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責任感と守る盾
しおりを挟む「ねぇ、わたしがとつぜん、へんなヤツに
さらわれちゃったらどうする?」
「? …どうしたのさ、きゅうに」
「ん~、なんとなく。ねぇねぇどうするの?」
「あぁ~? ん~? そうだなぁ、とりあえず
どうにかしてすくうやりかたをさがす。それでも
ダメだったらまわりのみんなのちからをかりる。
んで、へんなヤツをブッたおして、オメーをすくう!」
「…ふふっ、ありがと」
「まっ、オレやみんながそばにいるかぎり、オメー
がさらわれることなんてないとおもうけど!それに
オメーみたいなちんちくりんでアホなやつ、だれが
さらうんだってんだ!」
「むーっ!ひっどーい!」
「ハッハッハッハッハッハ!」
「ふふっ、アハハハハハハ…」
彼女と笑い合った、幼き日の記憶。
こんな大切な記憶が、まさかこんな形で脳裏に甦る
ことになるとは、俺は全く思いもしなかった。
ロワイヤルの命令で、惑星 オートマーリに赴いた
ジイさん、オリンピアス君、ヴァルーナちゃん、
ミギヒダちゃん達5人が そこで見たある光景が
気になったことから、前回の一件は始まった。
ロワイヤルとエレーネアちゃんが初回に侵入した
ゴールドマスク・コーポレーション。売却されていた
ビル内の管理室に写っていたのは、謎のピラニア怪人
『ビラゴン』が用済みとなったであろう社員達を全員
粛清していたところだった。コイツの呟いた一言を
手がかりに2人は僕達 六帝将を連れて、ビラゴンが
呟いたナリマ半島に向かった。途中、ミドイヤルが
裏切ったり、ビラゴンにグリーネアちゃんが
捕まったりといったアクシデントこそあったけど、
なんとかビラゴンを倒し、ゴールドマスクの秘密を
覗こうとした… 矢先、グリーネアちゃんがデータを
入れたはずのUSBに何も入ってないということが
判明する。その時、突如として空が割れ、その中に
エレーネアちゃん、ジイさん、オリンピアス君、
ヴァルーナちゃん、ミギヒダちゃん達、アカイエの
ふたり、ミドグリのふたりは吸い込まれてしまった。
残ったのはロワイヤルと僕達、アオブルのふたり。
4話という段階で早くもこのピンチ。果たして僕達は、
そして彼は、どう突破するのかな?
「アオイヤル君も随分メタいこと言うね~」
ジャークネスの司令室。巨大モニターの下に配置
され、コンソールをいじれる高さにある1人用の
ソファに座りながら、俺の心は絶望感に包まれて
いた。その上、顔は自分では分からないけど、とても
疲れきっていたと思う。まぁ当然だろう、アイツらが
吸い込まれていった後、俺とアオイヤルとブルーネア
は、必死に連絡をしたりで、あらゆる方法でアイツら
を連れ戻す… そうはいかなくても、連絡が取れる手段
をとにかく必死で探っていた。だが、何をしても
アイツらの声も姿も確認できず、結果は時間の無駄で
しかなかった。それぞれのスマホに連絡しても、
俺達の耳に返ってくるのは
「おかけになった電話番号は電波の届かない場所に
あるか、電源が入っていないためかかりません』
この無機質な機械音声のみ。アオイヤルもブルーネア
もアイツらを連れ戻すのに必死になりまくっていたから
今頃、氷結工房でぐったりしてるだろう。そんなことを
考えていたら猛烈な睡魔に襲われ始めた。バカか俺、
いやバカだけど。やめろ俺。確かに寝てないし、今は
深夜になろうとしている11時だけども、こんな時に
寝るわけには…! そんな俺の意思とは裏腹に、
5秒後には瞼は閉じられ、俺の意識は消えていた。
アンドロメダ座系。それはたくさんの惑星が繋がり
合って、実際にアンドロメダ座の形を形成している。
この他にも、カシオペア座系、ペルセウス座系、
ケフェウス座系 などなど、全部でおおよそ88の
星座系が存在する。この設定、まるでどっかで聞いた
ことあるだろうけど、この世界線の宇宙は某宇宙幕府
に支配されてないのが最大の違いといったところかな。
また、初回に登場したエニウェートみたく、
星座系に属していない惑星も数多く存在していたり。
そのアンドロメダ座系の領域の星々を統括している
のが本星。その本星の名は、『ベレノイア』。
俺、コズモル・ロワイヤルと妻、コズモル・エレーネア
そして執事のクラーケ・デム・ザップの故郷の惑星でも
ある。俺はそんなベレノイア星人のコズモル夫妻の
もとに産まれた。ワイルドに顎ヒゲを生やしている
ガタイのいい男前の父と、エレーネアとは違う方向で
美しい淑女って感じのおしとやかな美人の母。
そして俺の産まれた瞬間にも立ち会ったもうひとりの
親の様な存在である、クラーケ・デム・ザップ。
この頃からコズモル家に仕えていたそうだ。
親父もお袋もジイも俺のことを可愛がり、慈しみ、
愛してくれて、俺は産まれた時から本当に幸せだった。
そして、もうひとり。家族同然に育った奴がいる。
それがのちに俺の妻となる、旧姓はマルチーの、
エレーネアだ。俺が産まれた2日後にエレーネアが
産まれ、俺達ゃ覚えちゃいないけど 赤ちゃんの頃
に初めて顔を合わせ、出逢った。それこそまさに
今に至るロワエレ夫妻の伝説の始まりになるとは
この頃は誰も、当然のごとく思いはしなかった。
エレーネアの両親は 俺の両親とは旧知の仲であり、
なおかつ仲が良いため、必然的にエレーネアと
一緒になる機会が多かった。彼女を見ない日は
ないほどに… といったら大袈裟かもしれないけど、
少なくとも子供の頃の人生の半分くらいは彼女と
一緒にいたことになる。こんな感じで、今の創作物
あるあるな幼馴染と俺は結婚して所帯を築いたわけだ。
…自慢したいわけじゃない。余談が長すぎた。
話を戻すが、俺はその中である記憶を思い出す。
ベレノイア星にあるガワタマ幼稚園。その卒園式を
終え、俺とエレーネアは先程まで卒園式が行われて
いたばかりの 立って、ぼんやりと光を眺めていた。
夕暮れが近づく中、そこに反射する陽の光が
幼稚園生活を終えたという事実、そして小学生生活、
義務教育のはじまり というなんともいえない
寂寥感を感じさせていた。まぁガキん頃はそんな
シャレオツな例えは出来なかったろうが。
すると、幼稚園児を終えたエレーネアは何かを
聞いてくる。それに対し、幼稚園児を終えた俺は
にっこり微笑んで、何かを言った。エレーネアは
それを聞くとむーっとむくれだす。俺はそれが
おかしくて笑い出す。彼女もそれに釣られて
笑い出した。そうだよ… 大事だったはずなのに、
ほ~んの些細なことで忘れてしまった、大事な記憶…
次に目を開けた時、俺は激しい違和感を覚えた。
真新しいシルバーのラインが走る天井がぼんやりと
見える。そして聞こえる音も 鼻に届く匂いもさっき
とはまるで違う…。 夢…だったのか。この夢、久しぶり
に見た気がする。結婚する前、新婚時代はたまに
見てたけど、最近は今の姿のエレーネアと一緒にいる
夢ばかりで、小さい頃のエレーネアが出てくる
夢なんてめっきり見なくなった。でもあの出来事は
ガキん頃の俺にとっちゃあ印象深くて、大事な記憶
だった。脳みその根底に埋まってたのが 何かの偶然で
夢となって引っ張り出されたんだろう。しっかし、
大事な記憶を夢で思い出すとか、俺もまだまだだなぁ…
なんて思ったり。俺は不意に 自分の手を見たあと、
ソファを立ち 駆け出していた。もう俺のやることは
決まっている!そんな気分だった。
昨日の事件からジャークネスは惑星 オートマーリ近辺
で止まっていたため、俺はロワイヤクラウンにのって
惑星 オートマーリに単身で赴いた。行き先は勿論
昨日 エレーネア達が吸い込まれた海岸。俺はスマホを
取り出し、エレーネア達に電話をかけた。これ自体、
昨日 何回もやってて失敗してるけど、とにかくやらず
にはいられなかった。あんな夢見たんだし 尚更だ。
エレーネアがダメなら、ジイ… がダメなら、
オリンピアス… がダメなら、ヴァルーナ… ととにかく
必死になって俺は全員のスマホに連絡を入れた。
「頼む…!ホントマジでよ…!オメーら、
まだやられてねぇって信じてっからさぁ…!!」
走ってすらいないのに、おまけに空は太陽が
雲に閉ざされたグレー一色だっていうのに
汗が吹き出し、心臓がドクドクと音を立て、
頭の中で、なんとしても取り戻さなきゃ… アイツらは
俺の家族なんだぞ… アカイヤル達4人だって
助けねぇとよ もしこれで永遠に帰ってこないなんて
ことになったら俺の両親やエレーネアの御両親、
アカイヤル達の御両親に申し訳が…!などなど
とにかくさまざまな感情が渦巻く。そしてグリーネア
にかけた呼び出し音が止むと 俺のスマホからは…
「おかけになった電話番号は電波の届かない場所に
あるか、電源が入っていないためかかりません』
やっぱりとゆーかなんとゆーか、無機質な機械音声
のみが返ってきた。それを聞いた直後、俺は跪き、
やり場のない怒りとともに叫び、地面を殴った。
サラサラした砂が俺の左拳と両膝にまとわりつく。
すると、何やらただならぬ殺気が背中からひしと響き
振り向くと、俺に向かって飛んできたのは灰色の
エネルギー弾。間一髪で俺はそれを躱したが、
このエネルギー弾には見覚えがあった。
「これは…?ハッ!確かあの時、俺がエレーネアの
手を掴んでた時に飛んできたやつじゃ… コイツの
せいで俺はアイツらと引き離されたんだ…!」
「フッフッフッ… ご名答。家族や部下に執着すると
いう情報は本当だったようだな。必ずまたここに
現れると思って、待っていたのだぞ? フフフフフ…」
「お前!どっかで見たことある面だな…? …そうか!
