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第1話 下駄箱のラブレター
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放課後。
まだ明るい日の光が差し込む廊下を私は歩いていた。
手にはクラスメイト達から集めた社会科のファイル。
厚いファイル10数人分なので結構大変なのだけど、これもクラス委員の仕事なので仕方ない。
隣にはクラスメイトの杣友 梓(そまとも あずさ)君。
彼はクラス委員ではない。
男子のクラス委員のE村君はとっとと帰ってしまった。
教室と職員室を2往復することを覚悟していた私に、杣友君が「手伝う」と声をかけてくれたのだ。
社会科の先生にファイルを届けて、私達は職員室から出た。
帰りは手ぶらだから楽なものだ。
「手伝ってくれてありがとう、杣友君」
「ドーモ。にしても、E村のヤツも社会係も薄情だよなー」
「はは…」
廊下を歩く女子生徒が杣友君をチラチラさりげなく見ながら通り過ぎる。
杣友君は特に派手でもなく、制服をお洒落に着崩してもいないけど、それでもスッキリと整った容姿が目を惹く生徒だ。
でも、一見クールそうな見た目に反して、普通の男の子だ。
普通に明るくて、普通に優しい。
クラス委員の仕事をほぼ放棄しているE村君に代わって、頻繁に私のことを手伝ってくれる。
「この調子じゃ、この学期もこき使われるんじゃねーの?」
一部の女子から『アイドルみたい』と言われている顔を変にニヤニヤさせながら言う。
妙に笑顔だけど、そのセリフの内容のどこが面白いの…。
「まあ、1人じゃ無理そうなら、また俺が手伝ってやっても―」
私達の教室、3年D組のドアをくぐりながら話していた杣友君が言葉を切った。
もう無人になっているだろうと思っていた教室に1人だけクラスメイトが残っていたのだ。
クラスメイトの栗藤 藍(りっとう あい)君。
何か困った様子でゴミ箱の中を覗き込んでいる。
「栗藤君、どうかしたの?」
「あ…」
「どうしたの?」
聞きながら私もゴミ箱を覗く。
ゴミ箱の中は掃除の直後だから空っぽだった。
「どうしたの?」
もう1度聞く。
「…それが…筆箱が無くなってて…」
栗藤君は言いづらそうにポソポソと答えた。
ああ、またか。
彼は去年までY町君という男子に虐められていたらしい。
一時登校拒否だったことは、去年違うクラスだった私も聞いていた。
そして、今年同じクラスになり、私はクラス委員として栗藤君の様子を気にかけるように担任から言われているのだ。
先生も初めは、クラス委員で栗藤君と同じ男子であるE村君にお願いしていたけれど、委員の仕事に熱心ではないE村君は何もしてくれなかったらしい。
先生は他の男子数名にも同じお願いをしたけれど栗藤君は彼らとも上手く馴染めず、最終的に女子のクラス委員である私にまでお鉢が回ってきた、という訳だ。
…栗藤君、色々苦しいだろうな…。
私はなるべく朗らかに彼に微笑んだ。
「じゃあ、いっしょに探そうか」
「うん…」
私の提案に困り顔だった栗藤君はわずかに微笑んだ。
なんで虐めたりするんだろうか。
穏やかで優しい人なのに。
まあ今はまず筆箱探しだ。
どこを探したものか。
「なあ栗藤、無くなった筆箱ってどんなの?」
杣友君が尋ねる。
彼も筆箱探しを手伝ってくれるみたい。
やっぱり優しい。
「紺色のプラスチックでできた、細い筆箱です…」
フム。
栗藤君の返事を聞いて私は教室を見回した。
誰がやったか知らないけど、おそらく軽い気持ちで適当に隠したのだと推測は付く。
軽い気持ちでやっていい事じゃないのに。
たしか前にも栗藤君の体操服が隠された事があった。
あの時は掃除用具入れから出てきた。
「栗藤君、掃除用具入れは探した?」
「まだ…」
