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マモルのプレゼン
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冬休み明けの最初の土曜日。アイデアコンテストの本選会が行われた。場所は田瀬谷区の大きな公園の一角にある美術館。本選に進出したのは、ぼくを含め5名。控室には、女子高校生から初老の男性まで、世代は幅広く、ぼくは最年少のようだ。
プレゼン会場は美術館の吹き抜けのギャラリーに設けられ、区長をはじめ、審査員の方々が最前部に座っていて、プレッシャーを感じる。
本選のプレゼンは誰でも自由に聴くことができ、会場いっぱいに百席ほどの一般席が用意されている。これからプレゼンする予選通過者がステージに上がるよう案内され、スクリーンを背に一列に座る。
少しドキドキしながら、客席を見渡す。
ぼくに手を振る教頭先生。その横に担任の渋川先生。さらにその横に保健室の高野先生。
「マモル、ガンバレー!」と場違いなエールが飛んできた。レイをリーダーとした、買い食い戦士達である。同じクラスの男子の姿も見える。
なんとなくホームゲームのような雰囲気を感じさせてくれる。緊張感が解けた。みんな、ありがとう。
さらに会場を見渡すと、最後部の席で小さく手を振るマミちゃん。隣には叔母さんの姿が見えた。
「皆さま、お待たせいたしました。それでは、『区民が考える、野々川側緑地活用コンテススト』、本選プレゼンテーションを開始します。トップバッターは、町村 守君、中学二年生。では町村君、演台にお進みください。」
ぼくは、この日のために姉から借りた性能のいいパソコンを抱え、演台の前に立った。係の人がパソコンをプロジェクターについないでくれ、ぼくはスライドの表紙を投影する。
タイトルは、
“共生・協生への実験と挑戦”
ぼくは会場を見渡し、軽く深呼吸し、口を開く。
「皆さまの前で私の考えをお話しできる機会をいただき、大変嬉しく思っています。
結論からお伝えします。
私は野々川側緑地の遊休地をあらゆる生き物が共生するだけでなく、それぞれが助け合って豊かに生きていける世界をつくるための、実験と挑戦の場にしたいと考えています。
この挑戦を通して、田瀬谷区は『自然と助け合って生きる』街のあり方を日本国内に、いや世界に問いかけ、リードする街になります。
最近では、熊をはじめ、様々な動物たちが食べ物を求め、山里だけでなく、市街地までやってきて被害をもたらしています。
人々は自分の暮らしと命を守るために、動物たちを駆除します。これは仕方の無いことだと思います。
でも、開発が進み、地球の気候変動も進むと、ますます動物たちの居場所がなくなっていきます。もはや、駆除が最良の解決策とは言えないのではないでしょうか。
私は、この問題の解決策として、二つの具体策を提案します。
一つ目は、人間と動物たちが友に自然の恵みを育て、その恩恵を受けることができる『恵みの協生ゾーン』づくりです。
人と動物の棲む場所を分け、その緩衝地帯を設ける取り組みが各地で行われています。
一方で、『協生農法』という新たな農業の取り組みが始まっています。これは、肥料や農薬などを使わず、虫や鳥などの力で、いろいろな植物をなるべく自然に近いかたちで育てようというものです。
私の提案は、人と動物の緩衝地帯をこのような農法で豊かな場所にし、人里まで降りてこなくても、動物たちは食べ物を得ることができ、人間もその恩恵を受けることができるようにします。もちろん、このゾーンに入れる人間は制限する必要がありますが。
田瀬谷区には、農業の専門大学があり、私の通う中学の先生を通じて、このお話の打診もしており、農法を研究しているゼミや研究者の方にも関心を寄せていただいております。研究開発にご協力いただくことも考えられます。
さて、もう一つのご提案は、『共生する動物との学びあい』です。」