バキシー・ム・バンリキー!…だったよなお前」
俺の前に現れたのは、左の顔を黒い仮面で覆い、
マントを翻しながら屈強な肉体を包む戦闘服を
着ている男。名は『バキシー・ム・バンリキー』。
ゴールドマスク・コーポレーションの大株主にして
この惑星 オートマーリで一番の大富豪。しかし、
この間 見た都市伝説系の動画の情報によると、
その実態ではそういった社会的地位を隠れ蓑にして
あくどいことをやりまくる、どこにでもいそうな
わかりやすいクズ権力者の見本みたいなやつ…
という噂が流れてるらしいが、目の前にいる本人の
やな感じからして どうやらその噂はホントらしい…
と半ば強引に解釈するには十分だった。
「おいおいいいのかい?この惑星の経済界一の
大物が悪党の俺と遊んでよ?マスコミにバレたら
どうすんのさ?権力でもみ消しちゃう系?」
「ほぉ… わかってるじゃないか。証拠隠滅のために
ゴールドマスクの関係者共を皆殺しにしたはいいが、
貴様らのような外部の存在に、情報が洩れかけ、
工作員共を差し向けても、結局 負けて、挙句
ビラゴンの奴でさえも愚かにも殺られたもの
だからな。ここは私が直々に出張らねばならないと
思っただけだ。お前の言う通り、私は何かあれば
権力で全てをもみ消せる。昨日のアレも、私が
ひとたび圧力をかければ、マスコミはすぐ恐れ
黙った。あの時、あのまま全員 吸い込もうと
思ったが… 必死に妻の手を掴むお前がなかなか健気
だったものでな、そんなに大切ならば 引き離したら
どんな表情をするのかと思って… お前に攻撃してみたら
見事にお前は妻の手を離し、あの時のような絶望と
苦悶に表情をしたわけだ!いやはや、アレは
実にいい表情だったぞぉ… アレは」
いつもならこういう長ったらしいセリフは、文字数の
無駄だろうと思うだけで あまり本気で聞いていない。
しかし、今回に限っては彼のその長ったらしい
セリフを一言一句 聞き逃さなかった。昨日の
エレーネアや家族やアイツらと引き離された原因が
全てコイツのせいだと、さらに俺のエレーネア達を
思う一心で手を離さなかったアレが健気、おまけに
俺の絶望と苦悶に満ちた表情が見たかっただけに
あんなことをしたのか? 暇を持て余した金持ちの
遊びにしちゃああまりにも度を越しまくってて
クソすぎる、ふざけんな。いやもうこれは
正直言ってふざけるのレベルを大きく下回ってる。
俺は腑が煮えくり返っていた。特撮に対する侮辱も
そうだが、家族に対して侮辱となると その憤慨の
気持ちは頂点に達している。そういや、
マラカロの時もそうだったような。とにかく、
俺はエンペライトセーバーを構え、バキシーも
武器である巨大な槍を構え、相対する。
「許さねぇ…!よくもエレーネアを…!
アイツらを…!アイツらの居場所を
知ってるなら、力づくでも吐かせてやる!!」
「やれるものならやってみるんだなぁ!」
バキシーは俺達がこれまで殺してきた大富豪や実業家
の例に漏れず、ただ金と権力持ってるだけで実際に
殺られそうになったらなんの太刀打ちも出来ずに
死ぬ奴だろう… と思ってたら、俺の剣戟に槍で互角に
渡り合っていた。このケースは実は初めてだったり
する。金と権力を持ってるだけでなく、実際に戦える
相手は。互角に渡り合っていたが、バキシーは俺の
エンペライトセーバーとの鍔迫り合いの際に片手を
槍から放し、俺の腹部に当てると その片手から
灰色のエネルギー弾を大量に放つ。この不意打ち戦法
には流石の俺も対処しきれず、地に転がった。
「フッフッフッフッフッ… どうした? これが
巷で噂の悪党一家、コズモルチーのボスの実力か?」
煽るバキシーに、俺はどうにか立ち上がりこう返す。
「うるせぇ…!その一家は今 俺しかいねぇんだ…!
テメーの言う一家に戻りたいんだよ…!
だからさっさと居場所を教えやがれ!!」
「ほざけ!!」
再び俺とバキシーは戦い出すが、どうも今の俺は
精神的に焦っているらしい。そのせいでいつもの
本調子が出ない気がした。そのせいか俺はバキシー
の槍の一撃で、エンペライトセーバーを落として
しまい、バキシーの灰色のエネルギー弾を喰らい、
挙句 バキシーの槍の一撃を受け、空中でひっくり
返った。しかしひっくり返りながら俺もさっきの
不意打ち戦法のお返しと言わんばかりに、右手から
黒いエネルギー弾、左手からは黒い雷撃を発射した。
思った通り、この不意打ち戦法はさっきの俺と同じく
バキシーは対処しきれず、モロに喰らって爆発。
全身から火花を散らしながら どこかへと飛んで
いった。ひとまず追い払うことには成功したが、
まだ殺ってはいない。必ずまた出てくるはずだ。
頭ではそういろいろと考えているものの、
体はそれに追いついておらず、既にボロボロ。
その状態を示すように俺は倒れた。
俺は無念な悔しさを抱いて砂をつかみながら、
愛する妻と家族、そして部下達のことを
最後まで想いながら意識を手放した。
「エレー… ネア…。みん…な…」
何か鬱蒼とした感じがする風になでられる感触に
撫でられたのか、私…コズモル・エレーネアは目を
覚ました。すると、真っ先に目に映ったのは 緑色の
三角形がところどころに敷き詰められた黒ずんだ
深緑色をした床だった。どうやらこの床に伏せる
ようにして私はぶっ倒れてたらしい。
「いてて… なによったく…」
そう私はぼやくようにして呟きながら体を起こした。
また鬱蒼とした感じがする風が微かに吹いてくる。
さっきはぼんやりとしか感じなかったが、意識が
ハッキリしてる今度は 鬱蒼だってひしと感じた。
立ち上がりながら私は今、自分がいる場所を
見ようとしたら、横に倒れているオリンピアス、
ヴァルーナ、ジイ、ミドイヤルの4人が倒れていた。
まさかと思い後ろの方も見渡すと 案の定 ウミギロン、
サヒダロン、アカイヤル、イエーネア、グリーネアの
5人も倒れていた。私は慌ててオリンピアスと
ヴァルーナに駆け寄り、呼びかけながら背中を
揺さぶった。その次はジイ、ミドイヤル、ウミギロン、
サヒダロン、アカイヤル、イエーネア、グリーネアの
順に同様の行為を一通りすると 最初に揺さぶった
オリンピアスが意識を吹き返し、立ち上がった。
「あっ!オリンピアス~!」
「ンンンッ… あれ?母さん」
「大丈夫?あたしは大丈夫だよ」
「僕も大丈夫だけど… それよりここはどこだい?」
「さぁ…? あたしもさっき目覚めたばかりで…」
その話し声がうるさかったのか、それともさっきの
呼びかけながら揺さぶる行為が効いたのか、他の面々
も次々に起き始めた。そこから立ち上がって周りを
見渡す者、まだ座り込んでる者などさまざま。
「みんな!大丈夫だった!?」
「うん、だいじょぶだいじょぶ」
「エレーネア様やオリンピアス様は大丈夫ですか?」
「あぁ、なんともないよ ジイ」
「それはよかったですわ」
「それにしてもここは一体どこなんでしょうか…?
