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孤児院の子供達 11
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「シスター…あそこ、誰かいるよ……」
「え??」
遅れてやって来たバートが、クレイグの植えたカタビラ草のある大木の根本を指さした。
シスターがそこに目を向けると、透き通った肌に、エメラルドグリーンに燃える美しい髪をゆったりとなびかせた美女が、膝まづく青年の膝を、まるで長年愛用している椅子のようにして腰掛けている。
神々しくも冷たい微笑みをこちらに投げかけると、その透き通る唇を歌でも唄うようにゆっくりと開いた。
「我は森の精霊姫ドリュアス……。森から薬草を摘み出しておるのはそなたら……人間の幼子達か?」
「精霊……様…?」
シスターとバートも、突然の精霊と名乗る女性の訪問に、自分の目を疑った。
しかし、その空間を切り裂いたような精霊の美しさと、降り注ぐ光の結晶が皆を信じさせるのに充分だった。
「せ……精霊様……!も、申し訳ございません。お許しも得ずに薬草を摘みだしているのは私でございます。あ、この子達は私の指示で摘み取っているだけでございます。ば、罰ならば私が受けますのでどうかこの子供達には……」
「ち……違うんですっ!精霊様っ!シスターは俺達みんなを食べさせるために!だから罰なら俺が…!」
「バートッ!」
シスターはバートの身体と言葉を自分の腕で抑えるようにしてさえぎる。
庭を走り回っていた子供達もシスターとバートの声に驚いてシスターの後ろに集まってくる。
「……。人間達よ……。森で育んだ命はわらわにとって我が子同然……子供を摘み取られた対価として、同じように幼子を一人差し出せと言ったら……そなたらはどうする?」
精霊の顔からは先程までの美しい微笑みがしだいに消えていき、冷たく問いかけるような眼差しをシスター達に向けて来た。
ドリュアスの吐息から黒い霧のような煙が揺らいで見える。
闇の深淵からにらまれているような、この世のものではないその存在感にその場に居る者は恐怖に凍りついた。
その時だった。
精霊の言葉に迷いなく、しっかりとした足取りで精霊の元へ歩きだしたのはエマだった。
「エマッ!エマッ!何考えてるんだ!駄目だっ!」
「エマ……!駄目よ……!戻りなさい!」
「エマ!」
「エマッ!」
エマは振り向く事もなく、精霊姫ドリュアスの元へと歩いていく。
「ど、どいてくれっ!くっ!エマッ!俺が行くよっ……ッ!エマは行っちゃ……行っちゃ駄目だよっ!!ぅあっ!!」
他の子供達の肩を押し分けながら、バートが必死でエマに追いつこうと慌てて駆け出したため、杖が地面に引っかかり転んでしまった。
「いやだっ!いやだよっ……っ!!エマァァァッ!」
転んだバートにシスターが駆け寄り、ドリュアスに向かって大声で叫ぶ。
「精霊様っ!わたくしをっ!わたくしがあなた様の元へ行きますので!その子はここに残して下さいっ!」
「精霊様っ!!俺が行きますっ!一生働きますからっ!」
「私が行くよっ!エマはバートの所に戻って……!」
他の子供達もそれぞれ大きな声で叫びながら、エマの元に駆け寄ろうとした。が、地面から突如巨大な植物の蔓が生え出し、エマの身体をくるりと包んだと思うと上空までふわり持ち上げた。
「うわっ………ッ!」
「エマッ!!」
蔓の根本まで駆け寄り心配そうにエマを見上げる子供達だったが、不思議とエマは暴れる様子は無く、ドリュアスを無垢な瞳で見つめている。
「か弱き人間の幼子よ……。そなた……我が怖くないのか?」
ううんとエマはかぶりを振った。
「我と共に来れば新しい命として生まれ変わる。しかし……そこに居る家族達とはもう逢えぬぞ……。それでも良いのか?」
コクとエマは小さく静かに頷いた。
「エマッ!駄目だよっ!エマッ!……エマまで居なくなったら……俺は……!うあぅぅっ!」
バートが地面に転がったまま泣き叫んだ。同時に他の子供達も「いやだ!」と叫び始める。
「精霊様っ!どうか……お許しを……どうか……!」
