3 / 8
中3・冬・女の子
しおりを挟む
受験シーズン。
私は手に持っていたシャーペンをノートの上に転がして体を伸ばした。
甘いものが欲しい。
今日学校帰りに買ったチョコをつまむ。
模試の結果を見る限り、K高には行けそうだ。
でも油断大敵。
さっきまでずっと塾のテキストをやり返していた。
だからさすがに疲れた。
勉強机から立ち上がってベットに転がる。
脳みそを休ませようと、意識してボンヤリしようとした。
でも頭の中では、受験に関する色んな情報が自動的に流れていく。
そういえば。
彼は推薦合格が決まったと噂で聞いた。
羨ましいことだ。
彼とは幼稚園の年少クラス、つまり4才からの幼馴染。
さすがに幼稚園の頃のことはほとんど覚えていない。
幼稚園時代の唯一の思い出は、夏のプールで彼があまりにも水を怖がるから、私がほぼ付きっきりで彼の世話をしたことくらい。
小学校に上がってからは、違うクラスになることも多かったし、お互い同性の友達とつるむようになって、特に思い出という程の思い出も無い。
でも…そうだ、中学1年の冬。
『どうしよう…誰か来ないかな…』
放課後の帰り道。
いつも通りの時間。
いつも通りの道。
いつも通りの下校になると思っていたのに。
いつも通っている道に頻繁に不審者が出没しているという話は聞いていた。
だけど私は今まで出くわしたことが無いから、これからも会うことは無いだろうと思っていた。
なのに
『あの男の人、後ろからついてきてる…?』
閉鎖された廃工場に沿った人のいない道を、少し早足で歩く。
さっきから知らない男の人が一定の距離を保ちながら私についてきている…気がする。
偶然同じ方向に向かっているだけだろうか?
でも男の人から視線を感じる。気のせいだろうか?
この工場沿いの道が終わっても、静かな住宅街で人通りは多くない。
それにこのまま家に帰ったら、私の家の場所を知られてしまう。
どうしよう。
どうしよう。
走ったらダメだろうか?
向こうも走って追いかけてくるだろうか?
気は強い方だと自負している。
それでも怖かった。
そんな時
「ねえ!待って!」
聞き慣れた高い声が後ろから聞こえた。
振り返ると、幼馴染の彼が、私についてきていた…かもしれない男の人のさらに後方から走ってきた。
男の人の横を通り過ぎて、すぐに私の隣まで来た。
息がかなり上がっている。
きっと全力のスピードで走ってきてくれたのだ。
「いっしょに帰ろうよ」
彼は笑顔で私にそう言ってくれた。
私は彼の申し出に勢い良くうなづいた。
…助かった…!
後ろに変な男の人がいても、隣に知り合いがいれば安心だ。
赤い夕焼け空の下2人で帰る。
しばらくして後ろをチラリと見ると、あの男の人はいつの間にかいなくなっていた。
次に隣の彼をチラリと見る。
もしかして…もしかしなくても…変な男の人がいたから、私に声をかけてくれたのだろうか。
今まで私達が一緒に帰った事なんて無かったし…。
彼に聞いて確かめたかったが、なんと言えばいいか分からなくて、グルグルしているうちに、私の家についてしまった。
「じゃあまた明日。学校でね」
「あ、うん…」
「それから…」
微笑んでいた彼がスッと真顔になった。
「あの道、おかしな人がよく出るから、あんまり通らない方がいいよ」
「あ…うん…」
やっぱり。
やっぱり、怪しい男の人がいたから私を助けてくれたのだ。
「じゃあね」
「あ…」
またなんと言えばいいか分からなくて、そのまま彼を見送ってしまった。
『今日はありがとう』
この一言で良かったのに。
あったな…そんなこと…。
忘れかけてた。
なんだか頭も体も妙にカッカと火照っていた。
熱い。
私はベットから起き上がってベランダに出た。
寒い。
だけどこの空気の冷たさが気持ちいい。
胸いっぱいに外の空気を吸って、腕を大きく伸ばして、体の凝りをほぐす。
よし、だいぶ気分がスッキリした。
私はすぐに部屋に戻り、机に座った。
「勉強がんばろう」
小さく声に出して、テキストを再開した。
