溺愛 仕立ての 果実の味は……

藤 慶

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繁華街

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早くお家(うち)に帰らなきゃ。






まだ高校2年生の私にアルバイトをさせてくれるクリエイターの神子さんとご飯を食べていたら遅くなっちゃった。




神子さんは、タクシーを呼ぶと言ってくれたけど、まだ電車動いているから大丈夫って駅まで走って、電車に乗ったは良いけれど、降りる駅を乗り過ごしてしまって。




今住んでいるアパートは繁華街の外れにあって、家賃は安くて便利が良いけど、治安がよくない。




深夜までアルコールを提供する飲食店、クラブ。



それらの場所に通う為に、需要に合わせて店を開ける花屋、ケーキ屋。



24時間営業のファーストフード店、コンビニ。




今、私に必要なのは、無銭で手に入る迅速に帰宅を果たせる移動手段。



今の所、それを実現する唯一の手段は私の足だけ。家には、15歳の弟と13歳の妹が私の帰りを待っている。



先に寝てなとメールを入れたから、多分寝てくれるだろうけど。





腕時計で時間を見ると、10時半を過ぎていた。







「はっ、夜遊びコーコー生みぃ~っけ!」






小走りに雑踏の中を通り過ぎて居る所、突然腕を掴まれ、立ち止まる。





私を呼び止め腕を掴んだのは、スーツを着崩した酔っ払いの様な男だった。





「デート? それとも、援交の帰りかな? けしからんっ!」



「はあ?」





腕を振りほどこうと手を払ったが、男は今度は私の肩を掴んだ。




「こんな顔して、ウリとか、やってんの? 怖いねぇ? どれ、おじちゃんも援助してあげよう。う~ん、3万でどう? ホテル代は勿論別にしてあげるからさ」




スッと私の顎を手で掴んで、クイっと持ち上げる。



男は白髪混じりの40絡みのおっさんだった。





酒臭い息が頬にかかる。



不快この上ない。そう思って、私は顔をしかめて男を睨んだ。




「……私に触ったわね?」



「はあ? 何か、文句あんのかよ」




男に息を吐きかけられたのが不快だったし、何より私の顔に手を触れられたのが我慢ならなかった。




2.3分程、周囲がドン引きする様な暴力を振るい、私は夜の繁華街にふらつく酒臭いオヤジを一人片づけた。





「ゲホ、ゴホッ、だ、誰か、警察……」



「高校生相手に、援交決め込もうとして、相手の機嫌損ねてボコられてたら世話ないよ。ウケるし」





制服に付いた埃を払って、立ち去ろうとしたところで、視線の先に警察官の姿が見えた。




どうやら、こちらへ駆け寄ってこようとしているらしい。




揉め事はごめんだった。

「この野郎!! 大人を馬鹿にしやがって!!」




突然、地べたに突っ伏してた男が地面を這う様に警察官に駆け寄って行くのが見えた。




誰が、捕まるか。




警察官とは逆方向に走り出す。



別に男の泣き言をまともに真に受け、警官に咎められるのが怖かった訳じゃない。



私には、家に弟妹がいる。



補導されて、学校や両親に警察から連絡が入れば私の信用問題に関わる。




私がこの街で守ってあげなければ、弟妹に安全な生活をさせてあげられなくなる。



だから、揉めたくない。




でも、ツイてない。



私の行く手にも、警察官が既に待ち構えていた。




「君、高校生だろう? 羅刹の制服」




ヤバい……。




「学年と名前。どういう事?」




私は足を止めざる得なかった。

「学年と名前。……んでもって、親御さんの連絡先」




あぁ、しまった。



囲まれた。




何、今日は取り締まり強化月間とか?





