聖者一行から離脱したら仕事に支障が出てしまったので、仲がいいことを証明したかっただけ

このえりと

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1話 はじまりと噂

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「アディさんごめんなさい、依頼者がほかの人がいいと言ってきまして……」

 目の前の受付嬢が申し訳なさそうに謝ってくる。今回で何度目だろうか。

「いやいや、こっちこそ毎回ごめんな」
「アディさんは悪くないです! あの依頼者はブラックリストに入れておきましたからね!」

 憤慨する受付嬢をなだめつつ、さらに申し訳なさでいっぱいになる。代わりの人間を手配するのも大変なのに、冒険者ギルドの従業員たちはオレの味方をしてくれていた。
 受付嬢に感謝と謝罪の言葉を告げ、オレはクエストボードの方に向かう。今日受けるはずだった仕事がなくなってしまったので、なにかしらの依頼を受けないと今日の収入がないからだ。
 ボードの前に立つと、冒険者ギルドに併設された酒場の客席から嘲笑が聞こえた。

「おー、またアイツ仕事断られたのか。かわいそうになあ」
「しょうがねえよ。誰も聖者様ご一行から追放されたヤツなんかに護衛頼みたくねえだろ」
「ハハハッ! 違いねえ!」

 わざとオレに聞かせるために話すやつらを無視して、クエストボードを確認する。とりあえず荷運びか、採取か……。最近は護衛の次に依頼料が高い害獣駆除の仕事が減っているからあまり金になりそうな仕事がなかった。
 とりあえずなんでもいいから受けるだけ受けないとと考えていると、出入り口の扉が勢いよく開かれる音がした。

「聖者様たちが無事に浄化の旅を終えたらしいぞ! もうすぐ王都に戻ってくるって!!」

 入ってきた人物が大声で叫ぶと、室内にいた全員が歓喜に沸き立つ。まだ午前中だというのに祝杯だと酒場で酒を注文する者や、これで安泰だと胸をなで下ろす者。冒険者ギルド内は一気に祝福ムードに包まれた。

(よかった。あいつら、無事に帰ってこれるんだな……)

 もちろん、オレも周りの人たちと同じように嬉しくなって口角が上がる。少しの間一緒にいただけだが、危険な場所に行った仲間が無事に帰ってきたのだ。嬉しくないわけがない。

「ハッ、追放されても聖者様たちの帰還を喜ぶなんて、健気なもんだな」
「あんな脳天気だから追放されたんだろ」

 先ほど嫌みを言っていたやつらが、わざわざ俺の表情を見てまたイチャモンをつけてきているのが聞こえて小さく鼻で笑う。

「そりゃあ、追放されたわけじゃないからな」

 オレの呟きは歓声にかき消され、誰の耳にも入ることはなかった。

 *

 こんなめでたい日に仕事はしないぞ、とすべての依頼が取り消しになってしまったので、オレはひとまず家に帰ることにした。家に着くと、ポストに手紙が入っていることに気づき中を開ける。手紙の送り主の名前を確認すると、急いで家の中に入った。
 ダイニングの椅子に腰掛け、送り主を再度確認した。綺麗な字で綴られている、リュシエンという名前。今世界でこの名前を知らない人はほとんどいないだろう。

 宛名に書かれた人物の魔力でしか開けられないように魔法がかけられた封を切り、中身を開く。無事に旅が終わったこと、王都に帰還するから会いたいということが書かれていて、本当に彼らの旅が終わったんだと実感する。
 オレは、数ヶ月前最後に見た手紙の送り主の顔を思い浮かべた。大人びていたけれど、まだ少しだけ頼りなかった年下の青年。オレが抜けたあとはさらに過酷な場所に向かったから、きっとものすごく成長しているんだろう。

 手紙にはさらに、王都でこれから開かれる祝祭に一緒に行きたい、宿も予約してあるからそこで会いたいと書かれていて、小さく笑みがこぼれる。一緒に祝祭を回ったら人々にもみくちゃにされるのが目に見ているし、そもそも会える時間なんてあるのだろうか、と。
 送り主であるリュシエンは祝祭の主役――聖者なのだ。聖者が街中に現れたら大変なことになってしまうことは容易に想像できる。人々に囲まれるリュシエンの困ったような笑顔を想像しながら最後まで読むと、旅に同行してくれたお礼がしたいと書かれていた。
 お礼の文字を見て、頭にとある考えが浮かんだ。

「オレが追放されてないってことを、リュシエンたちに証明してもらえれば……」

 自分でもよくない考えだとはわかっている。だが、正直これ以上仕事に支障が出るのはまずい。依頼を受けたのがオレだと知って断ってくることが何度も続きすでに冒険者ギルドに迷惑をかけているし、なにより護衛や傭兵以外の依頼は報酬が安い。今は家族や事情を知っている人が食材を分けてくれたりしているが、こんな生活をいつまでも続けていけるわけがない。

 優しくて情に厚い彼らを利用するのは気が引けるが、ほんのちょびっとだけ仲がいいと世間の人に証明してくれるだけでいい。彼らに追放されてないとわかれば、今まで通り仕事を受けられるようになるはず。
 旅の同行のお礼はこれをお願いしよう、そう思いながらオレはさっそく王都に向かうべく準備を始めた。
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