「黒炎の隼」

蛙鮫

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「虚な道化 胡乱」

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 月明かりが森の中。隼人と結巳は慎重に進んでいた。いつどこで構成員や忌獣が襲ってきてもおかしくない。

 そんな日々を送ってきたので二人の感覚も鋭敏になっているのだ。

「いないわね」

「ああ、気配一つ感じない。既に移動したのか?」
 敵が一人もいない。逆にその状況に違和感を覚えながら、アジトについた。

「いくぞ」
 隼人はアジト内に足を踏み入れた瞬間、凄まじい威圧感を覚えた。横に目を向けると結巳も顔が強張っていた。

 以前にも感じた事がある感覚。忌獣や構成員とは桁が違う存在。間違いなく幹部がいる。

 不気味さが漂う仄暗い部屋。隼人と結巳は冷えた空気を吸い込みながら、一つまた一つと進んでいく。しばらく歩くと開けた場所に出た。


 そこにはサングラスをかけた茶髪の青年一人、椅子に腰かけていた。

 隼人はその男を見て、背筋に悪寒が走った。本能が危険信号を発しているのだ。

「あれっ? お客さん。男の子。イケメンだね! 隣は女の子だ! 可愛いね! 俺は胡乱うろんよろしくね」
 胡乱と名乗るその青年の飄々とした態度に調子が狂いそうになりながらも、警戒を固める。

 胡乱が子供のように無邪気に笑った。結巳は苛立ちと吐き気を催すような不快感が込み上げてきた。端正な顔立ちから狂気的な悪意を感じたのだ。

「あなた。幹部ね」

「ピンポーン。大正解!」
 二人の緊張感を逆なでするように胡乱が陽気に答えた。

「何故、罪のない人を殺めるの? 心は痛まないの?」
 結巳が鋭い眼光で問いかけた。

「嫌だなあ。初対面でいきなりお説教かい? 痛まないよ。だって楽しいもん」

「楽しい?」

「そうだよ。人を殺すのが楽しいから殺しているだけ。生き物を殺すときに生きている感覚を味わえるんだよ。人生は退屈なことの連続なんだ。ただ食って眠る。そんなのつまらないじゃないか。戦闘員を殺しているのは僕の楽しいひと時を邪魔しようとするからだよ。俺は自分から手を出した事はないよ」

 胡乱のにこやかな笑みを浮かべた。隼人の内心が氷点下に匹敵するほど冷え切っていた。目の前にいる人の姿をした鬼を殺すために。この男には罪悪感や良心のなど存在しない。

「下衆が」
 隣にいた結巳もいつもにも増して鋭い目つきを作っていた。細腕に力がこもっているのを見て、彼女の内申が怒りに満ちているのは想像に難くなかった。

「お前をここで倒す」 

「いいね。いいね。さあ、もっと盛り上げていこう。この虚無に満ちた人生に活気と彩りを!」
 胡乱の叫びに応じるように隼人と結巳は聖滅具を構えて、走り出した。

「はあああ!」
 隼人と結巳は息のあった連携で切り掛かっていく。しかし、相手は幹部。攻撃を次々と躱していく。

「いい動きだね! さすが鎌鼬君と尊君を倒しただけあるね。でも!」

 胡乱の回し蹴りが隼人の腹部に直撃した。衝撃が胸部に伝わり、後ろのコンクリートの壁まで吹き飛ばされた。

「がはっ!」
 背中を叩きつけられた勢いで喉の奥から血を吐き出し、舌の表面に鉄の味が広がる。

「いまいち遅いね」

「松阪君! よくも!」 
 結巳が冷気を纏った剣戟で攻め込んでいく。しかし、受け流されて代わりに強烈な拳の連打を受けていた。

 結巳も隼人と同じく壁側まで飛ばされたしまった。

「ねえねえ、その程度なの?」
 虚仮にするような口調で煽られ、結巳の目つきが先ほどより鋭くなっていく。
 
「んー、君みたいな可愛い子を殺すのも惜しいな」

「黙れ」
 周囲に張りつめるような冷ややかな怒気を口からこぼした。

「もー そんなカリカリしないでよ。お詫びにいいもの見せてあげるからさ」
 胡乱が戯けたような口調で姿を変形し始めた。その姿を見て、結巳が震え始めた。

「おっ、お父様」

 
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