カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第十一話 侮辱と仕返し

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 兵士になったロード達は任務をこなす日々を過ごし、一か月経った頃にはキツイ任務に慣れてきていた。
 今日は兵士になって初めての休みなので、ウェインはロード達をねぎらうために町の食堂でご飯をごちそうすることになった。
 「今日は俺のおごりだ、好きなだけ食べて行ってくれ」
 「わーい、いっぱい食べるぞー」
 そして、ロード達は運ばれてきた料理を食べながら兵士としての仕事の激務について愚痴をこぼしていた。
 「いや~甘く見ていた、こんなにも兵士の仕事がしんどいなんてな…」
 「そうそう。でも、これも人々のためだからしょうがないよね~」
 「そうね。人のために働くのはいいことだと思うけれど、正直もう少し任務の数を減らせないのかしら?
  毎日任務ばかりで嫌になりそうだわ」
 「文句なら魔物に言ってくれよ。
  魔物も俺たちみたいに年がら年中、人を襲うから任務が減ることはあってもなくなることはない。
  まあでも、俺もこんな生活を続けていたら過労死しちまうよ。
  だから、今度もう少し俺たちの負担が減るように軍に掛け合ってみるよ」
 「頼むぞ、ウェイン。
  俺たちの休日はお前にかかってるんだからな」
 「ああ、しかしリードは疲れてなさそうで羨ましい。
  同じ任務をこなしているはずなのに、なぜだ? 何か秘密があるのか?」
 問われたリードは少し驚いたような顔になったが、すぐにいつもの表情に戻ってウェインの問いかけに何もないと否定した。
 「おい、エレイスのお前たちは雑魚狩りしかやってないのに、何が仕事がキツイだ。
  笑わせるんじゃねえッ! 俺たちローデイルの兵士の方がはるかに過酷だッ!」
 ロード達が話していると、若い男がいきなり話しかけてきた。
 男が着ている服の胸にはローデイルの刺繡が施されており、混血の証である漆黒の痣を顔に持ち、男はロード達を上から見下ろすようにして立っていた。
 男の問いに切れ気味でアレスが反論した。
 「ああ? こっちは毎日夕方遅くまで働いてんだよ、よく知らねえくせに貶してんじゃねえぞ!」
 「ふん、雑魚の魔物に手間がかかってるだけだろ?
  雑魚の始末ぐらい一人で十分だろ、いちいちチームで固まっていくからダメなんだよ」
 「チームで任務を行うことで仲間意識や連帯感が生まれ、強力な魔物に対抗できるようになるんだ。
  だから、俺たちのチームを否定するような言い方はやめろ!」
 ウェインは短い間とはいえ、ロード達の隊長として任務を行う中で育んだ仲間意識や連帯感を無視した男の言葉に強い怒りを感じた。
 「まあお前たち普通の人間は俺たち混血と違って弱いからな~ それなら死なないためにもチームを組んだ方がいいかもな」
 混血ではないロード達を馬鹿にするように、高笑いをしながら話す男にロードが話しかける。
 「混血だからって僕らを馬鹿にするなっ! それに、僕らは魔人だって倒したことがあるんだぞ!」
 「たかが一体や二体、魔人を殺したからって調子に乗るなよ、俺たちは普段から魔人と戦ってるんだからな。
  それに、混血が他の人間より戦闘において優れてることは事実だろ。
実際、お前たちの総隊長や地方の隊長どもが全員混血であることが何よりの証拠だ。
なにより、俺たち混血が強敵と戦っているおかげで、お前たちは雑魚しか相手にしなくて済むんだ。
だから、お前らは俺たちに感謝しろよ」
 「でも、でも… 僕らも頑張ってるんだ」
 「特にお前みたいなガキは、金だけかかる役立たずのゴミだ」
 「そんなに言うことないじゃない! ロードだって頑張っているのよ!」
 メリナはボロクソに言われて半泣きになっているロードの頭を撫でながら、男に向かっ  て叫んだ。
 「おい、そこまで俺たちを侮辱するなら、国同士の問題になるかもしれないぞ、いいのか?」
 ロードが泣かされたのを見てリードが男を問い詰めた。
 「それは困るな… それじゃあ俺は帰るわ」
 「おい、ちょっと待て」
 立ち去ろうとする男をウェインが引き留めた。
 「ああ、何だ?」
 「お前はさっき俺たちを“雑魚狩りばかりして弱い奴ら”だと言ったな。
  だったら、俺たちがお前らの代わりに魔人を倒して、俺たちのチームが強いってことを証明してやるよ!」
 「お前らが~? 別にいいぞ、その代わり倒せなかったら、一週間俺たちの言うことを聞け」
 「わかった、じゃあ俺たちが倒せたら、一週間俺たちの任務を代わりにやってもらう いいな?」
 「ああ、せいぜい魔人に殺されないように頑張れよ。雑魚狩り君~♪」
男はそう言ってロード達の前から姿を消した。
 
