マダム・アルディは微笑む

己がため

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2、ブローカー

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『今年、連絡が付かなくなった殺し屋は32人。どいつもこいつも突然いなくなりやがって、こちとら商売上がったりだ』

受話器の向こう側で、盛大なため息が上がる。馴染みの『ブローカー』は、随分と機嫌が悪いらしい。変声機越しではあるが、彼の(彼女かもしれないが、裏社会では瑣末なことだ)苛立ちが伝わってくる。椅子に腰掛け、コードが痛んだせいで耳障りなノイズを吐き出す受話器を、耳に押し当てる。

「それで、なんで俺に」
『この業界で生きて長いアンタならわかんだろ。仲介する相手がいねェと、ブローカーとしての顔がたたねェんだ。お前が依頼を受けてくれりゃ万事解決』
「クライアントはなんて?」
『言えるわきゃねぇだろ? 俺ァ仲介役だ。クライアントとヒットマンの間を繋ぐ、いわば手紙。どっちの情報も漏らさねぇよ』

いやに誇らしげに言うものだから、そう言うものかと納得してしまう。よく口が回るのも、この業界で生きていくためには必要なものなのだろう。

『御託はいい。受けるのか受けねぇのかはっきりしろ。アンタが無理なら他をあたる。それだけだ』

人にものを頼む態度がそれか、と思ったこともあるが、これが彼のスタンスだ。殺しにマナーもへったくれもない。彼が仕事を持ってきて、俺がそれを受け、殺意に弾を込める。たったそれだけの単純な関係だ。

「報酬は」
『そらきた。200ポル、前金はナシだ。どうだ、うめェ話だろ?』
「任務の内容による」
『受けるか受けねぇか決めてくれよ。話はそっからだ』

ブローカーの言葉に、しばらく受話器片手に沈黙する。
200ポルといえば、三年は遊んで暮らせる金だ。けれど、報酬のいい仕事は、大抵が命を張るような危険なものばかりだ。そうやすやすと受けていいものではない。殺し屋だとて命は惜しい。
しかし、職業柄仕事を選んではいられないと言うのも事実だ。そもそも殺しの仕事は、全体量が少ない。二ヶ月に一度依頼が来れば良い方で、時には半年も家に引きこもるなんてこともザラじゃない。だから、今回のような太い仕事は外せないのだ。



「……わかった。引き受けよう」
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