カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第三十話 特別任務 カオスの遺子を迎え撃て!

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 「……カオスの遺児、、 カオスの遺児が現れたってどういうこと? それにコルカスが死んだって……」
 突然の告白に呆然としていたが、一早く我に返ったロードがウェインに事の詳細を尋ねた。
 「お前たちが出かけた少し後に、基地からリズが大急ぎで走って来てな、、 そこで何があったのかを聞かされたんだ」
 
 ロード達が宿舎を出て少しした後、、
 「はあはあ、、 ウェインいる!? 大変よ! コルカスが、コルカスが!!」
 「落ち着けコルカスが一体どうしたんだ? 何か悪いことがあったのか?」
 「コルカスが死んだのよ! カオスの遺子に!!」
 「は? おいおい何言ってんだよ。冗談はやめろよな…」
 コルカスの死が受け入れられないウェインはリズが嘘をついているのだと信じたかったが、リズの慌てふためいた様子を見て、コルカスの死を嫌でも認めざるをえなかった。
 カオスの遺子と聞いて同じ場所に居合わせたリードもリズに詰め寄った。
 「一体誰が来たんだ? 答えろ!」
 「今から順を追って話すわ」
 そして、リズが語った話は信じられない話だった。

 「これで最後か?」
 「ええ、これでこの地域の魔物は一掃できました」
 コルカスとガロンは二人である地域一帯の魔物を討伐しに来ていた。
 「やっと終わったか~、今日は少なくてラッキーだったな」
 「そうですね~、今日は早く帰って休みましょうよ~。ずっと探索してたから疲れました~」
 「じゃあとっとと帰るか! アイツらも今日は休みだからゆっくりしてるだろうしな」
 「行きましょう。 ……あれ? おかしいなここから北の方向に人型ののようなものが出現したぞ、、」
 リリエラは螺旋回廊オートマタを閉じて町に帰ろうとした時に、範囲内に人型の何かを探知した。
 「どれくらいの距離だ?」
 「ここからまっすぐ北に二百メートルほどです」
 「ということは、範囲外から中に侵入したわけじゃなさそうだ。なら、特異点が発生したのかな~?」
 「どうでしょう? 今感知できているのは一体だけですし、特異点ならもっと魔物が出てきてもいいはずです」
 「クソッ! 休暇は一先ずお預けだ! リリエラ、今からそいつのところまで案内しろ!!」
 急に現れた者の正体を確かめるため二人はリリエラの案内の元、その者の場所へと向かった。
 しばらくして二人がたどり着くと、広大な草原の中に人が一人、ポツンと突っ立っている。
 その者はどうやら男で、コルカスら二人に背を向けながら空を見つめていた。
 「おいお前! どこ出身だ? ここら辺は魔物が出るかもしれないから俺たちについてこい、案内してやるよ」 
 コルカスは男が魔人と違って禍々しい姿や魔力を放っていなかったので人間だと思い、急いでこの場所から離れて安全な場所へと非難させるために声をかけると、男は二人の方へとゆっくり振り返った。
 振り返った男の顔を見て二人は驚いた、なんと男の額にはカオスの遺子の証でもある漆黒の太陽の紋様がデカデカと映し出されていた。
 「「か、カオスの遺子!」」
 二人は一歩身を引いて臨戦態勢に移った。
 「おいリリエラ、お前はもっと下がれ。お前一人でもコイツの情報を持って帰らなければ、対処が遅れてしまう」
 コルカスに言われてリリエラはさらに距離を取った。
 「おい矮小な人間、バサラはどこにいる?」
 「誰だお前? 要件があるなら名乗ってからにしろ」
 すると、男は魔法でコルカスの左足を吹き飛ばした。
 「隊長ッ!!」
 「来るなリリエラ!!」
 足を吹き飛ばされたコルカスは地面に崩れ落ち、左足から出る大量の血を抑えて止血をしている。
 男は崩れ落ちたコルカスに向かって行きながら、「お前誰に向かって口を聞いてんだ? 俺が質問しているんだ。お前はそれに答えるだけでいいんだ」と言い腰を下ろした。
 「フン、お前が名乗らなきゃ俺は死んでもお前の質問には答えない」
 コルカスは名前だけでも聞きだそうと必死だった。
 「まあいいだろう。俺の名はクラウディウスだ」
 「クラウディウス…… 第四遺子か、、」
 名前を確認しコルカスはリリエラの方を向いて目で合図すると、リリエラは町に向かって走り出した。
 「まあいいか一匹ぐらい。名乗ってやったぞ、さあ俺の問いに答えろ。今バサラはどこにいる」
 「ハハハハハ、お前の質問に答えるわけねーだろバーカ。どんだけ馬鹿正直なんだよ」
 コルカスはクラウディウスに対して最後まで屈さずに抵抗した。
 しかし、その態度に怒り心頭になったクラウディウスはコルカスを細切れにするように魔法を放った。
 「何だその無礼な態度は!! 俺は神の子だぞ! 人の子が神の子である俺をたぶらかすなんて傲慢にもほどがあるぞ!!!」
 「ハハハ、、 ハハ……」
 コルカスはクラウディウスに一矢報いることはできなかったが、遺子への最後の抵抗は兵士として生を全うした行為だった。
 こうして、コルカスは死に、リリエラは無事エルマの町に戻ってこの一連の流れとクラウディウスの特徴を基地の人たちに説明した。