宿舎への道中、ロードは男から言われた言葉にショックを受けて気持ちが沈んでいた。
 「ねえ、僕って役立たず?」
 「いいえ、あなたは役に立っているわ。あの男の言うことを真に受けてはダメよ」
 「そうだよね、そうだよね 僕はチームの… 人の役に立っているもんね」
 メリナの言葉に元気になったロードだったが、リードはアレスが一緒にいないことに気づいた。
 「おい、アレスはどうした?」
 「さあ、店から出た時には一緒にいたのに、どこへ行ったのかしら?」
 「どうせまた飲みに行ってるんだろうな」
 アレスが飲みに行ってるとウェインが結論付けて、それに納得したロード達はアレスのことは気にしないで宿舎に戻った。
 真夜中になり、みんなが寝静まっているときにアレスはロードを無理やり起こした。
 「なにい~?」
 「おいロード、今からあいつに仕返しに行くぞ!」
 そう言ってアレスはロードを無理やり連れだし、西にあるローデイルの兵士が使っている宿舎にやって来た。
 ローデイルの宿舎はロード達が使っている宿舎と比べて綺麗で大きく立派なものだった。
 どうやら、アレスがいなくなったのは飲みに行ったわけではなく、男の後をつけて宿舎の場所を見つけてから兵士が寝静まるのを待っていたようだ。
 そして、アレスはローデイルの宿舎の入り口に侵入し、何やらこそこそやっていた。
 ロードを連れてきた理由はただの見張りだ。
 しかし、仕返しにやって来たアレスに、ロードは夜遅くに襲うなんてやめた方がいいとアレスに言ったが、アレスは聞き入れず仕返しの準備を着々と進めていった。
 「おいロード、ちゃんと見張っておけよ。これはお前のためなんだからな」
 「でも、こんな深夜に仕返しするなんて迷惑だよ」
 「馬鹿野郎! あんだけ言い放題に侮辱されて悔しくないのか?」
 「悔しくないわけではないけど…」
 「だろ!? それに、こんな外国の兵士どもが俺たちよりいい宿舎を使っているなんて許せんッ! 神に代わって俺が天罰を与えてやるッ!」
 「そっちが本心なんじゃ… で、何をしようとしているの?」
 「この家の水道を全部氷漬けにして、当分の間使えないようにしてやるんだ」
 いくら仕返しとはいえ、アレスの悪魔的な考えにロードは絶句した。
水道がなければ調理や洗濯、トイレや風呂などといった生活に欠かせないものができないようになるからだ。
そして、アレスは次々と水道を氷漬けにしていき、十分ぐらいしてすべての水道が凍った。
 「へっ、ざまあみろ」
 アレスは自分がやった仕返しに満足し、ロードを連れて宿舎に戻った。

 翌日、ロードとアレスが下に降りていくと他の三人が何かの話で盛り上がっていた。
 どうしたのかと聞いてみたら、ローデイルの宿舎の水道が全部凍っており、生活必要なことができないので、非常に困っているらしいのだと。
 それに、凍っている水道管をすべて変えるとなると最低三日はかかるらしい。
 「へえー、そうなのか。それは災難だな」
 そう言いながらも笑みを浮かべているアレスを見たロードは、アレスを敵に回さないようにしようと決心した。
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