会場からざわめきが起きた。審査員席からは「動物と学び会う、なんて、どういうことだ? 無理じゃないか?」という声も聞こえる。
ぼくはやっぱり来たなと思い、用意していたカードを切る。
「はい、もちろん獰猛な動物に何かを教え、何かを教わるなんてことは怖くて怖くて、そんなことやりたくないですよね。(笑)」
ぼくはパソコンの画面上の動画再生ボタンを押す。
「ちょっと、これを見てください。」
動画がスクリーンいっぱいに再生される。
そこに映し出されたのは、一人の女の子。マミちゃんだ。よく見ると、彼女の足もとには五匹の小動物がお行儀良く並んでいる。野々川側沿いに棲む子ダヌキたち。
「みんな聞いてね。」
子ダヌキたちがマミちゃんの方に顔を上げる。
トートバッグからリンゴのピースを取り出し、マミちゃんは子ダヌキたち鼻先に差し出す。
「これ、食べていいのかな?」
子ダヌキたちは少し後ずさりし、拒否の意思表示をする。
「みんないい子だね。頭ナデナデしてあげようか?」
マミちゃんは一匹の子ダヌキを撫でようと手を伸ばすが、その子は再び後ろに下がりイヤイヤと首を振る。
会場から小さなどよめきが聞こえる中、ぼくは説明する。
「ご覧いただけましたか? ボクたち人間は『タヌキに餌を与えないでください』、『タヌキには手を出さずにそっとしておきましょう』と指導を受けますが、タヌキたちだって、そのルールを教わり実行することができます。動画に登場した、この女子中学生は、長い間タヌキを見守り、すこしずつタヌキに働きかけることによって、タヌキも学べることを知りました。あ、このことは、区役所の方に知られると怒られるので内緒ですけどね(笑)。
しかもこれは、この中学生の特殊な才能ではなく、彼女が先生になって教えてくれると、誰でもできるようになります。それから、タヌキに関して問題となる糞の害ですが、これもしていい場所を教えてあげると、きちんと守ってくれます。」
ぼくは一旦停めた動画を再生し、ぎこちなくもぼく自身が子ダヌキと同様なやりとりをしているシーンを見せた。
「この街は、長年タヌキと共存してきました。昔から住んでいる方は、タヌキとのつきあい方をよく知っています。これは、日本中に自慢できる財産だと思います。そして、何よりも大切なことは、タヌキの身になって考えてあげよう、愛してあげようという気持ちがこの街の人々にあることです。私は、日本のみなさん、世界のみなさんにも共存する方法と、気持ちを伝えていきたい。」
会場の人々はうなずきながら聞いてくれる。それを見て、ぼくは自信を持ってこう切り出した。
「みなさんもご存じの通り、少し前、アライグマが親子の手を噛む、と言う事件が起きました。さっきも言ったように、どの動物とも学び会うことができるわけではありません。でも、ここのタヌキたちはそれができます。ぼくはそのことを大切にしたい。田瀬谷区の宝にしたい。住む人みんなの自慢にしたい。」
会場の後方にいるマミちゃんの姿を見ると、手で顔を押さえ、叔母さんに背中をさすられている。
一連の騒動を通してぼくは、「マモル君は、将来やりたいこととかあるの?」というマミちゃんの問いに答えを見つけたような気がする。
最後に一言つけ加えてプレゼンを終える。
「ぼくは、この宝をずっと守り、育てていきます。この宝を大切に思って一緒に育ててくれる人をずっと愛し、大切にしていきます。ご静聴ありがとうございました。」
ぼくがお辞儀をして顔を上げた瞬間、「買い食い戦士達」が座っているあたりから、きゃー、マモルー、かっこいいぞー! などのヤジ? 歓声? が湧き起こる。
さらにレイたちは席を立つと、後ろに座っていたマミちゃんを引っ張り出し、ステージの前まで連れ出す。最初は嫌がっていたマミちゃんは、ぼくの正面に立つと、
「ほんとうにありがとう。」
と小声で言い、涙をいっぱい溜め、ぼくに突進し、抱きついてきた。
会場全体に大きな歓声と拍手が響く。
