「黒炎の隼」

蛙鮫

文字の大きさ
35 / 115

「埋め合わせ」

しおりを挟む
 合宿二日目。地上を焼き尽くさんばかりに照りつく太陽の下。隼人はどこまでも続く坂道を勢いよく駆け上がっていた。

 周囲には隼人と同じく額から汗を引き出しながら、走る生徒達がいる。

 訓練の内容は島の頂上まで走り込みに行くという実にシンプルなものだ。

 他の生徒からすれば苦行そのものだが、隼人は違った。

「こんなもん。何度も経験している」
 隼人は涼しい表情を作りながら、ぐんぐんと上に登って行く。昔、祖父の修行の一環で山道を何度も往復したことがある。

 その経験に比べれば生ぬるいものだ。

 隼人は一着でゴールを果たした。彼に続いて結巳。終えてその他の生徒達が大勢、なだれ込んで来た。

「さすがだな。松阪。特待生と言われるだけあって一着とはな」

「いえ。これくらいは」
 隼人は教官から言葉を受け止めながら、辺りに目を向けた。調理器具や野菜。明らかに料理の準備がなされていたのだ。など置いてある事に気がついた。

 他の生徒達が全員、やってくると教官が前に立った。

「ただいまより各面々、昼食のカレーを作ってもらう。戦闘員たる者。厳しい訓練の後でも野営で自炊する時が出てくる。それは今の諸君らのように疲労していても起きることだ。これも訓練の一環として理解すること。以上!」
 教官の声が周囲に響くと、生徒達が一斉に各自の指定場所に散って行った。

「俺は、ここか」

「松阪君。あなたもここなのね」

「わーい! 松阪くんと一緒だ!」
 隼人は班の場所に行き着くとそこには結巳、揚羽がいた。

「そんじゃあ、やって行くか」
 エプロンを結んで包丁を握った。そして、手際のいい動きで野菜を切っていく。

「包丁捌きがしっかりしているわね」

「中三の時にじいちゃんの修行の一環で、一ヶ月間山籠りしていた時に身につけた」

「一ヶ月って丸々じゃない」
「気づいたら夏休みが終わっていたな」
 隼人はふと一年前の事を思い出して、虚しさを覚えた。

 その横では揚羽が釜で白ご飯を炊いている。

 三人が互いを支え、見事カレーライスを作ることができた。

「美味いな」

「なかなか、いけるわね」

「美味しいね!」
 疲労のせいか、隼人はいつもよりカレーの味が美味しく感じた。

「あっ! そうだ! 写真撮ろうよ。美男美女のお二人さんもいることだし!」
 揚羽が懐から携帯端末を取り出した。

「ハイチーズ!」
 機械音とともにシャッターが切られた。写真の中には笑顔の揚羽。少し困ったような結巳。そして、ぶっきらぼうな表情を作る隼人。

 それぞれ、性格が表れたような写真だった。


 昼食を終えて、自由時間を設けられた中、隼人は一人、森の中を散策していた。
 
 自然というのは不規則だ。緑で心を癒してくれるときもあれば、時に雷雨で牙を剥いてくる時がある。

 山籠りの際、幾度なく経験した苦い体験だ。そんな事を思いながらも、隼人はゆっくりと辺りを見渡しながら、進んでいく。


 近くでは小鳥が可愛らしい声で鳴いており、その穏やかさに思わず、口角が上がる。

 しばらく進んでいると開けた場所に出た。青々しい平原とその奥にあるものが見えた。


 すると近くから誰かの話し声が聞こえた。声のする方に目を向けるとそこには揚羽がいた。

 普段の陽気な様子とは違い、どこか真剣さが滲み出ている表情を浮かべている。

「ええ、分かっています。お父様のご期待に添えるよう尽力いたします。はい。はい。失礼します」

「何してんだ?」

「あひゃあ!」
 揚羽が目を見開きながら、こちらに首を向けた。そこには普段の揚羽がいた。

「もー。松阪くん! 驚かさないでよね! 何やっているの? 散歩?」

「そんなところ。お前こそなんで、こんな森の奥で」

「いやー女の子には秘密の会話というものがございましてねー」

「あー。そうかい」

「聞いといてその反応! 適当な反応傷つくんだけど!」
 隼人の雑な返答が癪に障ったのか、揚羽が頰を膨らませた。

「今日でお泊まりって最後だっけ? なんか寂しいなー」

「なんで?」
 隼人は尋ねると、揚羽が少し黙った後に遠い目を作った。

「私、中学校とかまとも行っていたなかったからこういう経験なかったの。友達もいなかったしね。だから今、すごく楽しいんだ」
 そういうと彼女が笑みを浮かべた。己の過去の埋め合わせのため、今を謳歌しようとしているのだ。

 彼女という人間が少し分かったと同時にどこか、自分と重なる感覚を抱いた。

「夜ってみんなとバーベキューだっけ?」

「ああ」

「そっか。じゃあ楽しまないとね!」

「そうだな」
 今を精一杯楽しむ。彼女の前向きな姿勢に隼人は憧れとともに好感を抱いた。





 夕焼けに照らされたとある港。癖のついた茶髪が目立つ青年が一人、欠伸をしながら歩いている。

 男は近くにいる中年男性を見つけると彼のそばまで駆け寄って行った。

「ねえ、あの島に行く船ってある?」

「悪いねえ。兄ちゃん。あの島は行けないんだよ。私有地だからね」

「あっそう」
 男は中年男性の眉間を指で弾いた。その瞬間、中年男性の頭が破裂して、血と脳髄が飛び散った。

「それじゃあ船だけ借りるね」
 青年は口角を上げて、遠くに浮かんだ島に目を向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...