15 / 37
第3話
②
「……あっ、そういや家に寄ろうとしてたんだった」
家のことを考えていたら、仕事帰りに本や小物など必要なものを取りに行こうと思っていたことを思い出す。
『家に荷物取りに帰りたいんだけど買ったやつ今日使う?』
念のためユーインにメッセージを送ると、少しして返信が届く。
『明日のおやつ用だから大丈夫』
『よかった。ちょっと探すの時間かかるかもしれない』
『ゆっくりでいいよ。気をつけて帰ってきてね』
メッセージを読み終えると、オレは市場からアパートメントへと向かった。ちなみに今使っている通信用ブレスレットは、あの事件のあとにユーインが買ってくれた最新型だ。一緒に住むならいらないかと思ったけど、買い物の頼みとかちょっとした連絡で重宝している。
(ユーインとおそろいなんだよな……へへっ)
内心ニヤけながら歩いていると、気づけばアパートメントの前まで来ていた。自分の部屋に向かおうとすると、背後からオレの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「え? あ、大家さん! こんばんは」
「こんばんは。久しぶりだね」
「あはは、お久しぶりです」
振り返るとそこにいたのは、買い物バッグを手に持った大家さんだった。大家さんはいつ見ても優しそうな笑顔が素敵なおじさんだ。
居住者なのに久しぶりという挨拶になるなんて変だよな、と内心笑っていると、あ、と大家さんが口を開いた。
「そうだ。ベリルくん、悪いんだけど……近いうちに引っ越してもらうことって、できる?」
「……えっ!? どうしてですか……!?」
ユーインの家で寝起きしてはいるが、家賃はしっかり払っているから追い出される理由はないはず。突然の退去をお願いされ目を丸くしていると、大家さんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「実は親戚の子が仕事の都合でこっちに来るんだけど……その子が払える家賃帯の部屋が今どこも空いてないみたいでね。ベリルくん最近うちに帰ってきてないでしょ? もしほかに家があるなら、そっちに引っ越せないかなと思って……」
「あー……そういうことですか……」
いつも優しくて、よく相談にも乗ってくれる大家さん。奥さんもいい人で、ちゃんとご飯食べてるの、って作った料理を分けてくれる。そんなアパートを出るのは寂しいけど、事情が事情なだけに断るのも心苦しい。
実際もうほとんど帰ってないし了承してもいいのだが――オレは居候の身だからすぐに返事をすることはできない。
「すみません、大家さん。相談してからでもいいですか……?」
「ああ、もちろん。無理だったら私たちの家に下宿してもらうから、あんまり重く考えないでね」
「わかりました」
大家さんとの話を終えると、オレは頭を抱えながらもひとまず荷物を取り行くために自分の部屋へと向かった。
*
「もちろんいいよ」
「えっ、ホントか?」
「うん。きみの部屋だってあるし、僕はもういつでも引っ越してきてくれていいと思ってたからさ」
ユーインの家に着き、夕飯を食べながらオレが大家さんからされた話をすると、にこにこと微笑みながら了承された。さすがに少しくらい悩むかと思ったけど、あまりの即答ぶりに驚いてしまう。
たしかに実際、ここで寝起きすることにしてから空き部屋の1つを貰いはした。日に日にアパートメントから持ってきた着替えや荷物などが増え、今はすっかりオレの部屋だと言える空間になっている。
(でも契約があるからここにいさせてもらってるわけだしなあ。今後オレとセックスしないってなったら、出て行かないといけないし……でも、大家さんの頼みだしなあ)
少し悩んだ末、オレはユーインを見つめた。彼は優しげな笑みを浮かべてオレを見つめ返す。
「ホントに、いいんだよな?」
「もちろん。たしか明日休みだったよね? きみが大丈夫なら明日一緒に荷物運び出そ」
「ああ大丈夫だ! ありがとうユーイン……! へへ、お世話になります!」
「ふふ。これからもよろしくね、ベリル」
頭を下げると、くすくすとユーインが笑った。こうなったら、家を出るときのことはそのときになったら考えよう。それに正直、この家に引っ越していいと言われたことがすごく嬉しかった。これでしばらくは、彼とずっと一緒にいられるから。
嬉しくてニマニマしていると、ユーインが、あ、と呟いた。
「明日引っ越すなら、僕今日中に仕事ある程度終わらせておかないと。今日はシなくても平気そう?」
「ん? あー……うん。一昨日ヤったからまだ大丈夫だ」
「そう? ごめんね。先寝てていいから」
ユーインは古文書や古代文字を解読する仕事をしている。いつも依頼されたものを期日までに解読しているのだが、たしかに明日引っ越し作業をするなら1日潰れてしまうだろう。
「わかった。でも、夜更かしは駄目だからな?」
「ふふ、気をつけるよ」
にこにこと微笑むユーイン。彼は普段は落ち着いていて大人っぽいのに、古文書のこととなると時間を忘れて熱中してしまうところがある。今はセックスしない日も締め切りに追われない限りは同じ時間にベッドに入るけど、以前は結構徹夜したりと不規則な生活を送っていたらしい。
(――そのギャップも含めて、好きなんだけど)
夕食を終えお茶を飲むユーインを見つめながら、オレは心の中で呟いた。
家のことを考えていたら、仕事帰りに本や小物など必要なものを取りに行こうと思っていたことを思い出す。
『家に荷物取りに帰りたいんだけど買ったやつ今日使う?』
念のためユーインにメッセージを送ると、少しして返信が届く。
『明日のおやつ用だから大丈夫』
『よかった。ちょっと探すの時間かかるかもしれない』
『ゆっくりでいいよ。気をつけて帰ってきてね』
メッセージを読み終えると、オレは市場からアパートメントへと向かった。ちなみに今使っている通信用ブレスレットは、あの事件のあとにユーインが買ってくれた最新型だ。一緒に住むならいらないかと思ったけど、買い物の頼みとかちょっとした連絡で重宝している。
(ユーインとおそろいなんだよな……へへっ)