周り真っ暗で… なんか霧みたいなのが吹いてます…」
ウミギロンが不安そうに周りをキョロキョロすると
アカイヤルの呑気そうな声が聞こえてくる。
「あ"ぁ"~… いつのまにか俺 寝ちまったぜ」
「こんな時に緊張感のないやつね~」
「そういうアンタだってなんか寝息立ててなかった?」
「べっ、別に熟睡してなんかないんだからね!」
私の問いにツンデレの決まり文句で返すイエーネア。
それは自分から熟睡しましたって言ってるような
もんよ…ってアオイヤルかブルーネア辺りが
ツッコんでそう…。そう思ってたらふとロワイヤル、
アオイヤル、ブルーネアがいない事、
そして あたし達は謎の割れ目に吸い込まれた事を
思い出した。しかし私がそれを言うより先に
ミドイヤルが声を張り上げて言った。
「そうだよ、俺達なんか変な割れ目に吸い込まれて…」
「ここに連れてこられたのでしょうか…?」
「あぁ、どこだよここ?」
「こっちが聞きたいわよ んなこと」
ミドイヤルの問いかけにイエーネアがそう返す。
それをきっかけに、周りも次第に混乱し始める。
当然、こんなわけの分からない空間に突然
閉じ込められたとなったら、普通じゃ気が
狂いかねないこともあるかもしれない。
「どうするどうするどうする 君ならどうする~!?」
「どうするってそりゃあ、ここがどこか分からない
以上は、私達はジーッとしてても ドーにもならない」
ウミギロンが某電子戦隊のEDの有名フレーズで、
サヒダロンは某ベリアルの息子の決め台詞で
今の怯えた、諦めかけた気持ちを表現した。
こんな時にも まだふざける余裕があるってことは
なんとかまだ気力は残っているらしい。
「あぁ、ボク達 ちゃんと出られるだろうか… もし
出られないなんてことになったら… ヒィ~~ッ!!」
「落ち着いてくださいオリンピアス様…」
「そうだよ、落ち着きやがれやこのブス」
ヴァルーナは優しい声色から次第にドスの効いた声色
になり、最後にオリンピアスに暴言を吐いた。
「お前こういう時に悪口言ってる場合ちゃうやろ」
「なんだブス?こんな時にわめいてどうすんだブス」
「僕はブスならお前はなんだってんだよ」
「天才」
「お前こそこんな時にふざけてる場合か!!」
オリンピアスがヴァルーナにつかみかかる。あたしや
が止めに入る前にイエーネアが止めに入った。
普通だったらジイも止めに入ろうとするはずなのに、
ジイは何故か オリンピアスがヴァルーナに
つかみかかった時、上の方を見上げていた。
「ちょっとやめなさいって!こんな時に
争ってる場合じゃないでしょ」
「ひとまずよぉ、この空間がどこまで続くか走って
調べてくる。そうすりゃ出る手がかりも見つかんだろ」
走ろうとするアカイヤルをイエーネアは慌てて止めた。
「ダメよアンタ!今ここを動いて はぐれたりしたら
どうするわけ? 永遠に続くループだったりしたら…」
「けどよぉ、何もしないよりかはマシだろ?」
「心配なのよアンタが!もし何かあったら…」
「まだ何もやってねぇのに、勝手に心配すんなよ!」
「なによぉ!!人がこんなにアンタを
想って心配してるってのにさぁ!!」
「んだとォ!?」
多少は彼女の心配をよそにやろうとするアカイヤルに
非があると思うけど、こんな時に争ってる場合じゃ
ないとさっき言ったやつが言ったそばから争ってる。
イエーネアがアカイヤルの胸ぐらを掴み、アカイヤル
もそれに乗ろうとしてつかみかかろうとする。
「ちょっとやめなって!!イエーネア アンタ
さっき言った事もう忘れたの!?」
今度は私が止めに入った。すぐあとに 私も誰かと
ケンカすんのかな と入ったあとに気づいた。
そうならないことを私にどうにか祈ったけど… すると
アカイヤルがまるで気づいたような顔をして言った。
「そういや、ロワイヤルとアオイヤルとブルーネアが
いねーけど、アイツらは無事だったわけか?」
「おそらく、そうなりますね…」
グリーネアがそう言うと、オリンピアスは安堵の
ため息をついた後 こう言った。
「そっかぁ。じゃあ父さんや、アオイヤルさんと
ブルーネアさんが残ってるなら大丈夫だ。
きっと僕達を助けに来てくれる」
「だね、うんうん」
「ん~… ならば私達はここで救出を
待っていることといたしましょう」
ヴァルーナとジイ、そして皆が次々に安堵し、
身体の力を抜いていく中、甲高い声が水を差す。
「待てよ!…ホントに助けに来てくれんのか?」
「何よぉ、アンタ 疑ってんの?」
そう言ったのミドイヤル。すぐさまイエーネアが
突っかかる。ミドイヤルはそれに構わず続けた。
「助けに来てくれるとは言うけど、もし
アイツらが助けに来なかったらどうすんだよ」
「そっ、それは…」
「ちょっと!オリンピアス君はめっちゃ繊細なのよ!
心配させるようなこと言うんじゃない!」
「アイツは俺達を見捨てるような奴じゃねぇ!!」
アカイエの2人が抗議する中、ミドイヤルは続ける。
「ハッ、どうだか…。悪の組織と言われてて、自分でも
そう言ってるコズモルチーの首領だぜ? いざとなりゃ
部下や… 実の家族だって見捨てんだろ。俺みたいに…」
「えっ?最後なんて…?」
「いや別に何でも… とにかく!信じてたって
裏切られることはある!悪役だってんなら尚更だ!」
アカイエの2人はたまりかねてミドイヤルにつかみ
かかろうとするが、私はそれを制し、ミドイヤルに
向かった。そして毅然とした態度でこう言った。
「来る。ロワイヤルは… 3人は絶対に助けに来る!」
「なんでそんなことが言えんだよ? アイツの嫁
だから、仲がいいから、贔屓って奴?」
「あたしは誰よりも彼のことを知ってる…。
だって、生まれた時からの付き合いだからっ!
あの2人だって、頭がよくて冷たそうだけど、
ホントはみんなのこと、ちゃんと思ってるんだよ!?」
「ふ~ん、そういや幼馴染だったっけなぁ…。んで、
今は旦那様と。それはそれはロマンチックなことで…
でもそれでも、誰だって大切なのは自分だろ?