ぼくは、マミちゃんを抱き止めながらも、まだトップバッターなのに、審査員の心証を悪くしないかとヒヤヒヤしていた。
審査員席からは、
「そうしますと、緑地帯の名前は『タヌキ公園』ですかな?」
「いやいやそれだと、この美術館がある公園と紛らわしいんじゃないの?」
というやりとりが聞こえた。
プレゼン会場は美術館の吹き抜けのギャラリーに設けられ、区長をはじめ、審査員の方々が最前部に座っていて、プレッシャーを感じる。
本選のプレゼンは誰でも自由に聴くことができ、会場いっぱいに百席ほどの一般席が用意されている。これからプレゼンする予選通過者がステージに上がるよう案内され、スクリーンを背に一列に座る。
少しドキドキしながら、客席を見渡す。
ぼくに手を振る教頭先生。その横に担任の渋川先生。さらにその横に保健室の高野先生。
「マモル、ガンバレー!」と場違いなエールが飛んできた。レイをリーダーとした、買い食い戦士達である。同じクラスの男子の姿も見える。
なんとなくホームゲームのような雰囲気を感じさせてくれる。緊張感が解けた。みんな、ありがとう。
さらに会場を見渡すと、最後部の席で小さく手を振るマミちゃん。隣には叔母さんの姿が見えた。
「皆さま、お待たせいたしました。それでは、『区民が考える、野々川側緑地活用コンテススト』、本選プレゼンテーションを開始します。トップバッターは、町村 守君、中学二年生。では町村君、演台にお進みください。」
ぼくは、この日のために姉から借りた性能のいいパソコンを抱え、演台の前に立った。係の人がパソコンをプロジェクターについないでくれ、ぼくはスライドの表紙を投影する。
タイトルは、
“共生・協生への実験と挑戦”
ぼくは会場を見渡し、軽く深呼吸し、口を開く。
「皆さまの前で私の考えをお話しできる機会をいただき、大変嬉しく思っています。
結論からお伝えします。
私は野々川側緑地の遊休地をあらゆる生き物が共生するだけでなく、それぞれが助け合って豊かに生きていける世界をつくるための、実験と挑戦の場にしたいと考えています。
この挑戦を通して、田瀬谷区は『自然と助け合って生きる』街のあり方を日本国内に、いや世界に問いかけ、リードする街になります。
最近では、熊をはじめ、様々な動物たちが食べ物を求め、山里だけでなく、市街地までやってきて被害をもたらしています。
人々は自分の暮らしと命を守るために、動物たちを駆除します。これは仕方の無いことだと思います。
でも、開発が進み、地球の気候変動も進むと、ますます動物たちの居場所がなくなっていきます。もはや、駆除が最良の解決策とは言えないのではないでしょうか。
私は、この問題の解決策として、二つの具体策を提案します。
一つ目は、人間と動物たちが友に自然の恵みを育て、その恩恵を受けることができる『恵みの協生ゾーン』づくりです。
人と動物の棲む場所を分け、その緩衝地帯を設ける取り組みが各地で行われています。
一方で、『協生農法』という新たな農業の取り組みが始まっています。これは、肥料や農薬などを使わず、虫や鳥などの力で、いろいろな植物をなるべく自然に近いかたちで育てようというものです。
私の提案は、人と動物の緩衝地帯をこのような農法で豊かな場所にし、人里まで降りてこなくても、動物たちは食べ物を得ることができ、人間もその恩恵を受けることができるようにします。もちろん、このゾーンに入れる人間は制限する必要がありますが。
田瀬谷区には、農業の専門大学があり、私の通う中学の先生を通じて、このお話の打診もしており、農法を研究しているゼミや研究者の方にも関心を寄せていただいております。研究開発にご協力いただくことも考えられます。
さて、もう一つのご提案は、『共生する動物との学びあい』です。」
会場からざわめきが起きた。審査員席からは「動物と学び会う、なんて、どういうことだ? 無理じゃないか?」という声も聞こえる。
ぼくはやっぱり来たなと思い、用意していたカードを切る。
