「黒炎の隼」

蛙鮫

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「止まった秒針が音を刻む」

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 隼人は時が止まったような錯覚に陥った。目に映る光景があまりに現実離れしていて状況をうまく呑み込めないのだ。

 自分の前にいるのは間違いなく六年前に食われたはずの親友。鳳鷹だ。

「鷹なんだよな」
 隼人は声を震わせながら、聞くと鷹が静かに頷いた。

「生きていたんだな」

「うん」
 鷹が首を縦に振った瞬間、感動以上に心の淵から言葉にならない程の罪悪感がこみあげて来た。

「ごめんな。あの時、守ってやれなくて」
 隼人はすがり付くように、後悔を言葉にしてつらつらと吐いていく。

「俺、あれからずっと後悔していたんだ。お前を守ってやれなかった事。夢に見るほど後悔していたんだ」

「隼人、僕は君を恨んでなんかいないよ。君と出会えたおかげで僕はこの世界の広さを知る事が出来たんだよ。父やその使いしか周りにいなかった僕に友人という自分と対等な存在に会う事が出来たんだ」

 日が暮れるまで野山を駆け回った日。川でザリガニを獲った事。夕焼けに染まる町並みを山の上から眺めたこと。

 今まで柵の外に出たことがなかった彼にとってはそのどれもが輝かしく彩られたものだった。在りし日の記憶と憧憬が邂逅を果たした。

「あの時の忌獣は父の差し金だったんだ。僕が家を抜けていた事に気づいたらしい。連れ去られた後、酷い折檻を受けて監禁されたよ」

「父ってまさか、鳳家の当主。迦楼羅のことか?」
 鷹がぎこちない笑みを浮かべながら、頷いた。しかし、その笑みからは想像もつかないほどの仕置きがあったのだろうと隼人は察した。

「そして六年前、本部が破壊された時、僕は鳥籠から逃げ出したんだ。それからは忌獣や山菜を食べながら、鳥籠の動向を探っていた」
 自分の身の上をつらつらと語って行く。その苦労を聞くたびに隼人の胸は強く締め付けられる。

「対策本部や鳥籠からの情報で君が対策本部にいる事を知った時は驚いたよ。そして、確信したよ。僕のせいだってね」
 鷹の目が涙で滲んで、唇が小刻みに震えていく。

「僕と出会ったばかりに君を危険な目に合わせてしまった。君だけは巻き込みたくなかった。すまない」
 鷹の目から一筋の涙が頬を伝った。隼人は友の悲哀に満ちたような表情から思わず、目をそらしたくなった。心が張り裂けそうだった。

 隼人が鷹を亡くして、孤独だったように鷹も隼人をこのような戦に巻き込んだ事にこの上ない後悔を抱いていた。

 隼人は彼の表情を見て、罪悪感の重みが嫌という程、伝わってきた。
 
「だから僕が終わらせる。あの怪物の弱点はおそらく頭部だ。奴は破壊本能のみで行動している怪物。脳を壊せば奴を終わらせる事が出来るかもしれない」

「鷹。俺達も協力する」
 隼人はそういい、結巳、揚羽に目を向ける。先ほどの哀切を孕んだ語気とは違い、強い決意や志に満ちた声だった。

「もうお前を一人にしないからさ」
 隼人が屈託のない笑みを浮かべると、鷹は和らいだ表情で、頷いた。
 
「待っていろ」
 隼人は静かに我が物顔で大地を削る怪物を睨んだ。
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