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しおりを挟むバックネット裏からは、野球部の部室が見えた。走れば数秒の距離だ。
部室の扉は開いていて、大勢の野球部の生徒が出入りしているのが見えた。皆が帰り支度を済ませている。
二葉を見かけた部員の大半が、冷たい視線を送ってくるのを感じる。少なくとも、明らかに歓迎されていない空気だった。
居心地の悪さを感じていたら、二人の生徒が二葉たちの方へやって来る。梅田と山形だった。
ユニホームを着ていて番号は「1」と「12」で、耀士のユニホームよりもかなり汚れている。なんとも言えない疲労感と爽やかだけど後ろ髪を引かれているような雰囲気が混ざり合っていた。
「梅田主将、凌先輩、こっち!」
目の前までやってきた二人に深々と頭を下げたら、逆に下げ返された。
意味が分からない。
なぜ自分がここに連れてこられたのだろう。
二人の後ろには、遠くから様子を伺っている部員が何人もいた。その中には藤木の姿もある。
視線は今にも飛びかかって来そうなほど鋭い。助けを求めるように隣にいる耀士を見たが、耀士は藤木たちは眼中にないようだった。
先に口を割ったのは梅田だ。
「一年の佐藤、疑ってすまなかった。それから、耀士の面倒を見てくれてありがとう」
「え……?」
「佐藤のおかげで耀士は大会に出ることができた。耀士がいなければ準優勝できなかったと思う。だから準優勝は佐藤のおかげでもある」
理解に苦しむ二葉を置いて、山形も続く。
「下品なデマを信じてしまって、すいませんでした。佐藤二葉くん」
頭を下げられて、期末考査前の約束を果たしてくれたのだとようやく理解した。
ここまで律儀に謝らなくても、と思うくらい仰々しくて萎縮してしまう。それに、二葉よりも耀士のほうが満足げだ。
「凄いね佐藤くん。どうやってヨージに勉強教えたの? 馬鹿で大変だったでしょ?」
後ろの部員たちとは裏腹に、山形は親しみがこもった調子で話しかけてくれる。少し緊張が解けた。
「耀士くんは馬鹿じゃないです。ちょっとやる気がなかっただけで……」
「えーいい子ー」
主将が微妙な呆れ顔で山形の軽口をたしなめる。
山形が悪びれたように笑い、なにかを言おうと口を開いた時だった。
「決勝で負けたばっかりの主将に謝らせるなんて最低だよっ!」
気づけばすぐ近くまで来ていた藤木の悲鳴が飛んでくる。藤木の周りには鬼の形相の部員達が五、六人控えていた。
藤木以外はユニホームを着ていたが、梅田や山形、耀士と違って汚れておらず綺麗だった。
「ごめんな。気にしないで」
山形が内輪にだけ聞こえるような小さな声で釈明するが、藤木の声をきっかけにして、部員の不満が爆発してしまったみたいだ。あっという間に囲まれてしまった。
「チームがまとまらなかったのも耀士が空気乱したからだろ。だから優勝できなかった!」
「佐藤なんか部室に連れてくるからだよ! 犯罪者のくせに」
「佐藤のせいで甲子園に行けなかった」
「主将、もういいから行きましょうよ!」
遠慮のない怒りに二葉は無意識に後ずさりしていた。背中になにかが当たってハッとする。耀士の腕だった。腰に手を回されて離れない。藤木の顔がさらに険しくなる。
「二葉、真に受けなくていいから」
耀士は臆せず、二葉から腕を離さなかった。まるで逃げる必要はないと言われているみたいだ。どうすることもできずに固まった二葉に向かって、山形が少し寂しそうに呟く。
「こういうののせいで負けたんだよ」
梅田は山形の呟きを肯定するように、無言を貫いていた。
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