アイツらが一番、そう思ってそうだけど…?」
「まだアンタはそんなこと!!」
なおも悪態をつき続けるこの態度にキれ、あたしは
たまらずミドイヤルの胸ぐらを掴み、恫喝せんとする
勢いで怒鳴った。 嗚呼、結局 私も誰かとケンカした…
でもこの態度は流石に我慢できなかったのん…
「あの時 そうデカい口叩いてあんな醜態晒して…
剰え、あんな侮辱までしといて…
よくそれでそんなことが言えたわねぇっ!!」
ミドイヤルは私の怒鳴ってる勢いと、あんたを
許さないと言わんばかりのドスの効いた表情故か
一瞬 怯んだ表情を見せたが、すぐに私を睨み返して、
負けじとこう言い返した。
「侮辱… 愛する旦那様を悪く言ったのが
そんなに許せないわけ?」
「それもあるけど!!一番
キレてんのはそこじゃない…!」
「え…? じゃあ何の侮辱なわけ?」
「決まってるじゃん…」
あたしは一呼吸置くと言った。
「特撮やらアニメやらのサブカルチャーを愛する、
強さと無縁のキャラっぽそう… そう言ったわよね?
その侮辱に今 あたしは一番キレとんじゃボケナス
グォルゥアッ!!!」
「…はぁっ!?」
同じく一呼吸置いてミドイヤル… と周囲の皆は驚いた。
次に目を開けた時、俺は激しい違和感を覚えた。
真新しい蛍光ブルーのラインが走る天井がぼんやりと
見える。そして聞こえる音も 鼻に届く匂いもさっき
とはまるで違う… そう思ってると、青いメガネを
かけた美青年がひょっこりと顔を覗かせた。
「おっ、気がついたみたいだよ。ブルーネアちゃん」
「相変わらずだねぇ、そうやって思い込んだら
止まらないし、その勢いのまま無茶するとこ…」
冷たく凛とした声が横から響く。そして声がした
方向からブルーネアが現れ、慣れた手つきで脈を
取った。その隣にはアオイヤルが座っている。
俺は無意識に言葉を発していた。
「助けて…くれたのか」
「うん、朝になって私達も目が覚めたもんだから、
せめて腹ごしらえにと思って作って持ってきたところ
いなくなってたからさ、どーせ諦めきれずにまた
行ってるだろうなぁ~って思ってね」
ブルーネアは3つのおにぎりを出す。そういや、
昨日からなんも食ってなかったな。アイツらのこと
ばかり考えて、自然と食欲を忘れていた。
「それで僕達も オートマーリで昨日 エレーネア
ちゃん達が吸い込まれた例の場所に行ってみたら、
君がブッ倒れてて 介抱して、今に至るってわけさ」
「そっか、ありがとな」
俺は申し訳なさそうに俯いたが、すぐに顔をあげ
ふたりに感謝を伝えた。そしてすぐにベットから
出ようとする…が、案の定というか、
ふたりに止められてしまう。
「ちょっとロワイヤル、まさか行く気かい!?」
「まだ休んでいなきゃダメだよ!」
俺の体を押さえながら、2人の声が響くが
俺はそれを聞いてる余裕はなかった。急いで
アイツらを助けないと… 俺の心はそれでいっぱい。
「とめるなてめぇら!アイツらを
助けられんのは俺しかねぇ!」
「その身体では無茶だ!また何かに
やられでもしたらどうするんだい!?」
「バキシーの野郎か…。…今度会ったら
必ず殺る。だから心配すんな」
「気持ちはわかるけど、まずはゆっくり休んで…」
「俺はコズモルチーの首領だぞ!?それに
アイツらの父親でもある。残った首領であり、
父親でもある俺がアイツらを今 助けないで
誰が助けるっていうのさ…」
アオイヤルとブルーネアは悲しそうな面持ちで俺を
見ている。俺はそれを全身で受け止めながら続けた。
「なんか夢見てさ。んで思い出したんだ。
アイツと、『約束』したの…」
「アイツ?エレーネアちゃんかい?」
「あぁ。幼稚園の卒園式のあとにさ、お互いの親父と
お袋が長話をし始めてさ、俺とアイツは2人っきり
になってさ、こ~んなこと言ったわけ」
俺の脳裏に、幼稚園児を終えたばかりの頃の
俺とエレーネアとの会話がリフレインされる。
彼女の姿はオレンジ色の光に包まれていた。
「ねぇ、わたしがとつぜん、へんなヤツに
さらわれちゃったらどうする?」
「? …どうしたのさ、きゅうに」
「ん~、なんとなく。ねぇねぇどうするの?」
「あぁ~? ん~? そうだなぁ、とりあえず
どうにかしてすくうやりかたをさがす。それでも
ダメだったらまわりのみんなのちからをかりる。
んで、へんなヤツをブッたおして、オメーをすくう!」
「…ふふっ、ありがと」
「まっ、オレやみんながそばにいるかぎり、オメー
がさらわれることなんてないとおもうけど!それに
オメーみたいなちんちくりんでアホなやつ、だれが
さらうんだってんだ!」
「むーっ!ひっどーい!」
「ハッハッハッハッハッハ!」
「ふふっ、アハハハハハハ…」
「…ガキの他愛もねぇ会話かもしれない。けど、
アイツと結婚して 旦那となった今となっては アレは
俺なりの誓い… ガチの『約束』だと思ってるんだ。
たとえ俺がどれほど悪役であったとしても、コレ
だけは!なにがなんでも守らなきゃならねぇ…!
もし… コレを破ったら、俺はエレーネアのそばに
いられないような気がして… だからっ…!」
さっきまで俺の話をじっと聞いてた アオイヤルと
ブルーネア。先に口を開いたのはブルーネアだった。
「いつになく本気になってると思ってたら
そんなロマンチックなことをエレーネアと
約束して、そんな決意を抱いてたなんて…」
「そうなんだよブルーネア!だから行かせて…」
「いいや、そうはいかないよ」
冷たい声で水を差したのはアオイヤル。真っ先に
反論しようとする俺より先に、アオイヤルは高圧的に
言葉を紡ぐ。反論の余地も与えてくれない。
「君… その約束、自分から破ってるじゃない」
「…? どういうことだ?」
「とりあえずどうにかしてすくうやりかたをさがす。
コレは吸い込まれたあと、やったからいい… しかし
問題はこのあと!それでもダメだったらまわりの
みんなのちからをかりる。…できてねーじゃん!!」
アオイヤルがツッコんだ。しかし、そのツッコミは
いつもと気迫がまるで違い、俺は驚いた。
「な~にが!まわりのみんなのちからをかりるだよ!
朝っぱらからひとりで勝手にオートマーリに行って、
突っ走って!そんでバッターン!まわりには!
