溺愛 仕立ての 果実の味は……

藤 慶

文字の大きさ
9 / 9

溺愛 仕立てに 嵌まる夜

しおりを挟む
食事の後、キョウは私達を家まで送ってくれた。

弟妹達はキョウにお礼を言って、先に家に入って行き、私は弟妹達と共に車を降りたもののその場に留まった。



キョウは、タバコに火をつけ、煙を燻らせ始める。



そう言えば、食事の時から今までずっと吸ってなかったけど、それは、弟妹達を気遣っての事だったのだろうか?



「なぁ、イブ」

「何? キョウ……さん」



私がぎこちなく答えると、キョウはプッと吹き出した。



「キョウで良い。……そう呼べ、むず痒い」

「じゃぁ、お言葉に甘えて。で、何?」

「あぁ、ちょっと、本気出して良いか?」



本気って何?



私が首を傾げているのはお構い無し。



キョウは煙草の火を消し、私の鼻先に向けて、恐らく寸止めではなく、直撃すればその被害は顔が陥没せんばかりの拳を繰り出してきた。



私は、咄嗟に後ろに重心を移し、向かってくるキョウの拳に、自分の拳を向けた。



拳と拳がぶつかる直前、キョウが躊躇い拳を引いた。




「何、ヤる気? 喧嘩売るつもりだった?」



攻撃しかけておいて、思いきりが悪い。

そう思った。「……お前、本気になると、鬼みたいだな」

「誰だって、真剣勝負の時は、顔怖いと思うよ」

「怖いじゃない、すごく綺麗だと思った。そういう意味だ」




怖いじゃなくて、綺麗。

自分がマジになっている時の表情が、綺麗かそうじゃないか?なんて今まで一度だって考えた事ない。

だから、もちろん思った事もない。



「口説いてるの?」




だったら、いっそイカれてる。

あんな事して、誰が喜ぶか?

惚れるか?

怯えるだけだ(普通の女であれば、だけれど)。

そして、私の場合は、不快なだけ。


「いや、口説くのはこれからだ?」

「はあ?」

「今のは、俺がお前に惚れた理由だ。津屋崎 息吹」

「意味分からないわ? 一条 恭弥!」



思わず声が上ずる。

私の本気の顔の何を好き好んで惚れようものか?

からかっているのだろうか?



「お前、羅刹ってどんな奴で、どんな見かけか知ってるか?」

「さあ? 言葉の意味も知らない。……強いて言えば、修羅とかその辺の言葉と同義の言葉だと思ってるけど」

「少しはお勉強するんだな。羅刹と言うのは、真紅の髪以外全部真っ黒な鬼神の名だ」




だったら、何だ?



そう思いつつも、この街に来る前の我が身に『それ』が重なっている事に、私は思わず息を飲む。「赤い髪の鬼神ね……」




昔を懐かしんでそう呟く私に、キョウは苦笑した。




「車で轢いちまいそうになった時、お前、目の前を有り得ねぇ位怖い顔で睨んだんだぜ? 『何だよこの鬼は』そう思った。車から出て駆け寄った時には、本当何処にでも居る様な女みたいな顔してるから、最初は『何だ?コイツ』って思った」




そう言いながら、キョウは私の頬に手を伸ばす。

私は、それを避ける気にはなれなかった。

『触れられても良い』と、『触れて欲しい』。

そう思ってしまって。




「私は羅刹?」




生まれ育った街を、自分を捨てて、此処に来た。

弟妹と、あの両親の子である事だけを頼りに。

あの街で持っていたすべてのモノを、私は捨てた。



「じゃなかったら、お前の左耳のピアスがお前の耳に付いてるはずねえだろ? あの学び舎に居る限り、羅刹を冠するその誇りがお前を羅刹と言わしめる象徴だ」



私の頬を撫でた後、キョウは私のピアスに触れて微笑んだ。



「お前が羅刹に相応しくなかったら、耳たぶごとこれを引き千切って奪ってた。俺は、5代目羅刹の龍だぞ」



それが羅刹の龍だと言うなら、私は羅刹を誇りに思う。

羅刹と言う名を、今以上に愛そう。

私は、ずっと欲しかった。

新しい生きる場所と、それを守る目的が。


「羅刹の龍として、私の事を愛してくれるの?」



キョウは私の肩を引き寄せ、抱き締める。



身長差で届かない唇を、腰を掴んで引き揚げて、私の唇に唇を重ねて離す。




「お前に惚れた」

「ふ~ん。キョウって、凶悪な女がタイプなの?」




お道化て笑う私にキョウは、苦しい位私を抱き締めた。




「痛いんですけど?」

「力一杯やっても、壊れない女がタイプだ」




サディスティックな事で。

でも、私はいかんせん、そういう手加減無い男がタイプだ。




「本当に壊れないかしてみて良いよ。人に壊される様な軟(やわ)な鬼ならつまらないから」




壊してみてよ。

今まで、誰も、私を壊す事が出来なかった。

この街に来るまで暮らしていた楽園で、誰か一人でも、私の事を壊せて居たなら、私は罪の意識に苛まれながら、今の暮らしをしなくて済んだ。



築き上げて来た全てを失い、罪を償う様に、この暮らしに甘んじなくても済んだから。



私が二度と同じ過ちを犯さぬ様に、出来るなら、お願い。



「お前、マゾヒストなの?」



「違う。言うなれば、自信家って奴? 誰にも、私は壊せない。力だって、心だって、私は誰にも壊されない完全無欠。そう思ってる。ねぇ、キョウ」



「何だ?」



「私の事、壊してみてよ」



「はあ?」



「同じ龍なら、私を壊して。力でも、心でも、良い」



いつも、目に映る何もかもに勝って来た。

倒せない相手はいなかった。

でも、世界はつまならかったんだ。

性も無い事で妬み合い、傷付け合って、愚かで、無知で、醜悪だって。



この世の総てが嫌だって……。




そんな私の思い上がった身も心も捻じ伏せて欲しかったから。

だから、やれるなら、やってよ。




「喧嘩売ってるのか?」

「喧嘩じゃないよ。面白いな……。壊してみてよ、私の事」




そしたらきっと、私は全部終われると思う。

過去の過ちに懺悔して、罪に苛まれる夜を。




全部壊れてしまった心で、朝を迎えられたら、二度と悪夢を見ないと思う。




キョウが向けた疑惑と暴力は『溺愛 仕立ての 果実』の様に、口にする度、私に悦をくれる。




面白いオモチャを見つけた時みたいに、私の心を沸き立たせる。



昔の自分を呼び起こし、彼は私を鬼に変えるかもしれない?




「イブ?」



唇を寄せようとする私に、そう呟くキョウの唇に口付けて。



私は彼に、深くて長いキスをした。





生まれてこなけりゃ良かったとは、もう思っていない。



愛さずに捨てられて、知らず知らずに恨まれて、本当の妹だと知らない姉に殺されかけて、私の半身はその姉を殺してしまうところだったけど。




もう私の半身は、元に戻らないけど、後悔何てしない。



肉親に死ねと言われたけど、死んでたまるか。



私は、生きてやる。



私を育ててくれた両親と、その弟妹の為に。





【完】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...