シスターはその額を地面に付けるようにし、指を組み合わせ精霊に祈った。
「本当に良いのか……?幼子よ……。覚悟は出来ておるのじゃな?………覚悟あるならばなぜ。そのように泣いておる?」
エマの幼くふっくらした頬を大粒の涙がポロポロと落ちた。
「エマ………!」
ドリュアスは指を一本立てると叫ぶバートを指差して言った。
「かの者を愛するが故、かの者の負担になりたくないが故にそなたはこの世での別れを選んだのだろう……。まったく……人間という生き物は。短い命をそのように使わずとも、素直に愛する者と共に生きれば良いのじゃ」
ドリュアスがそう言うと、エマを持ち上げていた蔓はスルスルとバートやシスター、子供達の前にエマを優しく降ろした。
「え?……精霊様……」
「エマッ!」
「エマ!」
驚いて目を開くエマに、バートとシスターが抱きついた。子供達は皆、エマに駆け寄ってくる。
「そなたらを試すような事をしてすまなかった。幼子を差し出せと言ったらどうすると問うたのじゃ。差し出せと言った訳ではない。しかし……。そなたらの愛する者を想い合う気持ち……久しぶりに良い気分になった。」
シスターや子供達は皆、力が抜けてその場にくたっと座り込んだ。
「良かった……。エマ……」
「良かった……うぇぇっ……」
「エマ……」
シスターはバートとエマの頭を、それぞれ両肩に抱きしめる。シスターを中心に子供達は腕を伸ばし、身体を寄せ合って涙した。
「森の命はそなたらの糧になるならば好きに使うが良い……。わらわも悪ふざけがちと過ぎたかの……。許せよ幼子達。その代わり『ギフト』を預かってまいった。」
「ギフト……?」
「………?」
ドリュアスがゆっくりと立ち上がり両手を空に向けて伸ばした。
すると、大木の上に覆う蜃気楼の傘のように揺らいだ、黄色く輝く魔法陣が大きく浮かび上がった。
「わぁ……綺麗……」
「金色の雪みたいだぁ……」
「精霊様……これは……?」
子供達が空を見上げると、舞い落ちる光の結晶は魔法陣の輝きを受けて黄金色に輝く雪のようだった。
ドリュアスが息をふぅっと吹きかけると、黄金色の吹雪は優しくシスターと子供達を包み込んだ。
「受け取るがよい……。魔法使いからそなた達への『ギフト』だそうじゃ」
「え??」
遅れてやって来たバートが、クレイグの植えたカタビラ草のある大木の根本を指さした。
シスターがそこに目を向けると、透き通った肌に、エメラルドグリーンに燃える美しい髪をゆったりとなびかせた美女が、膝まづく青年の膝を、まるで長年愛用している椅子のようにして腰掛けている。
神々しくも冷たい微笑みをこちらに投げかけると、その透き通る唇を歌でも唄うようにゆっくりと開いた。
「我は森の精霊姫ドリュアス……。森から薬草を摘み出しておるのはそなたら……人間の幼子達か?」
「精霊……様…?」
シスターとバートも、突然の精霊と名乗る女性の訪問に、自分の目を疑った。
しかし、その空間を切り裂いたような精霊の美しさと、降り注ぐ光の結晶が皆を信じさせるのに充分だった。
「せ……精霊様……!も、申し訳ございません。お許しも得ずに薬草を摘みだしているのは私でございます。あ、この子達は私の指示で摘み取っているだけでございます。ば、罰ならば私が受けますのでどうかこの子供達には……」
「ち……違うんですっ!精霊様っ!シスターは俺達みんなを食べさせるために!だから罰なら俺が…!」
「バートッ!」
シスターはバートの身体と言葉を自分の腕で抑えるようにしてさえぎる。
庭を走り回っていた子供達もシスターとバートの声に驚いてシスターの後ろに集まってくる。
「……。人間達よ……。森で育んだ命はわらわにとって我が子同然……子供を摘み取られた対価として、同じように幼子を一人差し出せと言ったら……そなたらはどうする?」
精霊の顔からは先程までの美しい微笑みがしだいに消えていき、冷たく問いかけるような眼差しをシスター達に向けて来た。
ドリュアスの吐息から黒い霧のような煙が揺らいで見える。
闇の深淵からにらまれているような、この世のものではないその存在感にその場に居る者は恐怖に凍りついた。
その時だった。
精霊の言葉に迷いなく、しっかりとした足取りで精霊の元へ歩きだしたのはエマだった。