残った俺らには何も言わないで!よくそれでそんな
こと言えたよなぁ!!…君がひとりで抱え込みがちな
タイプなのはわかってる。とゆーか、そんなタイプに
なる前に言ったことだもんねそれ。守れてないのは
当然か… でもさ、昔 そんな誓い立てたんなら…
もっと僕達の力を借りてくれ!」
アオイヤルは毅然と、しかしどこか悲しみを
帯びた表情でそう言った。それにブルーネアも
続いた。しかし、彼女の言い方は 氷のような冷たさが
微塵もない優しく包み込むような感じだった。
「そうだよ、ロワイヤル君。キミ達は実際、私達が
いなきゃ何もできないでしょ。技術、開発、化学、
研究、発明、メカニック、医療… これらはてぇんさい
賢将の私ありきでできてる。…こんだけ頼って、
もう頼るな な~んて言うつもりはないよ。むしろ
どんどん頼っていい。何故なら私達はキミの部下。
キミのお供だからね。いつもみたいにえらっそーに
命令してくれればいいんだ!…ね?」
俺は思い知った。
幼き頃になんてことないつもりでいったセリフでも
智慧ある者はこんな風に解釈するとは。まぁそんな
こと、ちょっと冷静になって考えてみれば 思いいたる
はずだった。幼き日の約束。しかし俺はその約束
ばかりにこだわって、その節々の意味を忘れていた。
その結果、冷静さを欠き、感情のままに それこそ
まさしくアカイヤルとイエーネアのように、
突っ走っていた。忘れてた、少なくとも…
今はそうなるべきじゃない。こういうピンチの時こそ
俺のような首領は、燃えるハートでクールに
対処すべきなんだと…!俺はすっくと立った。
「眼に一点の曇りもない…
いつもの君に戻ったようだね!」
「全く… いっつも手間かけされるんだから!」
ブルーネアとアオイヤルが俺の眼を見て言う。
燃えるハートだけなのはもう終わりだ。こっからは
クールにも行かせてもらうぜ。その志を胸に、
俺は高らかにふたりに宣言した。
「アオイヤル!ブルーネア!」
「うん!準備は万端だよ!」
「あぁ!行くならばいつでもOK!」
「やっぱ俺1人で行くわ!」
アオイヤルとブルーネアが昭和のアニメの如く
ズッコケをかます。そしてすぐさま立ち上がって
俺にがなりたててくる。
「ふっざっけんなお前!感動返せこの野郎!」
「今言ったことまるで聞いてないのホントのバカか
オメーはよぉ!」
「でもな、今度はぜってーに負けない。バキシーの
野郎をぶっ倒して、アイツらを連れ帰ってくるぜ!」
根拠はないし、自分で言うのもなんだが そのセリフは
なんか、有言実行できそうな気がすると思った。
俺は座っていたベットから立ち上がり、部屋を出る。
すると「待つんだ!」とブルーネアの声が響いた。
「なんだよ… せっかくカッコよく決めようと…」
「その前に、キミに渡したいものがある」
ブルーネアは部屋の奥に行き、しばらくすると戻って
きた。違いは両手に盾らしき物を携えていることだ。
ブルーネアは俺の前に立つと、その盾を俺に渡す。
「『ディフェンダーク』。キミ用に開発した盾だよ。
エンペライトセーバーで戦ってるキミを見てたら
なんか、盾もつけたくなっちゃってさ」
ブルーネアは舌を出し、イタズラっぽく笑う。
アオイヤルが横から声をかける。
「剣と盾、なかなか合ってるんじゃない?」
「でしょう?これで往年のロボットの王道を
しっかり主役で押さえられるよ~!」
「主役とか言うんじゃないよ」
俺は盾… ディフェンダークをマジマジと見回した。
六角形の形状に黒と銀のカラー。俺は不意にバキシー
との戦いを思い出す。あの時、アイツが不意打ち気味
に放った灰色のエネルギー弾。アレには結構
手こずっていたな。そういやあの時も。エレーネアの
手を掴んでた時にバキシーのエネルギー弾が飛んで
きて 俺はアイツらと引き離されたんだ… だから
防御する物が欲しかったので、まさにこれは
グッドタイミングなのだ。ブルーネアにとっては
意図していない偶然だろうが、俺は彼女に感謝せずに
はいられなかった。俺はブルーネアの元に向かい、
「サンキュー ブルーネア!これさえあれば勝てる!」
「相変わらず何を根拠にそんなことを… でも、
さっきのセリフはなんか、有言実行できそうな気が
すると思ったんだ。こっちも根拠はないけど、
ホントに何故だがわかんないけど、そう感じた」
アオイヤルも僕も同じだ というように深く頷く。
「ブルーネア…」
「さぁ、いってらっしゃい!ただし… 必ず、
キミも無事に、皆を連れ帰ってくるんだよ。
これは… 私からの命令だ …いつもキミは
偉っそうに命令してるんだから、たまには
私から命令してもいいでしょ?」
そう言って、ブルーネアはまたイタズラっぽく笑う。
俺も釣られて思わず笑みが溢れた。
「はっは、サイアクだ。俺も全く同じこと
思ってた。でもお前らにまで思われたら
必ず成功させるっきゃねぇな!…いってくるぜ!」
俺はふたりに背を向け、右手でサムズアップをすると
部屋を出て、駆け出していった。それにふたりも
サムズアップで返したのは後から聞いた話。
「えっ、そこにキレてんの…?」
胸ぐらを掴まれているミドイヤルの拍子抜けした
声が響く。掴んでいる私は関係なく続けた。
「特撮やらアニメやらのサブカルチャーを愛する、
強さと無縁のキャラっぽそう… 別にいいじゃない!
強い奴がそれを愛して何が悪いわけ!?」
「いっ、いや、もっとさぁ… 強い奴ってその、
硬派的な感じじゃん? サブカルチャー知らなさそう
なの、だから俺、アイツやアンタらを初めて見た時、
思ったら 思ったより軽薄でちょっと拍子抜けしたん
だぜ? …強さは確かに本物だったけどさ」
「そんなのアンタの勝手なイメージでしょ!?
アンタが何を思ってんだが知らないけどさ!
ロワイヤルを侮辱されんのはイヤ!でもねぇ、
好きなのを侮辱されんのはもっとイヤなの!!
アンタには、そんな好きなのはないの!?」
ミドイヤルは苦い顔で顔を背けた。だが逆にそれが彼の
闘士に火でもつけたのか、逆にあたしを掴んできた。
「そんなのわかんねーよっ!!」
「ふざけんなこの青二才… いや緑二才が!!」
「なんだとこのホルスタイン!!」
「ホルスタイン!?ナイスバディって言いなさいよ!」
「じゃあそのナイスバディが!お前デカいんだよ!
いちいち動くたびに揺れやがって!!」
「ハァッ!?そんな目であたしを見てたの!?
アンタ、グリーネアがいるくせに!やっぱり
巨乳好きかアンタもコノヤロー!!」
「別にそういうことじゃねぇし!つーか、
グリーネアとはそういう仲じゃねぇっつーの!!」
「とゆーかデカいのはイエーネアやブルーネアも
でしょうが!アイツらも結構動くたびに揺れてんぞ」
「いいかげんにしなさーーーいっ!!!」
その甲高い声と共にあたしとミドイヤルは10万ボルト
の電撃を全身で受け止め、速攻でダウンした。
全身真っ黒コゲでぶっ倒れた私達2人に 電撃を
浴びせたイエーネアの叱責が飛ぶ。
「途中から露骨な下ネタになってんじゃない!
さっきまでアカイヤルとドンパチ
やってた あたしが言うのもアレだけど、
こんな時にケンカしてる場合じゃないでしょ!」
さっきも似たようなセリフがイエーネアの口から
出たような気が…。何ページか探してみてネ♫
「そうだよ母さんとミドイヤルさん。
今はどうやってここを出るかを考えよう」
オリンピアスも同調する。すると、おそらくここに
いる皆の中では一番 おしゃべりなはずなのに、
今まで一言も喋らなかったジイが口を開いた。
「ここから出る方法らしきものならありますよ」
「へぇ~ そっかぁ…。…えっ!?ホント!?」
そのセリフにジイ以外が驚愕し、ジイのもとに
群がってくる。そして、教えろ教えろと声を揃えて
口喧しく言う。ジイはそれを抑えながら言った。
「オリンピアス様とヴァルーナ様がケンカした時、
上に僅かに綻びができて、アカイヤル様と
イエーネア様のケンカの時、それがまたできて、
先程のエレーネア様とミドイヤル様の大ゲンカで天井
に明確なヒビができて、確信しましたよ。つまり!
この空間は、ケンカすれば出られるかもしれません!」
普通だったらジイも止めに入ろうとするはずなのに、
ジイは何故か オリンピアスがヴァルーナに
つかみかかった時、上の方を見上げていた。…と
言ったけど、アレはそういうことだったらしい。
上なんて見上げなかったから全然気づかなかった…
「そうだったんですかぁ。てゆーか天井にヒビって…
ホントだ!小さいけどある!」
ウミギロンが上を見上げて 声を上げる。私達もその
声に合わせ 上を見上げると、そこには直径1mくらい
のヒビができていた。
「天井なんて、さっきエレーネアがミドイヤルと
ケンカしてた時、あの二人ばっかり見てたから
見てなかったわぁ…」
「なんだよ、ちゃんと見やがれマヌケ!」
「アンタだって見てなかったじゃない!」
「んだとぉ!?」
「なにさぁ!?」
アカイヤルがおそらく わざと暴言を吹っかけて、
イエーネアも多分 わざとそれにのっかって、
掴みかかりはじめる。こんな演技で出られるかな…?