「じゃあまず栗藤君はそこを探してくれる?」
次は―
正直探すのは心苦しい場所だけど…栗藤君の近くの席の机の中。
人の机を覗くのは悪い気がするけど仕方ない。
探しにくい場所に隠して発見を遅らせるのはよくある手段だ。
「杣友君、栗藤君の近くの席の机を調べたいの。私と手分けして探してくれる?」
「了解」
3人で探すと、筆箱はすぐに見つかった。
栗藤君の隣のE村君の机の中に突っ込まれていた。
誰がこんなことしたんだろ…。
けどまあ
「すぐ見つかってよかったね」
「まーな」
「…2人共ありがとう」
とりあえず一段落ついた。
やっと帰れる。
私達は3人で教室から出る。
「栗藤君、さっきの筆箱の件、明日にでも先生に報告して良いかな?」
「あ、うん…よろしくお願いします…」
栗藤君が私に頭をペコリと下げる。
けど、身長差がありすぎて見下ろされた形になっただけだった。
栗藤君はヒョロッとした体型だけど、男子の中でもかなり身長が高い。
堂々と振舞えば、いじめられることも減ると思うんだけどな。
けどまあ、人間の性格なんてそう簡単に変わるものじゃないんだから仕方ない。
とりとめのない話をしているうちに昇降口に着いた。
―ガチャ
自分の下駄箱を開けると
『君が好きだ』
そう書かれたピンク色のフセンが下駄箱の中に貼られていた。
「…」
まただ。
ここ最近、下駄箱にフセンが貼られていることがある。
しかも書いてる内容は
『好きだ』
『いつも見てる』
『可愛いね』
―これじゃまるで…
「委員長、どーした?」
固まっている私に気付いた杣友君が声をかけてくる。
「あ、もしかして、ラブレターでも入ってた?」
「え!ラブレター?」
杣友君のからかい口調のセリフに、栗藤君が驚きの声を出す。
「あ…いえ…別に、何でもないの」
下駄箱の中でフセンを素早く剥がして、手の中に隠しながら、適当にごまかす。
でも、そうだよね。
杣友君の言葉通り…これ、ラブレター、だよね。
下駄箱の、ラブレター。
まだ明るい日の光が差し込む廊下を私は歩いていた。
手にはクラスメイト達から集めた社会科のファイル。
厚いファイル10数人分なので結構大変なのだけど、これもクラス委員の仕事なので仕方ない。
隣にはクラスメイトの杣友 梓(そまとも あずさ)君。
彼はクラス委員ではない。
男子のクラス委員のE村君はとっとと帰ってしまった。
教室と職員室を2往復することを覚悟していた私に、杣友君が「手伝う」と声をかけてくれたのだ。
社会科の先生にファイルを届けて、私達は職員室から出た。
帰りは手ぶらだから楽なものだ。
「手伝ってくれてありがとう、杣友君」
「ドーモ。にしても、E村のヤツも社会係も薄情だよなー」
「はは…」
廊下を歩く女子生徒が杣友君をチラチラさりげなく見ながら通り過ぎる。
杣友君は特に派手でもなく、制服をお洒落に着崩してもいないけど、それでもスッキリと整った容姿が目を惹く生徒だ。
でも、一見クールそうな見た目に反して、普通の男の子だ。
普通に明るくて、普通に優しい。
クラス委員の仕事をほぼ放棄しているE村君に代わって、頻繁に私のことを手伝ってくれる。
「この調子じゃ、この学期もこき使われるんじゃねーの?」
一部の女子から『アイドルみたい』と言われている顔を変にニヤニヤさせながら言う。
妙に笑顔だけど、そのセリフの内容のどこが面白いの…。
「まあ、1人じゃ無理そうなら、また俺が手伝ってやっても―」
私達の教室、3年D組のドアをくぐりながら話していた杣友君が言葉を切った。
もう無人になっているだろうと思っていた教室に1人だけクラスメイトが残っていたのだ。
クラスメイトの栗藤 藍(りっとう あい)君。
何か困った様子でゴミ箱の中を覗き込んでいる。
「栗藤君、どうかしたの?」
「あ…」
「どうしたの?」
聞きながら私もゴミ箱を覗く。
