カオスの遺子

浜口耕平

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序章 兵士への道

第一話 ロードと魔法軍

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鳥のさえずりしか聞こえないような静寂に包まれた森の中で、白髪の少年ロードが大きな木の下でぐっすり眠っている。

ロードの周りには薪が入った籠が置かれている。

どうやら薪集めが終わった後に疲れて眠ってしまったのだろう。

ずいぶんと長い間寝ているようで、陽の光があまり森の中へ入っておらず、小一時間もすれば夜になりそうな雰囲気を漂わせている。

すると、遠くからロードを呼ぶ声が聞こえてきた。

「おーい ロードどこにいるんだぁ~」

少し焦りを感じている声の調子でロードの名を呼んでいる。

しばらくして、声の主がロードの寝ている前に現れた。

ロードと同じ白髪で、寝ているロードを見下ろしながらリードはぽつりとつぶやいた。

(ったく…… 薪を拾いに森に行ってからいつまでも帰ってこないと思ってきてみたら、こんなところで寝ていたのか)  

青年はロードの前にしゃがみ込んで肩を揺らしながら声をかける。

「おい ロードいつまで寝ているんだ」

揺すっているうちにロードは目を覚ました。

「ふぅあ~ あれぇ、兄さんなんでこんなところにいるの?」 起きたばかりのロードは間の抜けた様子で答えた。

「お前が森に行った後、ずいぶんと時間が経っても戻ってこないから魔物に襲われたのかと思って心配してきてみたら…… こんなところで寝ていがって…」

「ごめん兄さん… 心配かけて……」 少し怒っているリードに対して、ロードはしょんぼりした返事を返す。

「まあいい…… お前が無事なだけでもよかった。じゃあ夜になる前に家に戻るぞ。」

ロードは元気な返事をした。そして、リードはロードが集めた薪の入った籠を背中に背負って歩き出した。ロードもリードの背中を追いかけるように歩き始めた。

帰りの道中の森は二人の足音しか聞こえず、ただ二人とも無言で帰路を歩いている。この雰囲気に耐えられなくなったのか、ロードがリードに話しかける。

「ねえ、兄さん魔物って何なの? いつも『暗くなってからは家から出るな』って普段から兄さんは言うけど僕は魔物についてよく知らないし、僕は何故兄さんがそう言うのかがわからないんだ」

するとリードは足を止め少し考えるかのような様子になり、間をおいてから再び歩き始めた。そして、魔物について少しずつ話し始めた。

「魔物は魔界の神でもあるカオスから生まれた存在で、古来より人間界へやってきてはこの世界に甚大な被害をもたらしてきた。魔物の持つ圧倒的な力を前に人々はなす術もなく蹂躙されてきたが、ある時、人々は魔法を開発しそれらを駆使することで魔物に対抗する力を手に入れた。それによって、魔界と人間界との間で長い戦争が起こり、今もなおその状態を保ったまま今日に至ったんだ」

話を聞いたロードは思ったことを次々聞いていく。

「なんで魔物はこの世界へやってきて僕ら人間を襲うの?」

「何故なんだろうなぁ… 俺にもよくはわからない。ただ、奴らはこの世界への負の感情によって存在している。嘆かわしいものだ…」

リードは哀愁を帯びた面持ちで話している。そこに、続けてロードは質問を重ねた。

「じゃあ、魔物との戦争では今誰が戦っているの? 町に住んでいる人?」

リードによると、ロード達が住んでいるこのエレイス王国には魔法軍という組織が存在していて、その軍の人たちが国民を守るために日々魔物との戦いに明け暮れているそうだ。さらに、この魔法軍には年に一回入軍試験が王都にて開催されており、今年は約1か月後に行われるようである。

