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それぞれの、

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「取り敢えず、自己紹介でもしようか。



ぼくは、リオン=レーネ。年齢は……。



まぁキミに話しても理解は難しいだろうが、軽く数百年は生きている」


リオンの「数百年生きている」発言に驚いたが、ここまでのファンタジーぶりに、もはや動じなかった。


「数百年…って、もう不老不死じゃない。


えっと、私は高橋 千種たかはし ちぐさ。13才。今をトキメク中学生よ」


「チュウガクセイ…?タカハシは不思議な言葉を使うんだな」

「リオンさんに言われたくない」


「まぁ、とにかくタカハシが帰るまでは、ここにいると良い。


本当は余り人と関わるのは好きじゃ無いが、仕方無い」


「あ、ありがとう…」


朝ご飯、食べるだろ?と家の奥に行ったリオン。
どうやら部屋の奥にキッチンがあるらしい。

ソロリ、と寝台を下りて改めて部屋を見渡す。
古くて手狭だがキレイに整理されている。

キレイ、と言うよりも物が無いに等しいか。


(数百年生きてるのに、こんなに生活用品って無いのかな?)

キョロキョロと見ていると、棚の隅に小さな肖像画を見付けた。
大きさから言って、最初は写真かと思ったが、ファンタジーに写真は無いだろう。


「誰…?」



描かれた人数は5人。
前に2人、後ろに3人。

前に緑色の髪と黒髪の少女。
後ろに金と銀の髪の男性と、ピンクの髪の女性。

仲が良いのだろう。皆、幸せそうに笑っている。



「この子、日本人…?」



真ん中の黒髪の少女は、千種と同じ黒髪だ。
青い瞳だから、もしかしたらハーフかもしれない。
千種と同じ肩までのボブだ。






「ー…昔のぼくだよ。

って言うか、勝手に見ないで欲しいんだけど」



呆れの混じった声が背後から聞こえ、驚いて肖像画を落としそうになる。

何とか落とさずに済み、慌ててリオンを見る。
怒ってはいない様だが、ムスッとして機嫌は悪そうだ。

いや、最初から機嫌は悪そうな顔をしていたが。


「勝手に触ってごめんなさい…」

「まあ別に良いけど。


懐かしいな。


ぼくも見るのは何十年ぶりかな」



「ね、ねえリオンさん!
この子、日本人でしょ?!
私と同じ黒髪だもん!」


もしかしたら、何かわかるかもしれないと、必死にリオンに問いただす。






が。




「タカハシは変な事を聞くな。
彼女は生粋のエリュージャル人だ。


しかも、当時の女王陛下だ。


当然、もう亡くなっている」

「エ…、エリュージャル人って黒髪なの…?」


何かヒントがあるかと期待していただけに、千種のショックは大きい。



ショボンと肩を落とすチグサを見ながら、リオンは「朝食にしよう」と運んできたトレイをテーブルに置いた。


「ところで」


配膳をしながら言葉を続ける。

「タカハシは名字がチグサだろ?
知らない男から名で呼ばれるのが嫌ならチグサと呼ぼうか?」


「へ?違うよ!名字がタカハシだよ?」

リオンが最初から名字呼びなのは、そのせいかと納得した。

日本人は名字→名前だが、どうやらエリュージャルは名前→名字らしい。


「なら、チグサって呼んで?
タカハシだと堅苦しいし!」


ね?とニッコリ笑ってテーブルにつく。
ヒントが無いのはショックだが、仕方無い。
無いなら探すしか無い。

取り敢えず折角用意して貰った食事が冷めてしまう前に食べよう。


「頂きます」

「頂きます」


2人揃って挨拶を交わし、食べ始める。
焼きたてのパンと目玉焼きは美味しいし、何だかホッとする。

千種はモグモグと美味しく食べている。
そんな千種の顔を、リオンは意味深な表情で見つめていた。

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