しかし、私の疑念に反して このふたりのやり方に
触発されたのか、他の面々も次々にケンカをし始めた。
「こっち見てんじゃねーよクソタレザコニキが」
「いいかげんにしろ!!兄に対してその口は
なんだ!?このボケナスチビ女が!」
「お前こそ妹に対してその言い草はなんだよ」
オリンピアスとヴァルーナはいつも通りに
ケンカをし始める。今回限りは止めずに私は上を
見た。すると、ヒビは徐々に広がっていた。
まさか演技でも大丈夫だなんて… それとも、
このケンカは演技じゃなくてガチ喧嘩…?
そんな新たな疑念を抱く私に ミドイヤルが
声をかけてくる。その声は殺気に満ちていた。
「お~し、ケンカしてもいいってなら
さっきの続きしようぜエレーネア…
まだカタはついちゃいねぇからなぁ」
どうやら脱出する手段に託けて、ガチ喧嘩したかった
だけらしい。さっきはイエーネアの叱責で強制終了
させられたけど、そのイエーネアはアカイヤルと
ドンパチケンカの真っ最中。他もケンカしていて私達
を止めようとする者はいない。あたしもまだ
ミドイヤルにケンカがてら質問し足りないから、
ある意味ちょうどよかった。私はミドイヤルにYES
代わりの、推定光の速さなパンチをお見舞いする。
ミドイヤルはそれを風の速さで躱すと 間髪入れずに
あたしに風太刀丸を振り下ろす。あたしはすかさず
エレネアローサーベルで受け止めた。
「会った時から 強さ強さ うるさかったけど…
何がアンタを強さの方向に動かすの!?
それとも何か事情があるの!?」
ミドイヤルはまた苦い顔で顔を背ける。しかし、
すぐに般若の如き表情で私を睨んできた。
その表情に応えるかのように風太刀丸にも力が
こもる。まさか…なんか地雷踏んじゃったかな
あたし…?そしたらあたしにも若干の非が生まれる。
「うぜーんだよ!そんなの関係ねーだろが!!」
私はミドイヤルの攻撃を受け止めるあまり、上のヒビ
のことをしっかり忘れていた。他も同じ。相手との
ケンカがヒートアップするあまり、上を見上げよう
とする者は誰もいなかった。
「前から思ってだんだけどねぇ… アンタはバカすぎん
のよウミギロン!自分では天然だって思ってるん
だろうけど… 私から見ればアンタはバカなだけ!」
「ハァ~ッ?私のこと言えるわけ~?アンタこそ
バカなんじゃないのサヒダロン!今こうやって何かと
私に突っかかってくるしさ!粘着質はまさに
バカの一例だよ? このバカ野郎が」
「ふっざけんなコノヤロー!!」
「なんだバカヤロー!!」
争うウミギロンとサヒダロンの声。
「お前はさぁ、いつもオドオドしすぎなんだよ!
見ててイライラする。そんなんで悪役やれると
思ってのかぁっ!? えぇっ!?」
「わっ、私だって好きでそんなオドオドしてる
わけじゃありませんよ!これはその…
生まれつきの性格だからどうしようもないんです!」
「会った時から 悪役には見えねーけどよぉ…
そんな様子じゃ早死になっちまうぜ?よくこんな
ヘタレ野郎が六帝将になれたもんだよなぁ!」
「なんだとこのジジィふざけんな!!」
「ぅぉっ…!?」
争うジイとグリーネアの声。この空間は今まさに
闘争心と相手に怒る気持ちが支配していた。
「待ってろ エレーネア、ジイ、オリンピアス、
ヴァルーナ、ウミギロン、サヒダロン、アカイヤル、
イエーネア、ミドイヤル、グリーネア…
絶対に死なせやしねぇ…!俺が必ず助けてやらぁ…!
それまでくたばんじゃあねぇぜっ!!」
俺はそう言いながら、ロワイヤクラウンにのって
再度、惑星 オートマーリに単身で赴いていた。
すると、何やらただならぬ殺気が下からひしと響き
振り向くと、クラウンに向かって飛んできたのは
灰色のエネルギー弾。クラウンはそれをモロに喰らい
たちまち大炎上。俺はクラウンから飛び降り、脱出
すると同時に クラウンは大爆発。そこそこ高い位置
から飛び降りたが、下は草原だったので着地の衝撃は
それほどでもなかった。そして俺が着地してしばらく
あとに炎を纏ったクラウンが後ろに落ちてきた。
「あ~あ、またブルーネアのお世話にならなきゃな…
つまぁ んなことより、盛大にやってくれたなぁ…!」
俺の前に立っているのはやはりバキシーだった。
やっぱり殺られてはいなかった。バキシーは
静かに、けれども威厳を持って話し始めた。
「待っていたぞ。家族想いの大罪人」
「ハッ、オメーも似たようなモンだろ?」
「少なくともお前ほどではない。…必ず来ると
思っていた。お前のような存在は一度狙った獲物を
逃すことはないだろうかな…。もし来なければ
こっちから追おうとも思っていた。…この私に
手傷を負わせた罪は重いからなぁ…」
そういうと奴は左肩を一瞬 さすった。そうか…
あの時、俺の不意打ち戦法で左肩にダメージを
負ったんだな。なら、弱点となったそこを攻めれば
勝てるかもしれない。けど、それはアイツも把握して
いる。簡単に攻めさせてもくれないだろう。だけど
俺には新たなる盾がある。これと一緒にあの
ふたりの思いも託されているんだ。負けるわけには
いかねぇ。こいつを早いうちにぶっ倒してアイツらを
助けに行く。今の俺がやることはそれだけだ。
「ハッ!んなの俺だって同じよ。こっちもてめぇに
手傷を負わされたからな。だからそのお礼は倍に
して返してやんよ!」
俺はエンペライトセーバーを振り上げ、バキシーに
向かった。なんの防御もしないで向かってく俺に
「ハッ!バカがっ!」とバキシーは容赦なく灰色の
エネルギー弾を発射し、次の瞬間 爆発が起こった。
その時は煙だらけで見えてなかったけど 「フフフ…」
なんてバキシーの笑みが聞こえてきたから 勝ち誇って
いたんだろう と思う。しかしそんな、奴の勝手な気概
は 煙が晴れたあとに現れた、俺の姿を目の当たりに
したことにより、ものの見事に踏みにじられていった
ようだ。驚愕の表情がそれを物語っている。次の瞬間
奴が今一番聞きたいであろう疑問が口から飛んだ。
「なっ、何故だ… 傷ひとつないだなんて…」
「あぁ、こいつのおかげさ。光弾が当たる寸前、
このディフェンダークで完全カードしてやったのさ」
「ほぉ、対策はしてきたのか。なら…
その対策を壊してやるのみ!」
といってバキシーは灰色のエネルギー弾を両腕から
放ち続ける。しかし、ディフェンダークの防御の前
には無意味。エネルギー弾はディフェンダークに
当たると 明後日の方向に飛んでいった。しばらく俺は
その光景を滑稽に思いながら歩いていたが、次第に
ウザくなったので、エネルギー弾がディフェンダーク
に当たるとエネルギー弾を前に弾き返した。それが
ものの見事に命中し、身体の至るところから火花が
散った。俺はその隙に一気に奴の弱点に攻め込もうと
走り出した。「おのれェ…!」とバキシーは
立ち上がると、得物である巨大な槍を出し 俺に
向かってきた。どうやらその槍で斬って直接 破壊
しようとする戦法に切り替えたようだ。奴は俺に
近づくと槍を振り下ろした。それをディフェンダーク
で完全ガードする俺。奴はより力を込めんと槍を両手
で持ち、ディフェンダークを斬ろうとするが 全く
斬れない。それどころか両手がお留守。俺はその隙に
エンペライトセーバーで奴の腹部を突き、俺から若干
離させた。俺は次にディフェンダークをフリスビーの
如く 投擲し、バキシーに当てた。奴に当たった
ディフェンダークは宙を舞い、まるで意志を持ってる
かの如く バキシーに当たり続ける。奴は抵抗せんと
灰色のエネルギー弾を放つが、それもさっきと同じ
ディフェンダークに鏡の如く弾き返され、
エネルギー弾、そしてディフェンダークの当たりの
ダブルパンチを喰らった。当たったディフェンダーク
は俺の元に戻ってくると同時に、バキシーはがくりと
左膝を折り 悔し紛れに吐き捨てる。
「バッ、バカな…!この私がッ…!…!?」
「…!?」
すると、そう遠く離れていないところの空に小さな
ヒビが発生し、次第にそれはどんどん大きくなって
いった。バキシーは心当たりがあるのか驚愕し…
「まっ、まさか!?アイツら、争っているのか!?
