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しおりを挟む駅のホームへ向かう。
デパートの煌びやかな装飾までイライラする。
「さっきの電話、彼氏? ドタキャン? 俺と遊ぼうよ」
「彼氏じゃないですけど、貴方とは遊びません」
冷たく言い放す。
「良いじゃん。俺、強い女の子好き」
「あっそ。じゃあ、キックボクシングジムでも行ってくれば? ウチより強い子いっぱいいるよ」
「そう言う返しする子好き。ねぇ、5万でどう? 最初はご飯から」
ご飯だけで5万?
「そそ、せっかくだから、そこらのゴミみたいな飯屋じゃなくて、ちゃんとしたホテルか料亭……何食が好き? イタリアン? フレンチ? 中華? 和食?」
ウチの家はかなり家柄が良い。
幼い頃から、テーブルマナーは叩き込まれた。
だからこそ、同級生がマナー悪く食事をしていると、気持ちが悪い。
何その、箸の持ち方。
寄せ箸? 刺し箸?
どんな茶碗の持ち方よ。
突っ込み出したらキリがない。
お兄ちゃんもあんなに素行悪いけど、食事をとる姿勢は美しい。まぁ、顔も美しいんだけど。
ヤンチャしてる子とは思えないスタイル。
きっと、行きつけの四笠会館のシェフやウェイターはお兄ちゃんの事、イケメンで頭の良い、優等生と思ってるはず。
……ウチの事も、クラスメイトの彼氏を次から次へと寝とる様なクソビッチだとは思ってないはず。
「何処でも良いけど?」
「あ、そうそう。テーブルマナーは大丈夫? 俺、かなり気にするから、下手な子とそういうとこいくのヤなんだよね。できないならフレンチは無し。中華が1番誤魔化せるかなぁ」
私より、綺麗な男の人なんて、いない。
お父さんもお兄ちゃんも同じレベルだし、
他の男の人はだいぶレベルが低くなる。
「大丈夫よ? テーブルマナーくらい」
そう言ってから、その、ナンパ野郎の顔を改めて見る。
意外とカッコいいかも。
ディーン・フジオカに似てる気がする。
「OK!! じゃあ、俺のイチオシのフレンチでいい? 一見さんお断りの」
「なんでも良いわ」
「食べられないものある?」
「特に」
「何でも食べられるのは良い事だね」
? この人、変なの。
「じゃあ行こうか」
銀座まで行くよ。
そう言って、彼はタクシーを呼んだ。
銀座か。
タクシーの道中、ウチは外を見てきた。
運転手さんはきっと、ウチとこのオジサンは親子だと思ってる。
そんなに仲良く無いから喋らないのかな、それとも、喧嘩中かな、とかその適度じゃない?
まぁでも最近はP活とか流行ってるからそう思われてるかも。
「名前、聞いても良い?」
あぁ、このオジサンはP活ってバレても良いんだ。
また少し、興味が増えた。
今までは、妻子持ちだったりして、いつもどこか怯えてる人が多かった。
あとは、本当に遊んでる奴。
「ミヤビ」
「そう。俺は小鳥遊」
「そ。タカナシさんって呼べば良いかしら?」
「うーん、それでも良いけど、タカさんとかナッシーとかでも良いよ」
は?
フグッ
運転席から変な声がした。
ナッシーとか変な事言い出すから、おかしくて、吹いたんだ。
ウチにはウケなかったけど、良かったね。ウケて。
「し、失礼しました……」
「いやいや、俺、本当に友達にはナッシーって呼ばれてるんよ?? 運転手さんの名前は……? 渡邊 篤? ワッキーかナベさんだな」
ワッキーって変な顔の芸能人? だっけ。なんかいたよね。
「あー、実は、学生時代はその渾名でしたね」
「やっぱ? ワタナベさんはそうだよね。しかも、このナベ難しい邊じゃん? 友達は勿論、先公にまで簡単なので書かれなかった?」
「そうですねー! 簡略化されてましたね~」
「そして、自分でも簡略化してたでしょ?」
「ええ、斯く言う私も、公的な書類以外は簡略化ですねー予約とかいちいち書いてられないし、なんならカタカナだし、テストなんて、それだけで時間取られるし、クラスに中 一 って人がいて、羨ましかったです。まぁ、中1って渾名でいじられてたんですけど」
頭の中で並べてみたら確かに中1で思わず吹いた。
「やっぱり、ミヤビちゃんは笑ってる方が可愛い」
急に変なことを言われるからウチは真顔に戻る。
あーあ、勿体無い。
小鳥遊にそう言われるがお前には関係ないだろう。
あ、でもお客さんだからある程度愛想良くしないと、お小遣いに影響するかしら?
「あ、運転手さん、俺たちがどういう関係か知りたいでしょ」
「えぇ、まぁ。気になりますね」
いや、運転手さん、小鳥遊に懐柔されすぎだろ。
「実は、俺たち、カレカノで、付き合ってんのよ」
「ちゃうわ! 私たちはっ……!!」
大声で否定してしまったが、その後が続かない。
「ミヤビちゃん?」
いやいや、運転手さんまでその呼び方かよ。勘弁……
じゃ! な! く! て!!!
何かうまい言い訳を考えないと、ポリ公に補導されてしまう。
面倒なので勘弁して頂きたい。
隣の小鳥遊がパクられようが何されようがどうでも良いが、補導は勘弁。
また、ママに嫌な顔される。パパは怒らないだろうけど、ママの耳に入ればネチネチ嫌味を言われる。
お兄ちゃんが補導されても何も言わないのに。
ほんと、ヤなババァ。
「私達はそのっ」
「相乗りだよ。困ってる子がいるなぁって声掛けたんだ。そしたら、銀座まで行きたいんだけどお金が足りないって言うじゃん? ほっといたらアヤシイオジサンの自家用車にホイホイ乗るかもしれないじゃん?じゃあ、相乗りして割り勘する? って、変質者と思われないかドキドキだったけどね」
「の、乗りませんよ!!!」
口を尖らせ、上目遣いに相手を睨む。
大抵の男はこれが可愛いっていう。
すぐに自分の非を認めたり、埋め合わせをしようとしてくる。
「どーだか。今だって、俺に着いてきてるじゃん? 行き先が駅とかじゃなくて、ホテルとか俺ン家だったらどーするよ?」
「それは……」
ないとは言えない。
運転手に賄賂渡して、なんかこう……うん。
「まぁまぁ、ナッシーさんも良い人でしょう。困ってる女の子に変質者と通報されてもおかしくないのに声掛けて下さったんだから」
まぁ、じっさいは変質者に近かったけどね。ナンパだし。
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