「黒炎の隼」

蛙鮫

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「混乱と変革」

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平日の昼ごろ、隼人は結巳と教室で昼食をとっていた。普段、使っている屋上が修繕工事のため、封鎖されていた為である。

「対策本部は今、大変らしいな」

「ええ。連日連夜。対策本部に抗議の電話が殺到しているとの事よ。まあ無理もないわね」
 結巳が辺りに目を向けた。登校している生徒の数が明らかに少ないのだ。皆、文化祭の一件にここに傷を負って学校を休んでいるのだ。

「あのポジディプシンキングの白峰まで休んじまうなんてな」

「ええ。それほどまでに今回の騒動はみんなの心に傷を残したのね」
 それほどまでに忌獣は学園内に混乱と恐怖に招いたのだ。隼人は再度、胸の奥から悔しさがこみ上げてきた。

「しかし、何故、迦楼羅が文化祭当日に奇襲を仕掛けたのかしら?」

「仮に文化祭の事を知っていたとすれば、以前から言われている対策本部内にいるスパイの仕業じゃ無いのか?」
 それを言った瞬間、結巳の顔が歪んだ。無理もない。早期発見が遅れた結果、このような事態が起こってしまった。

 隼人は悔しさを飲み込むように昼食を掻き込んだ。
 


 混乱と喧騒に包まれた忌獣対策本部。その中の会議室で聖堂寺美香は険しい表情を浮かべていた。

 一組織の長として現在、直面している事態を重く受け止めているからだ。辺りには北原ソラシノを除く、幹部達。

 対策本部を支援している出資者達が席についていた。

「全く。飛んだ失態ですな。首長殿」

「現在。多くの職員が対応に追われている。この現状を招いたのは首長! 貴女ですよ!」
 小太りの出資者が啖呵を切った流れで、ハゲ頭の出資者も言葉を吐き出した。

 美香自身、それは理解している。現に会議室に来る前、文化祭兼都市部の襲撃で多くの職員達が必死の顔で電話と向き合っているのを目にしたからだ。

「そちらの方は管轄外になります。別の係りにお繋げいたします!」

「その節は本当に申し訳ありませんでした! 今度も務めて参ります! はい! 失礼します!」

「申し訳ありません! 申し訳ありません!」

 職員達がせかせかと電話の奥から発せられる言葉の暴力や理不尽に顔を歪めていた。その光景が今でも鮮明に焼き付いているのだ。


「おい。口の聞き方には気をつけろ。それに気づけなかったのは皆同じだ。首長一人の責任ではない」
 幹部の一人である柘榴が出資者達を睨みつける。普段、小言ばかりいう出資者と陰湿さを嫌う柘榴とは折り合いが悪い。

「これでは首長を継続させるのも厳しそうですな。この際、はっきり言わせて抱きます」
 ハゲ頭の出資者の一人が美香に目を向けて、太々しく鼻で笑った。

「聖堂寺美香殿。貴女を首長の座から降りていただきます」
 小太りの出資者が書類を読み上げながら、美香に退任するよう告げた。

「ふざけた事を抜かすなよ?」

「少しおしゃべりが過ぎるぞ?」
 ザクロと庭島が低い声で出資者達に威圧をかけると、表情が少し引き攣った。

「私が退任するとして次は一体誰が? 結巳ですか? あの子はまだ学生です」

「ご心配なく代わりなら既にいますよ。もうすぐつくと思います」
 ハゲ頭がそういうと木製の扉がノックされた。入るように促すと静かに扉が開いた。

 来訪者の姿を見て、美香は思わず目を見開いた。

「み、光」

「お久しぶりです。母上」
 そこには六年前に行方不明になった自身の息子である聖堂寺せいどうじみつるの姿があった。

 母親譲りの白い髪と綺麗に整った中性的な顔立ち。緊張感漂う会議室の中に異質な空気が流れ始めた。

「今まで一体、どこに!」

「そうですね。『革命の下準備』とでも言っておきましょうか」

「革命?」

「父上も貴女も甘かったのですよ。何もかも。これからは私が指揮をとります」

「おいおい。お坊ちゃんよ。散々のらりくらりしといた奴に上座譲るほど、俺たちは甘く無いぞ」
 ザクロが光を鋭い目で睨みつける。六年間、顔を出さなかった人間がいきなり戻ってきて、首長になる。

 そんなうまい話がまかり通って良いはずがない。しかし、光が言っていた『革命の下準備』という言葉も妙に引っかかった。

「それにあんたは先代首長である実の父を殺害した! この罪からは逃れられんぞ」

「裁きたいのでしたら、後ほどに何なりと。ですが今はもっとやるべきことがあるはずですよ?」
 光の言葉にザクロが押し黙った。彼自身、無闇矢鱈に相手を詰めるような真似はしない。おそらく少し冷静になり、今話し合う事を再認識したのだ。

「反論もあるでしょうが、学園と都市部の襲撃。これだけの被害を許した首長が組織の長の座に座り続ける方が民衆の怒りを買う事になりますよ」
 光の意見は覆しようがない事実だ。現に民衆からは非難の声が高まっている。

「そもそも、美香殿は元々、嫁入りの身。先代の首長が亡くなられた際の穴埋めに他なりません。聖堂寺の正当な血筋である光殿がいらっしゃるのでしたら彼が首長の座に着くのは当然かと」

「それともなんですかな? 皆様は聖堂寺のご意向に疑念を持たれるのですか? 聖堂寺に反するは対策本部に仇なすのと同じ!」
 出資者達が見下すような目で言葉を発していく。悔しいが彼らの言っていることは事実だ。

 聖堂寺の正当な後継者は光だ。元々、嫁入りの身であった自分は代理の身に過ぎないのだ。最早、反論の術はなかった。

「決まりですね」
 光が貼り付けたような薄い笑みを浮かべた。

 この日、聖堂寺家長男。聖堂寺光が聖堂寺家当主と対策本部の首長兼金剛杵学園の理事長に就任することが決定した。
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