「はい、もちろん獰猛な動物に何かを教え、何かを教わるなんてことは怖くて怖くて、そんなことやりたくないですよね。(笑)」
ぼくはパソコンの画面上の動画再生ボタンを押す。
「ちょっと、これを見てください。」
動画がスクリーンいっぱいに再生される。
そこに映し出されたのは、一人の女の子。マミちゃんだ。よく見ると、彼女の足もとには五匹の小動物がお行儀良く並んでいる。野々川側沿いに棲む子ダヌキたち。
「みんな聞いてね。」
子ダヌキたちがマミちゃんの方に顔を上げる。
トートバッグからリンゴのピースを取り出し、マミちゃんは子ダヌキたち鼻先に差し出す。
「これ、食べていいのかな?」
子ダヌキたちは少し後ずさりし、拒否の意思表示をする。
「みんないい子だね。頭ナデナデしてあげようか?」
マミちゃんは一匹の子ダヌキを撫でようと手を伸ばすが、その子は再び後ろに下がりイヤイヤと首を振る。
会場から小さなどよめきが聞こえる中、ぼくは説明する。
「ご覧いただけましたか? ボクたち人間は『タヌキに餌を与えないでください』、『タヌキには手を出さずにそっとしておきましょう』と指導を受けますが、タヌキたちだって、そのルールを教わり実行することができます。動画に登場した、この女子中学生は、長い間タヌキを見守り、すこしずつタヌキに働きかけることによって、タヌキも学べることを知りました。あ、このことは、区役所の方に知られると怒られるので内緒ですけどね(笑)。
しかもこれは、この中学生の特殊な才能ではなく、彼女が先生になって教えてくれると、誰でもできるようになります。それから、タヌキに関して問題となる糞の害ですが、これもしていい場所を教えてあげると、きちんと守ってくれます。」
ぼくは一旦停めた動画を再生し、ぎこちなくもぼく自身が子ダヌキと同様なやりとりをしているシーンを見せた。
「この街は、長年タヌキと共存してきました。昔から住んでいる方は、タヌキとのつきあい方をよく知っています。これは、日本中に自慢できる財産だと思います。そして、何よりも大切なことは、タヌキの身になって考えてあげよう、愛してあげようという気持ちがこの街の人々にあることです。私は、日本のみなさん、世界のみなさんにも共存する方法と、気持ちを伝えていきたい。」
会場の人々はうなずきながら聞いてくれる。それを見て、ぼくは自信を持ってこう切り出した。
「みなさんもご存じの通り、少し前、アライグマが親子の手を噛む、と言う事件が起きました。さっきも言ったように、どの動物とも学び会うことができるわけではありません。でも、ここのタヌキたちはそれができます。ぼくはそのことを大切にしたい。田瀬谷区の宝にしたい。住む人みんなの自慢にしたい。」
会場の後方にいるマミちゃんの姿を見ると、手で顔を押さえ、叔母さんに背中をさすられている。
一連の騒動を通してぼくは、「マモル君は、将来やりたいこととかあるの?」というマミちゃんの問いに答えを見つけたような気がする。
最後に一言つけ加えてプレゼンを終える。
「ぼくは、この宝をずっと守り、育てていきます。この宝を大切に思って一緒に育ててくれる人をずっと愛し、大切にしていきます。ご静聴ありがとうございました。」
ぼくがお辞儀をして顔を上げた瞬間、「買い食い戦士達」が座っているあたりから、きゃー、マモルー、かっこいいぞー! などのヤジ? 歓声? が湧き起こる。
さらにレイたちは席を立つと、後ろに座っていたマミちゃんを引っ張り出し、ステージの前まで連れ出す。最初は嫌がっていたマミちゃんは、ぼくの正面に立つと、
「ほんとうにありがとう。」
と小声で言い、涙をいっぱい溜め、ぼくに突進し、抱きついてきた。
会場全体に大きな歓声と拍手が響く。
ぼくは、マミちゃんを抱き止めながらも、まだトップバッターなのに、審査員の心証を悪くしないかとヒヤヒヤしていた。
審査員席からは、
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