内心ニヤけながら歩いていると、気づけばアパートメントの前まで来ていた。自分の部屋に向かおうとすると、背後からオレの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「え? あ、大家さん! こんばんは」
「こんばんは。久しぶりだね」
「あはは、お久しぶりです」
振り返るとそこにいたのは、買い物バッグを手に持った大家さんだった。大家さんはいつ見ても優しそうな笑顔が素敵なおじさんだ。
居住者なのに久しぶりという挨拶になるなんて変だよな、と内心笑っていると、あ、と大家さんが口を開いた。
「そうだ。ベリルくん、悪いんだけど……近いうちに引っ越してもらうことって、できる?」
「……えっ!? どうしてですか……!?」
ユーインの家で寝起きしてはいるが、家賃はしっかり払っているから追い出される理由はないはず。突然の退去をお願いされ目を丸くしていると、大家さんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「実は親戚の子が仕事の都合でこっちに来るんだけど……その子が払える家賃帯の部屋が今どこも空いてないみたいでね。ベリルくん最近うちに帰ってきてないでしょ? もしほかに家があるなら、そっちに引っ越せないかなと思って……」
「あー……そういうことですか……」
いつも優しくて、よく相談にも乗ってくれる大家さん。奥さんもいい人で、ちゃんとご飯食べてるの、って作った料理を分けてくれる。そんなアパートを出るのは寂しいけど、事情が事情なだけに断るのも心苦しい。
実際もうほとんど帰ってないし了承してもいいのだが――オレは居候の身だからすぐに返事をすることはできない。
「すみません、大家さん。相談してからでもいいですか……?」
「ああ、もちろん。無理だったら私たちの家に下宿してもらうから、あんまり重く考えないでね」
「わかりました」
大家さんとの話を終えると、オレは頭を抱えながらもひとまず荷物を取り行くために自分の部屋へと向かった。
*
「もちろんいいよ」
「えっ、ホントか?」
「うん。きみの部屋だってあるし、僕はもういつでも引っ越してきてくれていいと思ってたからさ」
ユーインの家に着き、夕飯を食べながらオレが大家さんからされた話をすると、にこにこと微笑みながら了承された。さすがに少しくらい悩むかと思ったけど、あまりの即答ぶりに驚いてしまう。
たしかに実際、ここで寝起きすることにしてから空き部屋の1つを貰いはした。日に日にアパートメントから持ってきた着替えや荷物などが増え、今はすっかりオレの部屋だと言える空間になっている。
(でも契約があるからここにいさせてもらってるわけだしなあ。今後オレとセックスしないってなったら、出て行かないといけないし……でも、大家さんの頼みだしなあ)
少し悩んだ末、オレはユーインを見つめた。彼は優しげな笑みを浮かべてオレを見つめ返す。
「ホントに、いいんだよな?」
「もちろん。たしか明日休みだったよね? きみが大丈夫なら明日一緒に荷物運び出そ」
「ああ大丈夫だ! ありがとうユーイン……! へへ、お世話になります!」
「ふふ。これからもよろしくね、ベリル」
頭を下げると、くすくすとユーインが笑った。こうなったら、家を出るときのことはそのときになったら考えよう。それに正直、この家に引っ越していいと言われたことがすごく嬉しかった。これでしばらくは、彼とずっと一緒にいられるから。
嬉しくてニマニマしていると、ユーインが、あ、と呟いた。
「明日引っ越すなら、僕今日中に仕事ある程度終わらせておかないと。今日はシなくても平気そう?」
「ん? あー……うん。一昨日ヤったからまだ大丈夫だ」
「そう? ごめんね。先寝てていいから」
ユーインは古文書や古代文字を解読する仕事をしている。いつも依頼されたものを期日までに解読しているのだが、たしかに明日引っ越し作業をするなら1日潰れてしまうだろう。
「わかった。でも、夜更かしは駄目だからな?」
「ふふ、気をつけるよ」
にこにこと微笑むユーイン。彼は普段は落ち着いていて大人っぽいのに、古文書のこととなると時間を忘れて熱中してしまうところがある。今はセックスしない日も締め切りに追われない限りは同じ時間にベッドに入るけど、以前は結構徹夜したりと不規則な生活を送っていたらしい。
(――そのギャップも含めて、好きなんだけど)
夕食を終えお茶を飲むユーインを見つめながら、オレは心の中で呟いた。
あなたにおすすめの小説
元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話
ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生
Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158
ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/
fujossy https://fujossy.jp/books/31185
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
転生天使は平穏に眠りたい〜社畜を辞めたら美形王子の腕の中でとろとろに甘やかされる日々が始まりました〜
メープル
BL
毎日深夜まで残業、食事はコンビニの冷たいパン。そんな社畜としての人生を使い果たし、過労死した俺が転生したのは――なんと、四枚の美しい羽を持つ本物の天使だった。
「今世こそは、働かずに一生寝て過ごしたい!」
平穏な隠居生活を夢見るシオンは、正体を隠して王国の第一王子・アリスターの元に居候することに。ところが、この王子、爽やかな笑顔の裏で俺への重すぎる執着を隠し持っていた!?
悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!
ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。
らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。
なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。