稀有ってホメてる?

紙吹雪

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第2章 覚悟と旅立ち

取得と習得と体得 #2

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 全員が寝る支度を済ませた後のリビングに、リミル、クロト、アキリム、ジャックの4人が揃っていた。

「じゃ始めるか。まずは体幹から。既に体幹が出来てるかも知れない。余裕に思っても寝る前のトレーニングに負荷は必要ない。見て真似てくれ。」

 リミルは言いながらソファに足を引っ掛け、床に手を付き腕立て伏せの腕を伸ばした状態で維持する。皆は真似をしてリミルと同じ状態になる。その状態でも会話は続く。

『負荷がある方が早く鍛えられそうなのにね。』

 アキリムが疑問に思いながらそう言うと、リミルは懸念していたことを一応話しておくことにした。

「無駄なことをさせて俺に得はないよ。むしろせっかくのレベル上げのチャンスが無駄に終わるとか最悪だし、そんな面倒なことやるわけないだろ。あ、先に言っとくけど、俺が教える方法以外でやるなら俺は手を引く、自力で頼む。アドバイスくらいならするかも知れないけど、こんな風に手取り足取りってのはモチベーションがないとやってられない。」

『そんなに脅さなくたって大丈夫だって。教えて貰える方が俺達は楽なんだから。ただ、理由とか分かってるなら教えといてくれると納得して出来るなって思うけど。』

 ジャックが宥めながら大人な対応を見せるが別にアキリムもリミルも険悪な雰囲気など無い。アキリムは疑問のつもりで言ったし、リミルが言ったことにも『確かに。』くらいにしか思っていなかった。リミルもアキリムの一言で怒ったとかでは無く、淡々と事実を述べただけだ。他意はない。
 でも、ジャックの言を聞いてリミルは「理由か。」とそっちを答えれば良かったと思った。ただ、先に言っておかないと後から指導外のことをされて手を引くと伝えるのは微妙な気がしたので言っておきたかったのだ。

「そうだな…理由か。今回のテーマは取得と習得と体得だ。」

『取得』

ジャックが呟き、

『習得』

クロトも呟き、

『体得?』

アキリムが首をかしげた。

「まず、職業クラスを手に入れ自分のものとする取得。次に、経験を通して習い覚える習得。最後に、体験によって身につけ十分理解して自分のものにする体得。」

『要は身体で覚えろ的な?』

 クロトの言った言葉は簡潔明瞭でわかりやすいけれど少し違う。言いながら身体を回転させ片手で全身を支える。皆も真似をしながらそのまま話を続けた。

「覚えろではなく、身体に記憶させるんだ。」

『どう違うんだ?』

「覚えろだと無理矢理な気がしないか?無理せず長く続けてそれが通常だと身体に思わせる。職業クラスとして取得した後はロールプレイを繰り返して身体に馴染ませ不必要な筋肉は自然に落とす。」

『せっかくつけた筋肉落とすの勿体ない気がするよな…。』

 ジャックはムキムキになりたいような、なりたくないような複雑そうな顔をした。

「まぁ、ムッキムキでいたい人達は鍛えまくっているけど、あの人達は戦いには向かない。男らしくてカッコイイけど戦闘では見ないだろ?か弱い人達にとっての憧れアイドルであり強くなりたい人達の目標モデルだ。そっちになりたいなら落とす必要はないよ。」

 作られた立ち回りを幾人ものムキムキな者達が覚えそれ通りに動くことで見事に綺麗な戦いを魅せる演武というものがある。まぁそれは今はいい。

『冒険者じゃない道かぁ…でも僕はムキムキは良いや。見る分には良いけど自分だと想像つかない。』

『俺も。ニーナがムキムキの方が好きなら考えるけど…。』

『俺は程よくあればいいかな。うん。』

 アキリムは妖精族特有のスラッとした見た目をしている。想像がつかないのも納得だ。クロトはニーナの好み次第では…まぁ似合うとは思うけども。ジャックもクライの顔がチラついたのか考え直したようだ。
 身体を反転し反対の手で支えながら話は続く。皆疲れは見えないのでそれなりに体幹は出来上がっているのだろう。取得に1歩近づき助かる。

