61 / 115
「葛藤」
しおりを挟む
隼人は心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。喜びではない。動揺で激しく脈打っているのだ。
「俺が幹部ですか? いや、俺の実力はまだ幹部の方々に及びませんよ」
「そうですか? 幹部を二人も討伐し、並の戦闘員でも討伐するのに一苦労な忌獣を一掃するその強さ。まさしく幹部に相応しいと私は思いますよ」
光が聴き心地のいい穏やかな声で隼人を褒め称えてきた。
「もちろん。強要はいたしません。ただ、貴方が対策本部に来た当初の願い。忌獣の討伐。これを前線で好きなだけ叶えられます。幹部とはそれほど現場へ足を踏み入れる機会も多いですから」
隼人は目を見開いた。彼の悲願である鳥籠の壊滅及び忌獣の殲滅。前線で自分が活躍すればその確率も格段に上がる。
しかし、同時に光が管理する現在の対策本部の現状も頭をよぎった。傍若無人で振る舞いで構成員を粛清する戦闘員達。
あの中で仕事をすると考えると隼人はどこか嫌悪感すら覚えた。
「感情を整理する時間は必要でしょう。一週間待ちます。良き返事期待していますよ」
光が再び、笑顔の仮面を被った。
首長室を出た後、隼人は夜の公園で一人、缶コーヒーを啜っていた。コーヒーを飲んでいる最中、光との会話が頭を巡った。
「どうすっかな」
光の言う通り、幹部になれば積極的に鳥籠と戦うことも多くなる。金剛杵学園入学当初の自分なら速攻で同意していた。
しかし、蛮族の巣窟と化した忌獣対策本部に居続ける隼人は少し、危機感と限界を覚えていた。
「コーヒーの飲み過ぎは良くないわよ」
薄いパーカーを着た結巳が隣に腰を下ろした。首長室から出た後、彼女から連絡が来て、落ち合うことになったのだ。
「少し落ち着きたいんだ。許してくれ」
「兄さんに何を言われたの?」
結巳の問いかけに隼人は生唾を呑んだ。普段は感じないはずなのに妙な緊張感すら覚えた。
「幹部に誘われた」
「えっ?」
結巳の瞳孔が開いた。驚くのも無理はない。多くのものは戦闘員として、数年間で経験を積んで認められるのだ。
隼人も修羅場をくぐった数が多いとはいえ、あまりにも早い昇進である。
「あなたはどうしたいの?」
「迷っているんだよ。少し前の俺ならすぐに首を縦に振っていたけどさ」
再び、コーヒーに口をつけた。苦味が冷たさを帯びて、舌に広がる中、思考を巡らせる。
「幹部になるのも、降りるのもどちらも間違っていないわ。貴方がどっちの選択をとっても私が支える」
結巳が隼人に向かって凛々しさが漂う笑みを向けた。ここまで積み上げて来た彼女との信頼。
彼女からこんな言葉がもらえるとは考えもしなかった。隼人は思わず、笑い声を上げた。
「何がおかしいのよ」
「いや。聖堂寺からそんな言葉が聞けるとはな」
「私、優しいのよ。知らなかった?」
「おう」
「即答しないでよ」
結巳が眉間に皺を寄せた。笑い声を上げると先ほどまで心に立ち込めていた鬱屈とした気分が晴れた気がした。
「ゆっくり決めていくよ」
「そうしなさい」
「よーし!」
隼人は冷え切ったコーヒーを飲み干すと、背筋を伸ばした。
「行くぞ」
結巳とともに寮へと足を進めた。
隼人がいなくなった首長室。光は一人、書類と向き合っていると木製の扉がノックされた。
「どうぞ」
「新首長就任おめでとうございます。聖堂寺さん」
「ありがとうございます。白峰さん」
そこには隼人と結巳のクラスメイトの女子生徒である白峰揚羽がいた。
「私。そんなに大したことしてないですよー」
「いえいえ。無人島での一件、文化祭や都市部襲撃。あなたが工作員としてこちらに情報を送ってくれた事で成立する事が出来ましたから」
光はつらつらと彼女の功績を口にして行く。揚羽が満更でもないような表情を浮かべている。
「迦楼羅さん、いやお父様もさぞ、お喜びになっている事でしょう」
「そうだといいんですけどね」
