恐る恐る牛乳に口をつけた。



色んなデスマーチが口内を走り抜けるが、何とか…まあ意識を失わずに飲めた。



「…ごちそうさま」


「アリル!」


「お前、顔が紫だぞ。大丈夫か?」



正直、大丈夫では無いがセリアの手前、残す事も倒れる事も出来ない。
そして、なるべく手を加えずに食べたかった。

結果としては美味しく無かったとしても、相手の事を思って作ってくれたのだから。



「陛下のお気持ち、ありがたく頂きました。
ごちそうさまでした」


フワリ、と笑む。


「あなただけよ、残さず食べてくれたのは」


ふふ、と恥ずかしそうに笑い返す。
もう少し料理の練習もしなきゃダメね、と付け加えながら。



****


「あれ、これ頂いて帰るのか?」



アリルの手には、セリアのチョコレート。
あの後、アリルの紫の顔色を見たセリア本人が他の人には食べるのを制止した。


それを、包んで貰い、持って帰るのだ。



「うーん。
このまま片付けてしまうのは、勿体無いしね。
さっき牛乳にチョコを溶かしたの飲んでみて、何とかなりそうだったし」



「凄いな、お前…」



ジャミルの呆れの混じった誉め言葉に、ティニアとリオンは大きく頷いた。


「さぁ、帰ろう。
今日は仕事しないでノンビリしようよ」


アリルの言葉に、一堂は頷きそのまま天界へと戻っていった。







アリルとしては、味なんかよりもバレンタインデー当日にセリアと過ごし手作りチョコレートを貰えた。

そして自身の渾身の手作りチョコレートも渡せた。
何より他の四大聖神の分のチョコレートも没収して、後からゆっくり楽しめる。


「バレンタインデーも悪くないな」も満更でも無い気持ちで帰るのであった。
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