「おまわりさん! この女が、いきなり俺を襲って!!」



「……本当?」



「………」




何か、口から出まかせ言ってる。



こんな事なら、口がきけない様に、前歯の2.3本でも折っておけば良かった。



大体、羅刹の龍が、警察に補導されるなんて代の名折れだ。




一瞬の隙を突いて、前後を挟む4人の警察官を振り切って、咄嗟に道路に飛び出した。




キキー




車が私の目の前すれすれを急停止する。



赤いスポーツカーだった。




しまった。



イケると思ったのに。




「おい、どうした!!」




運転席のドアが勢いよく開いた後、飛び出して来た男は私の肩を抱いた。

「ご、ごめんなさい」



「……どうした、こんな時間に。揉め事か?」




不気味な位親切な言い方で、艶のある黒スーツの下にワインレッドのシャツを着こんだ男は、心底不思議そうに私を覗き込む。




「大丈夫ですか!!」



「救急車!!」



「怪我は!」




私が出し抜いた警察官達が駆け寄って来る。



ここで、捕まる訳には行かない。



そう思って、立ち上がろうとしたが、車に接触しなかったものの変な態勢で転んで足を捻っていた。




「動くな。捻挫してんだろ?」



「いや、離して」




這い蹲ってでも逃げないと。



そうしようと思ってジタバタする私を、ワインレッドのシャツの男は、肩を掴んで引き寄せた。




「俺が助けてやるから、無理して動くな」



「へ?」




男はそっと私のカラダを抱き上げて、警官達に向かって言った。




「足を挫いた様だ。見ての通り、こいつは車に接触してない? そうだな?」



「……あんた…何を言って」



「良いか? 当たってねえ。 なら、問題ねえだろ?」



「はあ!!」




警官達が、首を傾げる。



警官の後ろで、さっきボコボコにしたオヤジも、恐る恐るこちらを見ていた。




「可哀想に、こんなに怯えて」



いや、怯えてないし。

何、この人。



「えっ、いや、でも、今の時分、高校生が……」



「高校生が何だ? そこら中(じゅう)、高校生だらけだろ? この街の治安舐めてんのか? 羅刹の制服を目の敵にしてんじゃねえよ。警察官がえこ贔屓か?」



「……いや、でも、彼女がこの男性と傷害のトラブルで」



「はあ? この子がその汚ねえおっさんに何したってんだ? こんなか弱い女子高生に、ヤラれたなんて、言わねえよな?」



「……いや、私は、さっき、何の言われもなく一方的に、金を出せと、その女子高生に」



「はあ? 金を盗られた?」



「い、いや。盗られては、ないが金を出せと言われて渋ったらだね」




男は、白けた顔でオヤジを見据えて吐き捨てた。



「俺が女子高生だったら、テメェみたいな薄汚いドブネズミみたいな男から、金をたかったりなんてしねえよ。 どうせ、羅刹の女子だと思って、ちょっかい出したんじゃねえか?」





「ん? あぁ! 一条?」



「田中、お前温い仕事してんじゃねえよ」




「ばっ、ちげえよ。俺は、俺の出身校の生徒が揉め事に巻き込まれてるから、それで」



「で、道路に突き出してりゃ世話ねえって言ってんだ」



「あのなぁ」




「「一条……」」




この人、一条って言うの?



何か警官の人達、田中って警官以外、一条って名前を聞いて身構えてるけど、何者?


「こいつ、病院連れてく。それで、文句ねえな?」



「「「はあ?」」」




一条と言う男の言葉に、警官達が狼狽える。



どこか弱気なのは気の性か?




「救急センターに連れて行くから、嘘だと思うなら確かめに来い」



「無茶言うなよ。この状況で」



「ああ? この状況を、保護者を呼び出して嘘偽りなく言い訳出来んのか? テメェらよ」




「そ、それは」



「とにかく、一旦警察署で……」



「事と次第じゃ、分かってんだろうな? 潰すぞ」



「「「どうぞ」」」




はああぁあああ!!



警官、折れたぁああ!!




驚きの状況に目を丸くしながら、私は事の次第を見守りつつ、約束通り大人しく私は事の成り行きを見守っていた。







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