転生した世界は滅びていました。えっ、これを救えって……?

改札口を盾にUターンしてください。

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君と手にする明日は血の色

シリアスさんの入場です。皆様、拍手でお迎えください。

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「遅いじゃないか」
 微笑むユズラの言葉にも、遅刻を叱咤するシンゴラの声も、それを諭す村長の顔も、俺にとってはどうでも良い。

「……ね、……っ。ネルフィい……?」

 唇が震える。口内がネットリしている。舌がもつれる。
 ネルフィの体は血まみれだった。
 腕がなく、足もなく、瞳に宿っていた光もなかった。

 俺の目は、四肢を切断されたネルフィの眼に釘付けだった。

「あ、あぁぁ……! ね、ネルフィイイイイイイイイイイイイイイィ!」

 我を忘れて叫んだ。
 あまりの凄惨さに意識が遠のいていく。
 しかしそれでも、俺の口から漏れた咆哮は、確かにネルフィの耳に届いたようだった。

「ォルド……?」

 四肢のないネルフィの目に、一瞬だけ、光が戻った。
 彼女は泣いていた。それが痛みからの涙か、後悔の涙かは分からない。
 ただ、ネルフィは泣いていた。

「本当に、待ちくたびれたよ。さあ、早く戦おう!」
「……えが、やったのか」
 声が震える。うまく発声ができない。
「え?」

 唾を飲み込んで、息を大きく吸って、声を張り上げた。

「お前がやったのか!」
「あれ? 見てなかった? もう一回見る? ってあれ? もう両手両足ないじゃん! 再現できないや! はっは!」

 怒りで視点が定まらない。
 なんだ、なんなんだよコイツ。
 自分がやったことが、どれだけ残酷か分かっていないのか!

『言っただろう。ユズラは戦闘狂だ。狂ってるんだよ。きっと君が来るまで、ネルフィを弄んでいたに違いない。そうじゃなきゃ――』
「うっせえ黙ってろっ!」

 冷静に分析をするオルドにも腹が立つ。
 なにより、遅刻なんかした自分に1番腹が立っている。

 俺がもっと早く来ていれば、ネルフィはこんな惨い仕打ちを受けずに済んだはずだ。
 ユズラの言葉からもそれが分かる。だからこそ俺は、俺が1番憎い。

『うっせえ黙ってろって言ったって、事実だもの』

 そんなの分かってる。
 でも、俺の目の前で泣いている女の子は、四肢を奪われたネルフィは、この世界で唯一、俺に優しくしてくれた一家の子供なんだ。
 そう、子どもなんだよ。

 中学生以降の記憶がないだけの俺と違って、彼女はれっきとした子どもなんだ。
 そんなネルフィが、そんな彼女が……っ。
「ねえ村長! 彼も儀式には参加できるんだろう?」

 ユズラは笑っている。早く戦いたいとでも思っているんだろう。
 もはやその眼に、苦しむネルフィの姿は映っていない。

 憎らしいが、なぜだろう。どこか違う感情もある。怒りだ。
 だけど、ユズラに対しての怒りじゃない。なんでだ。
 ネルフィを斬ったのはヤツなのに……。

「……そうじゃな。幸い、オルドの出番はまだじゃった。正式には、彼も一回戦を突破している。彼の出場を認めよう」

 この儀式を始めたのは村長だ。
 なぜ、犠牲者が子どもでなければならない? 
 頭に血が上っているせいか、村長に対しても憎しみがこみ上げてくる。
 でも、違う。そうじゃない。俺が憎むべきは、村長でもない。

「敵は……そうか」
『何がだい?』
 俺のつぶやきに、オルドだけが反応する。

「俺が憎むべきなのは、自分でもなく、ユズラでもなく、村長でもない」
 オルドの父親、ハース・レインチェンバーでもない。話を聞く限り、ハースは元凶ではあるが、そのものではない。

『なら、なにを憎むって?』
「この世界、そのものだ」

 前世とのギャップもあり、それがよく分かる。
 前世での子どもは、最優先で守られるべき、庇護対象だった。
 でも、この世界では違う。この世界では、そうじゃない。
 それが、俺にはたまらなく不快なんだ。

『んで、どうするって?』

 オルドの問いがいちいちムカつく。コイツはバカじゃない。っていうか、頭もよさげだし、カンも良い。
 きっと、俺の感じていることを見透かして、だからこそ訊いてくるのだろう。

「世界を、作り直す」
 ネルフィに与えられてしまったような苦痛は、もう誰にも経験してほしくない。
 せめて、俺が影響を与えられる範囲、俺が変えられる未来だけでも。

『ふふ! そっかぁ! そうだよね! うん! じゃあ、この儀式で生き残らないとね!』

 俺とは対照的に、オルドは嬉しそうだ。
 まあ、オルドにしてみれば当初のレールに俺を導けたんだ。嬉しくないわけがないだろう。
 父親を殺すこと、それが、オルドの悲願だったんだからな。


「ふむ……して、シンゴラ? 決着はまだかの? ワシの眼には、勝敗は決したように見えるが……」
 村長の言葉にハッとして、シンゴラが慌ててユズラに駆け寄った。

「…………」
 俺は、ネルフィをみた。
 いまの俺には、彼女を助けてあげることなんてできない。
 俺には、どうすることもできない。
 それが悔しくて、申し訳なくて、俺は、ただネルフィを見つめることしかできなかった。

 ネルフィの顔は、白かった。ほとんど死体だ。
 いや、四肢から流れ出る血液から考えて、もう死んでいても不思議じゃない。

「……っ」

 せめて声をかけたいのに、言葉が詰まる。
 なんて声をかければいいのか、分からない。
 俺は彼女を救うどころか、安心させることさえできない――。
 そう決めつけていた俺に、オルドが呆れた声で言った。

『はぁ。女性へのアプローチは、とにかく、思い切りだよ』
 シンゴラが、ユズラの片腕を持ち上げる。勝鬨をあげるつもりだろう。
 言うなら、今しかない。そんな気がした。

「勝者――」

 その一瞬で、俺は覚悟を決めた。
 後悔しないように生きるとか、世界を憎むとか、そんな長期的であやふやな覚悟じゃない。
 俺はとにかく、思い切りよく、今できることをするべきだ。

 いま、後悔しないように。

「ネルフィ!」

 シンゴラの声を遮って、声を張り上げる。
 ネルフィの眼は虚ろだ。もう死んでいるかもしれない。生きていても、声が届いているかも分からない。だけど、いま俺にできることはただ、声を張り上げることだけだった。

「俺は、君の意思を継ぐ! 俺がこの世界を平和にしてみせる! この世界を、俺が、笑顔で満たしてみせる!」

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