同族同士で戦い合ったことはないと情報にあったが…
そうか、自分達が出たいがあまり…。おのれ、
まぁいい… 出たら今度こそこの手で…!」
あのヒビは俺も見覚えがある。あのヒビが発生した
あとに空が割れ、アイツらが吸い込まれていった
のだ。俺はアイツらがどうにか出ようとしてることを
直感で悟り、ニヤついた。アイツらは無事なのだ。
「どうやらアイツら、出ようとしてるみたいだな。
じゃ さっさと終わらせてやるよ!オメーみてぇな奴は
とっとと地獄って名前のゴミ箱に捨ててやらぁ!」
俺はエンペライトセーバーの刀身に思いっきり闇の
エネルギーを込め、奴が手傷を負った左肩部分に
渾身の斬撃を炸裂させた。
「ロイヤル・ダイナミック!!!」
「ぐあァァァァァァァァァッ!!
せめて… 最期の抵抗を…!」
この技を受けたバキシーは全身から火花を散らし、
後ろに倒れた。それだけ言うとバキシーは腕から
光の卵を生み出して大爆発。しかし、その光の卵は
次第に大きくなり、ひび割れたと思うと
中から巨大な怪獣が出現した。頭や背中、尻尾に
かけてのオレンジの部分は 鉱物や結晶を思わせる
鋭角的なシルエット。しかしそれとは真逆に
首から腹、四肢にかけての茶色の部分はまるで生物の
ように柔らかそうな感じ。さながら有機的な感じと
無機的な感じの印象を同時に与えるちぐはぐな見た目
だった。俺は早速、スマホを取り出し、俺が造った
メガゾード召喚アプリを起動し、メガゾードを召喚
しようと思った時、バキシーが爆発したところに
何が落ちているのを見つけた。見るとそれは、縦長で
クリアターコイズの色をしたフロッピーディスク
だった。俺は拾おうと向かうが、怪獣がそのディスク
ごと俺を踏み潰そうと右足を上げたので 慌てて
俺は走り、スピーディーに転がってディスクを回収し
踏み潰される前に 怪獣の後ろに周った。怪獣は俺を
踏み潰し損ねたことに気づき、振り向いてこっちを
見て咆哮をあげた。改めてメガゾードを召喚する。
「暗黒召喚!ロワドルーン!」
空から風に乗ってロワドルーンが飛んできた。
俺はジャンプし、ロワドルーンに飛び乗った。
スマホをセットし、エンペライトセーバーも席の
左の鞘に収め、操縦準備は完了。
「バンリキーモンスターとでも名付けっかな…
まぁとにかく、くらえ!」
ロワドルーンは空中を飛び回りながら、内蔵されて
いる銃火器で、怪獣… もとい、バンリキーモンスター
に攻撃を加えた。それを受けた奴もお返しと
言わんばかりに両手からミサイルを発射する。
ロワドルーンはミサイルをスイスイっと躱し、
再度 ビームを発射し、バンリキーモンスターに
ダメージを与え、奴はすっ転び 倒れた。
「巨人変形!デストロワイヤル!!」
俺のその叫びと共にロワドルーンは変形していき、
本来の姿である巨大ロボ、デストロワイヤルとなった。
「デストロワイヤル、活動開始!」
ポーズを決め、起き上がったバンリキーモンスターと
対峙するデストロワイヤル。バンリキーモンスターは
咆哮をあげると、デストロワイヤルに襲いかかって
きた。デストロワイヤルはキングレイモア片手に
バンリキーモンスターに向かっていくが、次の瞬間
バンリキーモンスターは後ろを向いて、尻尾から
強大な念動波を発し、デストロワイヤルはたちまち
ダメージを負い、倒れてしまう。
「くぅぅ… ならこっちも、防御してやるまでさ!」
デストロワイヤルは起き上がると、背中に接続
されている 2つの鉤爪がついた盾を左手に装着した。
初登場では左手に装着されてたけど、使ってない
時は背中に接続されているのだ。デストロワイヤルは
再びバンリキーモンスターに向かっていく。
バンリキーモンスターは再び尻尾から強大な念動波を
放射するが、デストロワイヤルの盾には通じない。
デストロワイヤルはバンリキーモンスターにある程度
近づき、左手に装着されている盾を発射した。
鉤爪が尻尾に当たり、爆発とバンリキーモンスターの
悲鳴みたいな鳴き声があがる。奴の後ろを見ると、
今までスルーしていた空のヒビはとても大きくなって
いた。そりゃあもう今にも割れそうなくらい。
俺はそれを見てニヤリとしながら言った。
「よ~し、コイツをぶっ倒して、アイツらも
救う。これぞ一挙両得だってんだ!
アビリティギア全開!!」
デストロワイヤルはキングレイモアに、内部メカに
組み込まれているアビリティギアのエネルギーを
全て込めて、時計回りに回しながらエネルギーを溜め…
「ギガンティック・ダイナミック!!」
その叫びと共にバンリキーモンスターを一刀両断!
バンリキーモンスターは断末魔の咆哮をあげ、
全身から火花を散らしながら 空のヒビに向かって
飛んでいき、ヒビにぶつかると同時に粉々に爆散
していった。それと同時にヒビも完全に割れ、中から
人らしき生命体がまるで放り出されるかのように
現れた。もちろん、それはエレーネア達だ。
「きゃあああああああああああ!!!」
「わああああああああああああ!!!」
デストロワイヤルはジャンプして、宙を舞う一同を
左手でキャッチした。エレーネアが俺の…
デストロワイヤルの方を見上げる。それを見て
彼女は最光に輝く笑顔を見せた。赤ん坊の時から
全く変わらない可愛らしい笑顔だ。
「ロワイヤル…♡」
「…あぁっ!? あっ、デストロワイヤルだ!」
「空が青いし日差しがあったかい!
もしかして… あたし達、出られたの!?」
「うん、そうみたい!」
「いやった~~~~~っ!!!!」
さっきまで困惑していた一同のその表情は歓喜へと
変わっていった。アカイヤルとイエーネアが喜びの
あまり立ち上がって飛び跳ね、お互いをひしと
抱きしめ合った。やっぱりあのふたりはなんだかんだ
言いつつも、想い合ってることがよくわかる。
「やったなヴァルーナ、なんだか気分がいいから
今までのことは全部謝る!ごめん!」
「あたしもちょいと言い過ぎた気が
しなくもないからさ…。おあいこっしょ」
「ヴァルーナ~~~!!」
オリンピアスとヴァルーナは仲直りしていた。
ケンカばっかりしてるけど、やっぱりあの2人は
仲良いときはいい兄妹なのだ。
「ミギ~~~!やったミギ~~!ヒダ~~~!」
「ヒダ~~~!一緒にヒダ~~!ミギ~~~!」
変な語尾をつけながらウミギロンとサヒダロンが
涙を流しながら抱き合う。
「やりましたねジイさん!発破をかけてくれたおかげ
であんまり人を悪く言えない私も悪く言えました!」
「自分で言っちゃうんだそれ なんかすみませんね…
いくら出るためとはいえ、ひどいことたくさん
言っちゃって… まぁ、この組織に在籍する
以上、人は悪く言えるよう… 頑張んなさいよ」
「いえいえ、ジイさんのおかげです。
ありがとうございました。しかし…
それは頑張っていいんでしょうか…?」
ジイとグリーネアという珍しいツーショット。
何があったのかは本人達からあとで聞くとしよう。
その後ろには1人だけ上目でどこか気まずそうに
してるミドイヤルがいた。するとそこに
エレーネアが声をかけてくる。
「有言実行。言ったでしょ?絶対に助けに来るって」
「…悪かったよ、あれだけ信頼し合ってるの
なんか、羨ましく感じちゃってさ」
「え… やきもち…? きゃわいい~~~~~♡♡♡」
エレーネアはミドイヤルを抱きしめ、頬ずりしてくる。
突然のことで赤面しながら狼狽えるミドイヤル。
それはまるで過剰なスキンシップをしてくる姉と
それを嫌がる弟みたいに見えて、俺の心境はまるで
それを見守る兄のような感じだった。
「ちょっ!おい!やめろって!」
「やきもちでしょそれかわいいわよ~~~♡
でも、ここでなら あなただって信頼し合える
人達に出逢える。あなたがどんな事情を抱えてるのか
あたしは知らない!なにも知らない癖にこんなこと
言うのも無責任だってことはわかってる…。
でもね、たとえあなた自身が信じなくても、
あなたは絶対に信頼し合える人達に出逢える!