「エマッ!エマッ!何考えてるんだ!駄目だっ!」
「エマ……!駄目よ……!戻りなさい!」
「エマ!」
「エマッ!」
エマは振り向く事もなく、精霊姫ドリュアスの元へと歩いていく。
「ど、どいてくれっ!くっ!エマッ!俺が行くよっ……ッ!エマは行っちゃ……行っちゃ駄目だよっ!!ぅあっ!!」
他の子供達の肩を押し分けながら、バートが必死でエマに追いつこうと慌てて駆け出したため、杖が地面に引っかかり転んでしまった。
「いやだっ!いやだよっ……っ!!エマァァァッ!」
転んだバートにシスターが駆け寄り、ドリュアスに向かって大声で叫ぶ。
「精霊様っ!わたくしをっ!わたくしがあなた様の元へ行きますので!その子はここに残して下さいっ!」
「精霊様っ!!俺が行きますっ!一生働きますからっ!」
「私が行くよっ!エマはバートの所に戻って……!」
他の子供達もそれぞれ大きな声で叫びながら、エマの元に駆け寄ろうとした。が、地面から突如巨大な植物の蔓が生え出し、エマの身体をくるりと包んだと思うと上空までふわり持ち上げた。
「うわっ………ッ!」
「エマッ!!」
蔓の根本まで駆け寄り心配そうにエマを見上げる子供達だったが、不思議とエマは暴れる様子は無く、ドリュアスを無垢な瞳で見つめている。
「か弱き人間の幼子よ……。そなた……我が怖くないのか?」
ううんとエマはかぶりを振った。
「我と共に来れば新しい命として生まれ変わる。しかし……そこに居る家族達とはもう逢えぬぞ……。それでも良いのか?」
コクとエマは小さく静かに頷いた。
「エマッ!駄目だよっ!エマッ!……エマまで居なくなったら……俺は……!うあぅぅっ!」
バートが地面に転がったまま泣き叫んだ。同時に他の子供達も「いやだ!」と叫び始める。
「精霊様っ!どうか……お許しを……どうか……!」
シスターはその額を地面に付けるようにし、指を組み合わせ精霊に祈った。
「本当に良いのか……?幼子よ……。覚悟は出来ておるのじゃな?………覚悟あるならばなぜ。そのように泣いておる?」
エマの幼くふっくらした頬を大粒の涙がポロポロと落ちた。
「エマ………!」
ドリュアスは指を一本立てると叫ぶバートを指差して言った。
「かの者を愛するが故、かの者の負担になりたくないが故にそなたはこの世での別れを選んだのだろう……。まったく……人間という生き物は。短い命をそのように使わずとも、素直に愛する者と共に生きれば良いのじゃ」
ドリュアスがそう言うと、エマを持ち上げていた蔓はスルスルとバートやシスター、子供達の前にエマを優しく降ろした。
「え?……精霊様……」
「エマッ!」
「エマ!」
驚いて目を開くエマに、バートとシスターが抱きついた。子供達は皆、エマに駆け寄ってくる。
「そなたらを試すような事をしてすまなかった。幼子を差し出せと言ったらどうすると問うたのじゃ。差し出せと言った訳ではない。しかし……。そなたらの愛する者を想い合う気持ち……久しぶりに良い気分になった。」
シスターや子供達は皆、力が抜けてその場にくたっと座り込んだ。
「良かった……。エマ……」
「良かった……うぇぇっ……」
「エマ……」
シスターはバートとエマの頭を、それぞれ両肩に抱きしめる。シスターを中心に子供達は腕を伸ばし、身体を寄せ合って涙した。
「森の命はそなたらの糧になるならば好きに使うが良い……。わらわも悪ふざけがちと過ぎたかの……。許せよ幼子達。その代わり『ギフト』を預かってまいった。」
「ギフト……?」
「………?」
ドリュアスがゆっくりと立ち上がり両手を空に向けて伸ばした。
すると、大木の上に覆う蜃気楼の傘のように揺らいだ、黄色く輝く魔法陣が大きく浮かび上がった。
「わぁ……綺麗……」
「金色の雪みたいだぁ……」
「精霊様……これは……?」
子供達が空を見上げると、舞い落ちる光の結晶は魔法陣の輝きを受けて黄金色に輝く雪のようだった。
ドリュアスが息をふぅっと吹きかけると、黄金色の吹雪は優しくシスターと子供達を包み込んだ。
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