「ええ。必ず」
光は凍りつくような不敵な笑みを浮かべた。
「俺が幹部ですか? いや、俺の実力はまだ幹部の方々に及びませんよ」
「そうですか? 幹部を二人も討伐し、並の戦闘員でも討伐するのに一苦労な忌獣を一掃するその強さ。まさしく幹部に相応しいと私は思いますよ」
光が聴き心地のいい穏やかな声で隼人を褒め称えてきた。
「もちろん。強要はいたしません。ただ、貴方が対策本部に来た当初の願い。忌獣の討伐。これを前線で好きなだけ叶えられます。幹部とはそれほど現場へ足を踏み入れる機会も多いですから」
隼人は目を見開いた。彼の悲願である鳥籠の壊滅及び忌獣の殲滅。前線で自分が活躍すればその確率も格段に上がる。
しかし、同時に光が管理する現在の対策本部の現状も頭をよぎった。傍若無人で振る舞いで構成員を粛清する戦闘員達。
あの中で仕事をすると考えると隼人はどこか嫌悪感すら覚えた。
「感情を整理する時間は必要でしょう。一週間待ちます。良き返事期待していますよ」
光が再び、笑顔の仮面を被った。
首長室を出た後、隼人は夜の公園で一人、缶コーヒーを啜っていた。コーヒーを飲んでいる最中、光との会話が頭を巡った。
「どうすっかな」
光の言う通り、幹部になれば積極的に鳥籠と戦うことも多くなる。金剛杵学園入学当初の自分なら速攻で同意していた。
しかし、蛮族の巣窟と化した忌獣対策本部に居続ける隼人は少し、危機感と限界を覚えていた。
「コーヒーの飲み過ぎは良くないわよ」
薄いパーカーを着た結巳が隣に腰を下ろした。首長室から出た後、彼女から連絡が来て、落ち合うことになったのだ。
「少し落ち着きたいんだ。許してくれ」
「兄さんに何を言われたの?」
結巳の問いかけに隼人は生唾を呑んだ。普段は感じないはずなのに妙な緊張感すら覚えた。
「幹部に誘われた」
「えっ?」
結巳の瞳孔が開いた。驚くのも無理はない。多くのものは戦闘員として、数年間で経験を積んで認められるのだ。
隼人も修羅場をくぐった数が多いとはいえ、あまりにも早い昇進である。
「あなたはどうしたいの?」
「迷っているんだよ。少し前の俺ならすぐに首を縦に振っていたけどさ」
再び、コーヒーに口をつけた。苦味が冷たさを帯びて、舌に広がる中、思考を巡らせる。
「幹部になるのも、降りるのもどちらも間違っていないわ。貴方がどっちの選択をとっても私が支える」
結巳が隼人に向かって凛々しさが漂う笑みを向けた。ここまで積み上げて来た彼女との信頼。
彼女からこんな言葉がもらえるとは考えもしなかった。隼人は思わず、笑い声を上げた。
「何がおかしいのよ」
「いや。聖堂寺からそんな言葉が聞けるとはな」
「私、優しいのよ。知らなかった?」
「おう」
「即答しないでよ」
結巳が眉間に皺を寄せた。笑い声を上げると先ほどまで心に立ち込めていた鬱屈とした気分が晴れた気がした。
「ゆっくり決めていくよ」
「そうしなさい」
「よーし!」
隼人は冷え切ったコーヒーを飲み干すと、背筋を伸ばした。
「行くぞ」
結巳とともに寮へと足を進めた。
隼人がいなくなった首長室。光は一人、書類と向き合っていると木製の扉がノックされた。
「どうぞ」
「新首長就任おめでとうございます。聖堂寺さん」
「ありがとうございます。白峰さん」
そこには隼人と結巳のクラスメイトの女子生徒である白峰揚羽がいた。
「私。そんなに大したことしてないですよー」
「いえいえ。無人島での一件、文化祭や都市部襲撃。あなたが工作員としてこちらに情報を送ってくれた事で成立する事が出来ましたから」
光はつらつらと彼女の功績を口にして行く。揚羽が満更でもないような表情を浮かべている。
「迦楼羅さん、いやお父様もさぞ、お喜びになっている事でしょう」
「そうだといいんですけどね」
「ええ。必ず」
光は凍りつくような不敵な笑みを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる