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「苦渋を舐める」
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独特の匂いが漂う白一色で固められた病院。隼人は紙袋を手に持ち、歩いていた。
目的の部屋にたどり着くと、静かに扉を開いた。そこにはこちらに顔を向けた早見とベッドで寝息を立てる赤間が白い布団の中に身を置いていた。
「おや。見舞いに来てくれたのか」
「お互い災難だったね」
「赤間。早見先輩。よく無事で」
「言っただろう。倒すって」
あの結合した忌獣は早見達が死闘の末、討伐する事に成功した。しかし、その過程で彼らは重傷を負ってしまったのだ。
「都市部の忌獣を一掃したんだってね。凄いじゃないか」
「俺だけじゃどうにもできませんでしたよ」
隼人は深くため息をついた。幹部との戦いもそうだ。一人だと勝つことも難しい相手だ。
今まで忌獣を単独で討伐できていたから慢心していたのだ。
「学園の方はどうだい?」
「みんな困惑していましたよ。忌獣が学校に出るなんて誰も思いませんからね」
忌獣襲撃の際、負傷者はいたものの戦闘員や早見達の活躍もあり、死者は一人も出なかった。
しかし、恐怖による精神的苦痛は甚大で多くの人々の心に傷を残していた。
「無理もないよ。忌獣と戦うなんて普通の生徒じゃ不可能に近い。私もみんなと協力してなんとか討伐できた。でも文化祭は台無しだよ」
早見が少し俯いて、拳を握っていた。学園生活最後の文化祭。おそらくこんな形で終わらされた事が彼女にとっても我慢ならなかったのだ。
「まあ、君をゆっくり休むといいよ」
「そうさせてもらいます。それじゃあまた顔を出します」
隼人は両肩を鳴らした後、部屋を去った。この疲れの原因は忌獣でもあるがそれだけではない。
迦楼羅《かるら》 。鳥籠の首領にして最強の宿主。凄まじい攻撃速度と身のこなし。その全てが報告書で知った情報以上に優れていた。
もし剣術に見覚えがなければ自分はここにはいない。
そして、もう一人。都市部で結巳を助けたフードを被った存在。見た感じかなりの実力者だがよく分からない。
対策本部に属してはいないが、忌獣の殺し方を知っていた。
「あいつは一体」
隼人は頭の中でフードの存在を巡らせながら、次の目的地に足を進めた。
山の中にある古びた日本家屋。隼人は祖父であるシライの家に上がっていた。
「そうか。迦楼羅が動き始めたか」
「ああ。確か六年間動いていなかったんだよな。なんでいきなり」
突然、現れた迦楼羅。鳥籠の長が何故、突然現れたのかいくら考えても検討がつかないのだ。
「もしかしたら原因はお前さん何じゃないのか?」
「俺?」
隼人は自分を指差して、眉間に皺を寄せた。何故、自分が原因なのか理解できなかった。
「幹部を二人も倒されたんだ。それも同じ人間に。そりゃ倒したやつの顔の顔も拝みたくなるだろう」
「そうか」
「まあ、今回の一件は奇襲兼お前さんへの挨拶ってところだろうな」
シライが深くため息をついた。隼人も自身の置かれた立場に危うさを覚えた。
特待生として現場で活躍する分、当然ながら敵からも注目される。
今回、その結果が最悪の形となって現れてしまったのだ。
「ああ、だからと言って自分を責めるなよ。何はともあれ全ては攻め込んで来た迦楼羅に非がある」
「ありがとう」
隼人は祖父のさりげない気遣いに感謝し、口元に笑みを作った。
隼人が帰った後、シライは一人、項垂れるように茶を飲んでいた。
「いつかはこんな日が来ると思っていたが、まさかこんなに早く現れるとはな」
シライは近くにあった古びた写真を手に取った。そこには若い頃の自分と彼に剣術を教えた親友が写っていた。