 「あ、ああ……」
 ウェインの話を聞いて、ロード目をこすって泣いてしまった。
 「よしよし。わかるわよあなたの気持ち……」
 ロード以外は泣いていないとはいえ、このようにして仲間を失ってしまうことは悲劇であり、みんな悲しみに暮れていた。
 「ロード、泣いていてどうする。今こそお前はカオスの遺子と戦うべきじゃないのか?」
 リードの言葉を聞いてロードは涙を拭くと、「そうだよね。僕の今やるべきことは泣くことじゃなくてコルカスの仇討ちをすることだよね」と言い、メリナとアレスもロードに続いてコルカスの仇討ちをすることを決心した。
 「お前らの気持ちはよく分かる。早々にコルカスの仇を討ちたいのはわかるが、少し待て。遺子が出現したという報告は、今王都や各地方の隊長の元へと送られている」
 「だから、お前たちは軍からの指令があるまで町を離れずに待機していろ!!」
 「「「わかった!」」」
 こうして、ロード達はクラウディウスとの決戦に向けての準備を始めた。

 一週間後、事態は急を要することもあってかザクレイがエルマの町に到着した。
 この一週間の間にエルマの町付近の町や村が壊滅するほどの被害が出ており、避難民が大量に大都市に押し寄せる事態になっていた。
 ザクレイはカオスの遺子と戦う意思がある兵士を募って基地の一室に集めた。
 集まった兵士はロード達とガロンたち九人の兵士だけで、他の二カ国の志願者は一人も現れなかった。
 それもそのはず、カオスの遺子は、原則として隊長レベルの実力があって初めて戦いになるかどうかの相手であるため一般の兵士ならむやみに戦おうとしないのも当然のことである。
 しかし、今ここに集まったのは復讐に燃える命知らずの兵士たちであり、ザクレイは戦う前にカオスの遺子とクラウディウスのことを事前に皆に伝えるために呼び寄せたのだ。
 「みんな集まってもらえて感謝する。今この国に災厄が出現し、同胞であるコルカスの命が失われた。
  だが、彼が命に代えてもたらした情報は、我々を勝利に導いてくれるだろう。今日集まってもらったのは、お前たちの勇気ある行動に俺も報いるため奴らの情報を共有することだ」
 ザクレイはみんなの前に出てこの集まりの意義を語った後、クラウディウスの事について話し始めた。
 「知っての通りクラウディウスは、カオスの第四遺子であり、遺子の中でも上位に君臨する存在だ。本来なら我が国のみならず、すべての国が協力して対処しなければならない相手ではあるが、今は俺がこっちに来られるだけの時間しかない。
  もし、俺以外の隊長や他国の力を借りるのを待っていたら、おそらくこの地方のみならず隣接する地方も消えてなくなってしまうだろう」
 「だから今ここで、俺たちがこの大きな相手に立ち向かう必要がある!」
 「確かに今の俺たちの力じゃ太刀打ちできないだろう。だが、それでも助けが来るまでの時間を少しでも稼ぐことはできる。俺たちには時間はないが、幸い考える頭を持っている。それでは今からクラウディウス戦を想定した議論に入る。何か質問はあるか?」
 黙って聞いていたガロンが口を開いて質問をした。