「お前も魔法軍に入ってみたらどうだ? そうしたら、お前のその甘ったれた性格が治るかもしれないな」 微笑みながらロードに言った。

ロードは嫌そうな顔をしながらこたえた。

「えー 嫌だよ!そんな怖い魔物たちと戦うなんて! 僕は今の兄さんと二人でずっと暮らしていくからそんなの興味ないよ!」 

「そうか… それがお前の意志なんだな?」振り返ったロードの顔を見ながら尋ねた。

返事と共に大きく頷くロードを見た後、再び前を向いた。

どうやら話をしているうちに時間が経ったのか、前方には森の出口が見えている。そして、二人が森を抜け、颯爽とした草原を歩いていると前方に建物の影が見えてきた。

二人が建物の影に近づくにつれ建物の様子がはっきりとしてきた。ほとんどの建物は半壊又は、全壊しており人の気配が感じられない。おそらく随分昔に魔物の襲撃に遭い住んでいた人々がいなくなってしまったのだろう。

「やっと、ついたな…」 リードがそう言った目の前には、周りの建物とは違い補修された小さな家があった。

リードは肩にかけていた籠を地面に置き薪を並べていく… すべて並び終えるとリードは魔法を使い薪を適切な大きさにカットした。そして、カットした薪をロードは集めて家の中に運んだ。

家は二階建てになっており、一階は食事をするテーブルとイス、奥に台所、左右の扉の奥にはそれぞれ風呂場とトイレがあり、二階には二人の部屋と二人が寝る寝室がある。

ロードは薪を運び終えるとリードに「夕飯ができたら、呼んでね」といい自分の部屋へ歩いて行った。

夕飯を作り終えたリードがロードを呼び二人は向かい合ってテーブルの席に着いた

「わぁー 今日の夕飯は僕の好きなシチューだ!」

しかし、ロードはシチューを食べようとする手を止めてリードに話しかける。 

「ちょっと兄さん、シチューの中に野菜が入ってるんだけど!?」

「そうだな それがどうかしたか?」

「僕は野菜が嫌いなんだからシチューにいれないでよ!」

 ロードは不機嫌な様子で野菜を入れたリードに文句を吐いた。

「あのなぁ… お前はもう小さい子供じゃないんだから我慢して食べなさい」

 あきれた物言いで話すリードに対してロードはは野菜を食べるのは嫌と言い続けた。そして、しばらく二人で言い合いをしていたが、結局リードが折れてロードのシチューの中の野菜を全部自分の皿にのせた。

 野菜がなくなった皿を見てロードは満足げに夕食を食べ始めた。

 しばらくして、リードが頭を抱えながらこちらを見ていることに気づいたロードがどうしたのかと尋ねた。

「なあロード… あの森で捨てられていた赤子だったお前を拾ってこの家に移り住んでからもう11年になるが、体だけ大きくなって中身があの頃のまんまだな。いつまで俺に甘えてるんだ? もし、俺がお前の前からいなくなったら一人で生きていけるのか?」

リードの言葉にロードは食事を止め、考えるようにしてうろたえてしまった。そして、突然大きな声で叫んだ。

「兄さんがいなくなるなんて嫌だ!」 そう言い終えると、席から飛び出して、二階へと走って行ってしまった。

リードは呼び止めたが、ロードは呼びかけを無視して行ってしまった。そして、目の前にある食べ残しを見つめながら自身の今までのロードへの接し方を思い返している。

(あぁ… 今までのあいつへの教育が悪かったのか? 少し甘やかしすぎたかなぁ… そんなつもりはなかったんだがな…) 

「はあぁ~」深いため息をつき、リードはまた夕食を食べ始めた。



一方、ロードは寝室の自分のベッドの上で毛布にくるまって横たわっている。

(僕は今の生活がいい。兄さんがいなくなるなんて考えたくない。でも、もし、兄さんがいなくなってしまったら…)

ロードは深く考えようとはしないで、考えていたことを忘れるために眠りについた。



リードは食べ終わると食器を洗ったり、洗濯物を畳んだり、諸々の家事を済ませた後、風呂へと向かった。風呂から出ると自分の部屋へ向かい書斎の一番上の奥から一冊の本を取って席に向かいペンをとって座る。

本の表題には【日記】と書かれており、リードは日課として一日の終わりに日記をつけるようにしている。



――日記を書き終えると元の場所に戻し、寝室へと向かう。

寝室には二つのベッドが置かれており、既にロードは自分のベッドの中に入ってぐっすり眠っている。

リードはロードの前に立ちながら「安心しろ、俺はいつまでもお前を見守っている」と言い、自分のベッドの中に入り眠りについた



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