カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第十四話 災厄の敵 カオスの遺子

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 帰宅後、メリナを彼女の自室へと運んだ後、リードは自室に戻って疲れから眠りに落ちた。残った三人は、軍へ報告し終えると、ローデイルの宿舎へと足を運んだ。ローデイルの宿舎は水道の工事をやっており、宿舎の入り口ではコルカスが工事をしている様子を眺めていた。
 コルカスはロード達が現れたことに驚いていた。
 「もう魔人を倒したのか?」
 「ああ、厄介な相手だったが、俺たちには敵わなかったわけだ。どうだ? 俺たちのチームは弱くはないだろ?」
 「そうだな、約束通りお前たちの仕事を請け負うよ。それに、酔っぱらっていたとはいえ、人前でお前たちを侮辱したことは悪いと思っている。すまなかった、お前たちは立派な兵士だと今理解したよ。あと、子供だからって馬鹿にして悪かったな」
 「別にもういいよ、魔人を倒すことができたし」
 (俺たちはなんもやってないけどな…)
 そして、コルカスは手を差し出すとウェインと固い握手をした。
 「これからもお互い人々のために頑張ろうじゃないか」
 「そうだな」
 「これなら僕の夢の“人々を魔物の脅威から守る“ことが案外簡単にできるかも~」
 ロードは今までの魔人との戦いで自信がついたのか、楽観的な思いをみんなに打ち明けた。
 その言葉を聞いて、コルカスとウェインの顔をしかめた。
 「確かに、魔物や魔人だけならなんとかなるかもしれないが、相手が“カオスの遺子”なら話は別だ」
 唐突にカオスの遺子という言葉を口にしたコルカスに、二人は何のことか分からず、疑問をコルカスにぶつけた。
 「カオスの遺子ってなに?」
 「俺も聞いたこともないな。ウェインは知っているのか?」
 二人が知らないのを見て、コルカスがウェインに問う
 「なんだ? まだ遺子たちについて教えていないのか?」
 「ああ、入隊したてのこいつらにはまだ早いと思ってな、追々話すつもりだった。でも、そろそろ話しておくべき頃合いか」
 「なんだよ、もったいぶってなくて早く教えてくれよ」
 「僕も知りたい!」
 急かす二人に押されながらも、ウェインは二人に言った。
 「宿舎でメンバー全員が揃ってから教えるよ」
 その後、ロード達はコルカスに別れを告げ宿舎に戻り、メリナとリードが起きると、みんなを一階のテーブルに集めた。
 「なあ、早く教えてくれよ」
 「慌てるなって。一つ注意しておくが、この話は他の誰にも言っちゃだめだからな、特に兵士以外の一般市民には」
 ウェインの注意にそれぞれが納得したのを見計らって、カオスの遺子について話し始めた。
「俺たちが最初に出会って、ここで軍についての説明などをした時に各国との軍事同盟の話をしたな? カオスの遺子とはその原因になった存在だ」
 「ってことは各国が手を握らないと対処できないほどの脅威というわけか?」
 リードがウェインに問いかけた。
 「その通りだ。カオスの遺子は魔神カオスが生み出したとされている。姿や形は普通の人間と大きな差異は見られないが、実力は一つの国家と同等あるいはそれ以上だ。千年以上前から存在していると言われてるが、千年以上前の文献や痕跡などは、今となってはどこにもないし、誰も知らない。そして、現在確認されているカオスの遺子は『第一遺子バベル』 『第二遺子アリスター』 『第三遺子ラフィーネ』 『第四遺子クラウディウス』 『第五遺子ウェスタシア』 『第六遺子バサラ』 『第七遺子ベルナドール』 『第八遺子アイスショット』 『第九遺子ディーン』 『第十遺子ロイド』の十人だ」
 「バサラ!?」
 かつて九尾の男が探していたバサラという人物の名前が出てきたので、アレスは一瞬驚いた表情を見せた。
 「知っているのか、アレス?」
 アレスの知っていそうな様子にすかさず反応して見せるウェイン。
 「俺の復讐相手がその名前の人物を探していた…」
 「何だと!? それは本当か? まさかそんな奴がいるなんて……」
 ウェインもまた驚いた。
 カオスの遺子を探している魔人など今まで聞いたことなかったからだ。
 しかし、そのような魔人が存在すると分かったからには、急ぎ軍へと報告しなければならない。そして、すぐさま対応する必要がある。
 すると、ロードがウェインに質問した。
 「ねえ、ウェイン。その遺子たちが人々の平和を脅かす一番の脅威なの?」
 「ああそうだ」
 「だったら僕の夢はそいつらを全員倒したら叶うってことだよね?」
 「そうだが、カオスの遺子と戦うことはやめておけ」
 「え~ 何で?」
 「強いこともあるが、一番の理由は奴らを殺す方法がないんだ。奴らにも魔核があることが知られているが、人間が使う魔法では傷一つつけることはできない。だから、封印して閉じ込めるか、戦って魔界へと撃退するかだ。その昔、ヤマトでは第六遺子を封印することができたが、そのために多くの犠牲を払った。だから、上位の遺子との戦いは、軍はできるだけ避けるようにしている」
 「魔核を壊せないなら、ロードの魔法で魔核を吸い取ればいいじゃないか」
 リードはロードの魔法が有効になると確信していた。
 「確かにいい案だが、本当にそれでカオスの遺子の魔力を吸い取れるのか? やってみないと分からないし、軍の許可も必要になってくる」
 ガクンと肩を落として落胆しているロードの頭をリードが撫でている。
 「とにかく、カオスの遺子には俺たちだけじゃどうしようもないから、遭遇しても頑張って逃げることが第一だな」
 すると、それまで黙って話を聞いていたメリナがウェインに疑問を投げかけた。
 「遭遇したら逃げろって言うけれど、人間とほとんど差異がないならどうやってカオスの遺子だって見分けるのよ」
 「おっと忘れていた。ちょっと待ってろ」
 そう言うと、ウェインはおもむろに自身のポケットから一枚の紙を取り出した。
 取り出された紙には、黒く塗りつぶされた太陽とその周りに十本の黒い火柱が描かれていた。
 「カオスの遺子にはこのような模様が体にあるからこれを見たら気をつけろ。いいか発見しても決して近づくな。じゃあ今日はここで解散」
 ウェインが手を叩いて解散を命令した後、四人はウェインが描いた模様をまじまじと見つめ終わると、自室へと戻っていた。
 
