転生した世界は滅びていました。えっ、これを救えって……?

改札口を盾にUターンしてください。

文字の大きさ
22 / 24
君と手にする明日は血の色

視点があっちこっち参っちまうね。ごめんね!

しおりを挟む
―――オルド視点――

『起きろぉおおお!』
『頼むから起きてぐれぇええ!』
『う・お・お・お・ぉおおおおいっ!』

 僕に生身の体があれば、喉は張り裂け、肺は破れ、声はすり潰れていただろう。
 しかしどんなに大きな声を出しても、僕の体の持ち主は起きる素振りも見せない。
 これ、死んでないよね?
 そう疑いたくなるほどに睡眠を貫いている。

『ああ……最悪だ』

 彼が寝てから、いったい何時間が経ったんだろう。
 太陽の位置も、どんどん高くなっていく。
 そろそろ儀式が始まる頃合だ。

『僕の努力が、使命が、犠牲が……無駄になっていく……』

 思えば短い人生だった。
 3歳の頃に母が死に、それから1人で生きてきた。

 敬愛していた母の仇を取るべく体を鍛えるものの、僕の魂は貧弱すぎて、10歳になるころには走ることすら困難だった。
 ただ、それでも僕は走った。剣を振った。

 結果、僕に与えられた報酬は身体能力の向上ではなく、魂の消耗、体の衰弱だった。
 このままでは死ぬ。
 そう結論付けて、僕は村長に頼み込んで魔術を教わった。
 そうして僕は、古代魔術のために自らの命を絶った。

『1度は、報われたんだけどなぁ……』
 甘ったれた世界で死んだ、甘ったれた男を転生させることに成功して、僕の自我も、かなりイレギュラーな形だけど残すことができた。

 考える限りの最善だった。
 でも、現状は考えうる限りの最悪だ。
 儀式の開始時間が、過ぎようとしている。

『……頼むから、起きてくれよ』
 そう頼んでも、相棒は起きる気配すらない。


――主人公視点――


『やぁ、かなり寝たね』
「ニズルフォッグやっべえわ。普通に戦ってたら絶対に負けてた」
 特に、記憶にあったテルニールとの戦い、アレはやべえ。

 テルニールの酸性の触手をモロに受けながら、アイツはひたすら前進してテルニールを仕留めてた。好物のためなら、多少の手傷は構わないっていう感じだった。
 何て言うんだろう。強さと狂気が混じった感じだ。
 ニズルフォッグはやっべえ。

『いま生きている中で、剣を扱う中型モンスターの中じゃ、一級だからね。はーぁあ』

 オルドの声色が低い。おまけに元気もない。どうしたんだろう。
 訊いてみるか。

「気絶している間に、なんかあった?」
『太陽の位置から考えるに、儀式が始まった。ボクたち、遅刻だよ。はーぁあ。どうなるんだろ、参加できるのかなあ』
「! それを早く言えよ! 気絶してたの俺だけど! 今すぐ行こう!」
 幸い、ここは儀式で使う森の中だ。距離はそこまで離れていないはず。
 どのくらい遅刻しているのかは分からないが、終わってなければ参加できるだろ多分!

「で、どっちだ?」
『ひが――右だよ。はああ。あとはもう、参加できるように祈るだけだね……』
「ああ。走るのは俺だもんな!」

 肉を放り出して、駆ける。「本当に申し訳ない」と、ニズルフォッグやテルニールに、心のなかで謝罪と供養をする。今はとにかく右方向に全力ダッシュだ。

 いくつもの大木を縫うようにして走りながら、オルドが呻く声を聴き続ける。

『シンゴラさんも村長も、時間には厳しい人だからなぁ……。参加させてくれると良いけど……。うわあ、ダメな未来しか想像できない』

 嘆くのも分かる。
 この儀式は、お祭りじゃない。
 世界を救うための、救世主を見つけるための儀式だ。
 俺が選別者なら、儀式に遅刻したヤツは推薦しない。

 いやまあ、別に救世主になりたいわけじゃないから俺は良いんだけど、オルドの打ちのめされっぷりと見ると、全力ダッシュしなければいけない感がハンパない。
 っていうか普通に可哀想だ。
 何度も血を流して、努力して、挙句、オルドはこの世界のために命を犠牲にした。
 この世界に、貢献しようとしたんだ。
 なのに、俺の気絶寝坊によって、努力が報われる可能性が剥奪されるとか、そういうの考えると、「もういいじゃん。諦めようぜ」とか言えない。
 もう疲れたし良いじゃんとか言えない。
 言って楽になりたいけど、その先に未来はないし、論理的に考えて口が裂けても言えない。

「きっと間に合う。ほら、よく言うだろ。ヒーローは遅れてくるもんだって」
 だから、俺は気休めを言う。
「おや、ヒーローになる気が?」
「無いけども!」
 ここまでの会話でワンセット。

 俺はヒーローにはならないけど、オルドには一命、一言語、一友人としての借りがある。

 その借りを返すまでは、諦めたら俺の夢見が悪い。
 死にたくない。
 ……ああ、もしかして、これが俺なりの覚悟ってやつなのかもしれない。
 自主性もへったくれもない、流れ流されっぷりの、クソみたいな覚悟だけど。

「ヒーローにはならないし、なれないけど、俺は、後悔しないように生きるよ」
 俺にはきっと、ピッタリだろう。



------オルド視点


『後悔しないように生きる……か』
 僕は相棒の覚悟を、そのまま繰り返す。
『ふふ。その覚悟、貫き通すのはかなり大変だろうねぇ』
「なんで?」

 走りながら彼が答える。
 あと2分ほど走り続ければ、儀式の祭壇だ。

『後悔するかしないか、そんなの、未来が分からないと決めようがないじゃないか。その時は後悔しなくても、未来で後悔するかもしれないだろう?』
「…………」

 落ち葉を踏みつけ、草木を蹴り、地面を足裏でえぐる。
 あと、もう少しだ。

「うん。そうだな、確かにオルドの言う通りだ。訂正するよ」

 おや。
 どうやら彼は、決めたばかりの自分の覚悟を、信念を、すぐに覆すつもりらしい。
 英雄にあるまじき行いだ。
 ここは僕がしっかりと正して――。

「今、後悔しないように生きる。俺は、そういう風に生きるよ」

 ――やらなくても、良さそうだ。
 なんだ。そんなにすぐに答えが返ってくるってことは、既に自分の中で答えが決まってたんじゃん。
 おっ。

『戦いの音がするね。剣と剣がぶつかり合う音だ。まだ、儀式は終わっていないらしい』

 それにしても、うーん。やっぱり、彼は体の使い方がなっていない。
 剣を持っているとはいえ、走るのが遅すぎる。
 きっと、走り方に独特なクセがあるせいだ。

 腕は横に振っているし、足も内股気味になっている。
 これも矯正していかなきゃだね。
 なんて思っている間に、ようやく儀式の神殿にたどり着いた。
 と言っても、まだ距離はある。
 だけど、視認はできる距離だ。


「やぁ、待っていたよ。今すぐ終わらせるからね」
 どうやら儀式も終盤らしい。

 シンゴラさんと村長、血塗られたネルフィと、そして微笑むユズラが、僕たちを出迎えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...