「そうだな。実践を仕事にする冒険者プレイヤーには重たい筋肉は必要ない。必要な分だけ残ればそれで。でも1日1回で良いから戦闘系の職業は使って筋肉を維持しないと。いざと言う時に使えないと困るから。種族レベルが上がれば維持されやすくなってわざわざ鍛えなくても職業クラス自体を使用してれば自然と鍛えられてるから良いんだけど。戦闘系の取得数が多いと維持が大変なんだ。でも選択肢は多い方が良いしな。」

『俺がやってたゲームでは何か職業クラスを選ぶと似た職業クラスは選べないとか真逆のものは選べないとかあったんだけど、この世界は条件さえ揃えばなんでも良いってチートっぽいよな。それなりの苦労があるとはいえさ。』

 クロトの何気ない言葉にアキリムもジャックもムッとした。リミルだって思うところはあった。でもこの世界を知らない子ども相手に怒るべきではないと自分に言い聞かせた。

『それなりってなんだよ。ゲームだと死なないんだろ。平和ボケがまだ抜けてないんじゃないの?』

『さすがに今のは俺らのことを軽視し過ぎじゃないか?何の職業クラスも持たずに生きていけるほど甘い世界じゃないんだ。怖くたって自分がどの程度の魔物を倒せるのか知っておかなきゃいけない。』

『ごめん!そんなつもりで言ったんじゃないんだ。ただ…』

 口ごもってしまったので、リミルはクロトが自信の間違いに気づいたのかと思ったが言い淀んだだけだったのを見て溜め息をついてしまう。

「はぁ…。あー、クロト。多分な、ゲームはゲームとして楽しませるためにそういう工夫をしているかもしれない。ジャンケンだってグーがチョキにもパーにも勝てばゲームにはならない。でも、ここは、この世界は、渡人族に提供された娯楽ではない。俺達は皆生きている。例え似ていても仮想の娯楽と現実世界を同じ程度に見るのは…辞めてくれないか。」

 リミルは少しキツイ言い方になってしまった気もしたがきちんと注意もしなければならないと思っている。親がこんな時どういうのかは分からないが友として仲間として真っ直ぐ向き合えば分かってくれると思った。

『そう…だな。ゲームに似ていると何度も言えば同じ程度に見ていると取られても仕方ない。でも、これだけはわかって欲しい。俺は皆のことちゃんと大事に思ってる。』

 しっかり心に届いた。投げやりな言葉ならこんな風に心に響いたりしない。リミルは分かってもらえてホッとした。

「そうか。ならいいんだ。クロトの環境の変化がどれほどのものか俺には想像もつかない。仮想のゲーム世界に入り込んだ様な状態で異世界に俺が行ったとしたらと考えたことはあるが何も浮かばなかった。クロトのいた世界にもし自分が行ったとしたらと考えてもよく分からないんだ。クロトはとても凄いことをしていると思う。知らない世界で知らない人種とこうして生活しているんだから。」

 体幹のトレーニングを終了し、ストレッチに移行する。身体を伸ばしながらそう言うと、アキリムとジャックがそれぞれ順に口を開いた。

『そうだね。クロトもクロトで大変なの忘れてた。僕もごめん。自分の全く知らない世界だとキツイし、共通点がある方が安心するよね。』

『そうだな…。クロトのおかげで助かってることもあるのにムキになって悪かった。』

『いや、良いんだ。今回は俺が悪い。俺がどれだけ皆の助けになってたとしてもだからってなんでも許されるわけじゃない。リミル、ちゃんと叱ってくれてフォローもしてくれてありがとう。2人もちゃんと指摘してくれてありがとう。』

 その後も話しながら全身を伸ばし終えた。

「あ、朝は起きるのがマチマチだから今言っておくと、さっきやった体幹トレーニングを起き抜けにやってくれ。ストレッチは朝は無しだ。ストレッチで伸ばした分筋肉は縮むから寝る前は良いけど朝の運動前は良くない。体幹トレーニングで軽く身体を温めておく位が丁度いい。」

『なるほど、わかった。』

『ふわぁ…縮むんだね。さっきと同じ体幹トレーニングだけならそんなに時間もかからないな。』

『アキリム眠いのか?…ふわぁ…。欠伸が移った。』

『クロトも眠いんじゃん。』

「じゃあ《清潔クリーン》。皆おやすみ。」





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