ゴミ箱の中は掃除の直後だから空っぽだった。
「どうしたの?」
もう1度聞く。
「…それが…筆箱が無くなってて…」
栗藤君は言いづらそうにポソポソと答えた。
ああ、またか。
彼は去年までY町君という男子に虐められていたらしい。
一時登校拒否だったことは、去年違うクラスだった私も聞いていた。
そして、今年同じクラスになり、私はクラス委員として栗藤君の様子を気にかけるように担任から言われているのだ。
先生も初めは、クラス委員で栗藤君と同じ男子であるE村君にお願いしていたけれど、委員の仕事に熱心ではないE村君は何もしてくれなかったらしい。
先生は他の男子数名にも同じお願いをしたけれど栗藤君は彼らとも上手く馴染めず、最終的に女子のクラス委員である私にまでお鉢が回ってきた、という訳だ。
…栗藤君、色々苦しいだろうな…。
私はなるべく朗らかに彼に微笑んだ。
「じゃあ、いっしょに探そうか」
「うん…」
私の提案に困り顔だった栗藤君はわずかに微笑んだ。
なんで虐めたりするんだろうか。
穏やかで優しい人なのに。
まあ今はまず筆箱探しだ。
どこを探したものか。
「なあ栗藤、無くなった筆箱ってどんなの?」
杣友君が尋ねる。
彼も筆箱探しを手伝ってくれるみたい。
やっぱり優しい。
「紺色のプラスチックでできた、細い筆箱です…」
フム。
栗藤君の返事を聞いて私は教室を見回した。
誰がやったか知らないけど、おそらく軽い気持ちで適当に隠したのだと推測は付く。
軽い気持ちでやっていい事じゃないのに。
たしか前にも栗藤君の体操服が隠された事があった。
あの時は掃除用具入れから出てきた。
「栗藤君、掃除用具入れは探した?」
「まだ…」
「じゃあまず栗藤君はそこを探してくれる?」
次は―
正直探すのは心苦しい場所だけど…栗藤君の近くの席の机の中。
人の机を覗くのは悪い気がするけど仕方ない。
探しにくい場所に隠して発見を遅らせるのはよくある手段だ。
「杣友君、栗藤君の近くの席の机を調べたいの。私と手分けして探してくれる?」
「了解」
3人で探すと、筆箱はすぐに見つかった。
栗藤君の隣のE村君の机の中に突っ込まれていた。
誰がこんなことしたんだろ…。
けどまあ
「すぐ見つかってよかったね」
「まーな」
「…2人共ありがとう」
とりあえず一段落ついた。
やっと帰れる。
私達は3人で教室から出る。
「栗藤君、さっきの筆箱の件、明日にでも先生に報告して良いかな?」
「あ、うん…よろしくお願いします…」
栗藤君が私に頭をペコリと下げる。
けど、身長差がありすぎて見下ろされた形になっただけだった。
栗藤君はヒョロッとした体型だけど、男子の中でもかなり身長が高い。
堂々と振舞えば、いじめられることも減ると思うんだけどな。
けどまあ、人間の性格なんてそう簡単に変わるものじゃないんだから仕方ない。
とりとめのない話をしているうちに昇降口に着いた。
―ガチャ
自分の下駄箱を開けると
『君が好きだ』
そう書かれたピンク色のフセンが下駄箱の中に貼られていた。
「…」
まただ。
ここ最近、下駄箱にフセンが貼られていることがある。
しかも書いてる内容は
『好きだ』
『いつも見てる』
『可愛いね』
―これじゃまるで…
「委員長、どーした?」
固まっている私に気付いた杣友君が声をかけてくる。
「あ、もしかして、ラブレターでも入ってた?」
「え!ラブレター?」
杣友君のからかい口調のセリフに、栗藤君が驚きの声を出す。
「あ…いえ…別に、何でもないの」
下駄箱の中でフセンを素早く剥がして、手の中に隠しながら、適当にごまかす。
でも、そうだよね。
杣友君の言葉通り…これ、ラブレター、だよね。
下駄箱の、ラブレター。
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