 「どうしたんだよ~ ロード? そんなに落ち込んで? カオスの遺子と戦うことをウェインに拒否されたからか?」
 部屋に戻ったロードはベッドの上で毛布にくるまり体全体を隠していたので、アレスが面白がってくるまっているロードにちょっかいをかけ始めた。すると、顔だけ毛布からだして、アレスを見つめた。
 「そうだよ。もしかしたら僕の魔法が遺子たちに効くかもしれないけど、ウェインの言う通り、やってみないと分からない。でも、もしカオスの遺子に出会って、僕の魔法が効くのに戦わなかったら、この町の人やそれ以外の人が大勢亡くなるかもしれない。そうなったら、僕の夢はどんどん離れていっちゃうから、僕はそれが嫌だ」
 人類の最大の脅威であるカオスの遺子について教えられたロードにとって、遺子との戦いは自分の使命だと直感的に感じた。だが、戦いを拒否されたことは夢に近づけないということだ。
 「まあ、ウェインも別に悪気があったわけじゃないんだから、そう落ち込むなよな~ あいつは俺たちのことを大切に思っているから心配なんだよ」
 「だったら僕がもっともっと強くなればいいんだね? ウェインが心配しなくてもいいように」
 「ああ、その時には俺はお前と一緒に戦うぞ。そうすれば、俺もあのくそったれの野郎に出会えるかもしないしな」
 「ありがとう」
 「よし、それじゃあ休み明けの任務からはお互い強くなれるように頑張ろうな」
 「うん。他のみんなも一緒にね」
 「そうだな、みんなでな」
 そうして、カオスの遺子との戦いに備えて強くなろうと決めたロードは深い眠りに落ちた。
 
 
 
 


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