私は手に持っていたシャーペンをノートの上に転がして体を伸ばした。
甘いものが欲しい。
今日学校帰りに買ったチョコをつまむ。
模試の結果を見る限り、K高には行けそうだ。
でも油断大敵。
さっきまでずっと塾のテキストをやり返していた。
だからさすがに疲れた。
勉強机から立ち上がってベットに転がる。
脳みそを休ませようと、意識してボンヤリしようとした。
でも頭の中では、受験に関する色んな情報が自動的に流れていく。
そういえば。
彼は推薦合格が決まったと噂で聞いた。
羨ましいことだ。
彼とは幼稚園の年少クラス、つまり4才からの幼馴染。
さすがに幼稚園の頃のことはほとんど覚えていない。
幼稚園時代の唯一の思い出は、夏のプールで彼があまりにも水を怖がるから、私がほぼ付きっきりで彼の世話をしたことくらい。
小学校に上がってからは、違うクラスになることも多かったし、お互い同性の友達とつるむようになって、特に思い出という程の思い出も無い。
でも…そうだ、中学1年の冬。
『どうしよう…誰か来ないかな…』
放課後の帰り道。
いつも通りの時間。
いつも通りの道。
いつも通りの下校になると思っていたのに。
いつも通っている道に頻繁に不審者が出没しているという話は聞いていた。
だけど私は今まで出くわしたことが無いから、これからも会うことは無いだろうと思っていた。
なのに
『あの男の人、後ろからついてきてる…?』
閉鎖された廃工場に沿った人のいない道を、少し早足で歩く。
さっきから知らない男の人が一定の距離を保ちながら私についてきている…気がする。
偶然同じ方向に向かっているだけだろうか?
でも男の人から視線を感じる。気のせいだろうか?
この工場沿いの道が終わっても、静かな住宅街で人通りは多くない。
それにこのまま家に帰ったら、私の家の場所を知られてしまう。
どうしよう。
どうしよう。
走ったらダメだろうか?
向こうも走って追いかけてくるだろうか?
気は強い方だと自負している。
それでも怖かった。
そんな時
「ねえ!待って!」
聞き慣れた高い声が後ろから聞こえた。
振り返ると、幼馴染の彼が、私についてきていた…かもしれない男の人のさらに後方から走ってきた。
男の人の横を通り過ぎて、すぐに私の隣まで来た。
息がかなり上がっている。
きっと全力のスピードで走ってきてくれたのだ。
「いっしょに帰ろうよ」
彼は笑顔で私にそう言ってくれた。
私は彼の申し出に勢い良くうなづいた。
…助かった…!
後ろに変な男の人がいても、隣に知り合いがいれば安心だ。
赤い夕焼け空の下2人で帰る。
しばらくして後ろをチラリと見ると、あの男の人はいつの間にかいなくなっていた。
次に隣の彼をチラリと見る。
もしかして…もしかしなくても…変な男の人がいたから、私に声をかけてくれたのだろうか。
今まで私達が一緒に帰った事なんて無かったし…。
彼に聞いて確かめたかったが、なんと言えばいいか分からなくて、グルグルしているうちに、私の家についてしまった。
「じゃあまた明日。学校でね」
「あ、うん…」
「それから…」
微笑んでいた彼がスッと真顔になった。
「あの道、おかしな人がよく出るから、あんまり通らない方がいいよ」
「あ…うん…」
やっぱり。
やっぱり、怪しい男の人がいたから私を助けてくれたのだ。
「じゃあね」
「あ…」
またなんと言えばいいか分からなくて、そのまま彼を見送ってしまった。
『今日はありがとう』
この一言で良かったのに。
あったな…そんなこと…。
忘れかけてた。
なんだか頭も体も妙にカッカと火照っていた。
熱い。
私はベットから起き上がってベランダに出た。
寒い。
だけどこの空気の冷たさが気持ちいい。
胸いっぱいに外の空気を吸って、腕を大きく伸ばして、体の凝りをほぐす。
よし、だいぶ気分がスッキリした。
私はすぐに部屋に戻り、机に座った。
「勉強がんばろう」
小さく声に出して、テキストを再開した。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる