メープル・タイム(仮

哀川 羽純

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目が醒めると頭上は白かった。 

「楓? 先生がいらしたわよ」

40代くらいの女性の声がする。

「楓? お入れして大丈夫?」

俺に問いかけているのか?

「はい? あの、なんでしょう」

「また、記憶が無いのね……」

記憶?

そういえば、俺の名前は何だ?
俺は、何故、ここにいる?

沸々と疑問が湧いてきた。

「先生! 楓の記憶が」

「また、解離性健忘の症状ですね……思い出したいですか?」

「はい」

そして、医師からノートを手渡される。

「はい、このままだと気持ち悪いので」

何も、思い出せないのは嫌だ。
何でも良いから思い出したい。

「では、」

医師からノートを受け取った。

ページを開く。

『サトウ  カエデ  1998 4 15
2018 7 16 ニュウイン
2018 8 30 ミスイ
2018 9  01 カクリ
2019 01 05 キカン
2019 02 13 アイベヤ
2019 03 03 ヒトリ
2019 04 01 アンテイシテル デモ ヒトリ
2019 05 20 カクリ
2020 01 28 ヤット モドッタ』

これは……

頭が、痛い、痛い痛い。


俺の名前は佐藤楓。俺は佐藤楓……さとうかえで……

1998年4月15日産まれ……
○×大学 テニスサークル所属……

テニス! 思い出した!!!!


俺は、大学に入学して、2ヶ月ほど女子大生として! 大学生活を謳歌していた。

でも、そこで先輩や同期達に……レイプされたんだ……

涙が頬をつたう。

「思い出せましたか」

「はい、すべて、思い出せました」

思い出さなければ良かった。
こんな事。

そして、このやり取りが2回目だという事もわかった。
どうして私がこんな目に遭うのだろうか。

やはり、何かしてしまったのか?

「お母さん……私どうしたら……」

楓は泣いた。暫く泣いた。

医師もナースも沈黙を決めてきた。

私の記憶は、眠ると無くなる。
そして、このノートを見ると思い出す。

そういう事らしい。

ノートを見る。

見慣れた文字で、ああ、そうだったという事が書かれている。

2020 01 31 オキタラキオクがナカッタ コレヲミテ オモイダス

そう、ノートに記入した。
きっと、明日も私は記憶を無くす。

。。。。

目が醒めると頭上は白かった。

「めざめましたか」

白衣を着た女性。
ナースか。看護師だ。

「ここは病院ですか」

「えぇ、貴方、緊急搬送されたんですよ」

緊急搬送? 俺が?

腕を見る。
点滴チューブが付いている。
点滴の針先が、手の甲に刺さっている。
その、手の甲のすぐのプラスチックの部分からうっすら血が入ったり来たり、、はしてないか。
少し血が出て溜まっている。

「これをどうぞ」

ナースにノートを手渡される。
それを受け取りページを開いた。

頭痛に襲われる。
痛い痛い痛い。

思い出した。
これは3回目だ。

やっぱり、私は、眠ると記憶がなくなるんだ。
一生これは続くんだ。

「あは、あはははははははは」

狂った様に笑う私を見て、ナースはギョッとした顔をする。

「藤宮さん……でしたっけ? 先生を呼んできて下さいますか?」

「あ、はい」

先生を呼んでもらう。
これから、どうすれば良いかだ。

「先生、私は治りますか?」

「それは難しいね。トラウマを克服しなければならないし、君の場合は精神的問題で解離性同一性障害の症状も出ている」

「それは男だと思い込んでいるアレですか?」

「そうだね。記憶が無くなるのは解離性健忘の症状だ。治療は投薬とカウンセリングを中心に行われて……」

先生は難しい専門用語を使いながら私に説明してくれた。

「親御さんは君に任せると言っていたよ。忘れたいなら忘れれば良い。治療を頑張るなら支えると言っている。どうする?」

私は、こんな、記憶が無い生活は嫌だ。
普通に、前みたいには難しいけど……大学も行きたいし、旅行とか、普通の生活がしたい。

男の人に怯えるのも嫌だ。

何となくしか憶えていないけど、私に優しくしてくれたあの、高校生。
彼には酷い事をしたと思うから謝りたいし、お礼も言いに行きたい。

いつかは、結婚もしたいし、子ども産んでみたい。
その行為を出来るかも、無事に妊娠できるかも分からないけど……そもそも、また、人を好きになれるかも分からないけど。

でも、このままじゃ嫌だ。
前に、前に進みたい。

「私、変わりたいです」

「治療は困難ですけど、頑張れますね?」

「はい。頑張ります」

そして、私の治療は始まった。

相変わらず、目覚めると記憶はない。
何も、ない。
だけど、ノートを見ると思い出す。

ノートを見て、思い出すところから私の1日は始まる。
ノートを見て、朝食を取り、カウンセリングを受ける。

辛くても眠くても、夜までは眠らない。

眠ると記憶が無くなるから。

治療内容も他のノートに記入しているが、そのノートを見ても、記憶は戻らない。

やはり、あのノートが特別なのかも知れない。

理由はわからないけど。
事件から2年以上経った頃、
山口先輩達の詳細を初めて知った。

記憶が曖昧な頃、自分が男だと思い込んでいた時期にチラッとテレビで観たけど、自分の事だとは思わなかったあの事件、官房室長官ってのが自殺したやつ、あれは山口先輩のお父さんだった様だ。
お母さんも自殺未遂を図った様で、何とも言えない複雑な気持ちになった。

私はこんなに苦しんで、もがいて、争って、闘っているのに、何も、直接危害を加えられていない彼等が死を選らんだ事に対する憤りと、クソ息子の所為で、それを選ばざるを得なくなった彼等に少し同情し、でも、やっぱり許せなくて、謝罪をしてほしいわけでは無いけど。
された所で私の心身の傷が消える訳でも、浅くなる訳でも無いけど、でも、それは違うと思った。

私は、私のようになる人を少しでも減らしたい。
その為にも、私は変わらなきゃいけない。

。。。。。



2021 08 09 オキタラキオクがナイ コレヲミテ オモイドス

今日の治療も頑張らないと。

朝ごはんはいつもお粥だ。
お粥もとりがーのひとつになっている様だ。

試しに、お粥じゃないものを食べたら気持ち悪くなって、吐いてしまったり、倒れてしまった。

何度試してもダメだった。

なので、暫くはお粥でいこうという話になったのだ。

私の場合、記憶が無くなるけど、すぐに思い出せるからどうしたら記憶が持続するか、そういう事だ。
その為に、カウンセリングを重ねている。

記憶を取り戻した直後は相変わらずパニックになるけど、少しすると落ち着きを取り戻す。

前を向ける。

いつまで、前を向けるかは分からないけど、頑張らないと永遠に変われない。

死にながら生きるのはもう嫌だ。

私は、私。

前を見て、歩く。

。。。。。。。


2021 08 10 オキタラキオクガナイ コレヲミテオモイダス

確かにこれだけ見ると恐怖だよね。

昼食後に例のノートを眺めていた。

山口先輩達は全員漏れなく起訴された。
良かった。

あんな奴らが社会に野放しにされたら他にも被害者が出る。

あいつらが反省するとは思えないけれど、同じ思いをする女の子が少しでも減れば良いと思う。


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