「黒炎の隼」

蛙鮫

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「休息と兆し」

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 対策本部の戦闘員の怒号や忌獣を雄叫びが飛び交う月夜の下、迦楼羅はガラスケースを持ちながら、吸い込まれそうな程、輝く満月を眺めていた。

「要」
 ケースの中には自身の配下である彼女の心臓が入っている。忠誠の証として彼女に持って欲しいと懇願されたのだ。

 その心臓の動きが鈍くなっている。心臓を切り離れているから不死身とはいえ、肉体の再生には限度がある。

 裂傷が激しいほど再生能力も落ちる。彼女の心臓を見るに肉体は使い物にならなくなっている。

 迦楼羅はゆっくりと取り出して、素手で触れた。鼓動が遅くなっているとはいえ、手のひらの温もりから彼女の生存を確信した。

「貴女はよくやってくれました。要。もう十分です」
 迦楼羅は力を込めて、心臓を握りつぶした。自身を崇拝する人間が一人、この世を去った瞬間である。



 隼人は突然、倒れた要に驚いていた。念のため、恐る恐る手首に手を添えて、脈を測った。反応はない。

「死んだのか」
 隼人はゆっくりとその場に腰を下ろした。疲労を覚えた為、休息を取りたかったのだ。

「松阪君」
 結巳が疲労感漂う表情でこちらに歩み寄って来た。先ほどの激闘を勝利できたのも彼女のおかげだ。

 彼女がいなければ要の動きに翻弄されて、敗北していた可能性もあった。

「さすが幹部。今回も中々手強かったわね」

「ああ、かなり疲れた」 
 隼人は目を閉じながら、風を感じていた。しばらくこの夜風で心身の疲れを緩和することにした。

 静けさが漂う部屋の中、松阪シライは項垂れていた。その通りにいた星野奏も同じ様子だった。

 原因は自分が読んでいる本のせいだ。聖堂寺家の文献。

 隼人から渡された聖堂寺の歴史書だ。言伝である程度の詳細は聞いていたが、目を通すと内容の重さが胸にのしかかった。


「こんなことがあったなんて」
 眼に映る驚愕の事実の数々。それはシライが抱いていた由緒正しい聖堂寺の姿を大きく覆すものだった。

 忌獣、いや鳥籠の戦いは聖堂寺家の血縁者同士の対立で生まれたものだ。つまり自分達は今まで一つの一族の内輪揉めに付き合わされていたのだ。

「このためにあいつは」
 シライの脳裏に亡き親友である鵙の顔が映った。それだけではない。数多の争いの数々が頭を巡った。

「にわかには信じがたいですが、おそらくここに記されている通りでしょう。どうなさいますか?」
 奏の鋭い眼差しがシライに向いた。おそらく彼女の中でもある程度の決心がついているはずだ。

「決まっているさ。これを世に公表する」
 これ以上、隠す必要はない。聖堂寺に隠された闇。それが公になるカウントダウンが始まった。

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