メープル・タイム(仮

哀川 羽純

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そうか。

記憶喪失か。

「これ、記憶のトリガーになるかも知れない」

そう言って、ナースが医師にノートを渡した。

「佐藤さんは、思い出したいですか」

「はい、このままだと気持ち悪いので」

何も、思い出せないのは嫌だ。
何でも良いから思い出したい。

「では、」

医師からノートを受け取った。

ページを開く。

『サトウ  カエデ  1998 4 15
2018 7 16 ニュウイン
2018 8 30 ミスイ
2018 9  01 カクリ
2019 01 05 キカン
2019 02 13 アイベヤ
2019 03 03 ヒトリ
2019 04 01 アンテイシテル デモ ヒトリ
2019 05 20 カクリ
2020 01 28 ヤット モドッタ』

これは……

頭が、痛い、痛い痛い。


俺の名前は佐藤楓。俺は佐藤楓……さとうかえで……

1998年4月15日産まれ……
○×大学 テニスサークル所属……

テニス! 思い出した!!!!


俺は、大学に入学して、2ヶ月ほど女子大生として! 大学生活を謳歌していた。

でも、そこで先輩達に……レイプされたんだ……

涙が頬をつたう。

「思い出せましたか」

「はい、すべて、思い出せました」

思い出さなければ良かった。
こんな事。

「佐藤さん、貴方はまるで3日意識不明でした。点滴は打っていましたが空腹のはずです。食事を用意するので、食べて下さいね」

「はい」

返事をしたものの、喉を通る気がしない。

怖い。怖い。怖い。

目の前の、医師ですら、怖い。

「! お母さん! お母さん! お母さん……私……」

泣きじゃくる私をお母さんは優しく抱きしめてくれた。
暖かい。
あいつらとは、大違いの安心する、優しい温もりだ。

自分の欲望しかない、あいつらとは大違いだ。

「ごめんなさい。私、こんなになって、ごめんなさい」

「お母さんこそごめんね。何も出来なくて、脇腹も……お母さんのせいだわ」

「そんな事ない! 私が、私が弱いから……」

2人で号泣した。

ナースは優しく見守ってくれていた。

程なくして、食事が運ばれて来る。
お粥とおひたしだった。

「一口でも良いから召し上がって下さいね。お熱いので注意して下さい」

配膳のおばちゃんがそう言って置いていったお粥は湯気が立ち込めていて如何にも熱そうだ。

「いただきます」

ひと匙すくい、口に含む。

おいしい。

思わず、声に出る。
何とか、食べられそうだ。

また、涙が頬をつたう。

泣きながら、お粥をたいらげた。
さっきのおばちゃんが、偉いね、全部食べてくれたの。ありがとう。
そう、笑って食器を下げてくれた。

私の事を何処まで知っているのかはわからないが、嬉しかった。

食事の後は少し寝る様に母親に促されたので寝る事にした。

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