とある探偵事務所の探偵業務~ラーメン事変~

哀川 羽純

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第13章 調査は依頼順

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「愛……さん?」

愛は何もない空間を睨んでいる。
ちょうど窓と事務机の間の何も無い空間。
空間の下に依頼者達と話す机とソファーがあるがそこを見ているわけではない。
その上の何もない空間を睨んでいる。

「愛さん!」

「あぁ、どうした?」

「どうしたじゃないですよ。怖い顔しちゃって」

「悪い。ちょっと考え事をしていた」

「もう」

とだけ言ったが新には分かっていた。
それがただの考え事じゃない事を。

「愛さん、どうするんですか? 枡田さんの件」

「枡田の事は1回忘れろ。今はたから屋が最重要物件だ」

「もう!」

「依頼者の順番を捻じ曲げてまで私はあんな奴の依頼を受けなきゃいけないのか?」

「……」

「調査は以来順、それが私のポリシーだ」

「わかりました」

愛が1回それと言ったらそれと聞かないのはもう長年の付き合いで分かっている。

「新、今日はたから屋でバイトないだろ?」

「えぇ」

「よし。じゃあ2人でたから屋に行こう」

「ま、まじですか!? ほぼ毎日ラーメンでもうラーメン見たくないんですけど」

「まーまー! そう言うなって! 内偵調査! 私だって、味の落ちた、たから屋のラーメンなんか食いたくない」

「あ! そういえば愛さんいつも賄いはご飯ものだ! 俺にはラーメン食え食え言うのに!」

「仕事だ仕事。事務員の仕事!」

「愛さん!!」

。・*・:♪

「お! 愛ちゃんいらっしゃい!」

「こんにちは~! 大将いますー?」

「だから愛ちゃん。今は俺が大将だって」

「ア、先代だ先代! すいません、いつも店長って呼んでるので」

「まぁーいーよ、お義父さんなら最近体調悪くてね、2階で寝てるんだよ」

「最近ってか1ヶ月前くらいからじゃないですか?」

「うん、まぁ……」

「エ、でも、先代は1ヶ月私と会った時には健康診断何の問題もなかったぜ! やっぱり引退早かったなぁ、もったない事したなぁって言ってましたよ?」

「それが、急性肺炎になっちまってよ」

「大変じゃないですか! 私、お見舞いに伺わないと!」

「いやいや、そんな大した事ないから大丈夫だよ」

「私が大丈夫じゃないです!」

「愛ちゃん、」

「だって、この前まで超健康だったじゃないですか!」

「年寄りはいつどうなるかわからないんだよ」

店主はハァ、とやや演技掛かったため息をついた。

「先代と最近全然話せてないから心配なんです! 話したいんです。ダメですか?」

愛は大袈裟とも言えるほどの身振り手振りでそう言って上目遣いで店主を見るのだ。

店主は一瞬、戸惑いを浮かべたがすぐにデレデレの顔になった。

勿論愛はその変化に気が付いている。

「愛ちゃん、優しいんだね、でもお義父さんから誰も見舞いに来させるなって言われてて」

「お見舞いって病院にですか? 急性肺炎ですもんね、入院しないと大変なやつですよね? 先代くらいの年齢の方だとそれが原因で死亡に繋がるとかいうじゃないですか!」

「そうなんだよ。もうワガママだらけでさ。あぁ、サチコがいたらもっとお義父さんも気楽だろうに」

サチコ? と新が聞き返そうとしたら愛に手で制された。もちろん、店主には見えない。

「そうなんですか……あ、店長、ラーメン作って下さいよ! 私たちはラーメン食べにきたんですから!」

「OK!! にしても愛ちゃんがラーメンって珍しいね。バイトはじめてからずっと丼ものだったからさ」

「ちょっと、カロリー考えちゃって。久しぶりにラーメン食べたいなぁって」

「了解。何ラーメン?」

「塩ラーメン!!」

え、まずいまずい言ってたのに食べるの!?
と、新はココロのなかでツッコミつつ

「あ、僕も塩ラーメンで」

「OKOK!! にしても今日はお客さんが全く来ないんだよ」

「おかしいですねぇ」

「小倉屋だな。さては」

店主はそう怨めしそうに呟きながら奥へと消えていった。

ホールには金パのあんちゃん。

不安そうな顔つきで愛を見ている。
そりゃそーだよなぁ、表には枡田をボスとして何人かの捜査員が張っているのだから。

店主を殺人事件の容疑者として逮捕する為に。

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