 「それじゃあ俺たちに死ねと言ってるのか? あいにくだが俺は死ぬつもりなんてさらさらないぞ、俺たちの目的は隊長の仇討ちだ」
 ガロンらローデイルの兵士たちは、コルカスが死んでロード達以上に復讐に燃えていた。
 「そう聞こえたなら先に謝っておこう。だがな、もしこの人数でクラウディウスと戦うなら死はあらかじめ覚悟しておけ。それが嫌なら立ち去っても構わないぞ」
 しかし、ザクレイの退出を促すような言葉に誰も従わず、全員が前にいるザクレイの方を見て作戦を聞こうとしていた。
 その様子を見たザクレイは一息ついてから話し始めた。
 「じゃあこれから作戦について説明する。まずはこの地図を見てくれ」
 ザクレイは後ろにかけてある地図を指さして今の状況を説明し始めた。
 「これはタンタリオン地方の地図にクラウディウスによる被害を合わせたものだ。見ての通り、クラウディウスは西から東へこの町へ向かっているかのように暴れている。このままではやがてこの町にぶつかるだろう。
  だから、俺たちはこの動きをどこかで止める必要がある」
 「じゃあ、どこかで待ち伏せでもするの?」
 「その通りだロード。この町から西にあるドンドロの森で奴を待つ」
 「奇襲攻撃でもするつもり? それって不死身の遺子に効果はあるの? ロードの魔法を使って一か八かでやってみるの?」
 メリナは森で待ち構える作戦にはどうにも腑に落ちない点があり、それは不死身の遺子への奇襲攻撃の有効性であった。
 「いや俺以外にも隊長がいるのなら考えてもいいが、今はそんな危ない賭けはしない。それにやるとしたら下位の遺子からだ」
 「じゃあどうするの?」
 「奴の進行方向を南に変える。森の中にしたのは、方向感覚を少しでも紛らわせるためだ。森の中央でリリエラの探知で敵を待ってから、お前たちが南へ誘導させるように攻撃しろ、直接の相手は俺がやる」
 ザクレイの作戦はこうだ。
 まず、森の中でリリエラの螺旋回廊オートマタを発動してクラウディウスが森の中央まで来るのを待つ。 
 次に、中央に来た時にメリナの風魔法で周囲の木を切り倒しながら暴風でクラウディウスの方向感覚を狂わせる。
 次に、ザクレイ以外の全員が南へ誘導するように攻撃して、ザクレイ自身は直接殴りこんで相手に他のことを気取られないようにできるだけ戦闘を続ける。
 このような作戦を立てると、みんな納得してすぐさまドンドロの森へと向かうように立ち上がったが、アレスが一つ提案をした。
 「そんなことやらずにリードが他の場所に飛ばせばいいじゃん」
 みんなリードの空間を切り開く魔法を思い出すと、そっちの方がいい方法だと躍起になってリードに詰め寄るが、リードはそんなことはできないと否定した。
 「俺の魔法はこのように空間を開いて自分の手元に持ってくることができるが、他の場所へと放り出すようなことはできない。俺の空間は引っ張ってくるしかできない一方通行なんだ」
 この否定により、アレスの提案は却下された。
 こうして、ロード達はこの対クラウディウス作戦を実行するためにドンドロの森へと向かった。
 

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