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しおりを挟む「あなた?」
雅緒が初めて、病室を訪れた時の事である。
人の気配を感じた母親はベットの上から起き上がらずに問いかけてくる。
「お母さん? 私よ。雅緒よ」
お父さんは死んだのに。
雅緒は不審に思う。
「まさお??」
一瞬分からないような顔をした。
「そうよ。雅緒よ。雅人兄さんの妹よ」
雅緒は母親の元に駆けよる。
「雅人! 貴女、雅人の事知ってるの?」
え?
「私、お母さんの娘よ。雅人兄さんは私の実の兄よ?」
記憶が無いのかしら……
「雅人……だってあの子まだ産まれたばかりよ。こんな大きな妹がいるわけないじゃない。姉と自称するならまだしも。気分が悪いわ! 出ていって!」
狂った様に頭を左右にゆすり、髪を振り乱す。
「お母さん……」
狂った母親を呆然と見つめる。
「私は貴女の母親じゃない! アンタなんか知らない! 人を呼ぶわよ!」
ナースコールを押される。
実際問題、雅緒は彼女の実の娘である。
入院手続きも雅緒と彼女の姉だった。つまり、ナースコールをされて、看護師が来ても、既に雅緒は叔母と手続きにきており、顔見知りが何人かいるので雅緒が咎められる事はないだろう。
だが、決して気分のいいものではない。
『はーい、山口さん。どうされましたかー?』
明るい声が聞こえる。
聞き覚えがある。
受付? 手続きの時、一緒だった?
覚えていない。
「変な女が私の娘だってきたの。追い出してくれない?」
『娘さん? はい……向かいますねー!』
一瞬、訝しんだが、ナースコール越しにとやかく言っても意味がない事は彼女達が1番よく知っている。
その当時、雅緒の母はまだ普通の入院患者だった。
怪我して入院という体だった。
その後、様々な問題行動を起こし、精神科病棟への入院が必要と判断された。
「さぁ、観念なさい。看護師さんがいらっしゃるから! そしたら、警察に突き出してもらうからね! よりによって雅人の妹だなんて……全く……」
なんで……
なんで、私の事だけ分からないの。
お母さんとお父さんの娘よ。
よく、自慢の娘って、言ってくれてたじゃない。
可愛くて、気立が良くて、頭が良くて、優しくて、本当に自慢だわって。
でも、よく考えてみると、私がテストの点が悪かったり、お母さんが思う反応をしなかったり、結果を出さないと、お母さんは不機嫌になる事が多かったなぁ……
気が付かなかったけど、私は愛されていなかったんだ。
悔しいのと悲しいのと、どうしようもなくて、やるせなくて、涙が溢れてきた。
「警察が怖いの? あらあら、残念ね。こんな悪ふざけ、もうしない事ね」
はははははは、お母さんは嫌な笑い方をした。
限界だ。
カーテンを開け、逃げようとするとそこには看護師さんがいた。
ちょうど、一緒に書類を制作した看護師さんだ。
さっき、ナースコールに出たのもこの人だったのだろうか?
「雅緒ちゃん……」
ビンゴだ。
「助けて……」
半分、声が出ていない。
「わかった。大丈夫よ」
そういって、看護師さんは私の肩をポンポンと叩いて、お母さんの元へ向かう。
「山口さん? 大丈夫ですよー! さっきの子は一旦出て貰いましたからー!」
明るく、元気よく、心配をかけない様に、伝える。
「大丈夫なの、この病院。不審者対策どうなってるの?」
安心したのか頬が少し緩む。
「あの子は不審者じゃないですよ、それより、これ、頼まれてた雑誌ですよー! 今回だけですからね。それと、私から貰ったって言っちゃダメですよ。師長に怒られちゃうんで」
サラッと不審者じゃない事を伝え、前から頼まれていたものを如何にもという様な感じで差し出す。
「あら、ありがとう。アンタ名前は? 宮野さんね。覚えておくわ。良くしてくれたって、退院の時に師長さんに伝えておくわね」
興味のない娘が視界から消え、楽しみにしていた雑誌が視界に入った事により、彼女は上機嫌になる。
お母さんの機嫌が良くなった。
私はカーテンの外側。
まるで、お母さんの心みたい。
もう、この内側に私が入る事はできない。
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