あたしはそう信じることにした!」
ミドイヤルはハッとした表情を見せる。
「…俺を信じる?あんなこと、したのに…」
「あっ、それに関してのお仕置きは
あとでしてもらうね♡」
「…え?」
エレーネアはそう言うと晴れ晴れとした笑顔で
デストロワイヤルを見上げた。その眼は確実に
操縦している俺を捉えていた。彼女からは見えない
のを承知に俺は晴れ晴れとした笑顔を返した。
いつのまにか雲一つなくなっていた空は俺達の心と
同じ、晴れ晴れとしててどこまでも澄み切っていた。
「ロワイヤル~♡ ロワイヤルしゅき♡ しゅきしゅき♡
ちょ~だいしゅき~♡ ロワピ~♡♡♡」
「よしよしエレピ~♡」
エレーネアは自分の身体全部を俺の身体にひっつけて
離さなかった。俺の頬に頬ずりし、甘い声と共に
豊満な乳房を俺の胸に押し付ける。俺はなでなで
しながらその極限の愛情表現を返していた。俺の頬に
彼女のキスが落とされる。俺も彼女の頬にキスを
返した。そんなふたりだけの世界を構築する甘い
ムードの中、わざとらしい咳き込みがそれを
ガシャンと音を立てるかの如く 破壊した。
「ウォッホン!!エホン!!
夏でもないのに暑いんですけどぉ!?」
わざとらしい大声で俺達の 過度なイチャつきを諌める
ジイ。それに俺らふたりはしゅるしゅるしゅる… と
萎んで、エレーネアも俺の席の隣に座った。
その様子を確認し、ジイの声色も元の調子に戻る。
「いやしかし、ロワイヤル様。すっごい大手柄
ですよ。私たちを助けるために躍起になって
くれて… 感謝しかありませんよ~」
「いやいや、俺はコズモル家の長だし、コズモルチーの
首領だぜ? 頑張るのは当然っしょ。
それに… オメーと約束したからな、エレーネア」
「約束? そんなことしたっけ?」
「忘れてんならいいよ。それより
アイツら、ちゃんとやってるか?」
「さっき見てきましたが、ちゃんとやってましたよ」
「ちょっと俺も見てくるわ」
「あたしあたしも~。あっ、そうだロワイヤル」
「あ? どうしたエレーネア」
後ろにいたエレーネアに声をかけられ振り向くと、
同時に俺の唇に柔らかいものが落とされた。
そして彼女は耳元で囁く。
「約束… 守ってくれてありがと♡」
「…なんだ、覚えててくれたんだ」
「ほんのサプライズ。助けてくれたお返し♡」
「エレピ~♡」
またしてもふたりだけの世界を構築する甘い
ムードの中、ジイの大声がそれを破壊した。
「おいコラ!!イチャついて やろうと
してた事忘れてんじゃねぇぞオイ!!!」
俺達ふたりはハッとして ジイに向かって
振り向いて舌を出し イタズラっぽく笑うと、
慌ててトイレに向かった。
ロワイヤル君とエレーネアがこの氷結工房を
走って通って行った。おそらく行き先はあの
3人がやってるトイレだろう。私…ブルーネアは
ロワイヤル君に渡されたバキシーが落としたと
いう、フロッピーディスクの解析に勤しんでいた。
解析してみると、そこには今までバキシーが行って
いたであろう、悪事の数々が記録されていた。
汚職、横領、セクハラ その他諸々。とりあえず
これらは後に 惑星 オートマーリの国会や各種
マスコミに匿名でリークするとして…。私は別の
ディスプレイを見た。それに映るものは 現在構想中で
ある、陸・海・空に特化した デストロワイヤルの
3つのサポート用ゾードのデータ図。もしかしたら
今後、デストロワイヤルでさえ敵わない存在が
現れるとも限らない。しかしこれが完成すれば
アレはもっと強くなれて、そのような存在にも
対処できるカモしれない…。そう構想しながら
私はあま~いココアが入った、カップを手に取った。
ジャークネスの中にたくさんあるトイレ。
俺はそのひとつの個室トイレをふいていた。
目の前ではアカイヤルが小便器をブラシでこすり、
隣の個室トイレではイエーネアがトイレをふいて
いた。前回、アカイヤルとイエーネアのふたりは
ブルーネアの発明品を壊しかけた罰で、そして俺…
ミドイヤルは前回、コズモルチーを裏切りかけたのと、
今回、エレーネアや皆に対して行った一連の行動の
罰として、トイレ掃除を命じられたのだ。正直、
これは屈辱そのものなり。自分のトイレを掃除
するならまだしも、他人が使うトイレを掃除する
なんて、死以上の屈辱でしかなくて、我慢できない。
けど今回 俺が行ったことはそれ相応に悪いんだな…
と、今更ながら 罪悪感に襲われた。それと同時に
あのふたりから言われた言葉を思い出す。
「何でそんなに強さ強さって うっせぇくらいに
こだわんのか、オメーから吐かせるつもりはねぇし、
調べるつもりもねぇ。でも お前から言うか、
何かの拍子で知るのが先か、いつか必ず
解き明かしてみせるから。そのつもりでな!」
「あなたがどんな事情を抱えてるのか
あたしは知らない!なにも知らない癖にこんなこと
言うのも無責任だってことはわかってる…。
でもね、たとえあなた自身が信じなくても、
あなたは絶対に信頼し合える人達に出逢える!」
あんなこと言われたのはいつ以来だろう。不意に
あの人を思い出す。あの頃で、俺に唯一 目をかけて
くれたあの人を…。いや、やめておこう。その記憶を
今 手繰ったら 掃除どころじゃなくなっちゃうしな…
しかし 俺はともかくにしろ、アイツらふたりは
この刑に処されるほどのことはやってないと
思うけどなぁ…。結局、壊れてなかったんだろ?
その発明品。あのふたりの愚痴が聞こえ始める。
「あ~~ 冗談じゃねーよっ!なんで俺らまで…
ミドイヤルひとりでやればいいじゃねーか!」
「ホントよねぇ、わざとじゃないのに。この刑に
しなくたっていいでしょうにねぇ!」
「まっ、何言ったってしょうがないよ。それより
そんな言うくらいならソッコーで終わらせようぜ!」
「おう、そうだな!終わったらブルーネアが寝てる時
に毛虫の入ったびっくり箱プレゼントしてやる!」
「アンタまたこの刑にされるわよ」
「まっ、とにかくソッコーで終わらせてやろうぜ
こんなモン。おう、イエーネア バケツとってバケツ」
「はいはい」
そう言ってイエーネアは青いバケツを手に取った…が
次の瞬間、手が滑って 見事にひっくり返して
しまい、水が盛大にぶちまけられる。俺達は
ビックリ。慌てて 拭こうとするが、俺は水に足を
滑らされ、ひっくり返って頭をぶつけたのだった。
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