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第7章 わ、わかりました
しおりを挟む「あ"あ"あ"あ"疲れた!」
仕事が終わりバックヤードで新はソファーに倒れこんで叫んだ。
「新は言うほど仕事してないだろ」
対する愛は壁に腕を組んで寄りかかっている。
「計算しまくったんです!」
「そのくらい高校生でもできるぞ」
「ここのレジ、金額から手打ちじゃないですか! コンビニとかはピッピやればできますけど」
「あたしの知り合いの姪っ子が働く居酒屋は最初から手打ちだぞ」
「僕は文系なんです!」
「その子も文系だ。それにこっちは暑い中、厨房で麺茹でて、ラーメン作りながら怪しいところを探していたんだぞ」
「怪しいところって」
「新にはホールを監視しろと頼んだじゃないか。監視していなかったのか?」
あ、やべぇ、忙しすぎててんてこ舞いでそれどころじゃなかった。
「僕が悪かったです」
「それでいい」
新と愛のやり合いで新が勝ったことはまだない。愛が強いのか新が弱いのか、偶然なのか、非が全て新にあるからなのか、
きっと全てが重なりあってそうなったのだろう。
「いやー、愛ちゃんに、宮野くんお疲れ様」
扉がガチャリと音を立てて開く。
「お疲れ様です。店長」
うわ、スゲェー態度が変わった。
やっぱこの人怖いわ、
「宮野くんね、次は頑張ってね。山は終わりって意味。残は残りいくつって意味。俺が言ったら周りのバイトくんにも伝えるんだぞ」
「わ、わかりました」
「あぁ、それと愛ちゃん、明日はホール入ってもらえるかな?」
「了解です」
「あ、あの、僕は」
「宮野くんは……休んでいいよ?」
え、それ、いらないって言ってるようなもんじゃん。
「あ、明後日は来てね」
「わかりました」
。・*・:♪
「おかえひなさい! 愛さん!」
事務所に帰ると阪田が三つ指をついて待っていた。
「ご苦労。なにか変わりはあったか?」
「電話が2、3件」
「2件なのか? 3件なのか?」
愛は細かいことにうるさい。
ただしそれは仕事がだけだ。
私服は適当。ジャージで近所を出歩く。
事務所にいる時はいつ来るかわからないから一応スーツなどを着ている。
パンツスーツだ。スカートは履かない。潜入時などにたまに履く程度だ。
いざという時に動きやすいからと本人は言っている。
新としてはたまにはスカート姿も見てみたいものだ。
「すいません、確認してきます」
阪田が慌てて奥へと走る。
「まったく。あいつは電話番すらできないのか」
「愛さんが厳しすぎるんでしょ」
「仕事だぞ? それで金をもらっているんだぞ? まぁ、今回の場合は依頼料割だが」
「ですけどねぇ……」
2.3件って言うくらい良いじゃん。
と、新は思うが探偵業務に新は口出しできない。
「はぁ、今日の収穫は少なかった」
「何か分かったんですか?」
「先代の姿が見えない」
「え?」
「あたしはフルタイムで入っていた。以前は必ず18:00頃に顔を出していた。あたしもよく話した」
「あ、あの優しそうなおじいさんですね」
「あぁ。以前、現店長に聞いたら毎日来ると言っていた」
「たまたまなんじゃないですか?」
「昨日の事前調査の時も来なかった」
「それは時間の問題じゃ?」
「現店長は以前、仕込みは一緒にやると言っていた。なんでもまだレシピを教えてくれていないらしい」
「え、じゃあ、まさか」
「先代が事件と関係している事は間違いない」
愛が手をグーにして口もとに寄せた、
真剣に考える時のポーズだ。
「やっぱり変なのはスープだ。麺やメンマ、チャーシューに問題はなかった」
「食べたンですか!?」
「新がギリギリまで休憩している時、あたしは調査すべく先に向かったがもう店長がいてできなかった。ところで阪田は電話を確認するのに何分かかっていふんだ」
ずっと、玄関で立ち話をしていたので中へと向かった。
「おい、阪田遅いぞ」
「すいません! 自分で書いた字が読めなくて、内容も一緒に伝えようと」
「あたしはよっぽど汚くなきゃ読めるぞ。仕事が仕事だからな」
「すいません……」
「で、愛さんさっきの話の続きを!」
「わかった。よし、阪田。帰って良いぞ」
「え?」
「終わりだ。帰れ」
「まだ大丈夫ですよ?」
「居られると話ができないのがわからないか。Go to house!!」
阪田さんは犬じゃないっつーの!
「あ、はい……」
しかし阪田はあっさり引き下がり帰って行った。
「まったく」
「愛さんももう少し優しく言いません?」
「今のは明らかアイツに非があるだろうが」
「ですけど」
「そんな事はどうでもいい。話の続きを聞きたくないのか?」
「聞きたいです」
「よかろう。店長に食わされたんだ。味が変だと勘ぐってる事を感づいたのかただ食べさせたかったのか、これらは味が変わってないだろ? と言わんばかりにな」
「うーん。やっぱりスープは変わったのか」
「なんだ、お前も収穫あったのか?」
「はい。お客さんに何度か『味、変わった?』って聞かれたんです」
「何故それを早く言わない」
「愛さんは気が付いてるからいいかなと」
「良くない。おかしいと感じる人間が多い方が信憑性が高まるだろ? まぁ、ラーメンに関してはあたしの舌が狂う事はないが」
そこまでラーメンが好きか……
その情熱を化粧とか、私服に向けて下さいよ。10分の1でもいいから……
新は思ったが口にしない。
長年の付き合いで無駄だとわかっているから。
「データは多い方が良いって事ですね」
「そーゆー事」
「愛さんは明日も入ってて明日はホールなんですよね?」
「あぁ。お前に指導した吉田くんが教えてくれるそうだ」
あぁ、キンパのあんちゃんか。
「安心しろ。ホールのバイトも潜入もした事がある。楽勝」
「頑張って下さい。えっと、俺は」
「新は事務員の仕事だな、事務員なんだろ?」
そう、愛は悪戯っぽく微笑むのだ。
そして、その表情がまた可愛いのだ。
「わ、わかりました」
新は若干照れながらも了承した。
いつもそんな感じだと良いんだけどな。
しかし、愛がこの様な表情を見せるのは新だけだという事を新は知らない。
愛の笑顔の裏に隠されたモノをまだ新は知らない。
誰も知らない。
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