「ワシの責任じゃ。鵙」
シライが僅かに震えた声で写る亡き親友に語りかけた。
目的の部屋にたどり着くと、静かに扉を開いた。そこにはこちらに顔を向けた早見とベッドで寝息を立てる赤間が白い布団の中に身を置いていた。
「おや。見舞いに来てくれたのか」
「お互い災難だったね」
「赤間。早見先輩。よく無事で」
「言っただろう。倒すって」
あの結合した忌獣は早見達が死闘の末、討伐する事に成功した。しかし、その過程で彼らは重傷を負ってしまったのだ。
「都市部の忌獣を一掃したんだってね。凄いじゃないか」
「俺だけじゃどうにもできませんでしたよ」
隼人は深くため息をついた。幹部との戦いもそうだ。一人だと勝つことも難しい相手だ。
今まで忌獣を単独で討伐できていたから慢心していたのだ。
「学園の方はどうだい?」
「みんな困惑していましたよ。忌獣が学校に出るなんて誰も思いませんからね」
忌獣襲撃の際、負傷者はいたものの戦闘員や早見達の活躍もあり、死者は一人も出なかった。
しかし、恐怖による精神的苦痛は甚大で多くの人々の心に傷を残していた。
「無理もないよ。忌獣と戦うなんて普通の生徒じゃ不可能に近い。私もみんなと協力してなんとか討伐できた。でも文化祭は台無しだよ」
早見が少し俯いて、拳を握っていた。学園生活最後の文化祭。おそらくこんな形で終わらされた事が彼女にとっても我慢ならなかったのだ。
「まあ、君をゆっくり休むといいよ」
「そうさせてもらいます。それじゃあまた顔を出します」
隼人は両肩を鳴らした後、部屋を去った。この疲れの原因は忌獣でもあるがそれだけではない。
迦楼羅《かるら》 。鳥籠の首領にして最強の宿主。凄まじい攻撃速度と身のこなし。その全てが報告書で知った情報以上に優れていた。
もし剣術に見覚えがなければ自分はここにはいない。
そして、もう一人。都市部で結巳を助けたフードを被った存在。見た感じかなりの実力者だがよく分からない。
対策本部に属してはいないが、忌獣の殺し方を知っていた。
「あいつは一体」
隼人は頭の中でフードの存在を巡らせながら、次の目的地に足を進めた。
山の中にある古びた日本家屋。隼人は祖父であるシライの家に上がっていた。
「そうか。迦楼羅が動き始めたか」
「ああ。確か六年間動いていなかったんだよな。なんでいきなり」
突然、現れた迦楼羅。鳥籠の長が何故、突然現れたのかいくら考えても検討がつかないのだ。
「もしかしたら原因はお前さん何じゃないのか?」
「俺?」
隼人は自分を指差して、眉間に皺を寄せた。何故、自分が原因なのか理解できなかった。
「幹部を二人も倒されたんだ。それも同じ人間に。そりゃ倒したやつの顔の顔も拝みたくなるだろう」
「そうか」
「まあ、今回の一件は奇襲兼お前さんへの挨拶ってところだろうな」
シライが深くため息をついた。隼人も自身の置かれた立場に危うさを覚えた。
特待生として現場で活躍する分、当然ながら敵からも注目される。
今回、その結果が最悪の形となって現れてしまったのだ。
「ああ、だからと言って自分を責めるなよ。何はともあれ全ては攻め込んで来た迦楼羅に非がある」
「ありがとう」
隼人は祖父のさりげない気遣いに感謝し、口元に笑みを作った。
隼人が帰った後、シライは一人、項垂れるように茶を飲んでいた。
「いつかはこんな日が来ると思っていたが、まさかこんなに早く現れるとはな」
シライは近くにあった古びた写真を手に取った。そこには若い頃の自分と彼に剣術を教えた親友が写っていた。
「ワシの責任じゃ。鵙」
シライが僅かに震えた声で写る亡き親友に語りかけた。
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